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電子書籍
ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇(新潮文庫)
著者 太田和彦
理想の居酒屋を探し求めんと志を立ててよりはや三年―。流浪の旅はさらに続き、高松、那覇、仙台、熊本、壱岐、札幌、名古屋、博多、会津を巡って、ついに神戸で大団円を迎える。ご当...
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商品説明
理想の居酒屋を探し求めんと志を立ててよりはや三年―。流浪の旅はさらに続き、高松、那覇、仙台、熊本、壱岐、札幌、名古屋、博多、会津を巡って、ついに神戸で大団円を迎える。ご当地イチ押しの地酒、産地限定の肴、カウンターの向うの温かい笑顔を満載した居酒屋紀行、ニッポン全国三十余都市を疾風怒涛のごとくに踏破して、ここに堂々完結。
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紙の本
太田さん、いつまでもお元気で。
2003/06/16 22:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アベイズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ニッポン居酒屋放浪記」立志編を読み、山田詠美の解説を読む。疾風篇を読み、川上弘美の解説を読む。望郷編を読み、椎名誠の解説を読む。
見よ、この解説の面々のスバラシキこと! 贅沢極まりないこと! さすがは私が惚れた男、太田和彦!と、感心しながらも、酒飲みとはこんなにも反省深き人々なのかと、驚いたりもする。三人が三人とも、まるで太田寺子屋に入門した一生徒かのように、この教科書を読み、感じ入り、参考にし、自分の酒飲み的日常と照らし合わせては、悔やんでいる。反省している。恥じ入っている。
「口惜しい。と、言うのとは少し違うな。情けない? いや、やはりふがいない、で決まりだろう。不甲斐ない」と、語り始めるのは、あの山田詠美で「それに比べて私たちと来たら」を連発し友人数名と結成した「居酒屋愛好会」を憂えている有様だし。「でも、うまくまねできない。あたりまえだ。私は太田さんのような年季の入ったよい酒飲みではないし。女だし(女であることは、居酒屋的酒飲み世界ではちよっと不利なことだ)。かるがるしくておっちょこちょいだし」と、ぼんやりと悔やんでいるのは、川上弘美で。さらには、椎名誠にも「そうか。酒というものはある程度人間として考えながら飲まなければいけないのだー。野蛮人が文明の片鱗に触れたような、新鮮で電撃的なオドロキだった」と、目からウロコと語らせている。
そして反省深くした生徒達はそろって、学んでいる。いたって真面目に自発的に学ばなくてはと考えている。
山田詠美は考察する「決して徒党を組むべからず」「決して長居するべからず」と「合間にユンケル飲んで次の店に行く太田さんを見習うべし。宿酔いという言葉がこの本にはない」と、自分や連れの若者の叱咤激励もする。川上弘美に至っては「酒を飲むときの、あらゆる計画と思案と反省の参考資料」と、国語辞典や野鳥図鑑と並べては「なければ、今日の仕事明日の生活に支障をきたす」と切実に言い切る始末。そして「とにかく何でも曖昧にしがちなニッポンの酒飲みの世界の中で、この揺るぎない背筋のピント伸びた頑固さを我々はただもう驚嘆するだけでなくもっときちんと正面から学ぶべきであるー」と、言い切る椎名誠には、なにやら覚悟めいたモノまで感じてしまうのである。
かくして酒飲みとは、まことに反省深き人々。ココロ細かき人々。反省し、邁進する人々。日々精進する人々。と、感じ入ったその端から、その反省をあっさりと忘れ(もしくはあっさりと流し去り)今夜の居酒屋を求めてさまよっていく人々に、やはり口元がゆるんでしまう。そうなのだ、理屈はいらない。決まり事もない。自分の道には案外頑固で、ココロの底から楽しむことにはとっても貪欲。たいがいダメで、とってもやさしい。
「有意義な人生なんて、くそくらえだ。ある時は頑固に、ある時は憮然として、そしておおかたの時はぼんやりと嬉しく楽しく、私は酒を飲みたい。人生を過ごしたい」と、俄然頑固に気っぷ良く言い切った川上弘美。このコトバがこの三冊のすべてを現している。皆がこの本を愛し、この本を語りたくてたまらない。それだけでもこの本のスバラシサが伝わってくる。この本を読んで本当に良かった。
そして今宵もきっと、太田さんは暖簾をくぐるのだろう。暖簾の方だって太田さんがくぐってくれるのを今や遅しと待っているのだろう。そんな姿を、宵の闇が降りる頃、少しだけ思い浮かべては、にんまりとする。太田さん、いつまでもお元気で。そんなひとりごとを時々は声に出して言ってもみる、私なのでありました。とさ。