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世界の10大オーケストラ
著者 中川右介
長い歴史を誇るウィーン・フィルですら一八四二年の創立だから二百年に満たない。つまりベートーヴェン(一七七〇~一八二七)の時代には存在しなかったわけだ。かように近代になって...
世界の10大オーケストラ
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世界の10大オーケストラ (幻冬舎新書)
商品説明
長い歴史を誇るウィーン・フィルですら一八四二年の創立だから二百年に満たない。つまりベートーヴェン(一七七〇~一八二七)の時代には存在しなかったわけだ。かように近代になって誕生した「オーケストラ」は、きわめて政治的な存在であり、戦争や革命といった歴史的大事件に翻弄されやすい。「カラヤン」をキーワードに十の都市の十の楽団を選び、その歴史を、指揮者、経営者そして国家の視点で綴った、誰もが知る楽団の、知られざる物語。
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紙の本
オーケストラと指揮者を世界的なスケールで描く歴史ドラマ
2009/12/27 21:28
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界の十大オーケストラを並べて、それぞれの歴史を取りまとめたもので、新書500頁の労作である。労作というのは見るからに分厚いので、これだけのボリュームを執筆するのは大変だったであろうということである。しかし、それだけではない。実に中身の濃い新書であった。
十大オーケストラを選ぶ際には何らかの基準が必要であるが、オーケストラの基準といっても人によってどんな要素を重要と見るかがかなり異なるであろう。しかし、本書では思い切って誰もが納得するオーケストラを選択しているようである。ここに登場する十大オーケストラは主に欧州の都市に存在している。
例外はニューヨーク・フィルとイスラエル・フィルだけで、あとはすべてロシアを含む欧州の諸都市を本拠とする楽団ばかりである。これは仕方がないところだが、イスラエル・フィルよりもはるかに知名度の高いオーケストラが存在することも確かであろう。十の選択には中川もだいぶ心を悩ませたようだ。
もうひとつのポイントは、カラヤンの存在である。中川は以前からカラヤンをメインに置いた新書を著わしている。その蓄積を生かしたかったのかも知れないのだ。カラヤンの絡んだオーケストラといえば、ベルリンフィルとウィーンフィル、そしてロンドンのフィルハーモニア管弦楽団である。この3つとも入っている。
オーケストラを十挙げて、その歴史を一つずつ紐解いていくのだが、その紐解き方によっては面白くもつまらなくもなりそうだ。オーケストラに欠かせない存在は指揮者である。昔はオーケストラは指揮者に音楽監督や首席指揮者という称号を与えて、束縛していたものだ。近代の歴史を紐解く場合には、この束縛がかなり効いてくる。したがって、中川もオーケストラを描いているのだが、必然的に指揮者との結びつきから著名な指揮者と当該楽団との関わり合いを描くことになる。
都市、つまり地理的な要素も重要である。ここで挙げられているのは10のオーケストラであるが、世界的に著名なオーケストラが10しかないということではない。多くの都市には複数の世界的著名なオーケストラが存在する。そうすると必然的に地理的に近いオーケストラの競争が生まれる。競争とは市場としての聴衆の奪い合いと指揮者の奪い合いである。ここに取り上げられていないオーケストラも10のオーケストラにただならぬ大波を寄せていることが分かる。
これらを中川はオーケストラごとに10の章に分けて描いているのである。時間的(歴史的)、空間的(地理的)に、これらの十のオーケストラが相互に作用している様を描き出している。時間的な描写の中では戦争の落とした影がどこにも共通している。暗い影はもちろん、それがオーケストラと指揮者に及ぼした影響は運命とはいえ、壮絶なドラマをもたらしている。
本書はタイトルを見ると、単に世界の10大オーケストラを時間を追って概観しているようだ。しかし、実はオーケストラが誕生してから、オーケストラという音楽組織がどのように成立し、生き延びてきたかを描く壮大なドラマを描いているといっても過言ではないのだ。