失われた時を求めて 3~第二篇「花咲く乙女たちのかげにI」~
若者になった「私」はジルベルトへの恋心をつのらせ、彼女の態度に一喜一憂する……。19世紀末パリを舞台に、スワン家に出入りする「私」の心理とスワン家の人びとを緻密に描きつつ...
失われた時を求めて 3~第二篇「花咲く乙女たちのかげにI」~
商品説明
若者になった「私」はジルベルトへの恋心をつのらせ、彼女の態度に一喜一憂する……。19世紀末パリを舞台に、スワン家に出入りする「私」の心理とスワン家の人びとを緻密に描きつつ、藝術と社会に対する批評を鋭く展開した第二篇第一部「スワン夫人のまわりで」を収録。〈全14巻〉
著者紹介
プルースト
- 略歴
- 1871~1922年。パリ生まれ。「失われた時を求めて」第2巻「花咲く乙女たちのかげに」でゴンクール賞受賞。
高遠弘美(訳)
- 略歴
- 1952年長野県生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了(満期退学)。フランス文学専攻。明治大学商学部教授。著書に「乳いろの花の庭から」「プルースト研究」など。
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「されど」の頻用が気になります
2013/06/18 14:28
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
「源氏物語」と「失われた時を求めて」は誰の翻訳でもこれくらい面白い本は無いから、次々に目を晒すのだが、いずれも翻訳によってその文学世界が完全に異なってしまうので、面白いというより恐ろしい。だから本当の読書とは、やはり原書・原文に直接当たるべきなのだろう。
実際に今までにそうしてみたこともあったが、源氏よりもよく頭に入ったのはプルーストで、この重層的複合文てんこもりの牛のよだれのような羊腸の小径を辞書を頼りにおぼつかなく分け入る辛気臭い作業は、しかし微分積分的読解の快楽というものを与えてくれたのである。
かというて文庫本で10数冊に及ぶこの膨大な著作をそのまま読み切る自信はまるでないから、次々に出版される翻訳につい手が伸びるのであるが、最初に触れたように翻訳のテーストはこんにゃく同様十人十色であるから、いろいろ読み比べて自分の感覚に合致したものと仲良く付き合えばよろしいかな、と思うのである。
光文社から出ている高遠訳は今回がはじめてであるが、語学的に正確であろうと努めるあまり、井上訳で成功していたプルーストの独特の文学的香気がまったく感じられない点に不満を覚えた。こういう文章なら別にプルーストでなく、ジッドでもアナトール・フランスでもおんなじことではなかろうか。
全体のトーンとしては岩波の吉川訳に似た現代文の平明さを基調にしているのだが、訳者としては完全にその調子になり切っては困ると考えたのか、ときおり「されど」といういささか古めかしい接続詞を節目節目で投入する。
「されど」は私も嫌いではない言葉であるが、3ページに1回の割合でそれが繰り返されては迷惑千万。さながら平成のビジネスレターに明治の候文が闖入してくるような違和感が付きまとい、今度はいつ出てくるのだろうと比叡山のお化けの出現に身構えてしまうようになり、とても主人公とオデットの娘ジルベルトの恋物語の透徹した心理分析に身を委ねるどころの騒ぎではなかった。
今宵また我が家のチャイムを鳴らすのはおそらく風の又三郎ならむ 蝶人