読割 50
電子書籍
ダブ(エ)ストン街道
著者 浅暮三文
あの、すみません。道をお尋ねしたいんですがダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって……。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土...
ダブ(エ)ストン街道
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ダブストン街道 (講談社文庫)
商品説明
あの、すみません。道をお尋ねしたいんですがダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって……。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」
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紙の本
自分がどこに居るかを気にしなければ迷子になることはない、ってね
2004/07/21 04:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「幻の」という冠付きの噂を聞き、著者・浅暮三文氏のコメントやpurple28さん、3307さんの書評を拝見してからずっと読みたかった。何やらポワンとしたイメージだけれど、本当にそんな取り留めのない、それでいて美しく結末へ向かって収束していく作品なのだろうか。イロモノ作家(良い意味で)が数多く輩出されることで有名らしいけれど、メフィスト賞というとやっぱりミステリだし…。
そう思いつつ、遅まきながらようやく本書を手に取った。一気読みしてふと我に返ったら、自分でも知らないうちににっこりしていた。全体の印象はなるほど何やら取り留めのない感じ。そして切ないけれどポワンと胸の中があったかくなるような読後感。強いてカテゴライズするとしたらやっぱりファンタジーと呼ぶべきだろうけれど、相互に関連する謎が提示されて解決されていく様子はよくできたミステリとも言える。メフィスト賞には大納得だった。
読後感も語り口もまったく違うけれど、なぜかサン=テグジュペリの『星の王子さま』を思い出した。どこが似ているのかと訊かれても困ってしまうのだが、旅の道すがら出会う奇妙な人たちの奇妙な行動と、そこから読み取れる「何か大事なもの」…そんなところで連想が働いたのかもしれない。もっともダブ(エ)ストンの人々は、自分たちの行動にそのような深い意味などないよ、とケロリとしているのだろうが。
ダブエストン、ダブストン、ダベットン、ダベーストン。この地では名前すら迷子になっている。誰も彼もが何かを探してさ迷い歩く。王様を探す熊、ドサイの都を探すブラスバンド、アマゾンを探す半魚人、真理を知る鍵となる赤い影を探す王様の一行。みんなそれなりに真剣ではあるものの、探し当てられないが故の悲壮感はまったくない。求めるものと、ほんの数分前、数十メートルの差ですれ違ったかもしれなくてもちっとも焦らない。そして恋人・タニアを探す「私」ことケンも、次第にその境地へ踏み込んで行くのである。
ラストシーンでタニアとケンは再会できたのかできなかったのか。「会えているといいね」と個人的には思うけれども、例え(またしても)人違いだったとしても、ケンはちっとも落胆しないだろう。ずっとお互い探し続けて、心はしっかり繋がっていると判っているから。タニアを探す旅だけれども、もうタニアその人が目的ではないから。
ダブ(エ)ストンの住人でなくても、結局のところ、みんな一生かけて何かを探して生きるのだろう。探し疲れて絶望にかられた時、何を探しているのかさえ判らなくなった時、本書のことを思い出せたらいい。幽霊船の船乗りたちに「まあそうアクセクしなさんなってことよ、兄弟」と、背中をポーンと叩いてもらうような気持ちになれるのではないかと思う。そうしたらきっと肩の力がふっと抜けて、にっこり微笑んでまた歩き出せるのではないかと思うのだ。
紙の本
クリスマスは迷子。
2004/01/20 11:30
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:purple28 - この投稿者のレビュー一覧を見る
メフィスト賞受賞作の中でも、“幻”といわれた本作。
文庫になって、ようやく手に取ることができた。
読んだのはちょうどクリスマス。
それも、象徴的といえば、とても象徴的なこと。
ファンタジーは嫌いではない。
しかし、メフィスト賞に期待するのは、
今までにない“ミステリー”。
その点、「ダブ(ェ)ストン街道」は、
タイトルからしてミステリー。
私の触手を動かすのには、これだけで充分だった。
ほとんど、なんの予備知識もなくとりかかったのだけれど、
読むにつれ、「ソフィーの世界」を彷彿とさせる。
「ソフィーの世界」は、読みやすい哲学ファンタジーだけれども、
本作は知らず知らずのうちに自分から
“哲学の世界”に飛び込んでいるような感じ。
そこが心地よい。
それぞれの登場人物が持つストーリーは、
ちょっと気を許すと破綻しそうなのに、
いつの間にか美しく帰着している。
その積み重ねが心地よい。
愛らしさの中にも哲学がちりばめられ、
思考があっちへこっちへと振り回されるのだが、
その“ゆらぎ”すら心地よい。
一言で言うならば、“なんだか幸せな物語”。
森で出会った熊はしゃべる。
編隊を組む王様がいて、海では幽霊船が彷徨っている。
ユニークな職に就き、それを真面目にこなす人たち。
そんな登場人物すべてに“愛”を感じる。
「あなたはだれ?」の手紙ではじまるソフィーの世界。
この物語も、タニアからの手紙で始まる。
幻の場所、ダブ(ェ)ストンでのタニア探し。
彼と一緒にタニアを探しながら、いろんなものを見つけた気がする。
遠い昔に忘れてしまった“何か”を、
きっと見つけることができるだろう。
ちょうど、タイムカプセルを開けるように。
(紫微の乱読部屋)
紙の本
この世界は知らない。でも、懐かしい。
2003/10/22 23:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「どうして赤いネクタイをしてるんだい?」
熊は茂みの中から、ぽつりとつぶやいた。
「ハダカジャ、ミットモナイダロウガ……」
(——P056)
物言う熊・王様・騎士・海賊船……。
奇妙なイメージのコラージュ。
世界から切り離された場所、ダブ(エ)ストン。
深い森、雲と霧、汗と砂で閉ざされた土地。
読み終えて、不意に思い出すのは懐かしいゲーム。
小学校のバス遠足の定番。
1)担任の名前や、好きな子の名前、苦手な食べ物、
嫌いな教科、それに少しシモがかった言葉を
思い思いにカードにする。
2)カードを下記に分類し、でたらめに並べ、文章にする。
みんなで笑う。他愛ない内容なのに、むやみにおかしかった。
・「いつ?」
・「どこで?」
・「誰が?」
・「何を?」
・「〜した?」
そんな一体感や親密さと重なる雰囲気が、
あまりに個性的な本書を、懐かしく仕立てる。
もちろん、破綻しそうで破綻しないのは、
読みやすさやディテールへの気配りのたまもの。
浅暮さんのコメントによると、本書はメタ・ファンタジーとのこと。
ただ、「男の美学」を描いた点で、実はハードボイルドも兼ねる印象。
彼等がいつまでも、迷い、つまずき、だまされ続ける旅を
進んでいることを私は祈りたい。目的地は見果てぬ夢だからこそ
輝くのだ。だからこそ流れていくのだ、流されるのではなく。
放浪こそが安らかな休息なのだ。
(——P307)
ロシアのマトリョーシカではないけれど、
無数のイメージの入れ子の奥にひっそりと光る本音。
この人もまた、笑顔の化粧の下で静かに涙する道化師。
本書がミステリに含まれることに、妙に納得した一冊。
紙の本
「ダブ(エ)ストン街道」文庫化に寄せて
2003/10/20 11:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浅暮三文 - この投稿者のレビュー一覧を見る
やあやあ、どうも皆さん、あのね。なんて書き出しですと、突然、出てきて、アサグレはいつも、いつもなんなんだ? 忙しいのに、なにか用事なのかとつぶやいている様子が、パソコンの画面の向こうに想像できるようで申し訳ないです。でも、今回は割合に重要なお話でして。というのも僕の処女作、第八回メフィスト賞受賞作「ダブ(エ)ストン街道」が、今回、晴れて文庫化されることになったのです(講談社文庫10/15に発売、ただし地域差あり)。なにより処女作が、まだ皆様に渇望されているらしいことを、インターネット上でかねてより伝え聞き、個人的にも、またデビューにたずさわっていただいた編集諸氏もふくめ、みんなで、どうしたものか、なんとかしたいが、問題は売れないことだ。要するにアサグレの人格の問題だよなと、みんなで額に皺を寄せていたんですよ(僕も)。毎度のことながら、僕の小説はいつも大して売れないんですよ。どうも読者を選ぶみたいでしてね。それが今回は清水の舞台、ピサの斜塔から飛び降りたつもりで、ええい、やっちまえということになったんですよ。世の中、ときどき、そういった無茶をやることがあるんです。そんな訳で、やっとあの幻の処女作をお届けできることとなりました(ネットで復刊リクエストに投票いただいた皆様に、この場を借りて感謝します。あれあれという間に満票が集まりましたよね)。で、ここで、あらためて、いっときますが、メフィスト賞受賞作とはいえ、この小説はヘンテコリンなファンタジーです。そもそもミステリー、しかも本格推理がメインの賞をメタ・ファンタジーで受賞したこと自体、ミステリーといえる小説です。でもって、よくわからない人々がよくわからない行動に明け暮れます。そんな小説なんです。でもね、アサグレは喜んでいるんですね。ぜひ、まずは数頁だけでも立ち読みしてみてください。そして気に入ったら、お手元に。なにしろ、僕のスタート地点なんでから。それにね、解説を書いていただいたのは、音が立つほどの名手で、こないだ直木賞を受賞した石田衣良さんです。ですから石田さんのファンとしても、読むべきだと思うんだよなあ。きっと投資に見合うなにかがあると思うんだよなあ。そもそも文庫ですから、お買い求め安い価格であります。この秋、ちょっとヘンテコリンな小説で、心を楽にしようかなと思う、あなた。ぜひ、よろしくね。