イッツ・オンリー・トーク
著者 絲山秋子
引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候――遠い点と点が形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れ...
イッツ・オンリー・トーク
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商品説明
引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候――遠い点と点が形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キング・クリムゾンに乗せて「ムダ話さ」と歌いとばすデビュー作。第96回文學界新人賞受賞作。高崎での乗馬仲間との再会を描く「第七障害」も併録。「やわらかい生活」として、豊川悦司、寺島しのぶで映画化された話題作です。
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心の距離感と体の距離感の違い。
2017/01/14 21:42
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
デビュー作のイッツ・オンリー・トークと、第七障害が
併録される。さらに熱烈な書店員さんの解説がつく。
熱烈書店員さんは、絲山フリークを自認するだけあって
本質を実によく捉えている。たまに見かけるお友達系作家
さんの提灯持ち解説より、はるかに面白くて痛快である。
この解説を読むだけでも文庫版を買う価値がある。
解説によると、絲山作品には二種類あるとのこと。
絲山Aは働く女共感もので、絲山Bは精神的に破綻した
ひとたちがいっぱい出てくるものだそうだ。
それであればイッツ・オンリー・トークはど真ん中の絲山B、
第七障害はライト絲山Bといったところか。
イッツ・オンリー・トークは絵描きの優子が五人のダメ男たちと
織りなす物語。
滑稽な男たちが出てきて、とっかえひっかえ優子と時間を
過ごす。そんな優子は精神を少し病んでいるのである。
七ページ目の部分がとても印象的である。熱烈書店員さん
とも意見一致。少し引用する。
>お酒を飲んで頃合いで「する?」と一言聞けば断る男
>なんて滅多なことじゃいない。だがしてしまえばそれっきりで、
>そうやって私の周りからは男友だちが一人ずつ姿を消して
>いくのだった。
>それはパンをトーストするのと同じくらい単純なことで、
>理由も名前もない、のっぺらぼうのトーストは食べてしまえば
>実にあっけらかんと何も残らないのだ。
この小説を気に入った一番の理由が詰まっている。
題材がそういう訳なので、性表現が多めなところはやむを得ない。
題材は趣味ではないものの、テーマは大いに興味をそそられる。
体の距離感を簡単に詰めて、自分を埋めようとする優子が、
いつまでも心の距離を縮められない。その皮肉に気付かされる。
出てくる五人のダメ男たちが優子にとってどんな存在となるか、
心に残った物語であった。
第七障害もかなり面白い。
刺激不足かもしれないが、自分の趣味的にはこれでも充分
伝わるものがある。
映画「やわらかい生活」の原作です。
2019/04/12 07:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『沖で待つ』で第134回芥川賞を受賞した絲山秋子さんが2003年に書き第96回文學界新人賞を取った、これがデビュー作になる。
文庫本で90ページほどだから、やはり短編というのがいいだろうか。
絲山さんはこの作品で第129回芥川賞の候補にもなっている。
当時の選考委員の評価はそんなに悪くない。特に山田詠美委員の評価が高く、「点在する人間関係が魅力的にやさぐれている」と的確な評である。
その一方で石原慎太郎委員の「この題名がなんで英語なのか。どうして「ただの洒落よ」でいけないのか。」という批評には苦笑したが。
石原委員のこの意見は少しばかりわかる気がする。
なんだか安易な外国映画のタイトルのようで、もう少し工夫があってもよかったように思う。
もっともこの言葉が入る、キング・クリムゾンというロックバンドがわからないと理解という地点から遠いかもしれない。
東京蒲田を舞台に心を病んでいる私(橘優子)のまわりに集まってくる不思議な男たち。
山田詠美の言葉を借りるなら、「やさぐれ」た人たち。
勃起不能の都議会議員、うつ病のヤクザ、痴漢行為にはまる中年の男、そして田舎から家出して私の家に居候となるいとこ。
まるで何の関係もないけれど、「私」という中心点からすれば、誰も欠かせない。
人って、それがどんな人であれ、関係性の中でしか生きていけないものかもしれない。
「一見投げ遣りに見える暮しの中に意外に芯の通った節度」と書いた黒井千次委員の選評がまっとうのような気がする。
ここから絲山秋子が始まった!躁鬱の女とダメ男たちの物語。
2011/01/17 19:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性では宮部みゆき、川上弘美、佐藤多佳子などが好きな小説家だが、
絲山秋子はなんだか特別な存在、という気がしている。その絲山さんの
デビュー作がこの「イッツ・オンリー・トーク」。文學界新人賞を取り、
「やわらかい生活」というタイトルで映画にもなった。この映画のシナ
リオを「年鑑代表シナリオ集」に載せるにあたって裁判があったがそれ
はまた別の話。
さて、この小説、まず何と言っても小気味の良い文体がいい。初めは
ちょっと違和感があったのだけど、読み進めていくうちにそれが快感に
変わっていった。短めの文章でつないでいくスタイルは、失敗すると小
学生の作文のようになってしまう。ある意味、冒険的なスタイルだが、
常に文体にこだわる作家絲山秋子のデビュー作なのだから、これはもう
冒険でもなんでもないのだろう。
「直感で蒲田に住むことにした。」という文章で始まるこの小説、優
子という躁鬱の気がある女性とダメ男たちの物語だ。彼女の相手は友人
の都議会議員、鬱病のヤクザ、痴漢の男、自殺志願のいとこなどなど、
誰もが何だか情けない。そういう男たちと間抜けなやり取りを繰り返す
優子。でも何故かそこには「真実」がある。超然としていて不思議な個
性を感じる優子のキャラがとてもいい。「イッツ・オンリー・トーク、
全てはムダ話」と言い放つ、ラストもかっこいい。そうこのタイトルは
キング・クリムゾンのフレーズから来ているのだ。ここから絲山秋子が
始まった、そういう思いを強くする傑作。もう一編収録されている「第
七障害」もかなり読ませる。
これがデビュー作とは。出てくる人たち全て変な人たちです。
2023/07/21 19:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
「イッツ・オンリー・トーク」この題名には、ずっと引っかかっていた。キングクリムゾンの曲名だったとは。「全ては無駄話」って意味です。確かに小説で書かれることなど全て無駄話なのかもしれない。しかしこれがデビュー作とは。出てくる人たち全て変な人たちです。なかなかこんな人たちには出会えないと思う。併録されている「第七障害」も良かった。こちらはちょっと心温まる話です。
未完成な人たちの町
2020/01/06 22:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語の舞台・蒲田の、微妙な距離感が心地よかったです。人生に立ち止まっていた人たちの、再出発の場にはピッタリでした。
絲山秋子のデビュー作 (第96回文學界新人賞受賞)
2010/03/02 20:27
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
絲山氏のデビュー作である。タイトル「イッツ・オンリー・トーク」は「ムダ話」という意味とのこと。
本書には「ちょっと変わった」人たちがこれでもかっというほど登場する。いや、正しくは――EDの議員に鬱病のヤクザに痴漢にいとこの居候――「ちょっと変わった」人しか登場しない。
一見、「ぶっとんでるなー」って思いたくなるのだけれど、読んでみるとそうも「ぶっとんで」はいない。ムダ話といわれれば「そうかもね」と思うし、「真面目に言ってるんだ」と言われればそうとも思える。あぁ、やっぱりわたしは未だ絲山作品の魅力をとらえきれていない。
これまで数冊の絲山作品を読んできて思うのは、絲山さんは「私」目線で物語を書くのが好きなのだなぁ…ということ。今まで読んだどれもがほぼ一人称で進行している。読む側からしてみれば、一人称っていうのは感情移入がしやすくて読みやすい(わたしだけ?)。こういう点も魅かれるポイントなのかな。
さて話は変わって…本書で解説を書かれているのは上村祐子さんという書店員の方だ。この上村さんの解説がめちゃくちゃいいっ!!! 何がいいかって、「絲山さんが好き!」っていう気持ちがバンバン伝わってくるのだっ!
この上村さん、『イッツ・オンリー・トーク』(単行本)の発売日に六面も陳列し、お店を移っても絲山作品を平積みにすることから仕事を始めるという気合の入れよう。
上村さん曰く、(絲山さんは)「男も女のフラットに書ける小説家。もの凄く強くて、ものすごく弱い人物たちを描ける人。」とのこと。
これの箇所を読んだわたしは「なるほどー。そう言われればそうかもしれない。」と納得する。しかし…やっぱり自分自身が魅せられている「絲山作品の魅力」を具体的に表すにはものたりない。
でも!上村さんのこの一文にはびしっとばっちり共感してしまった
―――絲山さんの作品の全ては「面白い」とか「泣ける」とかそういうことではなくてちゃんと自分の心が揺れるのがわかるのです。
「心が揺れる」
それだっ!!!!!
こんなにぴったりくる言葉があるだろうか。
絲山作品は心が揺れる。
いとやまさくひんはこころがゆれる。
イトヤマサクヒンハコココロガユレル。
そう、絲山作品を読むとわたしの心は揺れるのだっ!!! わたしが絲山作品に魅かれる理由はただひとつ、心が揺れるから、だったのだっ!!!
と、「何を興奮しているのか」と冷ややかな目を向けられそうだけれど、それくらいこの「心が揺れる」という表現はぴったりハマる。あぁ、自分の想いを表現できるひとってすごいなぁ。と解説という思わぬところで感動してしまう。
ところで…絲山作品には絲山Aと絲山Bがあるらしい。芥川賞を受賞した『沖で待つ』は絲山Aらしいのだけれど、絲山Bに挙がるのはどの作品だろう。先月急に読みだしたばかりのにわかファンのわたしにはその違いが見出せない。今のところ、絲山作品にはある種の一貫性を感じてしまっているのだから。
『イッツ・オンリー・トーク』収録作品
・イッツ・オンリー・トーク
・第七障害