人間の体力の限界はここにあり
2017/04/19 17:37
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投稿者:山好きお坊さん - この投稿者のレビュー一覧を見る
とてつもない男の本である。登山にはヒエラルキーがあるそうな、一番偉いのが冬期登攀で、二番目が普通の岩登りで、三番目が沢登りで、底辺は誰でもができるハイキングだそうだ。自ら低位な「沢ヤ」と呼び、自称「舐め太郎」と称する宮城公博氏の超人的な登山記録である。2012年7月熊野那智大社御神体那智の大滝を登攀して検挙され新聞を賑わした御仁でもある。高度な登攀テクを要する山行はさておき、タイのジャングル四十六日間の沢登り記には驚嘆した。かくも微量なる食糧で重き荷を背負いて密林の沢を遡行し岩稜をよじ登れるのか、人間の体力可能性に興味ある御仁はまずは本書を繙いていただきたい。長さ5mもあるニシキヘビと格闘し切り取った尻尾の皮を齧り剥く写真は鬼神の様。
未知を求めて道を踏み外した者たち
2016/05/24 14:59
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投稿者:hitsun - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここに登場する連中は、外道というよりも極道である。何を好き好んで岩を昇り、川を浮遊しなければならないのか。そのような酔狂の過程で、たまたま遭遇した、穏やかに休んでいる蛇を、鋸引きにして殺害し、その内臓をくらうなど、まともな人間のすることではない。そんな奴は、滝から墜ちて死ねばよい、と思う。同時に、本当には誰も道の上など歩いてはいない、歩いていると吹聴しているだけで、実は人の倫を大いに踏み外し、非道を繰り返しているのではないか。変態は常に、ノーマルとは何かを考えさせずにおかない。そういう意味で、この本は実に有意義である。
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あぁ、これはバカ(最上級の誉め言葉)だ、と思いながら一気読みしました。
良くわからない専門用語がそのまんま残ってたり、描写がイマイチわからなかったり荒削りだったりしましたが、それを補って余りある勢い、熱さ、タフさ、純粋さ。粋だけど不器用だし損する生き方なのかもしれないけれど、それをわかっていて突き進む潔さ。「沢ヤ」ってなんて不思議な生き物なのか。
末尾の角幡氏の解説も「なるほど、そういうことか」と腑落ちする感覚でこれまた素晴らしい。登山行為が本来抱えている原罪、というくだりは考えさせられますし、なんでわざわざそんなコトするの?への答えがあります。
全編面白かったですが、特に印象に残っているのは第7章のヘビのくだり。極限状態とはこういうことか。本当は笑えない、我々の日常では文明で覆い隠されているベールが剥がれただけのシーンなのだけれど、不思議なユーモアがあってついつい笑ってしまいました。
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高野秀行さんが「早くも今年度ベスト1」と絶賛し、アマゾンの20件近いレビューはすべて☆五つ。探検・冒険ものは好きなジャンルでもある。それでも、これはちょっと…。
いや、おもしろいのはわかる。著者は、「沢ヤ」を名乗り、昨今の軽くてお行儀のいい登山やアウトドアブームに唾を吐きかけ、「反社会的行為」としての山登りを前面に押し出すスタイルをとっている。その露悪的と言っていいほどの徹底ぶりは、タイトルからも明らかだ。はっきり言って下品なんだけど、妙なユーモアと魅力があるのだ。
主に綴られているのは、46日にも及ぶタイのジャングルでの沢登りと、日本最大の滝である称名滝登攀の記録だ。これがもう、よくぞまあ死なずに帰ってきたものだという壮絶さ。その迫力には有無を言わせぬものがある。
それでも小声で言わせてもらえば、わたしはやはりマッチョは苦手。「力」というものにどうしようもなく惹かれていくのは人のサガだと思うが、それは人間の一側面でしかない。マチズモはそこが肥大しているわけだ。著者の破壊的なエネルギーや情熱には痛快さもあるが、胸がざわざわするような違和感を感じずにはいられない。ちょっとしか出てこないが、女性の描き方ははっきりと不愉快だ。
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狂っている。まさに狂人だ。それは一般人が想像する山登りではない。むき出しの自然と対峙した人間が、どこまで立ち向かえるのか。負ければ、死に直結する。
登山スタイルは人それぞれだ。厳冬期のアルパインクライミングも登山であり、ピークハントを目指さないハイキングも登山である。
数あるスタイルの中でも、他のスタイルと明らかに一線を画す連中がいる。沢ヤだ。
登山ではあるが頂上を目指していない。彼らのフィールドは谷底だ。それも谷が深ければ深いほど、それを好む。
最近流行りのキャニオニングやシャワークライミングなどとは明らかに違う。谷底の、まさに文字通り陽が当たらないフィールドだ。
那智の滝を登って逮捕。確かにそんなことあったなぁ。アホなことする人もいるんだなぁとしか思わなかった。
2012年だから、この頃には俺は自転車で百名瀑に全部行く、という目標を持っていた。滝は登るものじゃなくて、見るものとしか考えていなかった。
この事件で、世間は沢ヤの存在を初めて認識し、社会は彼らを理解できず徹底的にバッシングした。
なぜ彼らが那智の滝を登ったのか。「登りたかったから登った」という一見幼稚な発言は、なぜ登りたかったという動機を得るに至ったかが本書で書かれている。
前人未踏の称名廊下、四十六日間のタイ遡行、台湾の大渓谷チャーカンシー、そして冬期称名の滝登攀。
常識では考えられない。本当に命がけだ。少し気が緩んだだけで死に直結する行為を繰り返し、彼らが何を望んでいるのか。本当のところは、読者にもわからない。
角幡唯介の解説より、
「登山をはじめとする冒険行為一般は、反社会的であることから免れることはできない」
言われてハッとする。自分のことを思い返せば、立ち入り禁止の柵を幾度となく乗り越え、行きたい場所に行き、見たいものを見てきた。
誰にも迷惑かけてないからいいだろ。そう理由をつけてきたが、常識の内側で暮らす一般人から見れば反社会的行為である。
那智の滝を登る。反社会的行為だ。しかしそれは、登山が根源的に反社会的行為であることを、全ての登山者に突き付けたのだ。
登山者必読の書である。なぜ山に登るのか。その根源的な問いを各自答える義務がある。
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悪絶なまでに面白い。非冒険的であっても沢を一度でもやった事があるなら5倍楽しめる。と言うか沢やってなかったら楽しめないかも。軽妙で下品で笑える文体にも、著者のキャラクターにも好感を持って読んだ。かと言って一緒に沢行くにはちょっと怖い。あんなにぼろくそに書いて高柳氏との人間関係は平気なんだろうか、と心配してしまうくらい。無論強い信頼があるから書けるんだろうけども。ゴルジュストロングスタイルの精神に少しでも近づけたらと思うね。
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那智の滝を登ったクライマーが逮捕されたというニュースを、随分前に読んだ記憶がある。
なんのために登るんだろう? 自分勝手なやつがいるなとぼんやり記憶している。
彼はきっと、自分のために登ったのだ。
自分の欲求を満たすために登る事を突き詰めていくと、そこにはrock 'n' roll があるのだ。
最高に自分勝手で、最高に研ぎ澄まされて、最高に最高な沢登りの記録。
無茶苦茶でハチャハチャで、でも、とんがっている剥き出しのクライマー 。
彼の親ではなくて、本当に良かった。
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危険だと諌められても、ならぬと禁じられても、冒険に身を投じる著者。
登攀技術の高さはもちろん、サバイバル能力の高さ、運の強さも凄い。
未踏の地を踏みたい、登りたい、という欲求に極めて素直に従う姿は、清々しくもあったり…。
でも、ダメと言われたトコロは、登っちゃダメじゃないか?
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内容(「BOOK」データベースより)
那智の滝登攀による逮捕をきっかけに、外道クライマーの悪絶なる冒険が始まった。「最も野蛮で原始的な登山」をめざす沢ヤの実力を見よ!
胸がスカッとする本を久々に読ませてもらった!本道(一般的な)を歩く人には眉をひそめられても、その見下しの視線に混じる羨望。その羨望を逆撫でするような挑発的な挑戦。なんともワクワクするではないですか!普通の紀行文も大好きだけど、これは全く違う野蛮な魅力ではち切れんばかりです。
文章が荒っぽいんだけれど、下手な文章ではななく、自分の書体をモノにした無頼派の書家に通じるワイルドな文章です。また本書いて欲しいです。首を長くして待ってます。
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とても新鮮。面白かったので一気に読了しました。
外道・・・というイメージとは距離のある、ユーモラスなのに知的ですらある、客観的な文章が意外。何より、「那智の滝を登ろうとした」経歴やブログから想像するよりずっと普通で常識的な姿には、頭がいいから、文章中ではそんな風を装えるのかも・・・。
などと、ちょっと邪推してしまったくらい印象的だった。
やっぱり紙の本の執筆は人を真面目にさせるのだろうか?(笑)
「頼りにならない方」のパートナーとの長旅では、普通の人の感情や思いが綴られていて、笑って読める。たぶん、いい人一本やりでもなければ外道でもないけど、ただ山に関しては「(王)道を外してる」気鋭のクライマーってことなのだろう。
その冒険録は、アイスクライミングあり、雪山あり、ジャングルの沢遡行あり、で振れ幅が広くて深く、違う世界を垣間見られる。
それは、以前「サハラに死す――上温湯隆の一生」 http://booklog.jp/item/1/4635047504 を読んで考えた、現代の「初めて」を目指す冒険(の難しさ)と、個人の評価軸での冒険の追及、みたいなものを両極で表現しているようで、興味深い。
・・・なんて世界観は、彼の中にはありそうだけど、こちら側は、深く恐ろしい険谷の遡行や、湿雪と氷の危うい登攀、泥臭いジャングルを行く珍道中のサバイバルストーリーを、まるでドキュメンタリーのように読み終えてしまった。次の冒険も楽しみです。
ちなみに遠い又聞きによると、この人は豪胆に見えて、とても慎重なクライミングをするのだとか。
何か納得です。
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面白すぎた。
これはヤバイ本。
相棒にも貸して読ませた。
いま、二人の間では、
「研ぎ澄まされてんなー」
がマイブーム。
でも沢はやらない。
文章に似合わず、クライミングスタイルは「堅実」と聞いて驚いたが、本当だろうか?
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エクストリームスポーツに興ずる人たちは、死と隣り合わせ危険であればあるほど、アンコントローラブルであるほど高揚するらしい。
ただし「スポーツ」とはルールに則り安全を確保した上での競技であることを考えると沢登りはスポーツではない。これはさすがに死ぬかも!といった限界ギリギリのまさしくデッドラインをすり抜けるスリルが醍醐味なのだ。
計画的な刹那。心臓がギュ!となるような死と紙一重の興奮。
沢登りの家族にだけはなりたくない。
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ほんとに、世の中には、いろんな人がいるなあと…。先週著者の方がテレビに出演されていて、映像で沢登りを見ましたが、自分には、技術とか体力の前に、まず勇気が出ない。まったく違う世界。不思議だ…。
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すごい人たちがいる。
地球上には人跡未踏の空白地帯は深海にしか残されていないと思っていたが・・・。今ではドローンなどによってその絵はたやすく見ることはできるようになったが、でも人類がまだ足跡を残したことがない場所がたくさんあるらしい。那智の滝もまだ誰も登ったことはないし、黒部の称名滝の上部のゴルジュ称名廊下もまた誰も突破したことがないという。台湾のゴルジュ、タイ奥地のジャングル・・・・。そしてそこに挑む沢ヤ、クライマー。
比喩ではなく、本当に命をかけているのだけど、その深刻さはなく、それどころか那智の滝に至っては逮捕までされてしまう自分たちをどこか誇りにすら思っているような「外道」な感性。でも、ギリギリの命をかけた切迫さもまた伝わってくる。面白すぎる生き方。高野秀行が帯で絶賛「冒頭から角幡唯介の「解説」まで、面白くないページは1ページもない。」。そのとおりの痛快な本。
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テレビ番組『クレイジージャーニー』で彼の存在を知った。
登山家と違い「沢ヤ」はメジャーではないが兎に角アナーキーだ。かっこいい言い方をすれば、命をBetし自然と戯れるのを生業とする。出だしから神聖な那智の滝に(それも神聖な日に)登攀し逮捕されている。破天荒でプリミティブ。何か既視感があるなと思ったら、そうだ、辺境冒険家の高野秀行氏に似ているんだと気付く。興味あるものや楽しいものは何でも体験してやろうという姿勢がそっくりだ。
道なき道を進み蛇を食べ極寒の川を全裸で渡る、そんなハードなスタイルにも関わらず、焚き火で酒を飲む為に沢ヤの楽しみと語るお茶目さを兼ね備える。そして何よりいいのはとことん「クズ」なところだ(褒め言葉)。パートナーへディスる様がとにかく面白い。
禁止区域や危険地帯へどしどし立ち入っていくので倫理的にどうかという意見もあるかと思うが、ひとつの生き方として非常に面白いので是非読んでみてほしい。