紙の本
これは病気ですか
2017/10/02 22:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tomtom - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めのほうは、けっこう笑えて面白く読み進めていたのですが、唐突にゾッとする場面が。
笑いと恐怖が混じり合う、スリリングな読書体験でした。
小さなコミュニティであれば起こり得そうな集団心理というか…、単なるフィクションにしては妙な生々しさを感じました。
あと、「ボラード」の意味を初めて知りました。
紙の本
狂った町の、病んだ少女
2022/04/22 22:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hachiroeto - この投稿者のレビュー一覧を見る
海塚市という架空の町が舞台。一人の少女の視点で綴られている。この少女自体もいろんな意味で生きにくさを抱えていて、妄想癖があったり、母との関係もだいぶ病んでいたりするのでだが、読んでいくとそれよりも、舞台の海塚市自体の気持ち悪さが際立つ。
とにかく住民の、市への愛着の度合いが並外れている。みんなで市の歌を歌い、市の海産物を絶賛し、住民総出で海辺でゴミ拾いをしたりと、こう書くとごく普通の町にしか思えないが、一方でここでは同級生が次々に死に、市を批判した人は行方不明となり、反抗的な若者を警官がいきなり袋叩きにする。
少女の異常さ、少女と母の関係の異常さ、少女が通う学校の異常さ、そして町全体の異常さが、ここでは入れ子のように描かれている。むしろ町の異様さに抗うことが母の異様さを生み、母の異様さに抗うことが少女の異様さを生み出している、とも言えるだろう。
電子書籍
あの事故から8年を描く
2021/09/02 22:07
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
「安心安全」や「絆」を、やたらと押し付けてくる海辺の町が不気味です。大人顔負けに真実に迫る少女に、待ち受けている運命も衝撃的でした。
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【日本中を震撼させた傑作がついに文庫化!】海塚市では子供たちの体調はすぐれず、教師は愛郷教育を執拗に繰り返し、地元の魚や野菜は残さず食べる。ここは復興の町だった――。
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話題作の文庫化。
一読して、これは確かに話題になるよなぁ……と思った。『手記』という体裁を取っているのも不気味でいい。
いとうせいこうの解説も良かった。
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とても気味の悪い小説でしたが、面白かったです。
右へ倣えのように皆が同じ方向を向いて、そのことが素晴らしくて、それに同調しない人は病気だと排除する…なんて怖いことなんだろうと思いました。
人がぽろぽろ亡くなっていくところがまだ復興の最中のようですが、こんな歪な世界で、本当に復興しているのだろうか…と読んでいると、最終話でドキッとしました。どちらが病気なのか。
時代に流れる空気感は、なんだか怖いなぁと思ってしまいます。
何故か、村田沙耶香さんの小説と似たものを感じました。
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不気味で陰鬱でディストピア小説の雰囲気は十分なのだけど、唐突に例の事故を想起させたと思えばとてもそれどころじゃないでしょコレみたいなオチに突き進む。正直置いていかれた感があります…あえての説明不足なんでしょうけど、モヤモヤは拭えず。
言うまでもなく(『最終兵器彼女』みたいに)終末は舞台にしか過ぎなくて、著者の書きたかったものは人間心理で(主に母娘そして転じて国家と国民)、その不自由さや不確かさを思いしらされるところがこの小説の核なのかなと思います。
心が元気じゃないと読むのが辛かったです…
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病的なほどに娘の態度と世間の目を気にしながら家に閉じこもっている母と、「頭の中の虫」を飼っているという娘の恭子。不気味な語り手の声に導かれて物語をたどるうちに、読み手はやがて、異常であるのは母娘なのではなく、彼らが生きている「海塚」という町の方であることに気がついていく。
教師や親たちが熱く称揚する「ふるさと」への愛と、人々の「強い結び付き」。命の大切さ。海塚の食べ物の安全と美味しさ。大人たちがかつてこの町を集団避難しなければならなかったこと。帰還の後に生まれた子どもたちが次々と死んでいっていること。町民たちの高揚した一心同体の背後には、どうやら陰惨な暴力があるらしいこと。
「解説」でいとうせいこうが書くように、これは寓話などではなく、小説という名の現実である。まさに。
しかしこの現実はあまりにも見覚えがありすぎて、私たちを遠くへ――少なくともこの狂気じみた現実をその外部から見ることができるほど遠くへ、連れて行ってくれないことも事実なのであった。現実がこれほどディストピアに接近してしまったとき、小説には、より遠くへと飛躍する力を求めたくなるのである。
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なんとも言えない不快感と、気持ち悪さを感じた。
もしやこれが作者の伝えたかった事なのか?と思うくらい、意図的な気持ち悪さ。
何が正常で何が異常か判断できなくなるような感じでした。
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小説におけるリアリティを追及しても、作者の主観から脱却する客観は不可能であるとすれば、フィクションとしての物語を追及するべきと思わされました。
舞台のモデルを探しながら読みましたが、読み進めるうちにその思考は無意味であると気づきました。
何も感じない読了感覚でした。
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うーん、なんなんだろ…なんかイヤな読了感。
この作品の私小説的な部分は好き。
いわゆるディストピア小説的な部分はなんかモヤモヤした感じでよくわからないまま終わるし、なんだかなぁ…
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いったいこれは何なのか。裏表紙を読めば、被災して蘇りつつある復興の町で暮らす少女の回想であることがわかりますが、それを読まなければ中盤までそんな町の話だということはわかりません。
話し手は三十代の女性で、小学生の頃を思い出して綴っているみたい。彼女の家庭はものすごく貧乏で、着ているものが臭うほど。だけど彼女が暮らす町ではたいていの人が貧乏だから、臭いからといじめられるわけではない。むしろ同級生と「臭いよ」と笑い合えるぐらい。母親はいつもピリピリしていて、自分の何が母親を怒らせているのだかわからない。そんななか、同級生が立て続けに死ぬ。新鮮だと謳われている地元の魚や野菜を食べて。
終始不穏な空気がつきまとい、なんだか不快になる描写も多く、読んでいて気分のいいものではありません。なのに惹きつけられてしまいます。
中盤になってようやく、この町全体がおかしいことに気づかされます。復興に向かって一見前向き、だけどみんなと同じように行動することで安堵している。個性を発揮すれば病気とみなされる町。これはもうホラーだと思いました。
著者はあちこちの学校で教員を務めていたとのこと。こんな不気味な作品を書く人の授業はさぞかしおもしろかろうと興味が沸きます。その反面、ちょっと怖かったりもして。
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ここはB県海塚。新鮮な魚や野菜が手に入るこの町で、町民は心を一つに支え合いながら生活し、子ども達は自主性を重んじる学校に通いのびのびと育つ。同級生の急死が若干多い点はさて置き、理想的な共同体から外れまいと必死に努力する主人公の少女だがー。モダンディストピア小説と聞き、真っ先に手に取った本作。ポスト3.11の日本を痛烈に揶揄した、薄いながらもインパクト大の一冊でした。最初から最後まで不穏な空気満載で、先が気になり気になりページを繰る手が止まらない。明らかに子どもがナレーションしている分、『向日葵の咲かない夏』のような「信頼できない語り手」のトリックには引っ掛からないぞ~!と構えていたものの、ラストの主人公の卓見が伺える独白には衝撃を受けた。特に一番最後の台詞が良い~。同調圧力に極端に弱いと言われる日本人だからこそ書けた作品だし、日本人だからこそ読むべき作品だと思う。因みに母に勧めたら「結局なんだかよう分からんかった」と一蹴されました。
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前から知人がオススメしてくれてた本。
思ってた以上に不穏で、続きが気になってついつい読んでしまい止まらない感じ。内容は、社会への風刺が多分に含まれてるけど、頭でっかちに語るのではなく感覚としてわかる感じ。だから、あーそうかこうやって社会はねじれ始めるんだ、と身につまされる。
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不穏な描写が続き、なんとも言えない不気味な展開が続く。ディストピア小説として下手なSFじゃなく、震災後の延長上に存在しそうな世界観だったのは良かった。
多和田葉子の『献灯使』という同じく震災後のディストピア小説も読むと、文学界にも東日本大震災や原発事故が多大な影響を与えていることに気づく。