ロビンソン漂流記(新潮文庫)
難船し、ひとり無人島に流れついた船乗りロビンソン・クルーソーは、絶望と不安に負けず、新しい生活をはじめる。木材をあつめて小屋を建て、鳥や獣を捕って食糧とし、忠僕フライデー...
ロビンソン漂流記(新潮文庫)
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商品説明
難船し、ひとり無人島に流れついた船乗りロビンソン・クルーソーは、絶望と不安に負けず、新しい生活をはじめる。木材をあつめて小屋を建て、鳥や獣を捕って食糧とし、忠僕フライデーを得て、困難を乗りきってゆく。社会から不意に切り離された人間が、孤独と闘いながら、神の摂理を信じ、堅実な努力をつづけてゆく姿を、リアリスティックに描いたデフォーの冒険小説である。
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イギリス人的寛容の精神
2008/11/29 23:03
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ダニエル・デフォーの古典的冒険小説。無人島に漂流したイギリス人の船乗りロビンソン・クルーソーがたった一人で生活をしていく様子を描いたこの作品を、少年時代に読んだ人も多いだろう。それゆえ児童文学と混同されることも多いが、実際にはずっと大人向けの、人生訓、文明論がつまった教養文学であると思う。
経済史家の大塚久雄によれば、マックス・ヴェーバーのいう資本主義的「人間類型」は、この漂流者のうちにこそ典型的に見い出されるという。つまりロビンソンが無人島で実践した行動には、当時のイギリスで勃興してきた資本家に特有の質素、倹約、生産の計画性、合理性などの行動様式がうかがわれるという。その言葉にひかれこの物語を手にとってみた私も、大塚が指摘する点は納得ができたような気がする。
と同時に、のちに世界を股にかける大帝国を作ることになるイギリス人のもう一つの国民性も、この物語からは垣間見えた気がした。それは、未知の文化や習俗に対する偏見のなさ、あるいは寛容の精神とも言ってよいか。ロビンソンが、時おり島にやってくる人食い人種に対して、恐怖のあまり、殺られる前に殺ってしまえという破壊的な衝動を抱きながら、自らそれを反省し、克服する場面でそれはうかがわれる。
「彼ら(人食い人種)自身は、自分達がしていることを罪悪と思っていないことは確実であって、それに対して彼らは何の良心の呵責も感じていなかった。・・・私はまだ彼らと交渉がなく、彼らは私がいることを知らず、従って私をどうしようとも考えていないのであるから、その私が彼らを襲うということは決して正しいことではなかった...私に対して何もしたことがない人間を殺す計画が間違っていたことを、私は多くの理由から最早疑うことができなかった。彼らが相互に犯し合っている罪(食人の習慣)に就いては私が関知することではなく、彼らの国家全体の罪であって世界の国々の支配者たる神にお任せするべきだった。...こういうことが解ると、若しそれまでの考えに従って私が実行に移したならば、計画的な殺人と少しも異ならない結果となったことを、しないで住んだことが私には何よりも嬉しかった。」
彼はここで、ある民族が自分と異なる価値観や風習をもっているからと言って、それだけで一方的に相手を罰する権利は自分にはないということを悟る。言いかえれば彼らの風習が、特有の社会発展の中で生み出されたものであると考えることにより、彼らに対する憎悪を抑えることに成功したのである。その後彼が、人食い人種の一人である少年フライデーを助け、彼と固い絆で結ばれていくのも、このような反省の賜物であった。そしてこの精神こそが、イギリス人をして世界に進出をし、その土地ごとの風習に順応することを容易ならしめた彼らの柔軟性につながったのではないか?もちろん、ロビンソンがフライデーを最終的に自己の文化に同化させたように、大英帝国もまた植民地に自ら定めた秩序を押しつけ、それが結果的に植民地における伝統的社会の崩壊と民衆の悲惨をもたらしもした。しかし、異文化に偏見なく接し、相手を理解しようとするオープンな態度は今も変わらぬイギリス人の美徳であり、それはこの物語の主人公が到達した道徳観にもうかがわれるような気がする。
ロビンソンの無人島での生活は28年に及び、その間、人食い人種の餌食になろうとしている人々や、乗組員の反乱に遭った船長を救出するなど数々の活躍を見せる。そして助けた船長の船に乗り、彼はついに島から脱出する。だが物語はまだそれで終わりではなく、イギリスに向かう途中、スイスの山中では、クマや狼と格闘するなどさらに冒険を重ね、ようやく故郷に帰るのだった。その後彼は結婚をし子供を育てた後、再び旅に出てかつて自分が住んだ島がどうなったかを見にゆく...波乱万丈の男の半生を描いた本書は何だかんだ言っても、最後まで読者を飽きさせることのない、エンタテイメント小説であった。