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電子書籍
信長燃ゆ(上)(新潮文庫)
著者 安部龍太郎
「天下布武」──武力を背景に世を変革してゆく信長は、天正九年、安土を中心に磐石の体制を築いていた。だが、巨大になりすぎた信長の力に、好誼を結んできた前関白・近衛前久らの公...
信長燃ゆ(上)(新潮文庫)
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信長燃ゆ 上巻 (新潮文庫)
商品説明
「天下布武」──武力を背景に世を変革してゆく信長は、天正九年、安土を中心に磐石の体制を築いていた。だが、巨大になりすぎた信長の力に、好誼を結んできた前関白・近衛前久らの公家も反感を持ち始める。武家と朝廷の対立に巻き込まれながら信長に惹かれる東宮夫人・勧修寺晴子、信長に骨髄の恨みを抱く忍者・風の甚助ら、多彩な人物をまじえ史料に埋もれた陰謀を描く本格歴史小説。
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紙の本
信長が戦ってきた相手は個々の勢力ではなく、人々の心の中まで根強く張り巡らされた旧い意識
2008/01/28 23:53
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
日経新聞夕刊の連載小説の文庫化。タイトルから分かるように「本能寺の変」をテーマにした歴史小説。本書を書くに当たって取材したときの紀行「信長街道」の方を先に読んでいたのだが、この正月休みを機会に一気に読んだ。
清麿という信長に小姓として仕えていた人物の目を通して描かれている。清麿は変の当日は使いに出ていて難を逃れた、という設定。秀吉の世となり、友人に物語を書け、といわれた彼は 35年前の本能寺の変を思い起こして、変の真相を語り始める。
「あとがきにかえて」で著者が語っているように、本能寺の変を公武の相克という視点から描いている。日本人にとって朝廷とは何かという問題を考えてみたかった、という。本能寺の変は語り尽くされた感のあるテーマだが、本書の特徴を自ら次のように語っている。期間を変の起きるまでの一年半に絞ったこと、そして物語の横糸として信長と東宮(誠仁親王)夫人・晴子の恋を織り込んだこと。
晴子は「お阿茶の局」とも呼ばれ、皇太子・誠仁親王の女御(兄は勧修寺晴豊)である。しかし若い「若草の君」のもとばかりに通う親王への不信が高まっていたところに信長との出会い。これが意外なドラマに発展する。これが史実かどうは分からないが、「多聞院日記」の誠仁親王死亡の記述に女御が登場し、そこに着目したらしい。これまで読んだ「本能寺の変」とは趣きが違って楽しめた。
名家の出身の晴子は生まれたときから仕来りや建前に縛られ、本当の気持ちを口にすることができなかった。そんな生き方を変えたかった、と告白する場面がある。朝廷の使者として若狭の局と偽って安土城に向かうことになり、そこで信長と初めて対面する。次第に二人の仲は親密になっていく。彼女は信長がやろうとしていることが正しいと信じていた。だから親王から心は離れていった。
さて、当時の信長は天下統一も間近といった段階で、猶子としている五の宮(親王の子)を即位させ、自らは太上天皇と同等の資格で院政を敷こうと考えていた。近衛前久の子・信基を幼い帝の摂政に、信忠を将軍とすることで公武二つの権力を掌中にしようというのだ。それがおもしろくない前久。前久は信長の天下統一事業に協力してきたが、統一後の国家構想が明らかになるにつれて、危機感を募らせていく。一方、前久のことを味方にすれば調法な男、といいように利用してきた信長だが、決して信頼はしていなかった。
本書では、変には前久が深く関わったことになっている。前久黒幕説とも言えるものだ。計略が露見したら朝廷の存続さえ危ぶまれるため全てを隠蔽した。光秀をそそのかしたのも彼だ。「恵林寺の焼き討ち」が前久には信長に殺意を抱く決定的な事件となった。
また、変の直前に行なわれた「愛宕百韻」と呼ばれる有名な連歌会。本書ではその歌の内容にも詳細に踏み込んでいる。会では光秀が迷いや苦悩、(謀叛の)決意に至ったいきさつを正直に吐露している、と分析している。光秀ともあろう者が前久にそそのかされただけで決意に至ったかどうかは疑問だが、連歌からは情緒的な自己正当化が読み取れるとし、結局、家や血脈の呪縛から逃れられなかったのだとしている。
前久の信長打倒のシナリオでは、6/1には譲位の儀が行なわれ、6/2には将軍宣下という段取りになっていた。譲位は信長をおびき出すための罠だった。それに気付いた晴子は・・・。光秀に信長を討たせ、足利幕府再興を狙う。光秀は信長が将軍宣下を受けるにあたり、明智の軍勢を都人に見せるため、と偽って兵を京へ進める。しかし幕府再興の企ては秀吉の裏切りで失敗に終わることに・・。
前久は企てに当たって光秀、毛利ばかりか秀吉にも声をかけている。そんな軽々しいことができるのか、と疑問に感じる人もいるだろう。彼らが約束を守る確証もない。しかし、本の中で秀吉が言っているように、毛利との講和が秀吉が幕府再興のための、義昭の上洛の先陣となることが名目であれば中国大返しをみすみす許した毛利の態度も説明がつくが・・。秀吉にしてみれば幕府が再興したとしても光秀の風下に立たされるか、同じくらいの地位にしか留まれないと考えても不思議ではない。それを良しとしなかったからこそ山崎の戦いが起き、光秀は秀吉に敗れた、ということになるが、はやりこの設定(推理)は無理があると感じる。秀吉も前久の陰謀の一味なら、山崎の戦いなどなく、すんなりと京に入れたはずだろう。光秀の方が秀吉を潰そうとしたのだとすれば話は別だが。
紙の本
朝廷を巡る心理戦
2020/01/11 18:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:magoichi - この投稿者のレビュー一覧を見る
信長の物語で余り取り上げられなかった、近衛前久が主要人物として登場します。
今までは、武家かぶれのお調子者の公家扱いであった近衛前久が、実は信長包囲網の首謀者であり、面従腹背し水面下の外交戦を繰り広げる強力な敵として立ち塞がる。
信長が前久の嫡男である信基に、前久が信忠へそれぞれに布石を打ち合い、馬揃えの挙行や譲位など政を通じて、旧体制の象徴たる朝廷を巡る心理戦が展開される。
このまま朝廷陰謀説による本能寺の変となるであろう下巻にて、併せて東宮夫人勧修寺晴子の伏線がどう回収されるか期待したい。
変から 35年後、公家出身の元小姓の歴史書執筆の体裁は今のところ余り効果なし。