紙の本
介護小説もさまざまあるが、これは読んでおきたい
2018/06/04 16:12
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸は天保年間、「長寿の町」だったようで、「七十、八十の年寄りはざら、百歳を過ぎた者も」いた。そうなれば、現代と同様介護も必要になり、もっともお金もかかるからそれなりの身分や資産があるものしか他人の介抱を受けることもままならないのも今と似ている。
朝井まかてさんのこの連作短編は、そんな時代に「身内に代わって、年寄りの介抱を助ける」介抱人を生業にしているお咲という女性を主人公にして、介護の難しさを時代小説に溶け込ませた意欲作だ。
お咲は実の母親の佐和がお咲の婚家から借金をしたおかげで離縁され、その返済まで負わされている。そのために「鳩屋」という口入屋から介抱を求める家を紹介してもらって奉公にはいるという段取りで生活をしている。
佐和とは喧嘩が絶えず、貧しい長屋暮らしから抜け出すこともままならない。
いつの時代も介護の苦労は変わらずで、それでもお咲が得意先から評判がいいのは、つらい婚家での生活ではあったが舅の仁左衛門の介護で心を通わせる充実した日々を経験したせいだ。
そんな舅からもらったのが小さな、銀の猫の根付。
これがこの連作短編集のタイトルにもなっている、第1作目の題名の由来。
朝井まかてさんが『恋歌』で直木賞を受賞した2013年から2016年にかけて「オール讀物」に三か月おきに連載した8つの作品は、季節の風物、植物、食べ物をふんだんに織り込み、江戸の人たちの生活ぶりを通して、年老いたものたちとの理想とする生き方を描いて、考えさせる。
正面きって「介護」の問題を論じるのではなく、こういう小説で考えてみる方がいいような気もする。
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生き生き楽々老いましょう
2017/02/10 00:46
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
介抱人専門口入れ屋「鳩屋」の人気介抱人、お咲。仕事が丁寧で細かいことによく気がつき辛い現場も厭わない。お咲はご老人が好きなんだと思う。例え呆けていたとしても敬う気持ちを忘れない。だから愛される。人はゆっくり死に向かう。いきなり死ぬのではなく少しずつ準備をし人生を包み込んでいく、という件がとてもいい。人の最期は荘厳なのだ。決して穢されてはならない。介護に悩んでいる方あれば、是非一読を。老い、呆けは悪いことではない。できるだけ明るく楽しく往生へ導く。お咲の心が少しでも、今疲れている人々に届けばいいなと思う。
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江戸の介護ヘルパー
2017/11/17 16:04
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
高齢者介護の問題は今に始まった話ではないのだとしみじみ思いました。不完全ながらも制度のある現代と違う昔。良心と人の繋がりだけが頼りだった時代の人情話。
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【直木賞作家が描く、江戸の老人介護】美しく奔放な母を養いながら、江戸で老人介護を生業として暮らすお咲。逝く人に教わる多くの真実が深く身にしみる時代長編。
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お咲は、年寄りの介護をする「介抱人」。口入屋「鳩屋」の主人・五郎蔵とお徳夫婦に見守られ、誠心誠意働くお咲は引っぱりだこだが、妾奉公を繰り返してきた母親のだらしなさに振り回され、悩む日々―。そんな時、「誰もが楽になれる介抱指南の書」を作りたいという貸し本屋・佐分郎太から協力をもとめられた。「いっそ、ぎりぎりを攻めるってのはどうですかね、お咲さん」―「いいかも。そのぎりぎり」。長寿の町・江戸に生きる人々を描く傑作時代長編。
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総身の羽毛を膨らませて丸くなっている雀を福来雀(ふくらすずめ)というそうです。福が来る雀で縁起がいいと~!朝井まかてさんの「銀の猫」、2017.1発行、連作8話です。銀の猫、隠居道楽、福来雀、春蘭、半化粧、菊と秋刀魚、狸寝入り、今朝の春。銀の猫が入った守り袋を胸に「介抱」の仕事に精を出すお咲25歳の物語。江戸の町、四季折々に、様々な人の介抱を通じてわかる人の心の鬱積と温もりを軽妙なタッチと力強い筆力で描いた感動作です。読了後の深くて静かな余韻に浸っています!
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2014〜16年に「オール讀物」に発表した連続8話の単行本化。
口入屋(奉公人斡旋業)は普通年2両2分の給金で住み込みで働く女中などを斡旋するのだが、「鳩屋」は今で言う介護ヘルパー派遣業をしている。このあたりの設定は秀逸。時代小説の形を取っていて自由な切り口で、現代の介護に問題を投げかけている。さすが私が直木賞取れると予言してた朝井まかてさん。
咲は養父母を亡くし、水茶屋の茶汲み女をしていて見初められて嫁いだものの離縁され、妾奉公していた実母と暮らしながら、母の借金を返すために重労働で心もすり減らす「介抱人」として3勤1休で働いていた。
江戸時代は、「孝」の実践として、当主が親の介護に当たるのが当然とされていたが、認知症などでプロの介護人が必要とされることもあるとして、いくつかのケースを描いている。これがなかなかに面白い。
貸本屋から「孝」に縛られない、する側もされる側も笑顔でいられるために「こうしたら楽になれる」という介護のための本を出そうと持ちかけられ、知恵を出し合う。
認知症になりかけている母と暮らす身には、教えられることが多かった。
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現代の介護師の江戸版・介抱人を務める主人公・お咲 。「母」ではなく女として生きる母・佐和。事あるごとにお咲を苛立たせる。
お咲の勤める口入屋「鳩屋」の差配で、様々な事情の家へ介護に入る。
要介護者の意地や哀しみ、取り巻く家族の身勝手な考え方や無理解。
理想の介護とは・・と問いかける。
そんな中、魚河岸の旦那・光兵衛と佐和の恋がお咲の心にトゲを刺すが、光兵衛との関わりの中で佐和の意外な心を知る事に。
老いる事
老いを生きる事
死ぬ事
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読書記録です。まだの人は読まないでね。
「銀の猫」「隠居道楽」「福来雀」「春蘭」「半化粧」「菊と秋刀魚」「狸寝入り」「今朝の春」
江戸で老人介護を生業として暮らす「介抱人お咲」を主人公とした短編集。
見てきたんかい!とつい言ってしまった。現代の事情を江戸時代に移してみたら、こういう具合になるんだろうなぁ。
最期まで看取れなかった舅から譲られた根付をお守りがわりに、派遣されたお宅で介助をする主人公の気働きや気概は、この時代の女性として描くことで理想に近い内容になっています。ヘタに現代バージョンで書いたら、こんな女神はいないもんね。もちろん、主人公の周囲の登場人物たちも良い人だらけ。
私としては、大野様と菊職人の庄助さんのその後が気になる!母が一歩進んだんだから、借金を返し終わるだけのご褒美じゃなくて、娘だって自分の幸せをつかんで欲しいんだけどなぁ。
✩5つは、やっぱりみんなに読んで欲しいから。理想だけど、現実はキビシイしこんなに全部がうまくいくはずもないけど、こういう気持ちの持ちようって大切だよねって内容なのでお勧めします。
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江戸時代、意外と長生きする年寄りがいた。
介護を手伝う「介抱人」のお話。
薬と汚れ物の臭い、惚けた年寄り、それぞれの家の事情、
現実的な介護のシーンが、そこここに出てきた。
良い人にまとめすぎな感じもしたけど、面白く読めました。
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連作短編8編
介護の仕事をしながら母親の借金を返し,だらしない母親を養っている咲.身内であるからこそ言えない本音と介護によって見えてくる真実の在りどころ,そういったことが1編1編季節を進めるごとに露わになって解きほぐれてくる.口入屋の鳩屋の夫婦,往生訓を出版した佐分郎太,御用人大野氏,隠居道楽のおぶん,等々魅力的な登場人物がたくさん.シリーズ化しないかな.
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長寿の町江戸で、介抱人と呼ばれる現代のヘルパーさんのお仕事を生業にする佐和が主人公のお話。短編が8話あり、それぞれ介護される老人とのエピソードと佐和自身の母との軋轢を交えてお話が展開する。とても興味深く、作者の筆の巧みさで面白い。いつの時代にも人が年を取ることによる介護する人、介護される人が抱える問題は本質的には変わらないんだなあと切なくもなるが『子ども叱るな! いつか来た道。年寄り笑うな! いつか行く道』という言葉もあるようにこればかりは避けようがないんだよなあ。
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江戸時代の介護のお仕事小説。介抱人・お咲は、職業として、時には泊まり込みで介抱をしに行く。お咲は仕事ではよく気が利き、他の介抱人では難しいような老人相手でもやっていくことができるのに、家に帰ると実の母親とうまくいかない。そういうところが現実味があっていい。あんな母親とはうまくいかなくて当然だけど。江戸時代は一家の主(息子)が親の介護をしていたというのが意外だった。その間は勤めを休んでよくて、それが「孝」とされていた。
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江戸時代の介護の話
お咲をはじめ魅力的な登場人物がたくさん出てくる。
人の生き方人生のしまい方を考えさせられる。
シリーズになるといいな。
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江戸の介護の仕事をしている咲が主人公の3編連作物語。
養父母に先立たれて、疎遠の実母が、謝金をして、離縁された咲は、口入屋「鳩屋」で、年寄りの会とをする介抱人として、誠心誠意働き、少しづつ謝金を返済していく。
江戸の町は長寿の町で、描かれている。
今現在の日本を見ているような話である。
生き生きぽっくり指南なんて今のppkである。
介護の依頼者は、旗本の隠居から元気な道楽女将まで、咲は、どれも、そつなく介護している姿。
言葉では、老人の介護とは、、、簡単に述べるが、人それぞれ事情もあり、又それを取り巻く家族、そしてこの時代では家臣迄、他人の目もあり、難しい問題もある。
食事、下の世話から、泊まり込みの介護生活。
その上、咲には、幼き頃別れた、美人の母の道楽三昧の生活迄、見ないといけないのである。
でも、この本で、咲を取り巻く人情味のある人達が、描かれて、読んでいてほっこりさせられる本であり、介護する側、介護される側の考えが、同じベクトルで、動かないと、難しいと、考えさせられた。