歪んだ幸福と甘美な不安
2003/03/11 22:39
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投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰にでも、目をつぶると浮かびあがってくる風景がある。
愛に守られ、しあわせな子どもだった自分が駆けまわっていた場所。
人を恋することを知ったころ、部屋の窓から眺めていた景色。
または絶望の淵をのぞきこんだような暗闇の風景。
今、あなたのまぶたの裏に映しだされるのは、どんな風景だろうか。
小池真理子の直木賞受賞作「恋」を読み終えたとき、
わたしは、この「柩の中の猫」という小説を思いだしていた。
ストーリィーも設定も登場人物もまるで異なっているというのに。
元々小池真理子ファンであったわたしは、それまでのものを殆ど読破していた。
初期の仏風の小粋なミステリーから、ホラー、サイコサスペンスに至るまで。
その中でも、「柩の中の猫」は、異質だった。
読み終えてからも、そこに描かれた世界から抜け出せず、当惑したことを覚えている。
物語は、針生雅代という老いた女流画家の回想から始まる。
二十歳の彼女は、川久保という家に住み込みで働くことになる。
家の主である悟郎は30過ぎ。高名な画家の息子で、美術大学で絵を教えている。
妻に先立たれており、桃子という8歳の娘とのふたり暮らし。
この設定から予想されるとおり、
雅代は、遊び好きで育ちのいい悟郎という男に惹かれていく。
だが。この物語の軸は、なんといっても、「桃子」という少女だ。
「子どもらしからぬ神秘的な雰囲気」を持った美少女。
冷ややかな大人のオンナのような視線で世界を眺めている桃子には、
雅代ならずとも、かしずきたくなる何かがある。
おこるべくして起こった悲劇。
その悲劇に向かって、静かにゆっくりと過ぎていく日々。
頻繁に催される華やかなホームパーティー。
パーティーの主役となる千夏という華やかな魅力溢れる女。
そうしたオトナたちを眺める美しくも哀しい少女、桃子。
桃子を守るように常に寄り添う、雪のように白いララという猫。
彼等のいる川久保家そのものの空気、匂い、音。
家のまわりに広がる麦畑、隠された朽ちた深い井戸。
この、細やかな情景こそが、この小説の全てだ、とわたしは思う。
そこには「歪んだ幸福感」と「甘美な不安感」という独特の空気が、
ひっそりと漂っている。
わたしが「恋」という小説に感じていたものも、この空気だったのだ。
コトバで築き上げられた「風景」のなかを浮遊するのが好き、
というヒトであるならば、
「棺の中の猫」は、麻薬的な効力を持つ小説であるだろう。
その世界が心地よくて、現実に戻ることが困難になるほどに。
年老いた雅代のまぶたの裏に映る美しい風景のなかに、
あなたも入りこんでみません……か?
平穏な生活が揺らいだ時、悪意はその姿を現す…。
2002/01/30 00:17
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投稿者:凛珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ララという名の猫にだけ心を開く孤独な美少女、その父、そして家庭教師の雅代──三人の生活は微妙な均衡を保ちながら、それなりに平穏に流れていた。だが、ある日一人の女が現れて以来、その均衡は歪み、音をたてて崩れ始めた……。
美しく香り高い文章で綴られる、哀しく無惨な物語。悪意をそれと感じさせない描写は、最後になって、読者を静かに打ちのめすことだろう。
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閉じられた世界での甘美な幸福を描かせたら、小池真理子の右に出る者はいない。その幸福には必ず悲劇が潜んでいる。直木賞受賞作「恋」にも通じる世界。引きこまれます。
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二つの殺意、少女の繊細な心と殺人、すれ違い。 さまざまな複雑な背景を持った登場人物たちがお互いに、淡い恋心を抱いてはいるもののすれ違う。そのすれ違いはとても丁寧に構成されていて、これこそ芸術の領域に達しているといえるだろう。サガンや綿矢りさを思い出させる繊細な心理風景が、ララ(途中ママと関連付けられる)という猫や、殺人の舞台となる雪の麦畠と古井戸、そして、主人公たちが生活する過度にアメリカ的な雰囲気の住居などを舞台に展開される。小説には二つの殺害があり、そのどちらも怪しいまでに人間の心の真相に迫っている。幼い孤独な少女に芽生えた殺意を美しく描写した物語としては、世界文学のレベルに達しているだろう。
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擦れ違い続けてしまった故に登場人物たちに起こった悲劇の物語です。この本を読んだのは結構前なのに、読み終えた瞬間、ぞっと怖くなったのを、今でもリアルに覚えています。
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真っ白い猫の柔らかな毛、愛らしい目、冷めた目、キレイなドレスなどなど、実際に触れたかのような感覚と情景が目にやきついて離れない。
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これもまたばあの布団中でよんだ。途中昼寝したけどね〜!
この登場人物、誰にもなりたくないけど、誰にも共感できる。ルルが一番かわいそうかもなぁ。最後までかかれてたのがよかったな。もっと知りたい!っていういじらしさがなくて。
あ、こちらも桃子ちゃんだわ。
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「東京郊外に暮らす美術大学の講師、川久保悟郎。その娘でララという名の猫にだけ心を開く孤独な少女、桃子。そして、家庭教師として川久保家にやってきた画家志望の雅代。微妙な緊張を抱きながらもバランスのとれた三人の生活はそれなりに平穏だった。そう、あの日、あの女が現れるまでは…丹念に描かれた心の襞と悲劇的なツイスト、直木賞作家の隠れた名作」――どうでもいいですが、うちのおばあちゃんは凄い読書家で、押入れに入りきらないほど膨大な数の本があります。というのも、うちのおばあちゃんは軽い不眠症で、それを紛らわす為に夜いつも本を読んでたんです。それが積み重なって、渡辺淳一、平岩弓枝、曽野綾子、小池真理子、三浦綾子、夏樹静子、山村美紗、松本清張などの作家の小説が山のように並んでいます。私はいつも小説を買って読みますが、最近お金が追いつかなくなってきたのと、うちの宝の山が気になってきたのとで、初めておばあちゃんの蔵書を手に取ることになりました。この小説を選んだのは、単にタイトルに惹かれたからです。軽い気持ちで読み始めましたが、最初から傑作の匂いはプンプンしてました。心理の描き出し方が凄く上手い。小池真理子さんが人間心理描写の名手だということは後で知りました。納得です。全体的に奇妙です。特に際立ってるのが、っていうかもうそのものなのが、桃子という名の少女。この子はなんだか江國香織さんの小説に出てきそうな雰囲気があります。ひとつ気付いたんですが、今まで読んできた、といっても数少ない女流作家さんの小説には、不思議で、つかみ所の無い重要な脇役が常に出てくるように思えます。この桃子はその最たるもので、愛猫にしか心を開かない、それでいて華やかな雰囲気を併せ持つ少女です。この少女を巡って物語は進みますが、読み終わって思ったのが、恐い、という事。ホラー小説だと、映像的に人を恐がらせるけど、これは人の深層心理に語りかけてくる。少女であるからこその純粋さ。それが逆の方向に向かうと、大人でもなしえないような恐ろしいことが、何のためらいもなくできてしまう。そして、それがとんでもない結末を導く。衝撃です。小池真理子さんの作風に惚れました。こういうのが読みたかった。この人独自の世界観を、もっと観てみたいです――
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淡々と話が進んで行き、最後でガッと話が動くという感じですね。ララの事件後の展開は読めるのだがそれに対しては落胆はなく、むしろその展開に安心感を覚えました。期待を裏切らないという感じかな。
桃子ちゃんのその後を数行で流してあるのは私には衝撃的。書ききらない分、余計に色んな事を勝手に想像してしまうのでちょっときつかった・・・。
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不思議な感覚が残ってる小説!
妙に、視覚的な感覚なんだよね。
描写のイメージが…印象に残ってます。
雪とか猫とか娘とか、
イメージがね~すぐ思い出されます。
私こういうお話大好きなんでツボもツボでした。
悲しい!後味悪い!最高!!
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表紙で買いました(苦笑)
も、ネコ好きには、たまらん表紙です。
ストーリーは、ある意味ステレオなんだけど、上手い!! いやあ、テクニシャンだなぁと感服いたしました。
でも、終わり方がもうちょっと…。
って、多分、これ以上書き込んでたらそれはそれで文句言ってたと思うんだけどね<をい
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あーすごい。まず語り始めが引き込まれる。愉快と不快がきれいにまざってる。読み終わったあとの動揺がきもちいい。面白いのでおすすめ。
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小池真理子の本で、最初に読むことをお勧めします。
絵描きを目指す女性
美術大学の先生
その娘
娘の飼っている猫 ララ
ララは、ママの役割を果たしていた。
描写は丁寧で、華美にはなりすぎず、
直木賞を取られた「恋」よりは、分かりやすいので、
最初に読むのに適していると思われます。
話の構成、筋書き、すれ違い、嘘、思いやり。
人生のいろいろな構成要素を持っている。
途中、猫好きでないと分からない描写の部分があるかもしれません。
猫好きの人なら、きっと、自然にわかると思います。
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美しい悲劇の物語。
54歳の主人公、雅代が、あるきっかけから、お手伝いの由紀子に、20歳の時の体験を話して聞かせる。
時代背景は古いものの、物語はフランス小説のような雰囲気を醸し出している。
20歳の雅代が、東京郊外の川久保家に住み込む。主人の悟郎に絵を学びながら、娘の桃子の家庭教師をする。
母のいない川久保家だが、飼い猫ララが桃子の母代わりだ。
そんな3人と1匹の幸せな日常が、千夏という美しい女性の出現で狂い始める…。
情景の美しさ、人間のエゴ、幼さ故の残酷など、宮本輝の「避暑地の猫」を思い出させる小説。
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過去を回想するイントロから始まる物語。
いったい何があったのか??と気になります。
物語全体からただよう、怪しさ、閉鎖的な異次元な空間。
これは何かが絶対起きる。と思わせる雰囲気。
ミステリーではないけど心理的な圧迫感のある物語でした。