事件(新潮文庫)
著者 大岡昇平
事件は神奈川県の小さな町で起った。小学校の同級生だったヨシ子と結婚しようとした十九歳の少年宏が、結婚に反対する彼女の姉を殺害した容疑で逮捕された。当初単純に考えられた事件...
事件(新潮文庫)
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
商品説明
事件は神奈川県の小さな町で起った。小学校の同級生だったヨシ子と結婚しようとした十九歳の少年宏が、結婚に反対する彼女の姉を殺害した容疑で逮捕された。当初単純に考えられた事件は、裁判の進展とともに意外な事実が明らかになり、しだいに複雑な様相を呈する──。劇的な展開、圧倒的な現実感(リアリティ)で裁判を描き、裁判は決定的な〈真実〉に到達できるのかをわれわれに問いかける。推理作家協会賞受賞。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
小分け商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この商品の他ラインナップ
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
推理小説らしくない推理小説
2002/11/01 00:40
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アシェ - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理作家協会賞受賞作。実際のところ、確かに法廷ものではありますが、推理的要素は薄い作品です。それでも協会賞が贈られたのは、表面に現われるトリックや論理がなくとも、全体として推理的雰囲気が濃厚なためでしょう。そのうえ小説として面白いのですから、受賞は順当なものだったといえます。
作品のほとんどを占めているのが法廷場面です。作者はやや煩瑣かと思われるようなところまでないがしろにせず、法廷でのやり取り、実際に裁判を行う時に判事や検察官、弁護人がどのように考え、動き、感じるのかを微に入り細にわたって描いています。ややもすれば退屈になりそうなこれらの描写が、この作品においては一番の魅力であり、楽しく読める部分なのです。むろんそこには作者の力量が遺憾なく発揮されているからでもあるのですが、同時に、めったなことでは窺えない法廷の内部の出来事を知る、という好奇心が刺激されるからでもあるのでしょう。「情報小説」という評価があるのも当然です。しかし、それもやはり一面的な評価であって、単に情報を得るための小説ではなく、展開の組み立てかたなど、エンターテインメントに昇華しているところが面白さを感じさせるのだと思います。
裁判とは何か、人が人を裁く裁判の実相が明らかにされている
2007/11/25 23:42
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語は、昔NHKでドラマ化されたことがある。若山富三郎が主役の菊池弁護士を演じていた。海の向こうでは法廷ドラマはペリー・メイスンなど、よく見かけるのだが、日本ではほとんどない。法律は難しいというので、毛嫌いされているのかも知れない。最近になって、判事、検事、弁護士が登場するテレビドラマが制作されているようである。
テレビでは売れない弁護士の菊池として描かれていたが、本書では30件も事件を抱える売れっ子弁護士である。この菊池弁護士は長らく判事を務めていた。その癖が法廷でも現れる。しかし、弁護人としての腕前は担当判事も舌を巻くほどの腕前である。
この事件も相当昔の話である。戦後を重く引きずっている。殺人事件なのだが、犯人として逮捕された少年にはその瞬間の記憶がない。しかし、殺人自体を否認しているわけではない。しかし、検事は殺人、弁護士は傷害致死を主張して対立する。
テレビドラマでも法廷での検事と弁護士、さらに判事とのやりとりがかなり丁寧に描かれていた。本書も当然、法廷での駆け引きや反対尋問で思わぬ証言があったなど、意外性にも触れられている。
裁判を実際に傍聴してみると分かるのだが、証人に証言させたりする場合、打ち合わせが不十分なのか、どうもちぐはぐな尋問であることに気付くことがある。とはいえ、わが国の裁判では刑事裁判でもテレビドラマで見られるような、検事と弁護士の間で丁々発止の弁論がなされることはあまりない。書面で済んでしまうことが多い。
わが国でも裁判員制度によって、市民が裁判にかかわるようになってくると、従来法廷で行われてきた慣行がそのまま通用するかどうかが問題になってくる。想定外の出来事も出てくるであろう。
本小説は昭和36年に新聞に連載されたもので、古いことは確かである。なにしろ、もう46年前の作品である。しかし、裁判とはどんなものであるのか、どのような審理過程を経て、有罪、無罪が決められるのか、を教えてくれる。戦前からの裁判のあり方も書かれており、近代の裁判のあり方が一通り理解できるように書かれている。
裁判によって真実が明らかになると考えている一般の市民にとって、人が人を裁く裁判がこういうものであることを教示してくれる小説でもある。
大岡昇平はやはりすごい
2024/08/26 12:30
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争文学のイメージが強い大岡だが、多様な作品を書いていて推理作家協会賞を受賞した本書「事件」もその一つ。
映画やサスペンスドラマにもなっていて、それは見ていたが、あらためて活字で読むと大岡文学の冷徹な素晴らしさをあらためて感じた。
この時代、どこにでもあり得そうな小さな「事件」の裁判を通して、どうしてここまで描けるのだろう。