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原爆と検閲 アメリカ人記者たちが見た広島・長崎
著者 繁沢敦子 (著)
日本の敗戦直後、連合国側の記者たちは、原爆投下の「結果」を報じるため、広島・長崎をめざした。ある者は個人で、ある者は軍の力を借りて。彼らは新聞・通信社・ラジオなど大手メデ...
原爆と検閲 アメリカ人記者たちが見た広島・長崎
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原爆と検閲 アメリカ人記者たちが見た広島・長崎 (中公新書)
商品説明
日本の敗戦直後、連合国側の記者たちは、原爆投下の「結果」を報じるため、広島・長崎をめざした。ある者は個人で、ある者は軍の力を借りて。彼らは新聞・通信社・ラジオなど大手メディアの敏腕記者たちだった。だが、彼らが息を呑んだ被爆地の惨状はそのまま伝えられることはなかった。本書は、記者たちが広島・長崎で何を見、何を記述したのかを明らかにし、その上でなぜ惨劇が伝わらなかったのか、その真相を探る。
目次
- 序章 被爆地へ向かった三人
- 第1章 航空特派員たちが見た広島
- 第2章 アメリカでの掲載記事
- 第3章 長崎ルポと変わる論調
- 第4章 アメリカの検閲-第二次世界大戦下
- 第5章 占領下日本の検閲
- 第6章 航空特派員の任務
- 終章 被爆地を見た記者たちのその後
著者紹介
繁沢敦子 (著)
- 略歴
- 1967年生まれ。神戸市外国語大学卒。読売新聞記者、広島市立大学広島平和研究所情報資料室編集員を経て、フリージャーナリストに。
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紙の本
メディア・リテラシー向上に役立つ「軍とメディア」の関係についてのケーススタディ
2010/08/09 11:47
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、広島と長崎に投下された原爆の取材を行った米国人ジャーナリストたちが何を見て、何を書いたか、いや正確にいうと何を書かなかったかについて、「軍とメディア」の関係から65年後のいま検証を行ったものである。
本書に登場する基本的なプレイヤーは、空軍としての独立を悲願していた「米陸軍航空軍」と、彼らが組織したプレスツアーに参加した米国人ジャーナリストたちである。
「米国陸軍航空軍」は、空軍としての独立という悲願にむけて、米国陸海軍、とくに陸軍内部で激しい情報戦を行っていた。そういう背景をどこまで認識していたのかは別として、あくまでも従軍記者として占領地日本への入国を許可された米国人ジャーナリストたちが、いかなる役割を期待され、その期待にどう応えたのかについては、本書を読めばよく理解できる。
米国人ジャーナリストたちの立ち位置はどのようなものであったか、それは「プレスツアー」とは何かを考えてみればその意味がわかる。各種の便宜を図ってもらう便宜と引き換えに、スポンサーにとって都合の悪いことは自主的に書かないという不文律があるのがプレスツアーの本質だ。
ビジネスマンである私も、何回かプレスツアーで記者たちと同行したことがあるのでわかるが、たとえオモテだった検閲がないとしても、組織に属する以上、記者たちがどこまで真相に迫り、事実を報道できるかについては、あえてここに書くまでもないことだろう。
米陸軍航空軍のプレスツアーに参加した米国人ジャーナリストは、なによりも愛国的な米国人であった。そして、米国内の一般読者もまた愛国的な米国人であったことは、著者の指摘するとおりである。
「原爆を投下しなくても日本は降伏した可能性」を十分に認識していた米陸軍航空軍の上層部にとって、人道に反する大量虐殺である原爆投下の真相が米国内で知られることは、空軍独立という悲願達成にとって好ましい話ではなかったのだ。このため彼らは、原爆被害報道を打ち消すために、戦時中の日本軍による捕虜虐待をことさらに取り上げた報道をさせるべくメディアを誘導する。
原爆投下を最終決定したのはトルーマン大統領であるが、軍人は命令にしたがって遂行するのが職務である。善悪の是非を棚に上げれば、軍の広報戦略としてはアタマで理解できなくはない。戦時中から行われていた検閲もその重要な一環であったのである。
本書のテーマは、タイトルにあるように「原爆と検閲」であるが、物理学者オッペンハイマーが中心になった原爆開発の「マンハッタン計画」、独立後の米空軍によるランド・コーポレーションというシンクタンク設立など、米空軍の組織論理という文脈において捉えると、よりいっそう見えてくるものがある。
軍とメディアについての関係については、その後の米ソ冷戦時代、ベトナム戦争を経て、米国が関与した各種の地域紛争、そして湾岸戦争においてはいかなるものであったかを比較してみるのも興味深い。インターネット時代になった現在においても、基本的に軍の広報戦略は軍事戦略の一環であることをあらためて認識させてくれる本である。
修士論文をもとにしたものだけに、この本は最初から最後まで、あくまでもファクトベースで淡々とした書き方をしているが、メディア・リテラシー向上のためのケーススタディとして読むことを奨めたい。