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第三の魔弾
著者 レオ・ペルッツ(著) , 前川道介(訳)
16世紀、神聖ローマ帝国を追放された“ラインの暴れ伯爵”グルムバッハは新大陸に渡り、アステカ王国のインディオたちに味方して、征服者コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向か...
第三の魔弾
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第三の魔弾 (白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)
商品説明
16世紀、神聖ローマ帝国を追放された“ラインの暴れ伯爵”グルムバッハは新大陸に渡り、アステカ王国のインディオたちに味方して、征服者コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向かった。グルムバッハは悪魔の力を借りて、コルテス軍の狙撃兵ノバロの百発百中の銃を手に入れるが、その責を問われ絞首台に上ったノバロは、死に際に三発の銃弾に呪いをかける。「一発目はお前の異教の国王に。二発目は地獄の女に。そして三発目は――」コンキスタドール(征服者)時代のメキシコを舞台に、騙し絵のように変幻する絢爛たる物語を、巧みなストーリーテリングで描き切った幻想歴史小説。大戦間ドイツで絶大な人気を博し、ボルヘス、カルヴィーノ、グレアム・グリーンら、名だたる目利きたちが愛読、世界的な再評価が進んでいる稀代の物語作家ペルッツの長篇第一作。
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新大陸と旧大陸を貫く魔弾
2019/04/02 23:37
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪魔的とは、この作品の技法であり、テーマであり、舞台となった時代でもある。ラインの暴れ伯と呼ばれたドイツ貴族が、農民戦争の末に新教徒の農民たちとともに新大陸に渡ったことから物語が始まる。やがてスペイン人の南米侵略が始まり、現地王国と融和していたドイツ農民と、コルテス軍は衝突することになる。コルテスは超然としたカリスマというより、むしろ神懸かったようなサイコパス的人物に見えて、実は悪魔と取引きをしていたということが分かる。
コルテスの腹心の部下が、暴れ伯の腹違いの兄弟であり、当時の神聖ローマ帝国周辺情勢の複雑怪奇さがあるのだが、それらの要素が血で血を洗うような憎悪と抗争、宗教的対立、インディオの美少女の奪い合いへと導いていく。魔法陣で呼び出すだけが悪魔ではなく、この歴史を導く空間の、あらゆるところに悪魔が潜んでいるいて、人々の運命は狂わされる。
暴れ伯の呪われた弾丸は、関わる人々の運命、そして時代の流れをも逆転させてしまうが、それも混沌の世界を象徴しているのだろう。
南米征服というヨーロッパ人にとって汚辱の歴史であろうけれど、それを阻止しようとする神聖ローマ帝国貴族というのは、ドイツ人にとっても自意識に働きかける何かだったかもしれない。もちろん当時の人々にあるのは、近代的な洗練されたヒューマニズムとは違うが、むしろ当時の農民の素朴な憐憫であることが、読者にとっては共感できる要素だろう。これが発表されたのはオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊直後で、古い社会のあり方への怨嗟や反発も背景にはあったかもしれない。
そうは言っても。一体何が正しくて、どこを目指したらいいのかも分からない混乱して時代に、さらに混乱していた世界で、自分にかけられた呪いもものともせずに、信念のままに突き進むというのは、あるいは頼もしく映ったこともあるだろう。現代の我々だって、何が正しいのかなんて分からずに、霧の中を手探りしているようなものだとすれば、この素朴すぎて、行き着く先も考えずに剛直を貫く生き方に、殺伐の中にもなにかほっとするものを感じるのではないだろうか。