人間の複雑さと奥深さ。
2012/01/25 10:48
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投稿者:街子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間は、色々な側面を持っている、という当たり前の事実を改めて突きつけられたような作品。
誰もが犯罪者にも被害者にもなりうるのかもしれない、というようなことも考えさせられた。
どの登場人物も魅力的だが、特に没落してしまった女性と地方の真面目な警官の関係は、物語に色を添えていると思う。自然の描写も素晴らしく、ああイギリス!!という感じがする。
家にいながらにして、旅行をしているような気分を味わえる小説である。
同じ事実でも、発言する人が違うとこうも違う出来事のように思えるのか、など、本当に緻密でしっかり作られている。伏線も最後にはちゃんと回収されているし、一度読んでからもう一度読み直すと、また物語の新たな魅力を発見できて良いかもしれない。
犯罪被害者になることの惨さ
2012/02/19 21:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
海岸に女性の遺体が打ち上げられる。その海岸から離れた街では、彼女の三歳の娘が保護されていた。
レイプし殺した犯人を追うということは、被害者のことも知るということになる。この被害者の人となりがわかればわかるほど、憂鬱な気持ちになっていくのだ。人は誰だって秘密があり、暗部がある。皆それを隠して生きている。が、犯罪に巻き込まれるということは、それを否応なしに白日にさらすことなのだ。
しかも、彼女にはそうやってさらされることを拒否する、彼女を思う人もいない。
徐々に明らかになる犯人の行動や心理も、残酷でやるせないのだけど、やはりこういう形で尊厳を奪われて行く被害者が哀れでしかたなかった。
そんな陰鬱な中で、不器用な警官と、素直になれない元資産家の娘の二人が安らぎだ。
まさに、ビター&スイートっていった感じ。
面白かった。
読み終えたあと、必ず再読したくなる一冊。
2012/02/11 10:20
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投稿者:みす・れもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳:成川裕子、解説:杉江松恋
波間を漂う被害者の回想から物語は始まる。何も身につけずに海に浮かぶ女性。頭に浮かぶのはレイプされたことではなく、手指の骨を折られたこと…。陰惨な事件だ。遺体発見現場から離れた場所では、3歳の幼女が一人で歩いていて保護された。被害者の娘だ。娘を溺愛していたという母親とその娘は、どうしてこのような離れた場所で発見されたのだろう。一方は死んでおり、もう一方は生きている。
傷だらけで浜辺に打ち上げられた(ように見える)小柄で華奢な女性。どんな理由があってこのような仕打ちを受けたのか。遺体を見た警察も胸を締め付けられる。しかし、関係者に被害者の話を聞くほどに、被害者の女性がいろんな"顔"を見せる。それは二転三転し、彼女の本当の"顔"は見えそうで見えない。誰が真実を語り、誰が嘘を語っているのだろう。それともみな、嘘なのだろうか。
登場人物は多い。最初はそれに戸惑ったが、キャラクターが明確になるにつれ、少しずつ頭に入ってくる。イギリス南部の地名も多く登場。地理に疎い私は、巻頭に付されている地図とにらめっこしながら読み進めていたが、途中で諦めた。そのほうがストーリーに集中できるようだ。
物語はいろんな人物の視点から進んでいく。被害者の夫だったり、容疑者だったり、警察であったり。それが非常によいリズムを生み出しているように思う。細かな描写が多く、読みながら頭の中に映像が浮かぶ。あまり気分の良い映像ではないが…。登場人物たちが語る証言もかなり細かい。その細かな部分に無駄はない。証言と科学捜査の結果との食い違いから、いろんな秘密がこぼれてくる。
関係者の誰もが相手のウィーク・ポイントを狙い、互いを傷つけ、そして自分も傷つく。そんな中に"狂気"が混じったとき、事件は起きた。起こるべくして起きた事件だったのかもしれない。避けようと思えば避けられたのかもしれない。"偶然"という要素も無視できない。しかし、その土壌を作ったのは、被害者も含めた関係者全員だった。
最後まで読み終えたあと、もう一度読みたくなる。結末を知った上で再読すると、また違った発見があるだろう。初読は細かな部分にとらわれず、ひたすら読むことをお薦めする。二度目、三度目と読むごとに言葉がいろんな意味を帯びてくるはずだ。
杉江松恋氏の解説もよい。著者ミネット・ウォルターズの他の作品も読みたくなる。
複数の関係者から複数の捜査官が聴取する証言の虚実。偶然の事象も混沌としたこの綾模様を統合して読者は真実を読み解くことができるか?
2012/02/21 15:41
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミネット・ウォルターズについては、ストーリーはまるで記憶にないのだが、日本でもブームになって、1999年ごろに遅ればせながら『女彫刻家』(1993年)と『昏い部屋』(1995年)を読んだことがある。今回、久しぶりに目にした著者名で英国ミステリ女王とされていた。これは新作だと思い、どんなミステリー作家だったかと、懐かしさも手伝って手にした次第。読んでる途中退屈だったから、巻末「解説」を覗くとなんと1998年の作品とあってだまされたような気分になった。
「女は裸で波間に漂っていた。脳裏をよぎるのは、陵辱されたことではなくて手指の骨を折られたことだった。………そして小石の浜で遺体が見つかる。死体発見現場から遠く離れた町では、被害者の三歳の娘が保護されていた。なぜ犯人は母親を殺し、娘を無傷で解放したのか?凄惨な殺人事件は、被害者をめぐる複雑な人間関係を暴き出す。現代英国ミステリ女王が放つ、稀代の雄編!」
この紹介文の表現がまず気に入らなかった。「なぜ犯人は母親を殺し、娘を無傷で解放したのか?」………大仰に疑問符をつける事象ではないだろう。母を殺しても三歳の娘は殺さない場合だって不思議ではない。いやそれが普通であろう。さらにストーリーの核心を形成する謎であればまだしも、この疑問符はストーリーにはまるで関係なかった。
「惨い(むごい)。酷い。辛い」
と帯紙に大きな文字で書かれている。
1999年の光市母子殺害事件で犯人の死刑確定の報道を聞いたところだが、「冷酷、残虐、非人間性で結果も重大」とされた凄惨過酷な現実を直視すれば、はなはだしく読者を誤解させるコピーである。
私のようなものはこのキャッチフレーズで買ってしまうのだから………。
『破壊者』は決して扇情的なものでもサディスティックなものでもない。出版社はこういう売り込み方をしてはいけない。
ポルノ写真、幼児性愛、歪んだ男女の性意識、レイプとかが背景で絡むが、奇をてらった宣伝文句とはまったくかけ離れて、犯罪自体が突飛なものではなく、しかも相当に地味なストーリーの展開である。
だから私も気分を入れ替えて読んでいった。
死体の第一発見者と被害者の夫に容疑がかかるが決定的な物的証拠がない。主としてアリバイ崩しの捜査物語である。数人の警察官がこの事件を担当している。捜査陣は被害者周辺の何人もの人たちの聞き込みに専念する。その証言には嘘も含まれれば、事件とは無関係な内容が散在している。偶然という帰結がいくつもある。複数の警察官による複数の関係者からの調書。縦糸横糸の結節点の矛盾をついて真相に迫るのが著者のもくろみである。
名探偵はいない。まさに地に足をつけた捜査のプロセスが丹念に描かれる。
リアリズムだといえば、そのとおり。実際の捜査と言うものは試行錯誤の連続なのだろう。だから、誤った方向で捜査が進む場合はそれが誤りだと判明するまで読者は付き合わされることになる。しかしドキュメンタリーではなくフィクションとして楽しもうとする私にはストーリーに起伏や意外性があればまだしも、このところが退屈でならなかった。とりたてて著者の深いメッセージがあったようにも思えない。ある警官の恋愛模様が描かれているがこれも平板であり、共感できるドラマはなかった。
丹念に書かれた調査結果を丹念に読み込む努力があれば、面白みを拾い上げられたかもしれない。
だが、この歳になるとその根気が続かないのだ。
二度読みすれば著者の緻密な縦横文様に納得もできるのだろう。
だが、そうするまでもなく底が見通せるようで気合が入らないのだ。
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暴行された女性の遺体が入江で発見され、その3歳の娘は遠く離れた町で一人で歩いているところを保護された。いったい何があったのか…
レイプ殺人は単に被害者の肉体や生命を奪うだけでなく、そのプライバシーや尊厳をも破壊する。派手な展開はなく、捜査の過程が地道に描かれる重苦しい作品だが、次第に明らかになっていく被害者や容疑者の多面性が深く、物語に深く引き込まれた。
ウォルターズの作品は毎回ヒロイン造型が素晴らしいと思う。この作品ではそれほど突出した存在ではないが、彼女の再生が重く辛い物語に一筋の光を与えており、読後感は辛いばかりではなかった。
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奇を衒うことなく、一歩ずつじわじわと書かれた作品。
テーマが重いものだけに、読後感はやるせないが、満足度はかなり高い。
85点(100点満点)
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海岸に女性の遺体が打ち上げられる。その海岸から離れた街では、彼女の三歳の娘が保護されていた。
レイプし殺した犯人を追うということは、被害者のことも知るということになる。この被害者の人となりがわかればわかるほど、憂鬱な気持ちになっていくのだ。人は誰だって秘密があり、暗部がある。皆それを隠して生きている。が、犯罪に巻き込まれるということは、それを否応なしに白日にさらすことなのだ。
しかも、彼女にはそうやってさらされることを拒否する、彼女を思う人もいない。
徐々に明らかになる犯人の行動や心理も、残酷でやるせないのだけど、やはりこういう形で尊厳を奪われて行く被害者が哀れでしかたなかった。
そんな陰鬱な中で、不器用な警官と、素直になれない元資産家の娘の二人が安らぎだ。
まさに、ビター&スイートっていった感じ。
面白かった。
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破壊されるのは、レイプされ海に捨てられ、砂浜に打ち上げられた全裸遺体の被害者だ。死してなお、彼女は「破壊」される。彼女を知っていたはずの人々から。最後の最後まで、彼女は「破壊」され続ける、真実を捻じ曲げて悪びれない加害者によって。
ウォルターズは犯人を徹底して自己保身、自己弁護のために被害者を「破壊」する人間に書いた。だからこそ、歯がゆいほどの地道さで事件を手繰り寄せる捜査官たちがたのもしいのだと思う。
苦々しい物語。
だからよけいに、器用じゃなくてじれったいロマンスが微笑ましい。
やっぱりうまいわ、ウォルターズ。
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まあ、出てくる人皆が、嘘つきだったり、ひねくれていたり。イメージとしての「英国的」というか。最初から最後までいろいろな人によるいろいろな言説、発言、証言があるけれど、どれひとつ信用できない。この感じ、確かにミネット・ウォルターズ!久しぶりに読んだのに、いかにもとすぐに彼女の世界にドップリ浸り、振り回されました。ニックとマギーの「ロマンス小説」、好みです。
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久々のミネット・ウォルターズ。安定感があるなあ。解説をみると、すでに読んだ『囁く谺』と『蛇の形』の間に発表された作品らしい。どうして邦訳が遅れたのかは、謎。さらに、『病める狐』と『蛇の形』の間に発表されたAcid Rowという未邦訳も。そして、2003〜2007年までに3作。その後は…ないのか??
地味だけど人間味のある、好感が持てる警官たちと、被害者・被疑者たちの様々な鬱屈、アンバランスな人間性の対比がくっきり。
所々に出てくる、シンプルだけど含蓄のある言い回し、文章にはっとさせられた。奇をてらわず、勢いだけもなく、地に足の着いた、そういう文章がぐっとくる。
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最初読むのめんどくさいかなあ、と思っていたが、調書が挟まれるようになってから一気読み。
只犯人にはちょっと納得いかず。
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英国ミステリの女王ウォルターズの新刊。
イングランド南端のチャプマンズ入江。
男の子の兄弟が、浜辺で女性の死体を発見する。
あわてふためく二人をなだめて、事態がよくわからないまま携帯で通報したのは、たまたま散歩していた俳優のスティーヴン・ハーディング。
そこへやって来たのは、近所の馬預かり所の経営者マギー・ジェナー。30代半ばで、とても美しい女性。
通報で駆けつけたのは、地元警官のニック・イングラム巡査。
マギーは地元で育った人間で、地区担当のニックとは旧知の間柄だったが、良い思い出ではなかった。
捜査はニックら警察が行うけど、内容的にはマギーの物語としても読める小説です。
スティーブは俳優としては売れていなかったが、女性が目を離せなくなるほどのハンサムで、モデルとしては不自由ないらしい。
暑い中を散歩するには短パンと軽装で、水さえ持っていなかったことに、ニックは疑惑を抱く。
死体はケイト・エリザベス・サムナーという女性で、実はスティーブとは家が近かった。
ただの知り合いだとスティーヴは言うが、ケイトの夫は妻はスティーブを嫌っていたという。
スティーブに言い寄られていたとか、ケイトがストーカーだったとか、人によって証言は食い違う。
ケイトは小柄な美女で、夫ウィリアムは製薬会社の研究者。年上の地味な男で、まったく共通点がないらしい。
姑の暮らす老人ホームから距離を取って、この地でいい家に住むのがケイトの望みだったようだ。
二人の間の娘ハナは3歳だがほとんど口を利かず、どこか様子がおかしい。
猫かわいがりする妻と、途方に暮れる夫。
娘は何もかもわかっているように見えるときもあるのだが。
スティーブの友達トニーは、高校教師だが、かなりろくでなし。
祖父は資産家という階層の出なのだが。
スティーブは自分のスループ船「クレイジー・デイズ」号を大事にしていて、舟仲間には評判が良かった。
自己中心的だが女にはもてて華やかなスティーブと、大人しい分だけ鬱憤が溜まっているかも知れないケイトの夫。
対照的な二人の男を調べていくニックら捜査官たち。
ケイトも強烈な性格。
階層が上の夫を見事ゲットしたということで、イギリスが階層社会だという本「不機嫌なメアリー・ポピンズ」の内容を思い出しました。
それぞれの人間が色々な面を見せ、最初は人によっても見方が違うのですが、その嘘か本当かわからない断片が次第にまとまってくるのが圧巻。
どうしてここまで性格が変わらないのかと呆れるほど、こだわりや弱点がじつは一貫しているのだ。どうしようもないのか…?
ニック・イングラム巡査は、大柄で誠実ないい男で、ここぞというときに活躍。
マギーは名家の出。(ここでも階層の違いが…)
若いときに結婚相手に騙されて財産を失い、身近な人にも迷惑をかけた過去を背負っています。
病気の母を抱えて、古い館の手入れも出来ないまま、苦しい生活をしていた。
その当時、イングラムは役に立たなかった悔いがある。
誇り高いマギーの母も個性的。
ニックとマギーのこじれた関係が、じわじわと上手くいくようになるのも楽しい。
翻訳発行は最近ですが、原著は1998年で、6作目。
「囁く谺」と「蛇の形」の間になります。
「囁く谺」は男性の私立探偵と運命の女性の話で、男性作家が書いたかのような雰囲気で、こういうのも書けるのよって感じだったかな。
「蛇の形」はウォルターズ以外には書けないだろうという傑作。
その間にあった~なかなか力強い作品です。
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ミネット・ウォルターズは年に一作程度の寡作小説家である。その上、東京創元社の場合概してそうなのだが、日本での翻訳発表が原作出版の10年後なんていうのも決して珍しくなく、本書もまた原書出版の13年後という、時を逸した感のあるこの出版事情だけは、今後是非どうにかして欲しいもの。本書のように、時代性において影響の少ない作品だから、という言い訳は絶対に不要である。読者はやはり、いい作家の、いい作品は、できるだけリアルタイムに読みたい。映画だって、『アルゴ』みたいにアカデミー賞を受賞するのと同時に、映画公開・DVD発売までをクリアしてしまう、そんな時との競争が当たり前の現代という時代なのだから、まるで魔女狩りの時代みたいにクラシックでゆるすぎる商品流通のシステムは、早々に改善して欲しいもの。海外翻訳ミステリの衰退を心配げに見つめる読者としては、さらに痛切な願いである。
さて、作品の方だが、ローカルな海岸地帯における流れ着いた女性の死体。そのただひとつの事件をめぐって、地域に生活したり、ここを訪れたりする、実に多くの登場人物が、それぞれに語り、それぞれに動き回る。多くの人を登場させ、多くの人の目線で物語を追跡するゆえに、真相になかなか辿り着けないという、実に冗長で遠まわしでありながら、事件をめぐる社会構造の方に視点を集約したような長大な一冊である。ミステリの軸となるフーダニットの興味があったとしても、おそらくあまり満たされないだろう。そんな結末に至り、はて、この作品は果たしてミステリでさえあったのか? と疑問に思う読者も少なくないのではないだろうか?
この物語の舞台となる地域の方が、まるで主役ででもあるかのように、この地域の地図と、サービスのよいことに写真までもが巻頭に揃えられている。この広大で美しい入江や岬を持つ海辺の田舎町に、事件と関係のある人やほとんど関係を持つとも言えないような人々の日常生活が、事件から受けた影響というようなものを、あくまでディテールにこだわり、人間たちの個性にこだわり、会話にこだわるかのように語り続ける作家のペンが、さすがに今回ばかりは、遠まわし過ぎて鼻についてならなかった。退屈な長回しのカメラ映像でできた出来の悪い映画脚本みたいに思える、というと言いすぎだろうか?
作品のめざす主眼が、事件の真相というものではなく、事件の表面に見えなかったがやがて見えてくる、それぞれの事実の堆積にあると気づいてからは、真犯人はどうでもよく、むしろ死に至った女性の側の真実、殺されねばならなかった原因や、それを作り出す環境、また彼女の死がもたらした波紋のようなものを人々の眼を通して、映し出すことが本書の主眼であるのかと割り切るしかなかった。それはそれで狙いとしてはよいのだろうが、冗長は弛緩を産み、群像小説的視点は散漫を呼び、時間はのんびりと蛇行し始め、事件そのものへの興味も大きく育ちはしない。読書中、ついぞ心が高揚することがなかった。
ミネット・ウォルターズは、そもそもディテールを大事にして、人間を大切にする作家ではあるものの、事件そのものの異様さ、特徴、癖のあるラディカルな犯人像といったものが、過激なまでの個性であったように思う。そしてストーリーテリングは申し分なく、独特の構成、異質な表現である新聞記事などの挿入、などによる少々エキセントリックなまでの扇情ぶりが、この人の現代的なエンターテインメント性を形づくり、読書的スピード感をもたらしていたように思う。この人がここまでどっしりと腰を据えて、当たり前のような小説を書いたのは今回初めてと言ってもいい。さほど、エンターテインメント性の面で鈍りを見せた、ぼくにとっては理解しにくい作品が本書であったのだが、この作家の継続読者としてはつくづく残念でならない一冊である。
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「女彫刻家」や「氷の家」程の衝撃はなかったが、とにかく早く先が読みたくて文字通り寝食を忘れて読みふけりました。
2回目からは、自分でも各容疑者の供述(日時・場所)をメモして、警察の視点から一緒に犯人を捜していくと面白いだろうな、と感じました。
幼子「ハナ」がとても印象的だったので、全般的にもう少し彼女に絡んだストーリーが膨らんでいれば、別の観点からも深みが増したのでは、とも思いました。
でも読了後の感想は毎回お馴染み、「さすが!」。
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ウォルターズの今までの作品に比べると、面白さはやや下がるかな。スティーヴにトニーの教養知識が、トニーにスティーヴの美貌、或いは性的魅力があれば、二人ともまともな人生が送れたかもね。この二人の人生は無い物ねだりに満ちている。逆にケイトは自分の手に入るもので精一杯生きようとしたのでは?カーペンター警視とガルブレイス警部補のキャラの書き分けがイマイチ。巡査のニックは素敵。