紙の本
人を失うことを静かに深く問う。
2017/05/30 21:09
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
心が震えました。
この感動をつたないなりに精一杯伝えようと思います。
一人でも多くの方が共鳴してもらえれば嬉しいです。
震災の話です。
これまでも何十という作品が発表されていますが、福島で実際に
被災した彩瀬さんの持つ世界観は、その中でも特別なものでは
ないでしょうか。ノンフィクションも書かれていますので、
背景を深く知りたい方にはお薦めです。
湖谷真奈。近くの病院で健康診断を受け、血液検査をしたら
ひじの内側に赤黒いあざが出来ていました。
内出血です。あざを見ながら、唐突に、わたしには体があるんだと
思いだしました。
少し加減を間違えるだけで傷がつき、強い力がかかれば
駄目になる有限のもの。真奈の心のなかに、すみれの名前が
浮かびます。叫びたい気分で。
遠野君が仕事場まで会いに来ます。
なんとなく用件を察した真奈は、仕事の終わりまで待ってと言い、
本当に待っていた遠野君を見て心が沈みます。
ホテルのバーなので、夜は遅くなります。
だから帰ってしまってくれていい、そんな期待も透けます。
遠野君は、一緒に住んでいたすみれのものを処分するから、
真奈に引き取りたいものはないか来てくれと言うのです。
すみれは、あの日を最後に帰ってきていないのでした。
不穏な出だし、沈み込むような展開。
帰ってきていないなら、再会の期待はできるのでしょうか。
逡巡する真奈、折り合いをつけようとする遠藤君。
きっと何度も堂々巡りをしてきたのでしょう。
人を大切に思うとはどういうことでしょうか。
忘れるということはどういうことでしょうか。
あなたのその気持ちは、いったい、誰のためのものでしょうか。
深く深く、思索の海に沈んでいきます。
そしてもう一つの、並行する幻想的な世界。
心と心の交わりは、相手のためか、自分のためか、読んでいる
うちに混沌としてきます。
最後に救われる世界となり、物語は結末を迎えます。
でも、読んだわたしの中では物語はずっと続いている、
そんな気がします。人を失うことを静かに問う作品でした。
紙の本
フカクフカク染みいる物語!
2018/07/15 17:52
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投稿者:しんごろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
震災で親友を亡くした主人公が喪失といろんな葛藤から再生していくお話!震災ではないけれど、親を失っただけでも自分自身はすごく辛かったです。震災で親友を失ったとなれば、またそれは辛いことだと思います。でも少しずつ前へ進まなきゃと思う優しくて切ないお話でした。涙腺がつい緩んでしまいました。
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東日本大震災を経験した著者が筆をとった物語はあまりにも大きすぎるテーマだった。
震災から三年後が舞台。三年ってたった三年か、もう三年かはその人次第なんだよね。
語彙が足りなすぎてこの小説の感想を書くのが憚れるのですが、難しいんだよな。
喪ったもの、それを乗り越えるものが大きすぎて。
途中のキノコちゃんとカエルちゃんの会話が好き。忘れちゃいけないってこと。戦争のこと、震災のこと、忘れちゃいけないっていうけど、それは何を忘れちゃいけないの。戦争はよくないってこと、怖いってこと、愚かだってこと、悲しい想いしたってこと? 震災を風化させてはならない、じゃあなにを覚えてればいいの? っていう会話、結構わたしには響いた。
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最初はよくわからなくて、いとうせいこうの「想像ラジオ」のような作品だと思った。
どちらも、震災が題材だし。
読み進めるうちに、やっぱりこれは彩瀬さんの作品で心の中で色んな感情が渦巻いた。
後半は忘れるということ、生きるということ、忘れないということ、自分だったらどうするか、どう感じるかを読みながら考えてしまった。
最後は泣いてしまった。
キノコちゃんとカエルちゃんの言葉が、冷たく感じつつも一番真実に近い気がしてなるほどと思った。
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やっぱり東日本大震災は終わっていない。
ご自分で旅行先で被災して大変な思いをされた綾瀬さん。
これは綾瀬さんの鎮魂歌なのだと思う。
生き残った主人公も、でもやっと呪縛から解かれて(心から友人を弔い)
彼女のスタートが切れたこと、よかった。
途中で「WALKING TOUR(http://booklog.jp/item/1/4054032141)」を思い出して動画を見ていたから、こんな風に思ったのかもしれない(不思議と「想像ラジオ」の時は思い起こさなかった)。
読めて良かった。ありがとうございました。
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私たちは「忘れない」ことで何を償ったつもりでいるのだろう。誰に許しを乞うているのだろう。
苦しいことや悲しいことを風化させないために過去を楔として覚えていることより、楽しいことや嬉しいことを励みや生きがいにして未来に踏み出す勇気に変えることこそが私たちに託された生きるということではないだろうか。
生きるということは時を刻むということ。
止まってはいられないということ。
立ち止まってはいけないということ。
植物が芽吹き、花が咲き、そして枯れ、種が散る。そして芽吹く。人が歩くことに繋がるものがある。
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「喪失と再生」についての静かな、でも確かな祈りに似た物語。彩瀬さんは文章がキレイだが、章ごとというか現実の世界に挟まれている章での書き方は幻惑的で『遁走状態』のブライアン・エヴンソン を思い浮かべた。
境界線があり、こちら側とあちら側にいる人の物語を綴るには、この小説で書かれたやり方が、いちばん読む側があちら側にいる人に想いを寄せている人に同化できるんじゃないだろうか。
口コミでどんどん広まって読まれていく作品になると思う。装丁も内容とあっていていい。
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私はこの物語を語る多くの言葉を持たない。けれどこの物語を誰かに手渡したいと言う熱い思いはある。
家族とか友だちとか恋人とか、親しい誰かを亡くしたことのあるヒトなら誰もが感じたであろう
「忘れる」という大きな罪悪感。
その人が感じた痛み、苦しみ、そして絶望を自分も同じように感じることで、忘れられない自分を作り、正当化し、そして守ろうとする。
忘れないでいること、は誰のため?
病気など、ある程度の期限と心の準備ができる別れとは別の、ある日突然日常から引きはがすように訪れる事故による死。何も残してもらえなかった、何も伝えられなかった、そんな悔いを持て余し痛みを免罪符にして心の糧として生きていく日々。
けれど、自分の中にしらないうちにあるんだと、知らない間に息づいている何かがきっとあるんだ。
忘れるわけじゃない、自分の中にずっと遺されているものたちに気付くこと、そこから自分の人生を生きる勇気が出て来る。それが赦しであり弔いであり救いであり、そして希望である。そうこの物語は教えてくれる。
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恋バナの爽やかな話かと思いきや、いい意味でで、ひっくり返された。
芥川賞の候補になっても不思議ではない位、文学的な表現に溢れている。
2、3回と読む度に深さを感じられるような作品。
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「死」というものに直面したら
本人も、その周囲にいる人々も、どんな場合でも
その状況に納得しているなんてあり得ない。
後悔だって、言いたいことだっていっぱいあり
昨日までの連続した自分の場所に
戻りたくてたまらなくなるんだろうと
特に私のような成長しきれてない人間は
その思いが人一倍強く出るんだろうと思っている。
ある日突然、元の場所に永遠に帰れなくなったすみれと
すみれの友人の真奈の物語。
祈るように読み進める。
自分の状況がよくのみこめず、歩き回るすみれ。
少しずつ忘れてなかったものにならないよう
痛みと一緒にすみれに寄り添うことをやめない真奈。
死ぬとは。生きるとは。信じるとは。
未熟な私がこの本から確実に小さな火を頂きました。
その大切な火が消えないようにと、
今感じたこと以上のものを発見するために
再読必須の一冊です。
これを読んだらますます、東日本大震災の時を
書いたまるさんのノンフィクション。
手に取ることが出来なくなりました。
きっとそちらの本は
まだ私が受け取れる時期ではないのでしょう。
まるさんの見つめている先が遠すぎて、
まだまだ私は辿りつけそうもありませんが
後ろをついて行かなければいけない人だということは
この作品ではっきりしましたね。
忘れ、薄れゆくこと。
そのことを罪悪と思って苦しんでいる人に
この作品が届くといいなと思います。
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現実と夢の境界が最初はなかなかつかめなくて混乱。
でも読み進むうちに震災の影響がかなりある夢だと気づいたところから、あの3・11の被害を受けて、大切な人を失ってしまったとしたらきっとこんな風に日常の中にいても夢と現実の狭間で苦しくなることがあるのかな・・・と思った。
自分は幸福にも身近な大切な人を亡くした体験が今はないだけに、どれだけ苦しいかとか、
どうすればいいのかと悩む気持ちは想像しか出来ない。
想像するだけでこんなに辛いのだから、実際はこんな想像すら及ばないと思う。
自分の大切だった人とはもう二度と会えなくて、
それでも大切だった人と生きていたと言う思いは強くて、でも時が経つごとに思い出が消えていきそうな恐怖心。
でもふとした本当に何気ない瞬間に、実は自分の中にその大切な人との思い出と気持ちが生きているんだと分かる瞬間への流れが本当に、ほんっとうに滑るように表現されていて鳥肌がたった。
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《どこまでも行こうと思った。行ける、と信じていた。それなのに、気がつくと私だけが一人で歩いていた(本文より)》
すみれの章が印象的。
顔が草花で覆われたひとたち。
身体から花弁が散り、熊になって吠え、泥土なって崩れる自分。
こういう世界もあるんだな。
1度目は何言ってんのか何が起こっているのかさっぱりだった。
2回目を読み出すと、すーっと染みるように読めた。
真奈のそばにはずっとすみれがいたのかなぁ。
それとも、過去やら未来やらは死んだらひとまとめで前後左右上下奥手前なんて関係ないのかしらん。
歩くというのが印象的。
死ぬことや生きていることを考えるのは難しくて、やり方を間違えれば不謹慎だと言われるけれど、それでもやはり考えずにはいられない、考える時が必ず来るものだと、改めて思った。
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本当に作者さんには大変申し訳ないのですが、やはり震災の場所なり、経験をしていない自分が読むには勿体ない作品でした。そういった関わりを持つ方が読むと何倍もココロに沁みてくる素晴らしい作品なんだと思いますが、正直自分にはじっくりと読み進めていく忍耐?が備わっておらず、本作の良さ、素晴らしさを十分に感じれなかったんだと思います。どこか天童荒太さんのような文学的な要素が含まれており、その雰囲気に最後まで入りきれなかった自分が悔しくもあります。本作での彩瀬さんは今までの作品とは別次元にいる書き手さんになってます。
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3.11を経験したからこそ、執筆できる作品のようや気がしてならない。そして、この作品は彩瀬まるの新境地とも言える作品ではないだろうか。人の死を受け入れるのはとても難しい。しかし、死を受け入れる事によって新たなステップへと進む事ができる。主人公である真奈もスミレの死を受け入れたからこそ、前に進めたのだろう。喪失と再生って非常に難しい。
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この本の作者は5年前、東北地方を一人旅している途中で東日本大震災に遭われました(その体験は「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」という本になっている)。本書はそんな作者の実体験から生まれた小説です。
真奈の親友・すみれは旅先で震災に遭い、行方不明に。3年経っても遺体すら見つからず、未だに真奈は親友の死を受け入れられない。しかしある日、久々に再会したすみれの恋人・遠野くんから「遺品を整理するから立ち会って欲しい」と頼まれ・・・。
正直言うと途中までは「期待していたよりも面白くない」と思っていました。話の構成も真奈が生きる現実と、誰のものだかよく分からない夢のようなものがごちゃ混ぜになっていて読みづらいし。印象が反転したのは7章から。普通の小説だと5章までで終わりそうな書き方で、「ここからまだ半分もどう話を展開するの?」と思いながら読んでいたら、まさかの展開が起こり。そこからよく分からないと思っていた夢の部分の意味もわかるようになり、「死を受け入れること」が二重の意味で本書のテーマになっていることに気付けました。深いです。ものすごく。なのでぜひ途中で挫折せずに最後まで読んで欲しいです。
印象的なセリフ、表現が多いのが彩瀬作品の特徴ですが、今回は色彩感覚もすごく印象的だった。この作品は映像にしたら綺麗だろうなと思いました。