世界の不思議を二つの原理で捉え直す
2012/01/18 23:38
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
科学史、進化生物学を専門とする渡辺政隆による進化生物学の古典の新訳。原本は1859年の第一版。岩波文庫版の訳文を吟味したことはないので比較はできないけれど、普通に読んで充分読み通せるものとなっている。原書に比べて段落等を増やしているらしく、ちょうどよく区切られているのもいい。
ただし、当時強い影響力のあった創造論に対するガードを固めるためと、進化論(ダーウィン自身は「変化を伴う由来説」または「由来の学説」と呼んでいる。進化は環境への適応であって進歩ではなく、誤解を招きかねない進化と言う言葉を避けた)自体がまだいくつもの難題を抱えていることもあって慎重に慎重を重ね、着想から二十年を経ての執筆となったことが反映した非常に周到な書き方になっている。読んでみて気がつくのは、幅広い資料を蒐集していることと、アマチュア等のネットワークを活用していること、そして自分自身も手間のかかるさまざまな実地検証を行って論拠を分厚く積み上げていることだ。これは、進化というのが何か決定的な証拠を提示すればよい議論ではなく、どうしても間接的な根拠から類推するほかない問題だということを、自身強く思い知っているからこそだろう。
まずダーウィンは人の手によって飼育、栽培されてきた動植物に見られる性質から話を始めている。ここでさまざまな実例を豊富に紹介しながら、そして自身も愛鳩家の組合などに参加して実際に飼育を行って、観察を積み上げていく様子が描かれている。それぞれに見た目の異なるいくつもの品種が、一種の鳩から人工的に作り出されたことを傍証とし、微細な変異の蓄積がいかに大きな違いを生み出すかということ、これと同じことが自然界でも起こりうるということを間接的に示す。
飼育栽培下における人為淘汰によって多数の品種が作られることと、自然淘汰によって新種が生み出されることには隔たりがあるという批判はあるけれども、この時点ですでに結構な説得力がある。人間がこれまでに行ってきたさまざまな品種改良を事例とし、より大きな時間を掛ければ新種が生まれうるだろうということは容易に想像できるからだ。
しかし、当然直接的な証拠がないので、決定的なことがいえるわけではない。それでも、変異と自然淘汰によって進化が起こったということにダーウィンは強い確信を持っていることが伺える。
「私自身は、本書で概要のかたちとして紹介した見解は完全に正しいと確信している。しかし、私の見解とは正反対の立場から見た多数の見解を何年もかけて脳裏に刻み込んできた熟達のナチュラリストたちを、これで説得できるとは期待していない。自分たちの無知を、「創造の意図」とか「デザインの統一」などといった表現の下に隠し、ただ事実を言い換えているにすぎないのに説明をした気でいるほうがよほど気楽だからである」(下)391P
世界にあふれるさまざまな動植物の様子や、分布など、何故このようにあるのか、という疑問に、創造論ではトートロジーでしか説明できない。しかし、変異と自然淘汰という二つの原理を採用すれば、自然界における生物のさまざまな謎が説明可能になる。元々そうであるように作ったとすれば理解できない不自然な体の構造とかもそうだ。
この説明力の高さはやはりものすごい。シンプルな二つの原理と、地質学的な時間スケールを用いれば、どうしてそうなのか、ということに説明が付けられるわけだ。ダーウィンはさまざまな動植物の分布等の事例を用いて、このことを根気強く説明している。ここらへんの詳細な具体例の面白さは本書の大きな魅力だろう。
150年前の自然科学の著作だというのに、今読んでも「だいたいあってる」感じがするのは凄いと思う。
以下ではダーウィンの力強い意志と、自説への冷静なスタンスが垣間見られる。
「この先も本書を読み進め、とても多くの事実を説明できるのは由来の学説以外にはないことを知った読者は、さらに一歩踏み出してほしい。自然淘汰には、タカの眼のように完璧な構造を形成する力があると認めることを、たとえその中間段階は知られていないにしろ、ためらうべきではない。必ずや理性は想像力に打ち勝つ。もっとも、自然淘汰の原理の有効性をそこまで拡張する困難さを誰よりも実感している私としては、そのことに少しでもためらいを見せる人がいても驚きはしない」(上)318P
今読んでみても面白いし、現代進化学の広がりを予告したような部分もあって新鮮な驚きもある。ここでは変異と自然淘汰のことしか紹介しなかったけれど、本書の内容は多岐に渡り、特に後半の雑種交雑の可否と、雑種が子をなせるかどうかを縷々論じたところは、種とは何か、種は実在するのか、という科学哲学的な問題として現在も議論がなされているようだ。
個人的には『種の起源』以降、この本の記述がどのように実証されたり、反証されたりしたのかを追った本というのが読んでみたい。「註釈『種の起源』」みたいなものを。
論旨の大きな流れが読みやすくなった新訳。ダーウィンの視野の広さが改めて感じられる。
2012/08/06 18:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずいぶん読みやすくなってありがたかった、というのが正直な感想の一番目である。本書での翻訳はずいぶん整理されていて、論旨の大きな流れは見やすくなっている。「それがどう種の進化に続くのか」と迷った雑種や品種についてのながながとした検討などの意味も伝わりやすい。そして、読みやすくなった分、内容をよりじっくりと考えることができるようになったというところである。訳者があとがきで言っているが「原文に忠実に訳そうとすることが良質な翻訳をうむわけではない」。たしかにそういうことかもしれない。
当時では話題騒然となるであろうこと必須の題目を唱えるわけであるから、ダーウィンは用意周到に論を立てようと努めていた。その分、数多くの事例についての丁寧な検討が長く続くので本筋が見えにくくなってしまい、過去には読破はあきらめた人も私だけではないだろう。
地質学に関係する視点や、発生に関係する視点、人為的な操作や遺伝に関係する視点など、ダーウィンの言及する範囲がとても広いこともポイントをつかみにくくしているかもしれない。しかし、それこそがダーウィンの視野の広さ、提唱した視点の確かさでもある。本書の訳文の助けを借りて読み進むと、多数あげられた事例一つ一つにも、ダーウィンが取り上げた意味があることが少しずつ見えてくる。そして、まだ検討すべき点、実験可能なアプローチなども。
ダーウィンの進化論を受け入れない人々も世界中には多くいる。進化論が間違っているのか、ダーウィンが間違っているのか、解釈が間違っているのか。安易に議論する前にやはり一度は自ら読んでみることは必要だろう。本書はそのためにも役立つ翻訳だと思う。
進化を考えることは、人間はどこからきてどこへ行くのか、という哲学的問題を考えることでもある。人間を考える上でも、読んでおきたい一冊である。
ダーウィン理論の骨子と限界、そして批判に対する回答
2018/05/29 17:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:病身の孤独な読者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
進化論ほど誤解された科学理論はあるだろうか?世間では、進化論の誤謬に満ちている。そんな世間であるからこそ、正しくダーウィンの理論を知る必要がある。本書では、ヴィーグル号の話はなく、過去の生物学の知見を引用しながら、種の変異と自然淘汰というダーウィン理論の主軸となる基礎概念を考察している。ダーウィンの論理の展開の仕方は、科学論文を読んだことのある者なら気づくことであるが、非常に論理的であり、余計な考察や解釈が入っていない。世間で知られている観察事例からの演繹ではなく、純粋に過去文献からの引用と考察、そして独自の調査を踏まえて論理的に進められている。本書は世間では「あやしい」という印象がついているものの、本来本書は科学的な仮説の提示であり、本書の価値と貢献は計り知れないほどのものであると断定できる。
自然選択と変異という進化論の骨子に対して想定される反論をダーウィンが考察している。変異する中間形質の存在が確認できないことや交雑の問題、本能などの心的な行動の獲得についてなど現代でも批判されている点について科学的に誠実に回答と考察及び仮説の提示を行っている。もちろん、過去の動植物の研究と自身で行った研究を交えてての回答である。そして、地質学的な限界点にも言及し、進化理論の基盤上の不完全性を本人は認めている。そうではありながらも、説得力のある論証と批判に対する回答の仕方は、やはり進化論を完全に否定することの困難さを指摘している。ほとんどの批判事項に対して解消される考察と仮説を与えているが、もちろんいくつかの根拠不足による難点は残るとダーウィン自身が述べている。彼の科学に対する造詣の深さと誠実さが伺える箇所である。
あまりにも有名な古典ですが、新訳で分かりやすく読めます
2016/06/01 09:09
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、あまりにも有名なダーウィンの「種の起源」の邦訳です。この作品にはいくつもの邦訳がありますが、この新訳は非常にわかりやすく、理解しやすいものとなっています。私も、これまでいくつかの訳を読みましたが、いつも途中であきらめて、しばらく放っておくという状態でしたが、この新訳での本書は最後まで一気に読めました。ぜひ、私のようなご経験を持つ方、ぜひ、一度、本書に再度挑戦してみてはいかがでしょう。
生物学の基礎となる本
2016/11/13 21:49
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投稿者:suka - この投稿者のレビュー一覧を見る
生物進化を突然変異と自然淘汰から説明する名高い名著です。当時一般的だった創造説に疑問を感じたダーウィンは膨大な研究と情報収集を行い、進化論という答えを導きだします。
これは余談ですが、本書を読了した後に、何か生物を見たくなって水族館に行きました。魚の様々な特徴を知り、これは生存競争に勝つための進化だったのだと考えるようになりました。
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言わずと知れた古典の代表、ダーウィンの「種の起源」です。
全ての生物は今の形、性質を与えられたという創造論を科学的に否定した最初の人がダーウィンです。
生物は自然淘汰と呼ばれるメカニズムによって、今の「種」に分化、進化してきました。
進化論は今や当たり前となっていますが、知っているだけで理解していなかったということが、読んでみてよくわかります。
何億年も前には、単純な生物が生息していて、それがだんだん進化して魚になったり、鳥になったり、哺乳類になったり、人になったりしたんでしょ。
人類の祖先は猿だったんでしょ。
といったことは漠然と知っていても、どういったメカニズムなのか、つまり、自然淘汰というものが何なのかは意外と知られていないと思います。
たとえば、果物が甘い理由。
これは、果物が甘ければ、鳥が食べる。
食べた鳥は種まで消化できずに、糞として、遥か遠方まで種を運ぶことができる。
だから、果物は甘い。
僕はこのように理解していました。
これは、正解のようで、正解ではありません。
鳥が食べてくれるように、果物は甘くなったのではなく、自然淘汰によって甘い果物が生存競争に勝ったため、多くの果物が甘くなったという方が正しいと言えるでしょう。
訳者は、「ダーウィンの種の起源を読まずに、人生を語るべきではない」と言っています。
これはまた大袈裟だなと初めは感じましたが、読んでみれば訳者の意見に共感できます。
種の起源を読むと、全ての生物が自然淘汰によって今の種に進化してきたのであり、全ての生物の繋がりというものを強く感じることができます。
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浦野所有。
→キムさんレンタル中 →11/03/27返却
光文社の新訳シリーズから出てたので迷わず買いました。家畜を例に出した遺伝と進化の話が中心で、ガラパゴス諸島のネタは出てきません(目次から察するに、下巻に書かれているのだと思いますが)。
う~ん、でも、すでに記憶がほとんど飛んでしまった…。もう一度読み直さなくては。
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自分の守備範囲とあまりに違いすぎて理解できない、というより頭に入ってこないというのが正直なとこでした。
ああ、そうだ、俺は「生物」嫌いで「化学」選んだんだったよ。。。
そもそもなんで読もうと思ったのかというと、最近読んだビジネス書に立て続けに名前が出てきたからです。
ダーウィンの功績は、それまで「創造説」(=それぞれの種は環境に合わせて神が創りたもうた)を覆し、それぞれの種が自然淘汰や変異を繰り返し、今の形になってきたということを証明した(?)ことだそうです。
読むきっかけとなったビジネス書に無理矢理こじつけるのであれば、今残っている企業も昔から今の形ではなく、変化する仕組みを持っていたということでしょうか。。。
下巻も頑張れるか心配です。
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第1章 飼育栽培下における変異
第2章 自然条件下での変異
第3章 生存闘争
第4章 自然淘汰
第5章 変異の法則
第6章 学説の難題
第7章 本能
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ようやく読み終わった。3週間もかかってしまった。
種の起源は、以前から読みたいな~とは思いつつ、素通りしていた本。ようやく手に取り、時間はかかったけど、読破して、若干気持ちがいい。
ダーウィンについては、「進化論を唱えた人」ぐらいのイメージしかなかった。そして、批判されまくっている(キリスト教だけではなく、学者にも)人というぐらいのものだった。
読み始めて最初の3分の2ぐらいは、正直とても退屈だった。っていうか、わたしの知識不足?よくわからなかったり、同じことがクドクド書いてあるように感じたり。そういうわけで途中で眠ってしまったり、だるくてやめてしまったりして3週間もかかってしまったのだけれど、終盤に近づいてくると、突然全体像が見えてきて、面白くなった。
ダーウィンはよく批判されているけれど、批判されるようなことはあまり書かれていないように感じる。サルが人間に進化したとは一言も書いてないし、進化がどのように起こったのかは、「自然淘汰や用不用の原則で時間をかけて変異してきた」というようなこと以上には書かれていない。多分、内容がとてもセンセーショナルだったので、たくさんの人がいろんな解釈をし、それが一人歩きしたのだろう。
ダーウィンの時代には遺伝子についてはほとんど何もわかっていなかったようだし、大陸移動説も無かったので、現在では明確になっていたり、否定されていることもたくさんある。でも、そうやって批判や研究の対象となるまとまったものを提示したのはとても大きいことに感じる。
ダーウィンの説は、批判の的にされてきたものの、また現在見直されているらしい。進化の中立説などは、ダーウィンの書いていることとかわらない気がする。(といっても、進化論についてはあまり詳しくないので、間違っているかも)
とりあえず、あまりにも有名なダーウィンの「種の起源」をちゃんと読んだってことに大自己満足している。だから、★5つ。進化論については、もっといろいろ本を読みたいなぁと思う。「利己的な遺伝子」も読み直したい。
ところで・・・
夫婦は似てくるとよく言われる。
わたしの読書の趣味、どこに行くんだろう?とふと思うときがあるけれど、正直これは、ダンナの影響。
こういう風にして影響を受けて、似て行くんだろうか・・・(((( ;゚Д゚)))
ミーアのミームに侵されているのか・・・(((( ;゚Д゚)))
変人みーあみたいにならないように、気をつけよう( ゚Д゚)
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今週おすすめする一冊は、ダーウィンの『種の起源』です。進化論
を唱えた歴史的な書物としてほとんど誰もがその名を知っていなが
ら、ほとんど誰もがきちんと読んだことのない書物。『種の起源』
は間違いなくそういう存在のものだと思います。
昨年はダーウィン生誕100周年で、ダーウィン関連の書籍が出版
されたり、ダーウィン展が開催されたりしました。今日とりあげた
文庫版も、そんなダーウィンブームの中で出版されたもので、読み
やすさに配慮された新訳本です。
確かに、以前に読んだ岩波文庫版に比べると、とっつきやすくなっ
ています。しかし、手強いことには変わりありません。何せ上下合
わせて800ページを超えていますから、それだけでも圧倒されてし
まいます。これだけ読む気を萎えさせる本もそうそうないですね。
それでも、意を決して読み始めると、1ページ目から、尋常な本で
ないことがわかり、ぐいぐいと引き込まれます。ダーウィンは、本
書の内容を構想してから発表するまでに20年の歳月をかけていま
す。それくらい発表するのに慎重を要した内容だったのです。20
年の間、ダーウィンは自説の正しさを証明するための証拠を集め、
想定される反論の全てに対してそれこそしらみつぶしに論証を築き
上げていったのです。
その20年間の思索の重みとでも言うほかないものが、1ページ目
から伝わってきます。人がその生涯を賭けて考え続けてきたことの
みが持ち得る強度がここにはあります。そして、書かれている内容
よりも何よりも、ダーウィンの思考の強靭さ、どんな些細なことも
見逃すまいとする観察眼、世界の謎を前にしてどこまでも敬虔で真
摯な態度、そのようないわば「探求の姿勢」とでも言うものに圧倒
され、目を見開かされる思いがします。
ダーウィンが見ようとしたもの。それはこの目に見える世界の背後
にある原理です。全てが関係し合い、全てが少しずつ変わり続けな
がら、増殖しようとする生命の原理。その生命の原理をベースに成
立するこの世界は本当に崇高としか呼びようのないものです。ダー
ウィンは神聖なものに触れるようなためらいを持ちながら、一歩一
歩その生命の原理に近づき、世界を解き明かしていきます。
そのダーウィンの道行に付き合っていると、大袈裟なようですが、
新しい世界の見方を教えられている気がするのです。何年たっても
読者をそのような気にさせるもののみが古典と呼ばれるのでしょう。
古典を読むことの価値を教えてくれる一冊です。手強い本ですが、
是非、読んでみてください。
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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
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どんな問題であれ、相反する事実を検討し、十分な議論を重ねたう
えで秤にかけなければ、正しい結果は得られない。
この原理、すなわちわずかな変異でもそれが有用なものな���ば保存
されるという原理を、私は人間が有用な変異を篩い分ける人為選抜
(人為淘汰)の原理に倣って、自然淘汰の原理と呼んでいる。
「自然淘汰」は絶え間なく作用しうる力であり、「人工物」と「自
然」の作品とを見比べればわかるように、人間の微力な努力とは比
べものにならないほどの威力がある。
一見すると、自然は歓びで輝き、この世には食物があふれているよ
うに見える。しかしそう見えるのは、のんきに囀っている小鳥のほ
とんどは虫や種子を食べて生きており、常に殺生をしているという
事実に目を向けていないか忘れているからである。
私が言う「生存闘争」という言葉は広い意味での比喩であり、生物
どうしの依存関係や、(さらに重要な)個体の生存だけでなく子孫
の存在までも含んでいるということを、あらかじめ断っておきたい。
これまでの議論から、きわめて重要な結論が引き出せるかもしれな
い。すなわち、あらゆる生物の構造は、食物やすみかをめぐって競
争する相手や、逃れなければならない相手、獲物にする相手など、
他のあらゆる生物の構造と、たいていは見た目ではよくわからない
が、きわめて本質的な面で関係し合っているということだ。
すべての生物は、指数関数的な増加率で増えようと悪戦苦闘してい
る。しかも、一生のうちのある期間、一年のうちのある時期、各世
代、あるいはときに応じて、生存をかけた闘争を演じ、大量の死を
被らなければならない。この事実を肝に銘じることくらいしか、わ
れわれにできることはない。
人間にできることが自然にはできないなどということがあるだろう
か。人間は、目に見える外面的な形質にしか手をつけられない。と
ころが自然は、何かにとって有用でないかぎり、外見には関心を示
さない。自然は、体内のあらゆる器官、体質のあらゆる微妙な違い、
生きるための仕組み全体に作用を及ぼすことができる。
自然淘汰は、世界のいたるところで一日も一時も欠かさずに、ごく
ごくわずかなものまであらゆる変異を精査していると言ってよいだ
ろう。(中略)個々の生物を他の生物との関係や物理的な生活条件
に照らして改良すべく、機会さえ与えられればあらゆる時と場所で
静かに少しずつその仕事を進めている。長い年代が経過するまで、
ゆっくりと進むその変化にわれわれが気づくことはない。
ただ変異が生じさえすればいい。変異がないことには、自然淘汰に
は何もできないからだ。
いかなる種でも、変異した子孫は構造を多様化すればするほどうま
く生存できる可能性が高くなり、他の生物が占めている場所に侵入
できるようになる。
芽は成長して新しい芽を生じていく。そして生命力に恵まれていれ
ば、四方に枝を伸ばし、弱い枝を枯らしてしまう。それと同じで、
世代を重ねた「生命の大樹」も枯れ落ちた枝で地中を埋め尽くしつ
つも、枝分かれを続ける美しい樹形で地表を覆うことだろう。
地表に生息する無数の生物は、新しい構造を獲得することで互いに
闘争し合い、最も適応したものが生き残る。それを可能とする構造
上の重要な変更が生じるのは、個体にとって有益な差異を着実に蓄
積する自然淘汰の作用なのである。
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●[2]編集後記
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昨日は家族で井の頭公園に行ってきました。井の頭公園には小さな
動物園があります。娘と妻は何度か来ているようですが、3人で来
たのは初めてでした。
雑木林の中に動物達の住処が点在する形で作られた動物園は、空間
としてはとても気持ちが良いのですが、全体としてうらびれている
感じは否めません。特に、囲いの中にいる動物達の姿にはやはり物
悲しいものがありました。
動物園は、この捉われの動物達の物悲しい感じが嫌いで、物心つい
てからはほとんど来なくなりました。娘にもこちらの気持ちが伝わ
ったのか、何だかテンションが低く、あまり見たがりません。
それでも、やはり象のような生き物を見ていると、この世界の不思
議に驚嘆せずにはいられませんね。どうしたらあんな形の鼻になる
のでしょう。そんな問いからダーウィンは進化論に辿りついたのだ
と思うと、何だか遠大な気持ちになるのでした。
***
今年になってから、デザインジャーナリスト・編集者(4月からは
芸大の先生!)の藤崎圭一郎さんと、デザインディレクターの立川
裕大さんと共に、ものづくりやデザインのあり方について考える勉
強会を企画・開催しています。
今月末、3/31に第二回目の勉強会を開催します。テーマは、以前、
このメルマガでも取り上げたE.F.シューマッハーの「スモール・イ
ズ・ビューティフル」です。ビジネスやものづくりのあり方をシュ
ーマッハー思想を鏡にして考えてみたい、という趣旨です。井上も
30分ほど話します。年度末の最終日という無理な日程ですが、よ
ろしかったらご参加ください。詳細は以下をご覧ください。
藤崎圭一郎さんのブログ「ココカラハジマル」
http://cabanon.exblog.jp/
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正直、読みにくかった。
ただ、これが進化学の先駆けであり、150年も前に書かれたものなのかと考えたとき、なんとも感慨深い気分にさせられた。
理解できたかどうかは別として―。
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読み終わるまでに結構な時間が掛かってしまったけれど、買ってみて良かったと思える。ダーウィンがいかに偉大であるかが理解できる。
メンデルによる遺伝の法則の発表より前の著作。自然淘汰説は10年以上温め続けていた持論…遺伝の法則よりもずっと前からこの説を胸の内に秘めていたということ。
進化論の礎を築き、自然淘汰説を提唱した。凄い…。
生物学を学ぶ人間として読んで良かったと思えるし、一度は読むべき気がする。
自分の仮説に真っ向から対立する事例を敢えて取り上げ、それについて厳しく言及し、考察する。そして、特殊な例を排除し、自分の仮説を一般的な形に落とし込む。
客観的な分析能力の高さ、先見の明は驚異的。
種の起源は彼の持論の要約らしいけど、それでもこの分量。くどいぐらいに検証を重ねて、自分の仮説を論証している。科学者として、自分も見習うべきだな…。
下巻もどのくらい掛かるかわからんけど、早く読みたい。
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鳩愛好家という存在がわりとポピュラーだったというのにさりげなくびっくりしました。
内容は論文ぽくて読みにくいですが中々面白かったです。
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いつかは読まねばと思いつつ先延ばしにしていた本.科学者としてのダーウィンにあらためて敬服できる.ダーウィンの最後の著「ミミズと土」を以前読んだが,種の起源においても,「仮説・思考」「実際の動植物の観察」「他者の文献調査」が入り乱れた後,最終的な結論が筋道だってしめされている.
一般向けの書として,当時多くの人が手に取ったというところも素晴らしいと思う.