逃亡(上)(新潮文庫)
著者 帚木蓬生
1945年8月15日、日本敗戦。国内外の日本人全ての運命が大きく変わろうとしていた――。香港で諜報活動に従事していた憲兵隊の守田軍曹は、戦後次第に反日感情を増す香港に身の...
逃亡(上)(新潮文庫)
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商品説明
1945年8月15日、日本敗戦。国内外の日本人全ての運命が大きく変わろうとしていた――。香港で諜報活動に従事していた憲兵隊の守田軍曹は、戦後次第に反日感情を増す香港に身の危険を感じ、離隊を決意する。本名も身分も隠し、憲兵狩りに怯えつつ、命からがらの帰国。しかし彼を待っていたのは「戦犯」の烙印だった……。「国家と個人」を問う日本人必読の2000枚。柴田錬三郎賞受賞。
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逃げろ、逃げろ!で、長編一気読み
2001/10/26 21:44
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第2次大戦中、憲兵として香港や広東に従軍した守田。中国人の統括、規制、あるいは英人のスパイ摘発に血道を上げて国に忠義を尽くすが、敗戦とともに「戦犯」という烙印を押されて立場は180度転換してしまう。守田の長い逃亡生活の始まりだった。 中国人の手から命からがら日本に逃げ帰った守田ではあったが、そこでも彼には安住の地が与えられてはいなかった。警察から逃げ惑う様は、まるで脱獄囚のそれと同じである。全編逃げて逃げて逃げまくる。息のつまるような長編作品だった。
逃亡生活を続ける守田の頭に、彼が憲兵だった頃の思い出が浮かぶ形で、戦中・戦後の描写が交互に現れる。故郷の住民に万歳三唱で送られる守田・故郷の住民に白い目で見られる守田一家。軍服姿で馬にまたがり颯爽と海岸を駆け巡る守田・着る物も食べる物もろくになく垢にまみれた守田。スパイ容疑人を拷問する守田・独房で体を折り曲げて寝る守田。戦中・戦後で見事なまでに事態は対称を成す。
敗戦国に対して戦争責任を問われる戦犯について、これほど考えを深めたことは今までになかった。戦争は個を消し去る。それゆえ、戦犯の裁判は形式的なものになり人身御供として死刑や重刑に処せられた人々がどれほどいたことだろう。戦争とは殺し合いだ。その点では純粋に罪の意識を持つだろうと思う。しかし、天皇陛下のために命を捧げて戦ってきた我が身がこの世から抹殺され、天皇はのうのうと生き延びている事実を彼らはどのように受け止めていただろうか?
サラサラと読むにはあまりにもテーマが重い。帚木蓬生のスピード感あふれる筆によってこそ読み終えることができたように思う。今まで何作か帚木氏の作品を読んできたが、『逃亡』は彼にとっても特別に思い入れの強い作品であるのではないだろうか。自身の使命というものをはっきりと持っている作家だと思った。
彼から受け取るものは両手に抱えきれないほど大きなものであった。
日本人にとって夏は追憶の季節である。恋のなきがらを追想するのではない。「亡き人を偲び、己の来し方を振り返る」。言うまでもなく「盂蘭盆会」であり、「戦争の罪業と平和の希求」である。
2010/08/15 07:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
学生時代だったろうか、私の叔父の痛快なエピソードを聞いたことがある。富山より上京した叔父が電車内で痴漢行為を目撃、一喝して制止したところ痴漢君、赤面どころか鼻血で顔を真っ赤に染め、逃げ去ったそうだ。大柄ではあるがいつも笑顔を絶やさず、温厚な人物であったから、意外な思いで目を丸くした記憶がある。しかしそのとき母から叔父が元憲兵であったことを聞き、あの筋肉質の体格と硬い拳は武道鍛錬の賜物かと納得したものだった。
帚木蓬生の『逃亡』は1997年に読んでいる。
『逃亡』は戦時中大陸において憲兵として苛烈な任務を遂行した清廉の士が主人公である。国民党軍が支配権を取り戻した大陸からの脱出行と戦犯の烙印を押された後日本の官憲から追われる苦闘の日々を描き、戦争の罪業を人間の内面から告発、読者の魂を揺さぶるそのインパクトは痛烈である。
「諜報活動に明け暮れた香港をひそかに逃れて苦難の末辿り着いた日本。しかし復興に血道をあげる故国は逃亡憲兵に牙をむいて襲いかかる。人身御供を求めて狂奔する国家に捕まるいわれはない。波濤を越え辺地に潜んで二年。元憲兵の逃避行」「息もつけぬ感動、憤怒、そして救済!国家とは何か、責任とは何か、愛は、死は、緊張とヒューマニズムに溢れた、渾身の大作小説」このコピーに偽りはない。
読んだあとで母に尋ねたことがあった。
叔父は大陸が任務地だったのか?そうだったという。
では帰国して逃げていたのか?九州から北海道までね………。
この叔父も今はない。
日本人にとって夏は追憶の季節である。
お盆に読んで欲しい、一押し感動巨編
2010/08/07 16:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hisao - この投稿者のレビュー一覧を見る
お盆である
65回目の原爆の日、そして終戦記念日がやってくる
やはりお盆には特別の感傷が有る
私達はお盆になると決まって、亡くなった方々、そしてこの国がかって”無謀な戦いを挑み敗れた歴史”を改めて振り返る事になる
若い人達からは一笑されるかもしれないが、私はこの国の”敗戦”こそ、私達日本人の共有できるアイデンティティ(神話)ではないかと思っている
戦いにはそれなりの理由が有ったであろう、敗れた事にも原因が有っただろう
事の是非は兎も角として、”戦い敗れた”ことの事実、その惨劇を経由して生きて来た思いが深く日本人のDNAに刷り込まれている様な気がするのだ
色々信条が異なっても日本人の”戦争に対する姿勢・思い”だけは共通する様に思えるのだ
かなりの長編だが、読み終わるまで幾度涙を流したろう
戦争を知らない日本人も涙なくして読めないだろう
1945年敗戦“香港で諜報活動に従事していた憲兵隊の守田軍曹は、戦後次第に反日感情を増す香港に身の危険を感じ、離隊を決意する”
命を懸けた“逃亡”の始まりである。
姓名・身分を隠し、民間人収容所に紛れ込み、飢えと恐怖と闘いながら、命からがらの帰国、家族との再会
しかし“逃亡者”としての“恐怖”が更に主人公を追いつめる・・・貼られた“BC級戦犯”のレッテル
戦い敗れた日本支配層は保身のため元憲兵を“生贄”にした
元憲兵は勝者米英・中国は元より、其の手先になった日本官権更に民間人からも追われる事になる
戦争を主導し“東京裁判”で裁かれたA級戦犯に対し、現場兵士たちはBC級戦犯として世界49か所に散らばる軍事法廷で裁かれた
刑罰が軽微であった訳ではない、約1000人の兵士たちが、厳格な法手続きも無い“報復”で、“東京裁判”の陰で左程のニュースになる事もなく死刑となる
確かに私たちも 憲兵・特高が如何ほど恐ろしい存在であるかを教えられてきた
この小説でもリアルに描かれている、凄惨な“民間人殺害”“捕虜虐殺”が戦時下憲兵の当然の“仕事”として遂行されたのだ
しかし“人殺し”を軍人の“仕事”として命じた日本政府、“鬼畜米英”撲滅を称賛した日本人が
手のひらを返し、その罪を“憲兵”一身に負わせ、戦勝者による“報復殺害”を手伝ったのだ
“誰が何ゆえに裁くのか?”戦勝者は捕虜を虐待しなかったのか?原爆は民間人を虐殺しなかったと云うのか?敗者の死刑を“捕虜虐待”とは云わないのか?
結末に至り、不幸な時代が創り上げた“罪と罰”が小雨とともに流されるのだけが“救い”である
作者は1947年、戦後生まれの精神科医との事である
父上をモデルとされたそうだが、戦時の諜報活動、戦後の窮迫生活をよくぞ此処までリアルに描かれた事と感服する
つかの間の平和、父と子が遊ぶ”田園風景”も懐かしい
一押しの“感動巨編”