紙の本
心理を進化によって形成されたものとして考える
2012/02/20 21:40
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
『種の起源』にはこういう記述がある。
「遠い将来を見通すと、さらにはるかに重要な研究分野が開けているのが見える。心理学は新たな基盤の上に築かれることになるだろう。それは、個々の心理的能力や可能性は少しずつ必然的に獲得されたとされる基盤である。やがて人間の起源とその歴史についても光が当てられることだろう」(下)401
人間の心理、認知その他心理学的知見に、進化という光を当てることによって、何故そのような心理が生まれたのか、ということを問うのが進化心理学。最近になって急速に発展してきた分野だという話だけれども、既に150年前にダーウィンによってこの研究分野の誕生が予言されていたわけだ。
動物の生態、行動も進化によって形作られたものだと考えられる以上、その延長上にある人間の行動、心理もまた進化によって形成されたものと考えなければならないというのは当然の話か。「進化」というのがすべての生物の根源にある以上、人間という生物もまた進化によって説明される。
本書ではこのような前提に基づき、人間行動のさまざまを進化心理学的に分析した知見を、初心者にもわかりやすく紹介していく。恐怖感情を例にとれば、危険を察知する能力がある方が生存上有利だったため、われわれにはドクロなり蛇なりを怖がる機能が備わっている、という風に説明される。さらに他の生物の恐怖感情などがどのような場面で働くかというのと比較することで、それぞれの生物がどのような環境で生きてきたか、という進化の歴史をひもとくきっかけとしても重要だということが指摘される。
適応ということと同時に、歴史性を考慮することが大きな意味を持っている。人間が元来過ごしてきた環境に対し、現代社会の変化というのはきわめて速いスピードで進んでいくため、人間の心理機能が現代社会と齟齬を来してしまうことがある。進化心理学は人間の心理の機能の「何故」を分析するのと同時に、歴史性を解明することでその齟齬にどのように対処すればいいのか、ということについてのヒントを提示しうる。
進化心理学の本を読むのは初めてなのだけれど、この分野が非常に魅力的なものだというのがよくわかる。人間の心理のみならず、社会制度等についても役立てうる知見がさまざまに語られていてとても面白い。
ただ、これはこの本の問題なのかも知れないけれども、学説としてまだまだ基盤が弱いという印象がぬぐえない。風が吹けば桶屋が儲かる式の分析に見えるところもあって、話としては面白いけど、という気分になることも多い。
たとえば、車酔いで吐き気がするのは、昔の生活で平衡感覚を乱されるのは神経毒のある物を食べたときくらいで、その時に胃の内容物を吐きだして毒物のそれ以上の蔓延を防止するという防衛機能の名残だ、という説が紹介されている。平衡感覚の乱れと、吐瀉がなぜ連鎖するのか、という疑問についてうまく答えている気はするけれど、こじつけにも感じられる。
ある心理や機能を分析するとき、それを適応によって残ったものとするのか、それとも痕跡器官のようなバグ的なものと考えるかで、論理展開が大きく変わってくると思うのだけれど、それをどう判断しているのかとかは本書では触れられておらず、分析の前提に曖昧さが残る。
分析にも生物学、心理学その他社会学、文化人類学等々、さまざまな学問分野との連携が必要とされる総合的な分野でもあり、まだまだ固まりきっていないという印象も強いけれど、同時にそれがこれからの面白さにもなっている。
話題ごとに参考文献が提示されているのと、最後に全体にまつわる参考文献も紹介されているのが非常によい。個人的に贅沢をいうなら、文中に逐一紹介すると同時に、章ごとか本の最後に一括して並べてくれると後から参照しやすいのだけれども。
この分野はとりあえずピンカーの著作が有名なのでそこから読んでみたい。
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大学での授業の反応を踏まえた学生向けの進化心理学入門書とのこと。幅広い分野にわたる関連文献の紹介が多く、オリジナリティ不足との批判はありそうですが、面白い話題満載で読み甲斐があります。
手段と目的に置き換えられる「至近要因」と「究極要因」との区分け(行動の究極的な目的を想定する意義)や、進化心理学の目標は「遺伝子に還元する」よりはむしろ「生育の歴史を重んじ、遺伝子に還元できるところは取り入れつつ人間に関する諸科学の見通しをよくする」こととする議論の周辺で、記憶力、生き残り戦略、さらには男のハゲまで身近なテーマが取り上げられ、読み飽きしません。
知識を伝えるだけでなく、発想の柔軟さや現実感覚も強調され、バランスのとれた内容と思いますが、「だまされ上手」の議論が物足りなく感じるのは、私の読解力不足でしょうか。
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進化心理学入門、という内容なんだろうけど、だまされ上手の如何についてはちょろっと、こういう推測が成り立ちますよね、といった程度。
内容はカチッとした理系新書なんだけれども、ある程度タイトル勝ちなとこがあるんでは。
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魅力的でおもしろいタイトルのわりに、いまいち内容がわかりにくいというか.....でも、理科(生物学)的なテーマが多く、やっぱり興味深い。今、気長に消化中です。
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読了後
生物学というより民俗学を動物にまで適応したという感じ。
動物社会・人間社会を系統的に説明しているが、生物学的根拠が薄弱だと感じる点が多々あった。
もちろんこの分野自体細分化した脳科学・行動経済学・進化論などの隙間を埋めるためという点があるので、科学的根拠というのは他の分野の発展に依拠するのかもしれない。
いずれにしても学問のポジショニングとしては非常にいい位置ではあるので、関連する書籍で詳しいことを学んでいきたい。
読了前
社会学と生物学の間をしっかりと埋めるジャンルだと感じる。
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進化心理学の大まかな考え方が分かった。ただ、根拠が脆弱に思える箇所が多く、こじつけの科学なのでは?という疑問を感じた。
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進化心理の入門書として,読みやすく面白く書かれている。
進化心理の本はここ数年爆発的に増えてるけど,初学者とか既に基礎知識がある人向けっぽかったので,この本は本当に興味だけで読もうかなという人向けでおすすめ。
一見非合理な行動に,実は生存や生殖にとっての合理的意味がある,というロジックは,やっぱり面白い。
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序 章 恐怖を手なずける
第1章 人間をうみだした進化の原理
第2章 遺伝子の生存競争
第3章 わかりあえないオスとメス
第4章 狩猟採集民の脳と心
第5章 人間は「協力するサル」である
第6章 文明社会への適応戦略――信頼の転換
第7章 現代社会の生きにくさにせまる
終章 だまされ上手の極意
あとがき
石川幹人(いしかわまさと)
1959年東京生まれ。東京工業大学理学部卒業。同大学院物理情報工学専攻、松下電器産業(株)研究開発部門、通産省の国家プロジェクトなどを経て、現在、明治大学情報コミュニケーション学部教授。大学・大学院では、生物物理学・心理物理学を学び、企業では人工知能の開発に従事。遺伝子情報処理の研究で博士号(工学)を取得。専門は認知情報論および科学基礎論。著書に、『心と認知の情報学』(勁草書房)、『入門・マインドサイエンスの思想』(共編著、新曜社)、『心とは何か――心理学と諸科学との対話』(共編著、北大路書房)、訳書に『ダーウィンの危険な思想』(共訳、青土社)、『量子の宇宙でからみあう心たち』(徳間書店)などがある。
現代の人間がこれほど高度に社会を発達させていったにも関わらず、不合理な行動をするのかを教えてくれた本。人間は狩猟採集のクセが抜けきってない。その時期に培った心のもジュールは今も生き続け、最も大事なところでは威力を発揮するようである。それらは意識されるものではなくて、無意識の中に潜んでいる。それらを上手に使っていくことより幸福な人生となる。入門書としては、全ての理屈がすんなり入り納得できた本。タイトルの「だまされ上手」の部分が最初から開示されず、じれったさを感じたが、あとがきに著者の生徒が基礎を分かっていないまま応用に進んでいることを危惧して基礎を多く書かれているのだとわかり。只ただご苦労様としか思いようがなかった。確かに狩猟採集の心のモジュールが残っているのではないかという観点から、また心理学であれば誤解が多く生じる気がするので、そのような配慮は逆にありがたいかもしれない。
ブラックスワン、まぐれ等で人間は合理的ではないことが再三述べられていたが、この本を読んでやっと分かった気がした。
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[ 内容 ]
なぜ「だまされる」ように心は進化したのか。
「おろか」な行動は、実は生き残りための「賢い」戦略かもしれない。
人間の心の働きを、生物進化の仕組みに照らし理解しようとする新しい学問、進化心理学。
そのエッセンスを詳しく解説。
進化の仕組みをもとにした、その成果から現代を生き抜く賢い戦略が見えてくる。
[ 目次 ]
序章 恐怖を手なずける
第1章 人生をうみだした進化の原理
第2章 遺伝子の生存競争
第3章 わかりあえないオスとメス
第4章 狩猟採集民の脳と心
第5章 人間は「協力するサル」である
第6章 文明社会への適応戦略―信頼の転換
第7章 現代社会の生きにくさにせまる
終章 だまされ上手の極意
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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生物の進化の視点から、ヒトの考え方や行動を理解しよう、と
いうアプローチが進化心理学なのだそうです。
「だまされる」という、一見阿呆(名古屋弁でいうと「たぁ~け」)
なことも、実は種が生き残るための、ある種の合理性のある選択
なのかもしれない、という視点で捉えるのです。
これが、なかなか面白い。
以下、この本の一節を抜粋。
意識の役割は、意識が誕生した時点から既に「現状の改善」に
重きがおかれていた可能性が大です。なぜなら、現状でうまく
いっているのならば、下等生物のように意識をもたず、つねに
無意識下で行動していたのでもよいことになるからです。
私たち人間が意識的に行動する以上、現状そのままではうまくなく、
意識が誕生することでなんらかの改善がなされる必要があったと
いうことでしょう。無意識では難しい現状打破の柔軟な思考が
社会的な場面で要求され、意識が不可欠とされた進化的経緯が
あったとみられます。
意識的な行動の目的が現状の改善にあり、改善の結果によって
幸福感が意識されるとすれば、現状ですでにうまくいっている
場合は幸福感が得られないことになります。つまり、意識的に
がんばって、つねに向上していないと幸福感を感じ続けられない
のです。
(中略)
健全に幸福を感じるには、どうしたらいいでしょうか。ときどき
わざと不幸になって、それからまた改善してく、という過程を
くりかえすことです。
まあ、なんと自虐的でMなのでしょう!
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私達は、選択を迫られた時、時には論理的に考え、時には気持ちに従って、判断していると思っている。しかし、私達が自分で考えて判断していると思っているだけで、実はDNAに組み込まれた何かに従って判断しているとしたら・・・
私達は、DNAに組み込まれた何かが、環境の変化に対して有利な者達の生き残りなのか・・・
DNAに組み込まれた何かを知ることによってよりよく生きられる?
「おろか」な行動は、実は生き残りのための賢い戦略かもしれない。人間の心の動きを、生物進化の仕組みに照らし理解しようとする新しい学問、進化心理学.そのエッセンスを詳しく解説する。
進化の速度が一定とするならば、人間に固有の脳のう99%以上は、狩猟採取の時代に形成されたと言えます。つまり私たちのものの見方や考え方や行動の形態は、狩猟採取に環境にふさわしいかたちに適応しているはずなのです。つまり私達の行動は小集団向けにできているのです。
進化心理学を知ることによって、私達は自分自身を“より客観的に”見ることができるようになると思います。
一瞬の衝動に動かされそうになった時、何故“そのような気持ちになったのか?”客観的に考えてみることによって、より自分の目的に合致した選択ができるようになると思います。
また、社会の動き、人の行動の意味について考える際にも、新たな切り口になると思います。
更に、自分が生きて行く目的、目標、手段、そんなことを見つめ直す良い機会になると思われます。
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進化心理学の入門書として著者の講義でも使用できるように書いた本になります。
進化心理学とはあまり聞きなれませんが、人の心の働きを進化の仕組みに照らし合わせて理解するという学問です。
諸説の一つでありますが、読んでいて目新しく面白かったです。
現在の人類の歴史は1万年ほど。
たった500世代という内容を読んで、現在の急速な社会変化に人間がついていくのが大変なのもわかる気がしました。
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現代の社会で、ポジティブシンキングに一定の効力がある。
うつになるのは女性が男性よりも多い。男性の方はプライドを維持する傾向が強いので、自己防衛が強固でうつになりにくい。
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若干タイトルに釣られた感あり。
進化心理学は出来て新しい学問だ。
ゆえにまだまだ発展途上なんだと思った。
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初めて手に取った進化心理学の本だったが、この本で進化心理学の面白さに引き込まれた。
究極要因からのアプローチは、物事の本質を捉えることができるようになるだろう。