1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
和歌山県太地町を舞台とした、江戸末期から明治初頭(最終章が1878年(明治11年)暮れの“大背美流れ”事件である)に至る、捕鯨の町の一大叙事詩ともいえる作品。当時の捕鯨に関わる詳細な記述もさることながら、人々の暮らしや因習、厳しいしきたり等をも描いた力作である。また、生身の人間としての人々の姿も実に鮮明に描かれている点も見逃せない。数々の賞に輝いたのがうなずける作品でした。
和歌山県太地町を舞台とした、江戸末期から明治初頭(最終章が1878年(明治11年)暮れの“大背美流れ”事件である)に至る、捕鯨の町の一大叙事詩ともいえる作品。当時の捕鯨に関わる詳細な記述もさることながら、人々の暮らしや因習、厳しいしきたり等をも描いた力作である。また、生身の人間としての人々の姿も実に鮮明に描かれている点も見逃せない。数々の賞に輝いたのがうなずける作品でした。
大背美流れ(おおせみながれ) <P-421>
1878年(明治11年)暮れ、アメリカなどの列強による鯨の乱獲などの影響で、漁師は近年にない不漁による経済難から、荒天の中、鯨捕り(古式捕鯨)に出漁して遭難し、一度に100余名(本書の解説では135名と具体的な数字が記載されている)が死亡・行方不明となった惨事。この件により労働力を失った太地は、一気に疲弊、古式捕鯨は事実上壊滅し、後に近代捕鯨へと切り替わるきっかけとなった。
紙の本
「太い」作品
2023/07/02 10:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
悲しみをたたえながらも力強いストーリー展開、方言を主体とした語り口、時系列に並べているのだが巧みな各短編の配列順 どれをとっても「太い」という印象を受ける短編集である。伝統捕鯨の終焉までをいきいきとした筆で描ききっている。現在、太子町は伝統的イルカ漁が残酷だ ということでシーシェパードからさんざん妨害されている。なんだか、感慨にふけってしまう。
投稿元:
レビューを見る
鯨漁で繁栄した村とそこに生きる人々という設定だが…
まあ… 鯨の血の臭いがしてきそうで残酷だという感じは拭えない。なら、鮪ならいいのかと言われると困るが…
豊かであるがゆえに、厳しい掟と閉鎖された社会の息苦しさが辛い。
投稿元:
レビューを見る
紀伊半島の漁村・太地。そこで組織捕鯨を確立し、日々鯨に挑む漁師たちの姿を描いた連作。
「なんという迫力……」
この小説を読み終えた時の感想を最も簡潔に表すとこうなります。
太地の人々の鯨漁はもはや漁ではありません。それは戦いなのです。時に十数メートル以上の鯨に対し銛を打ち込み、何度も網をかけ少しずつ弱らせ最後にとどめを刺す…。言葉にすればただそれだけの話なのですが、その描写力たるや…
太地の漁師たちの息遣いやピリピリした感じももちろん伝わってくるのですが、さらにすごいのは狩られる側である鯨の生きたい、死んでたまるか、という気持ちすらも伊東さんが書き込んでいること。
作中で鯨のエピソードで、過去に鯨漁から逃げ切った経験を活かし太地の人々の漁から逃げ切ろうとする鯨や、子を思う鯨の姿が描かれるのですが、そうしたエピソードだけでなく、死に際の鯨を描く場面がまた秀逸です! 作品全体を通してみると鯨もまた主人公なのです。
最終話の「弥惣平の鐘」の漁の描写と自然の厳しさの描写は圧巻の一言! いかに人間が自然の厳しさの前に無力かということを感じさせられます。
もちろんそれぞれの短編の人物描写、心理描写も伊東さんらしい情念が込められた作品ばかりです。
厳しい掟が支配する閉鎖的な共同体の太地。そこで暮らす少年たちは何を目指すのか、男たちはどう行動するのか。掟に縛られながら生きた人、掟を全うした人、時に太地に疑いをもち外の世界を夢見るもの。それぞれのドラマが伊東さんの圧倒的な筆勢で描かれます。そこにあるのはただ生きるだけでは満足しない、本物の「生」を渇望する男たちのドラマだと思います。
伊東潤さんがどんな人か全く知らないのですが、もし会うことがあればいきなり「兄貴ィ!」と読んでみたいです(笑)。こんな例えで伝わるかどうか不安ですが、本当にそれだけ伊東さんの作品には迫力があります。男が漢に惚れるってこんな感じなのかなあ。
第4回山田風太郎賞
第1回高校生直木賞
投稿元:
レビューを見る
「山田風太郎賞」受賞作ってことで、文庫化を待望していた作品。過去の受賞作品から、まず期待外れってことはないだろうと思っていたけど、これもまた高品質でした。捕鯨に生きる村を舞台にした、時代をまたいでの短編集。迫力満点の捕鯨シーンもさることながら、それに対峙する人々の描写も活き活きしていて、どの作品も素晴らしかった。この作者の他の話題作も読んでみたいと思いました。
投稿元:
レビューを見る
太地の鯨漁をテーマにした短編集。網と銛での古式漁は命がけ。捕鯨シーンは壮絶で臨場感溢れる。そんな厳しい生業を暮らしの基にしている共同体のヒエラルキーや掟の厳しさ、絆の強さ、閉塞感が伝わってくる。心に残る1冊。
投稿元:
レビューを見る
日本人の心
生きるためにすること
風土と文化 を久しぶりに感じた。
行ったことのある地域ですので非常にリアルな感じ非常に読みやすく良かった
なんか最後涙が出た
投稿元:
レビューを見る
鯨漁を生業として生きる太地の男たち。躍動感のある鯨漁を背景に、6つの物語が紡がれる。
江戸から明治にかけ、激動の時代の中、地域ぐるみで捕鯨を守る一組織であった太地。閉鎖的だがそうでもしなければ生きられない人々の悲哀や意気込みが伝わって来る。
鯨がよく獲れた頃は羽振りもよかったが、明治になってアメリカの捕鯨船が幅を利かせるようになり、鯨の数が激減した太地は衰退して行く。その移りゆく時代に生きる、人々の心の襞を丁寧に描いており、読んでいるとつらくなってくる。
私は学生時代から鯨に興味があり、学生時代大学の先生にお願いして鯨の眼球の解剖をさせていただいたこともある。鯨に関する本も相当読んだし、太地町立くじらの博物館にも足を運んだ。そういう知識を持ってしても、この小説に描かれた太地の組織だった捕鯨の様子、その組織の一員としての生き方は衝撃的だった。はじめは専門用語、というか太地の言葉がとっつきにくいが、最後の頃になると捕鯨船での職業の位置関係や太地弁がすんなり入って来るようになる。
鯨漁の是非や日本における鯨漁の精神的な位置に関して問うつもりはないけれど、アメリカをはじめとする捕鯨反対の立場の人々にも読んでもらいたいと思った。いや、かえって逆効果かな……。
以下各物語のあらすじ。
「旅刃刺の仁吉」刃刺(鯨の銛打ち)の息子の音松は、妾腹であるがゆえに虐げられて暮らしている。かわいがってくれる流れ者の刃刺・仁吉に憧れるが、仁吉には故郷で刃刺を続けられなくなった理由があって……
「恨み鯨」刃刺の息子末吉、その母は病弱で少しでも長く生きてもらいたいと願う末吉と父。そんなとき、皆で獲った抹香鯨から、龍涎香(抹香鯨の腸内にある分泌物。香水の減量などになり高価で取引される)が盗まれて……。母を思う子の心、太地の厳しい掟に消えていく命が哀しい。
「物言わぬ海」刃刺の息子、喘息の与一、その友達の耳が聞こえない喜平次。太地でしっかりした身体でないものは、捕鯨には携われない。一生下働きで終わるであろう喜平次に対し、喘息が治った与一は一人前の刃刺になっていく。ふたりの距離が開いたとき、殺人事件が起こる。太地に生まれたゆえの運命が切ない。
「比丘尼殺し」熊野信仰を伝えるべく旅をして護符などを売って歩く女たち、熊野比丘尼。食べていけないものは春をひさいでいたという。その比丘尼の連続殺人が起こり、傷の具合から鯨取りの手形包丁によるもの、しかも左利きの犯行だと推測される。岡っ引きの晋吉は潜入捜査を命じられ太地の捕鯨船に乗り込むが……。時代物ではあるが、現代のサイコパスミステリーのような切り口の作品。
「訣別の時」太地に生まれ育ちながら鯨の血をみると嘔吐してしまう太蔵。刃刺であり美しい婚約者もいる前途洋々の兄の吉蔵は、そんな太蔵にもやさしい。成長につれ、太蔵もいよいよ将来の選択を迫られる。太地で鯨漁に就けない者は丁稚か仏門しか道はない。どちらも嫌だと太蔵は捕鯨船に乗るが、その航海で兄の吉蔵が脊髄損傷になってしまう。その事故から避けられぬ運命を歩み始める太蔵。がんじがらめの掟の中で生きる太蔵の姿は、��うするしか守れない生活、現在の田舎に住む私にも共感できるところがある。
「弥惣平の鐘」地元太地の水主(かこ:船員)の弥惣平と、東京品川から流れてきた旅水主の常吉。体力の無い常吉を弥惣平はかばうが、大きな背美鯨を狙う漁でふたりを含む太地の船団は漂流を余儀なくされ……。時は明治になり、アメリカの捕鯨船に押され、太地の昔ながらの鯨漁が衰退して行く、そこで藻掻く太地びとの姿が描かれる。
滅びの図式は哀しい。鯨の脊椎には絶滅した動物と同じ特徴がある、ということを書いた本を読んだことがある。鯨と共に生きる太地もまた、衰退は道理であるのか。何とも切ない話である。
投稿元:
レビューを見る
和歌山の太地と呼ばれる漁村を舞台に、江戸末期から明治にかけて行われていた捕鯨を題材にした短編集。直木賞を獲っても不思議ではないレベルの作品のように感じたが、当時の選考会では北方謙三が猛烈に推したものの受賞には届かなかった。
人間vs鯨のダイナミックで命がけの戦いの描写に目を奪われがちだが、太地という治外法権がまかり通る特殊な地域における様々な人間ドラマが、すごく丁寧に描かれている点が非常に印象的だった。あと、鯨親子の絆に象徴されるように、鯨はただ人間に捕られるだけの道具として描かれているわけではないので、捕鯨に嫌悪感を持たれているであろう欧米の方々にも是非読んでいただきたいと思う。
内容的に実現は非常に困難であることを承知のうえで、いつか本作を実写映画で観てみたいものである。
投稿元:
レビューを見る
鯨の捕獲で有名な伊勢太地町を舞台にかつて男たちが生死を賭けて鯨と闘ってきた物語。伊東潤の小説は、丁寧な取材や資料づくりにより、江戸期の太地の鯨捕りの細かな描写を投影しながら、庶民の生活に視点を当てながら、人情話を織り込んでいく。此処でも読み手の期待を裏切らなかった。。
投稿元:
レビューを見る
短編なのに巨編。
巨鯨ではなくて巨編だ。
短編はあまり好んで読まないが、伊藤潤氏の作品ということで読んでみた。
六編すべてが太地の人々と鯨の物語。小説の世界にずっと浸っていたいと思う作品はまれだが、これは別格。いつまでも太地の世界に浸っていたいと思わせる。
グーグルマップで太地町を拡大して眺めながら、尚且つストリートマップで街中を彷徨いながら読了。伊藤潤氏の鯨シリーズはもっとあるそうなので、また読もう。
投稿元:
レビューを見る
太地町の捕鯨を舞台にした短編集
・旅刃刺の仁吉
・抹香の竜涎香→朝鮮人参
・喘息の与一×耳が聞こえない喜平次
・船虫の晋吉×血を好まざるを得ない菊太夫
・吉蔵、才蔵、太蔵
・大背美流れ、M11.12.24
投稿元:
レビューを見る
伊東潤氏の作品は戦国物を何作か読んだかハズレなし、何れも素晴らしかった。
伊東氏の目線を通すと戦国武将の誰を描いても生き生きしていて読み応えがある。
今回は太地という鯨漁を生業とする土地の歴史を江戸初期から明治初期に渡って描かれた物語。
今まで読んだ物とは趣向が違ったが又素晴らしかった。
日本人が生まれ育った土地に縛られながらも生を全うする過酷さと尊さをこんな風に描けるなんて!
司馬遼太郎さんを信奉する私だが伊東潤氏の作品からも同様の感動を得ることが出来る。
これからも読み続けたい作家だ。
投稿元:
レビューを見る
現在の和歌山県、太地の江戸時代から明治にかけての、古式捕鯨にまつわる6つの短編集。相変わらず、意地でもすんなりハッピーエンドにしない伊東節に、なにもそこまでと思いながら、人生なんでもいってこいなのね、とか思ってみたり。古式捕鯨の現場の臨場感が伝わってきて、読み終わると古代捕鯨に詳しい人になれる。だからどうだって言われても困るが、そのシステマチックさと、畏敬、感謝などのプリミティブな感情のマッチングは、純粋に興味深い。
投稿元:
レビューを見る
短編でありながら徐々に鯨捕りの用語や組織が説明されていき、自然と物語に入っていけた
最後の2編はそれだけだとちょっと理不尽なとこがあるけど、それまでの話で刃刺制度や漁の具体的方法、危険が丹念に説明されていて、登場人物達の葛藤がリアルに感じられた