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ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010]
著者 諸永裕司 (著)
国家の密約と夫の不実。西山太吉氏妻の告白沖縄密約をめぐる情報公開訴訟判決で、ベストセラー『運命の人』のモデル・西山太吉の名誉は回復された。本書は沖縄をめぐる本格ノンフィク...
ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010]
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ふたつの噓 沖縄密約〈1972−2010〉 (g2 book)
商品説明
国家の密約と夫の不実。西山太吉氏妻の告白沖縄密約をめぐる情報公開訴訟判決で、ベストセラー『運命の人』のモデル・西山太吉の名誉は回復された。本書は沖縄をめぐる本格ノンフィクションである。
目次
- はじめに
- 第I部 「夫の嘘」と「国の嘘」
- ──西山太吉の妻 啓子
- 序 章 十字架
- 第一章 暗転
- 第二章 傷口
- 第三章 離婚
- 第四章 再生
- 第五章 逆風
- 第II部 「過去の嘘」と「現在の嘘」
著者紹介
諸永裕司 (著)
- 略歴
- 1969年生まれ。東京学芸大学卒業。朝日新聞社入社。『AERA』編集部、社会部などを経て、アサヒ・コム編集部所属。著書に「葬られた夏」がある。
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紙の本
「今さら」と言える問題ではない
2011/10/05 04:21
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1972年の沖縄返還時に、財政負担を日本側が肩代わりするという日米両政府の密約文書の公開を求める裁判控訴審判決が、9月29日、東京高裁であった。
その結果、政府に開示を命じた一審判決が取り消され、現時点では、密約文書の現存が公式に否定された。
司法の限界という悲しい壁である。
文書が物理的に本当に存在するのか否か、捨てられ燃やされたのか、倉庫あるいは金庫の奥底で眠っているのかどうか。こんなことは誰も文献資料や口頭証言ではわからない。徹底的に探させるべきなのだ。そしてそれを強制的にでも行わせることができるのが司法判決なのではないか。
「秘密裏に廃棄」した可能性なんて裁判官の“推理”なんて聞きたくない。とにかく徹底的に探させる。それしかないはず。
密約の存在自体は、すでに歴史的に否定できないものとなっている。米国側では文書も公開され、また当の密約を行った本人が証言している。だからといって、文書の公開を「今さら」などとして終わらせてはいけない。こんなことが二度とないように。官僚が国民に内緒で国家の命運を決め、その国家の損害、ひいては国民の損害に対しても誰も責任をとろうとしない。こんなことをやめさせるためにも、とにかく今は、密約文書を徹底的に探させるべきであったのに。
一審の画期的な判決に比べ、あまりにも情けない。
しかし、開示命令は取り消されても、密約があったという厳然たる事実は、ほぼ認められた。また判決は、2001年の情報公開法の施行を前に、密約はないという長年のウソがばれないように、外務省などが文書を「秘密裏に廃棄」したという可能性の指摘にまで踏み込んだ。
これで事を終わらせてはならない。過去にさかのぼっての徹底的な責任追及と真相解明を求める。
今回訴訟の原告の一人であり、また、この密約事件で完全に社会的に抹殺されたといっても過言ではない元毎日新聞記者の西山太吉さんは、国家賠償請求訴訟を起こすと決めたときにこう言ったという。
「民主主義という前に、コンチクショウだよ。」
いまこそ、国民みんなが「コンチクショウ」という気概を持って事を正さないと。こんな事件はこれからもいくらでも起こる。いや、いまこの時点でさえ、どこかの闇の中で、国民には何もしらされないまま、何事かが進んでいる可能性がある。
自民党の中では比較的“まとも”な部類の政治家である河野洋平氏は、この密約事件当時、38歳当選三回の若手代議士として控訴審で弁護側承認として出廷した。その際、「交渉過程での報道は制約があるべき」との意見に対してこう言ったという。
「すべての政治的課題は議会制民主主義であるかぎり、特定の人間の判断でやっていいと私は思わないんです。つまり、議会制民主主義という制度は、特定のすぐれた人間の判断よりも、たとえ平凡であっても、大勢の人たちの了解をとりつけるということが、議会制民主主義の本質でなければならないというふうに私は思います。」
しかし、このすばらしい発言を行った河野氏でさえ、その24年後の2000年、密約を裏付ける米公文書について朝日新聞が報じた時、所管する当事者である外相の立場でこう言った。
「歴代外相が『密約は存在しない』と繰り返し、国会などで明言してきた。政府の立場は歴代外相が述べてきたことに尽きる。」
この情けない変節ぶりが、いまの日本の政治の貧困を如実に物語る。
紙の本
嘘の源は、アシンメトリックな日米関係ということになるのか
2011/07/09 22:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1970年代、米軍占領下にあった沖縄が日本に返還されるにあたり、アメリカ政府が支払うとした軍用地の現状回復補償費400万ドルが実際には日本政府によって肩代わりされることを取り決めた日米間の密約(文書)があった。そのことを当時スクープした毎日新聞記者が企図した「国家の嘘を暴く」という思いは顧みられず、やがてその取材源である外務省の女性事務官と「ひそかに情を通じて」いたことばかりがメディアで書きたてられる事態になる…。
これは、その毎日新聞記者の妻と、21世紀になってからこの国家の嘘を情報公開訴訟という側面から明らかにしようと闘った弁護士との、二人の女性に焦点をあてて、40年近い時間の中でこの沖縄密約が一ジャーナリストの不義問題に矮小化されてしまった悲劇を今一度見つめ直すルポルタージュです。
著者は朝日新聞の記者だけあって、大変読みやすい文章で密約問題の歴史的経緯や当事者たちの苦悩を綴っています。
密約事件そのものはここ数年の新聞報道で、密約文書に署名した元外務省職員の告白や、原告側勝訴に終わった情報公開訴訟の経緯などは明らかになっています。それでもこうしてまとめられた書籍の形で改めて読み直すと、国家の都合によって事の真相が闇に葬られてきたことに苦い思いを感じざるをえません。
そしてその国家の嘘は、司法の場で暴かれたにも関わらず、行政の場では今も“真実”のまま存続し続けています。
これはやはり日米という同盟関係における主従関係が、国家の国民に対する責任に優先するという構図に何ら変化がないことを意味しているのでしょう。
日米間に対等の関係を構築するには一体どうしたらよいのか、というさらに大きな難問がこの密約問題の向こうの地平線に横たわっていることを思いました。