山田風太郎、作家人生を規定した「戦争」と正面から切り結ぶ
2022/07/18 10:22
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投稿者:アントネスト - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説を、本格ミステリーの傑作と聞いて読み始めた人は面食らうでしょう。
本作を一言でいえば、戦後の混乱と荒廃の中で描かれる暗黒青春小説とでも呼ぶべきドラマ。殺人などは起きませんし、謎らしい謎も出てきません。しかし、本作は最終盤に至って、恐るべき真実をむきだします。そこにはトリックがあり、驚きがあり、伏線があります。それはまさしく傑作本格ミステリーと呼ばれるにふさわしいものです。
レビュータイトルに書いた通り、山田風太郎にとって極めて大きな経験でありテーマでもあった「戦争」(第二次世界大戦)を直截に小説に取り入れた珍しい作例という点でもファンは必読です。
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終戦後十数年、当時の青年の暮らしや考え方が偲ばれる。金銭的な階級の差が身にしみる。特に貧しい方の。自分の子どもの頃も思えば貧しい部類だったなぁ。
当時の青年の一徹さ、そして愚かさ、今でも残っているもの・失われたものいろいろある。
踊らされずに、物事を広く見て真摯に生きているか?
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再読。苦学生・鏑木明はアルバイト先で社長令嬢・恵美子と出会い……。
甘く切ない恋愛小説風の流れをある独白によって一転させ、物語の真の構図を浮かび上がらせる手腕が見事。そこに込められた戦後日本への怨念も戦中派の著者ならでは。
やっぱり廣済堂文庫のネタバレはひどかったなぁw
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昭和30年代東京。
苦学生ながらも容姿淡麗、頭脳明晰、可愛らしい恋人もいる鏑木明は、ひょんなことから富裕層の集まるパーティーに参加。そこから彼の人生の歯車が狂いだします。
それまで平穏に過ごしていた明が、富裕層との格差に打ちのめされて野心を抱き、自分を失っていく様が滑稽でもあり恐ろしい。
高度成長期を迎えようとしている日本で、しかし将来に希望を見いだせない戦後を生きる若者の苦悩を背景にした、恋愛小説でもあります。
出来ればなんの前知識もなくいきなり作品世界に浸ってほしい小説です。
山田風太郎という作家自身を知るのにも、彼の書く小説がどういうものなのか知るのにも良い1冊だと思います。
読めば分かる、というのはなんでもそうなんですが、本書に対しては特にそうとしか言えません。
読めば分かる。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
生まれは平凡でも才能と容姿に恵まれた明にはサクセスストーリーを期待しましたが、享楽的なお金持ちの人々に振り回されるのが哀しいです。
そしてそれをどうしようもない思いで眺めている容子の健気さと執着。
若くて青い。その純粋さと頑なさが読んでいて非常に辛かったです。
ところで明を振り回す天衣無縫の恵美子はとても魅力的。豪胆で自由で、なぜか嫌味を感じませんでした。
そして最後で明かされる驚きの真相ですが、思えばいつも山瀬はターニングポイントで登場していたように思います。しかし、まさかこんな計画を胸に秘めていたとは分かるはずもありません。
彼自身の哀れな生活さえも利用し、必要とあらば散財も土下座も厭わなかった所に恐ろしさを感じます。
操作殺人は自身の安全は守られるかもしれませんが、目的を達する為の方法としては確実性が低く、時間もお金もかかるものなのであまり現実的とは思えないのですが、本書の一番凄いところはそんな疑問をも包括した動機でしょう。
これだけ手間暇かけて何人もの犠牲の上に杉麻子を追い詰めた理由には理解の範疇を超えるものがありますが、ここで改めて「誰カガ罰セラレネバナラヌ」という言葉が大きな意味を持って思い出されます。
作者自身の思いともとれるような戦争への強い憤りが感じられ、終盤の山瀬の独白には身震いする思いでした。
山田風太郎の作品には深いテーマとともに稚気が感じられるのが好きなのですが、本書でそれはあまり感じらなかったので、私の好みとしては本書は高評価ではありません。
しかし、操作殺人の真相、物語の構造、意外な犯人、そしてなによりも戦争や時代に対しての強烈な人間の心模様など、☆5をつけないわけにはいきませんでした。
読後、深く重く、いつまでも心に残る作品となりました
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読書前の情報量は少ないほどいい。私の場合、何気に目にしたレビューからオチが予想できてしまったので、驚きに関してはイマイチだった。
敗戦の影が投影された憤りの思想。罰に執着する邪悪な心理は、現代でも理解できるテーマだろう。単なる恋愛モノかと思いきや、ざわざわとせり上がってくる不穏な感覚に支配され、ラストでひっくり返された時に、構成の妙を思い知らされるという仕掛け。語り口は軽妙でも、読後はずしんときた。やっぱり山風は潔いなあ。そして紛れもないミステリ作家なのよね。
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傑作ミステリ。犯人は完全犯罪という物語を遂行することに情熱を傾けるが、その姿は作者の写し身であり、犯人の昏い情熱は作者の思いそのものであろう。普通小説かと思わせれば犯罪小説であり、犯罪小説であるかと思えば戦争論であり、さらにはメタミステリであるともいえる。奇想の「敗戦小説」。
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ラストの独白が全ての小説ではあるがそのほかの登場人物のその後も知りたかった。前半ひたすら落ちぶれていくキャラクターにページをめくる手が重くなった。
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昭和30年代後半(=1960年代前半)の東京で、
アルバイトしながら大学に通う青年が、
金持ちの娘と知り合い、ブルジョワの毒気に当てられて、
勤労や苦学には意味がないと思い始め、
上手く立ち回って「逆玉(の輿)」に載った方が利口だ、
と考えるようになり、周囲の人間を憎悪しながら野心を燃やす
という筋立てだと思ったのだが……一杯食わされた。
なんという理不尽な苦悩、そして死(二重の意味で)!
なるほど、これは戦争体験者にしか書けないだろうなぁ。
被害者もかわいそうだし、犯人も悲しい、
じゃあ誰が悪いのだと問えば「それは君たち読者だ!」と
指を突き付けられる気が――って、あ、それじゃ某「奇書」と一緒か(笑)
直接の関係はないけれど、そういえば、
山田風太郎と中井英夫は同年生まれの人だったと思い出し。
ところで、解説でも詳しく触れられていないが、
二転三転して決定したというタイトルは「磁場」のイメージからだろうか。
【付記】
読んでいる間、人間椅子の同タイトル曲が頭の中をグルグル回っていたが、
詞の内容は本書と特に関係なさそうです。
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謎が全く提示されないまま真相が明らかになります。まるで問題なしで答えを見た様な感じで戸惑いましたが、それでもかなり衝撃的でした。真犯人に意外性がありましたし、動機もその時代ならではのもので凄まじかったです。
ただ、こんなにも真犯人の意図通りにいくものなのでしょうか?かなりご都合主義的だと思いました。
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昭和30年代後半、苦学生の鏑木はバイトで訪れた屋敷で社長令嬢と出会う。鏑木は特権階級への反抗の意思から、彼女に近づくのだが……
他の本や映画のalwaysではこの時代は貧しくても希望があった時代だとか、頑張ればそれが給料に反映された時代だとか、どこか希望的な側面で語られやすいのですが、この小説に出てくる登場人物たちは、将来への希望をなくしていたり、時代に疑問を持っていたりしています。
敗戦からおよそ10数年、復興や高度経済成長のイメージが強い時代ですが、その時代の暗部というか、語られにくいところを見事に描き切った作品だと思います。
中でも印象的だったのが鏑木が将来への希望を持てない様子でした。先に書いたようなイメージの強い時代だったので、この時代にこういう若者がいたのだな、という意外な気持ちが浮かんでくるとともに、とても感情移入してしまいました。彼と同年代で、現代も希望が持ちにくい社会であるからかもしれません。
青春小説としても一級品の出来! 特権階級に近づくため自分を見失っていく鏑木を心配する容子の描写も感情表現もとても上手く引き込まれました。また自分を見失っていく鏑木の描写も読んでいて切なかったです。
そして最後に明らかになる狂気の存在……。時代の闇を凝縮したような黒さを感じるとともに、でも一方でとてつもなく痛切な叫びを聞いたような気にもなりました。この狂気と叫びの前には何者も無力にならざるを得ない、そんな風に感じてしまいます。
読後はしばらくぼーっとなってしまいました。それだけ、この叫びが自分の中におおきなしこりを残したのだと思います。幕引きも鮮やかでした。その後について語りすぎないことで、読後の深く切ない余韻が心にじっくりと沁み渡っていったように思います。
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「遠隔操作 」の殺人
明も容子も自分の意志で選んでたのに…操られている当人さえも気がつかない…
自分が「遠隔操作」されてないか、不安になる本です。
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ああ素晴らしい。
純文学かと見紛うほどの綺麗な文体とストーリー展開。
しかしそれでいて本作は第一級のミステリでありノワール小説なのだ。
いままでこんなにも規模の大きい◯◯◯殺人(読めばわかる)は見たことない!!
この結末だけをとって、やれリアリティがないだの、実現不可能だとか言うのは全くの見当違いだろう。
作者がやりたかったのはこの結末ではなく、この時代に行きた人達の慟哭を文字にして伝えることではないだろうかと僕は思うのだ。
その過程でミステリの体裁をとってしまっただけのこと。
まぁ、そこが山風らしいのだが…
正直、平成生まれの僕は登場人物たちの気持ちを理解できたとは言えない。
きっと不可能だろう。
しかしこれだけは確実に言える。
本書は傑作であると。
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単にどんでん返しのミステリー小説と片づけてしまうのはもったいない。自分も、明や容子と同じ闇に堕ちないと言いきれない。
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2016年2月23日読了。貧しいが美しく野心的な大学生・鏑木明は、アルバイトで訪れた豪華な屋敷で知り合った令嬢恵美子をものにしようと暗い情熱を燃やすが、それが悲劇の幕開けとなり・・・。最初想像したストーリーが思わぬ横道に入り込み始め、「???」と思っていたら最後に著者の仕掛けたトリックにドカン!とショックを受ける、ごっついミステリ。時代に巻き込まれ人に利用されて無残な人生を送ったとしても、当人の中で精一杯生きたとすれば、それはそれで幸福な人生と言えるのか。「罰ッセラレネバナラヌ」のは誰なのか。本のボリュームこそ薄いが、ずしりとした読後感がある骨太なミステリだ。
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山田風太郎といえば忍法帖。なのだけれど、あえてこれを読んでみた。かつてどこかの本屋で偶然見かけて以来、ずっと気にかかっていた本。何年か経った今再び出会って読んだのも、すべては天の巡り合わせだろうと思う。今このタイミングで読むべし、ときっと誰かが言っていたのだろう。
さて、なんの予備知識もなく読み始めてみたけれど、これはかなり衝撃的だった。わりと軽めの口調で語られる物語の滑り出しからは想像もつかないところへ最終的には連れていかれる。連れていかれてしまう。「堕落願望」「破滅願望」とでも言うべきものを描きながら、最終的には、そんな甘っちょろいこと考えてるお前らは平和ボケ野郎共だな!と糾弾されてしまう。すでに古くさくて大時代的な物語という印象もあるけれど、現代では及びもつかない時代への憎悪を残す一冊だった。江戸川乱歩の「芋虫」を思い起こしたのは短絡的だろうか。最終章の語りは圧巻です。