紙の本
中上健次氏の小説世界が満喫できる珠玉の作品集です!
2020/05/31 09:41
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、昭和に活躍した中上健次氏の作品集です。中上氏は、戦後生まれでは初の芥川賞作家として名声を轟かせた作家でした。同書の表題作「十九歳の地図」は、住み込みで新聞配達をする19歳の予備校生の「ぼく」が主人公のストーリーです。「ぼく」は寮では紺野という30歳過ぎの男と相部屋で暮らしています。「ぼく」は予備校生であるにも関わらず、予備校にはほとんど行かず、新聞の配達先で気に食わない家を発見しては、物理のノートに丁寧に書き込んだ地図に×印をつけ、×印が三つ付いた家には嫌がらせのような電話をかけていました。寮の隣のアパートの一室からは、毎日のように激しい夫婦喧嘩の声がします。相部屋の紺野はそれを聞いて涙ぐみ、そうして彼のよりどころにしている「かさぶただらけのマリアさま」の話を「ぼく」にしてくれます。「ぼく」はそうした寮生活や配達先、集金先から見える人々の生活と、「新聞少年」と「予備校生」という自らの社会的レッテルとを見渡し、鬱屈とした感情を募らせていきます。そして、ついに東京駅に「玄海号」の爆破を仄めかす電話をかけるようになります。この後、「ぼく」はどうなるのでしょうか?続きは、ぜひ、同書をお読み下さい。中上健次氏の世界が垣間見られる一冊です!
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内に秘めたもの
2019/06/18 17:17
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投稿者:マサ - この投稿者のレビュー一覧を見る
50歳越えて初めて中上健次を読んだ。
20歳位で読んでたら天皇陛下に爆弾を投げつけてたかもしれない。
二十歳の息子には読ませます。
共感してしまうのが怖いのかな。
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青年のやり場のない鬱屈した心境がよく描かれている
2018/05/07 18:53
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
中上健次初期の傑作である。て映画化もされている。新聞配達をする青年のやり場のない鬱屈した心境がよく描かれている。作家として既に完成されていると感じる。無論この後に続く紀州サーガと呼ばれる作品群はとてつもなく凄いが。
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図書館で。最初の2篇で断念。
八方塞がりでもがいている若者の、どこにもぶつけられない熱量みたいなものが息苦しい。
少年たちが秘密基地作るのを見ていて、元気が余ってるんだなぁとか、小人閑居して不善をなすとかこういう事かなぁなんて思いました。することが無いとロクなことをしないんだろうな…
ま、新聞配達時のいたずら電話というには露悪的な行為もそういうやるせなさのはけ口なのかもしれないけど。やられた方はたまったもんじゃないよなぁ。
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中上健次の身体性の強いくらくらするような文体のはじまりはこんな感じだったのかー。
「枯木灘」より「軽蔑」より濃くて尖ってて良い。本当にこれは十九歳で読むべきだったなあとは思いつつも、今読んでも疼くものがある尖りかた。
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1946和歌山県じんぐう神宮市生まれ 46歳の若さで逝去 拠り所のない鬱屈を瑞々しい筆致で捉えた青春小説の金字塔 朝鮮部落の豚小屋 抑揚の定まらない口笛 インディアンの襲撃の雄叫びの真似 万国旗と日の丸の旗 子供特有の想像力を展開 計画の進行をうなが促す刺激剤 才気煥発 白色レグホン 鮒 樫枝かしえだ あざけ嘲って 灌木種の枝 朋輩ほうはい 首つっとる 梢こずえ 人非人にんぴにん 猛った感情 功成り名遂げる 寒さにあらがい抗い 手練手管を語り始める 凍えた空気と自分の体の温もりが完全につりあう黄金比 蝸牛がつがうようにつがっていた 士気色 青色吐息 補陀落ふだらく 熊野の山奥 天王寺 針中野 チョッパリ 挑戦服 梅田のモダンジャズ喫茶店スウィング マリワナかハイミナール 古川日出男 あらわした著した 恣意的しいてき 萌すきざす 追従する者 康二 時代の帯からの疎石せせき 田麩でんぶ 焦点を結ぶ像 トポス=場所を表す概念 紀州熊野サーガ(物語)意味深長な一節 府中三億円事件 永山則夫1997死刑執行 寄稿きこう 瘡蓋のマリア 蟹江敬三 尾崎豊 オマージュとして知られている 高澤秀次
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小説の持つ力、熱、質量、そういったものはものすごく高い。10代や20代の前半に読んでいたら、衝撃たるや今の比ではなかっただろう。ただ、この年齢に達してから読むと、ちょっと取り残されたような、過ぎ去った日々を懐かしむような、妙に老成した気分になってしまった。再読すれば、また印象が変わりそうな気がするが。
(2015.2)
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中上健次氏の処女作「十九才の地図」を収録した短編集。
「枯木灘」「千年の愉楽」と比べると迫力は劣るものの、のちの「紀州サーガ」に繋がる萌芽は感じさせる。「一番はじめの出来事」などは「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の源流が描かれる。「穢れた高貴な血」と称する路地に生きる者たちのサーガを描き、得体の知れぬ鬱積と暴力の絡み付きはありつつも、文体の未熟さは感じる。中上健次氏のほか著書を読んだあとに読むことをおすすめする。
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わっけわっからーん。と思いつつ、あれ?これって一度読んだことあるかもしれない。高校ぐらいのとき……でもその時もわけわからんかったと思う。
中上健次の作品では同じモチーフが容れ物を変えて何度も繰り返されるようだ。
和歌山の川と海と山に囲まれた町、父親の違う兄妹、どこかからの流れ者、火つけ、兄の自殺、精神を病んだ次女、酒を飲むとカッとなる性格……などなど。
ただ感じ方があまりにも自分とはかけ離れていると感じる。「十九歳の地図」の主人公は僕にとって異質なものだ。このド田舎の、言ってみれば人里離れた集落の、アヴァンギャルドで放恣な登場人物たちの姿や生活が、あまりにかけ離れすぎている。
・「一番はじめの出来事」
小5、「秘密」づくり、異父兄弟、兄は母と離れて暮らしている、そして兄の自殺、火つけ――少年の瑞々しい感性と描写が光る。
・「十九歳の地図」
新聞配達しながら、その下宿で男と一緒の部屋で暮らす予備校生、テロル、ルサンチマン。
・「蝸牛」
バーで働く子持ちの女のヒモになった男、女は叔父に財産をすべて取られたと男に言う。男は包丁を持ち叔父の家に。手の指が二股にわかれた男。
・「補陀落」
姉に金をせびりにいった青年が、姉が家族について語るのを聞いている。兄の自殺、そして青年だけが可愛がられていたこと、精神を病んだ次女?
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「俺は何者でもない、何者かになろうとしているのだ」ーー東京で生活する少年の拠り所なき鬱屈を瑞々しい筆致で捉えたデビュー作。全ての十九歳に捧ぐ青春小説の金字塔。解説/古川日出男・高澤秀次。
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表題作、十九歳の地図について。
素晴らしい読書体験だった。
ここには、青春のただ中にいる一人の青年の、本当のことしか書かれていない。
そう感じさせるのは、中上健次が、借り物の言葉ではなく自分の言葉で語っているからだろう。
僕は、今日が19歳最後の夜。
自分の、やりきれない十代の形にならない想いは、ちゃんと中上健次が分かってくれていた。
文学とは作品を読んで全体を俯瞰しながら分析するものではない。
言葉では表せない「何か」を言葉で読み、それによって読者は否応なしに心を動かされる。
悲しい物語でも、感動する物語でもないのに、心が形にならない涙を流す。
文学とは本来、そういうものだ。
作者は自らが感じた本当を書き、そして読者はそれを読んで理屈なしに感動する。
この本を読んだだけで、今日は最高の日だ。
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宇佐美りんが「推し」ている著者ということで手に取る。
4つの中編が、当初は別々のものかと思いきや、最後の話しからどうも一人の男の小学生、19歳、20代半ばのことを書いていると読み取れる。
社会の底辺で生きる若者、朝鮮への差別、、、「そこのみにて光り輝く」にも通じる重苦しさが、しんどいながらも読み切った。
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土や動物さらに排泄の臭いがまとわりつく生活空間に厭世観が漂う。若者、社会に抗う彼らの心情に時折共鳴するも隔絶も伴ってしまう。それは読者自身の俯瞰化なのか、登場人物への蔑みなのか、それとも言葉では明確化できない混沌した感情なのだと結論づけても物語は完結へと向かわない。筆者、中上健次は結末の道程を読者に投げつける。それは現在未来にどのような形で帰着するのか、それとも過去の悔恨に囚われるのか、放出される主題は “しこり” ではなく “余韻” として心に響く。
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表題作のみ読了。新聞配達をしながら予備校にも行かなくなってしまった主人公の鬱屈した感情のうねりが表現されているのだと思うが、かなり唐突感のある展開もあり、残念ながらあまり感情移入できなかった。ただ、1970年代の空気感はすごく伝わってくる。
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十九歳の地図を読んで
何者でもない不安と何者でもない居心地の良さを兼ね備える何色ともつかない人生の一時。
世の中を知っていたと言えるのは、本当はこんな時期なんじゃないか。
大人になれば落ち着き場所を見つけ、その場所に意固地になる。
こんな純粋な持て余した感情は持てないんじゃないか。
だから曇りのない目で世の中を感じ悟れる。
解説では、主人公の電話する行為を神からの「メッセージ」と書いているが、僕はそれを読んで丸善の洋書にそっと「檸檬」を置くあの作品を思い出した。