生きることの眩暈
2003/06/17 23:24
15人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:バナール - この投稿者のレビュー一覧を見る
意あって力及ばず、というのがそのころの僕の実態であったと思う。
たぶん同じような境遇にいた僕の友人たちも似たようなものだったとそう思いたい。
当時、村上春樹の新刊は一大ブームを巻き起こし、買ってすぐに読んだ記憶がある。『蛍』が本当に好きだったので、一度目はあっという間に読み終えた。
僕の通うキャンパスには影も形も残っていなかったテイストに酔いしれたものだ。めずらしく続けてもう一度読もうという気になり、再読したあとに、それはたぶん夜遅い時間だと思うが、これはやばいと声が出ていた。
なにがやばいのかは往時も今も見当はつかないが、上下二巻の赤表紙と緑表紙をごみ箱に放り込んだ覚えがある。
(僕は高校生ぐらいから本に対する執着(愛着)心といったものがあまりなく、なんのためらいもなくもういいやと思った本はすべて捨てていた。必要ならばもう一回買えばいいと金もないのにいまもそう思っている。たぶん、悪癖なのだろう。)
村上の小説と決別し何を勢い込んだのか僕は岩波文庫の哲学書上下二巻に取り組み始めた。
『ノルウェイの森』から『エチカ』への転回はそのようにして行われた。
ノートをとりながら書物を読んだのはほとんどそれが初めてだったと思う。
極めて思弁的でありながら途中で放り出したくなるような箇所はひとつもなかった。けれどもそれは読解が容易に進行するということを意味はしない。
少しづつ本当にゆっくりと読み進めた。意味がわからないところは意味がわかるまで、どうしても分からないところは、分からないという感じが僕のあたまに馴染むまで立ち止まった。
そのようにしてようやく読み終わったときのノートも感慨も僕の元をすでに去ってしまったが、やばいというあの時の感覚は僕の邪魔をしないぐらいにまで小さくしぼんでいた。
ある種のリハビリが僕の中でなされたのだろう。
それがベストの選択であったかどうかの自信はもちろんないが間違いではなかったと思う。100%の恋愛小説から逃れるためには幾何学美を備えた倫理の書が必要だったのである。
スピノザは言う。
なにかから遁れるためには、そのなにかを考え続けるしかない。
そしてそのような時にだけ、ひとはそのなにかから遁れることができる、と。
僕は本当のところ“なに”から逃れようとしていたのだろうか。
小説は人を怯えさせるし、哲学も人を不安にする。小説は人を助けるし、哲学も人を救う。けれども小説も哲学もない世界で人は生きることも死ぬこともできはしないのだ。
17世紀のオランダの哲学者スピノザによるユークリッド幾何学の形式に基づき神、人間の精神について定義と公理から定理を導き演繹的に論証しようとした書です!
2020/05/06 10:40
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、17世紀のオランダの哲学者バールーフ・デ・スピノザによって、もともとはラテン語で書かれた書です。同書は、ユークリッド幾何学の形式に基づき神、人間の精神について定義と公理から定理を導き演繹的に論証しようとしたもので、副題も含めた正式名称は、『エチカ - 幾何学的秩序に従って論証された』となっています。原書は、「第1部 神について」、「第2部 精神の本性と起源について」、「第3部 感情の起源と本性について」、「第4部 人間の屈従あるいは感情の力について」、「第5部 知性の力あるいは人間の自由について」という5部構成になっており、形而上学、心理学、認識論、感情論、倫理学の内容がそれぞれに配列されています。ただし、中心的な主題は倫理です。岩波文庫では、上下2巻シリーズで刊行されており、同書はその上巻ですが、ぜひ、下巻も合わせてお読みください。
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ユダヤ教を破門された流浪の哲学者スピノザによる、幾何学的秩序に従って論証された倫理学。上巻は第一部「神について」、第二部「精神の本性および起源について」、第三部「感情の起源および本性について」までを収める。
『神に酔える哲学者』スピノザの主著にして、哲学書と奇書の間を行き来できる歴史的にも非常に稀有な本。
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あらゆる必要なことが、ここには描かれている。スピノザ主義と言われることで意図される無神論だとか決定論だとかは二次的なものであって本質を捉え損なっている。この本はいつまでも、誰かしらに影響を与え続けることだと思う。
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昔、テレビの「分厚いのがお好き?」で当たった文庫本(上下)スピノザの美しいミルフィーユのような論証をいまだに読み切れずにいます。
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オランダの哲学者、神学者スピノザ(1632-1677)の著。1677年刊。この世の事物事象はすべて唯一絶対の存在必然的な神に全く依存している、換言すれば、すべては神の表れ(神即自然)であるという全く一元論的な汎神論と、それに伴う人間の神への完全依存による自由意志の否定という決定論が展開されるスピノザ晩年の著。デカルトの研究者でもあった彼のこの著書は演繹的論述法により展開される。ただしスピノザは「世間一般の哲学は被造物から始め、デカルトは精神から始めた。しかし私は神から始める。」と述べ、デカルトを含むそれ以前の思弁法を排撃した。
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842夜
非常に面白い。
ドゥルーズが『千のプラトー』で器官なき身体に関する書物だと言っていた。
本来的に不自由な人間が自由を獲得するためには外的な刺激による身体の変化に伴って生じる受動的な感情を克服する必要がある。そのことによって人間は感情に支配される度合いを少なくし、理性により神を認識する直観知を獲得することができる。スピノザは直観知を獲得して自由人となることに道徳的な意義を認め「すべて高貴なものは稀であるとともに困難である」と述べて締めくくっている。-Wikipedia
スピノザについて書かなかった理由ではなく、なんとなく書きにくかった理由に、もうひとつ、スピノザをめぐる周囲の騒音が多すぎるということがあった。これはドゥルーズのことじゃない(ドゥルーズのスピノザ論はたいへんに静寂に富んだものである)。
すでにヘーゲルにして、「スピノザは近代哲学の原点である。スピノザ主義か、いかなる哲学でもないか、そのどちらかだ」と言っていたのだし、ベルグソンは「すべての哲学者には二つの哲学がある。自分の哲学とスピノザの哲学である」とまで書いていた。スピノザとほぼ同時代の神学者ピエール・ベールですら、はやくも「宗教心がほとんどなくて、それをあまり隠さないのであれば、誰だってスピノザ主義者なのである」と囃したてていた。
ようするに、スピノザについて発言することは、たちまち全ヨーロッパの知との関係を問われるか、さもなくば自分の哲学を問われるということなのだ。
まさに踏絵なのである。それも全ヨーロッパの知を賭けた踏絵として、スピノザは位置づけられてきたわけなのだ。だからこそ、そこがプラトンを批判して全ヨーロッパの知を問題にしたニーチェとつながる畏怖ともなっているのであろう。ともかくも、こういうスピノザでは、ぼくでなくとも引っ込み思案にもなろう。-松岡正剛
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哲学思想の展開とその諸定理の証明。
・神について
・精神の本性及び起源について
・環状の起源及び本性について
公理や諸定理及びその証明が明確に述べられており、読みやすい。
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幸せになるための考え方が詰まった本。
なにぶん古い本なので、現代情勢とはちょくちょく相容れない部分もあるけれども、その考え方自体は今も、そしてずっと未来までも色褪せないだろう。
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スピノザの主著「エチカ」。倫理学の古典として名高い。この本はユークリッドの幾何学のような論理構築を行っている。すなわち、定義、公理から全てを定理として論理的に導出していく形式を取っている。そのため、割とすっきりしている半面、いちいち前のページを見直すのは疲れるかも。。
上巻は、倫理に入る前の土台作り。まず、第1部「神について」では、神の絶対性を確立する。8つの定義と7つの公理から、それらを導出する。決して理論的に怪しい事はない。どちらかといえば緻密に作られているように思えた。次いで、第2章「精神の本性および起源について」。ここら辺から疲れてあまり理解していない。。そして3章「感情の本性および起源について」。
以上のように、理論的な土台作りがこの本のメインだったように思える。下巻はどうなる事やら…。。
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何か数学を読んでいる感じ。さすがはデカルトの大ファンの人。理解が完全に出来たとは言えないのでまた読み返したい
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原書名:ETHICA
神について
精神の本性および起源について
感情の起原および本性について
著者:ベネディクトゥス・デ・スピノザ(Spinoza, Benedictus de, 1632-1677、オランダ・アムステルダム、哲学者)
訳者:畠中尚志(1899-1980、哲学者)
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まずは上巻。第一部から第三部まで、それぞれ神、精神、感情を議論する。
いくつかの定義と公理を提示されたあとは、定義と公理から導かれる定理とその証明がひたすら繰り返される。
定理n xxxx、証明……Q.E.D。という形が延々と続いて最初は面食らうし読みづらいけど、慣れてくると議論が明解でわかりやすい。
倫理の問題にまで至ってはいないものの、スピノザの思想の特徴である汎神論と決定論は上巻ですでに提示されている。ここからいかに倫理が立ち現れていくのかは下巻第4部第5部のお楽しみ。
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アインシュタインがスピノザの神を信じると言ったとか。汎神論は梵我一如のようなものと勝手に捉えた。スピノザの話しの展開の仕方で全能の逆説を思い出したが、それは野暮と言うものだろう。
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第一に神は唯一であること、言い換えれば自然のうちには一つの実体しかなく、そしてそれは絶対に無限なものであることになる。
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エチカは、一言で言えば、人間の自由について述べている本だ。どうすれば、人が自由になれるのか?を難しい言葉を使いながら説明している。
スピノザの言う自由とは、自分自身の必然性である本性に従って生きることであるという。
自由という言葉には、必然性という縛りの言葉を似つかないような感じもするが、この矛盾があるようで実はない論理がとても面白い。
文書自体は非常に読みにくく、何度も読まないと全くわからない。まして、解説書なしに読みだすと途中で投げ出すことは見えている。
実際、今回自分で読んだ時も下巻は読みきったが、上巻は読み切れていない。というか、断念した。
また興味が湧いた時に読めばよいと思って、机の横に置く決心をしたのだ。
読めたら達成感はあるんだろうなと思いつつ、この難しい文体を解読するのは体力が必ずいるだろう。