紙の本
待望の復刊!(原著改定版でもある)
2017/03/20 07:19
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『熊と踊れ』で注目が集まったアンデシュ・ルースルンドのデビュー作にしてガラスの鍵賞受賞作。 一応、<グレーンス警部>シリーズ第一作となっておりますが、この作品の中では印象が薄い(のちのち、シリーズが進むにつれ彼中心っぽくなっていきますが)。
私はかつて武田ランダムハウス版で読んでいるから(しかし版元倒産のため、現在すべて絶版のところをハヤカワが『熊と踊れ』のヒットに当て込んだ模様)・・・とスルーしかけましたが、「筆者改定版を反映した新たな文庫化」ということで・・・やっぱりデビュー作だから、ご本人としても振り返ると直したいところがあったのか。
ちなみにこのシリーズ、「北欧のイヤミス」と当時は捉えられていましたが、そうではないのです。 確かに読後感は最悪ですが、あくまで事実をベースに作品を書いている。
これはスウェーデンの、ある意味先進諸国の暗黒面なのです。
もし、これで絶版分(『BOX21』と『死刑囚』)を早川が責任もって出してくれるというのなら、この体裁で揃えますけど!
紙の本
死刑や終身刑がない社会が抱える病魔
2017/10/19 22:55
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
娘を性犯罪者に殺害された父親が、その犯人を見つけ出して撃ち殺す。これがスウェーデンの司法制度を揺るがす大事へと発展する。感情的になった市民の行動は、生々しく描かれて恐ろしかった。被告となった父親がどんどん無感情になっていく様子は読んでいて心苦しくなった。ラストは私制裁に対する強烈なアイロニーで幕が閉じられています。どんな不条理なことが起きても、リンチを認めてはいけないという著者のメッセージではないでしょうか。
紙の本
何が正しいのか?
2018/07/02 20:10
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投稿者:tolk - この投稿者のレビュー一覧を見る
捕まっても捕まってもまた犯罪を繰り返す犯罪者。そして、スウェーデンは死刑制度のない国。新たな犠牲者を生まないための私刑。作者あとがきに書かれていた、どの登場人物のような状況に置かれた人も現実に存在するという言葉に鬱々とした。
スウェーデンミステリは好きだけれど、このシリーズはもう読まないつもり。
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作中何度か突きつけられるような
テーマと描写があり
そしてラスト
さらにはあとがきすら
問題を突きつけてくる。
この本を読んでから、子供を連れて
女の子用のおもちゃの人形コーナーに行く都度
置いてあるバラバラに荒らされた
おもちゃの家と女の子の人形を見て
この本のことを思い出してしまう。
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途中から話の流れが大きく変わり、単純な事件ものから社会ものへと話が大きく変わりました。
個人的な復讐が罪となるのかならないのか
難しいです。
気持ちが分かるけど、それを許してしまうと
全てのシステムが破綻をきたす。
必ずしも気持ちとルールがイコールにならないってのは、当たり前だけれども不条理なものです。
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人は誰かのために何かを為すことは多分できない。だから社会は不完全だ。でもその社会の中でしか生きられないのも人なのだという矛盾を強く感じる。
テーマは重いし、救いはないし、読むのが辛いけど読まなきゃいけない気がしてとても疲れる一冊でした…
あと訳がやはり素晴らしい。北欧ミステリなのに誰が誰だかわからん!てならなかったのは翻訳の手柄もあると思います。
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鬱度がハンパない北欧ミステリ小説。
登場人物が多くて名前も覚えにくいのが難だが、バラバラに進んでいたお話が終盤どんどんつながり収束していく。これぞ小説の醍醐味。
タイトルの「制裁」には何重もの意味がある。
グロいだけでなく、いろいろ考えさせられる話だった。
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タイトルが全てを語っているのだが、最初はサイコスリラーっぽい話かと思ったが、どんどん、ストーリーは拡がって、最終的に、解答は出なかったのでは。
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さらわれた娘救出劇なのかと思って読み始めたら、なるほどそうきたか。
さすが北欧ミステリー、容赦ない。
答えの出ない重いテーマにこれでもかってぐらいダークな展開で読み応えあり。
小細工なしでここまで衝撃のラストにできるのはすごい。
視点がころころ変わるしスウェーデンの人名地名が聞きなれない響きで難しいから丁寧に読まないと置いてかれそう。
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見通しの良い直線道路を走ってゴールが見えたと思ったら、90度曲がって全然違うゴールに連れていかれた。
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面白かった。
「制裁」という日本語を噛みしめる。
戦争にしても殺人にしてもいじめにしても、それぞれの立場に立った時に見える景色は違う。
考え続けること、思考停止しないことしかない。
ただ1人、犯人だけは本当に最低!と思ってしまうのだが、
またそこにも落とし穴を感じて、薄気味悪い。
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5月-13。3.0点。
幼女殺人犯が、護送中に逃亡。また5歳の少女を陵辱し殺人。
被害者の父親が警察より先回りし、犯人を狙う。
ラストはそれなりに衝撃。まあまあ。
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北欧の警察小説って、やっぱり、どこか独特。って言うか、ハッピーエンディングじゃないよね?
そもそも、この作品の事件自体が陰惨な訳だけど、実はそれは想像上の産物と言う訳では無く、実際に起きた出来事と言うのも衝撃的。
それとこの作品で興味深かったのが、スウェーデンの刑務所事情。服役した経験のある人物が、作者の一人なので、詳しいのは当たり前なのだろうけど、ものすごく開放的。刑罰と言うより、教育と言う感じの刑務所。そう言う日本とは異なる制度の描写も、見どころかも。
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アンデシュ・ルースルンドの本は、『熊と踊れ』から入り、『ボックス21』を読み、この『制裁』で3冊目。
色んな立場の人の視点から物語が進められるが、それぞれの立場に、感情移入することができるのが不思議。
今回も、犯罪を通して社会問題や倫理の問題を投げかけられた。
自分の中で考えを纏めるのに時間がかかりそうだが、人が人を裁くって難しい。
訳者あとがきより抜粋
『他人の命を奪うことで、子どもの命を守れるとしたら、大人はそうすべきなのか。そうやって、人の生命の価値を、同じ人間が決めてしまうことは、果たして許されるのか。それが許されるとき、怪物が生まれるのではないか……。』
しばらく考えてみる。
次は『死刑囚』!
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北欧の新進作家として高い評価を得ているルースルンドとヘルストレム合作による2004年発表のクライムノベル。暴走する群衆心理の怖さを主題とし、息苦しく虚無的な展開で読後感は重い。
4年前に二人の少女を強姦/惨殺した凶悪犯が護送中に脱走、その足で幼児を拉致して殺す。子どもの父親は憤怒の念に駆られて復讐を決意。遂には殺人者を追いつめて、娘の仇を討つ。報復行為はマスコミによって大々的に喧伝される。刺激を受けた大衆は、画一的且つ曖昧な「正義」への使命感に昂揚/熱狂する。そこには、犯罪者の人権を優先し、新たな犠牲者を出す危険性を考慮しない国家体制/機能への不信と憤りがあった。警察を無視した性犯罪者狩りが始まり、私刑はエスカレート、制御不能となる。
或る瞬間を堺に、異常へと変わる日常。
無常にも愛する者を殺された時、法の裁きに委ねるよりも、己自身の手で罰を与え、復讐を成し遂げたい。例え当事者でなくても思うことだ。さらに、異常者による無差別殺人、それが誰の身にも起こり得た情況であり、殺害方法が冷酷/残酷であればあるほど、憎悪は増し、犯罪予備軍の脅威が高まる。
遺恨を持つ者による断罪をマスメディアが正義の行為として黙認し、「悲劇のヒーロー」として持ち上げ、より一層大衆を煽った場合、極めて粗暴な「制裁」が下層社会でまかり通る。たかが外れ倫理観を失い、怪しい奴は排除せよという暴力の標榜へと向かう。殺人者との〝狂気の差〟は、当然のこと縮まり、同化していく。無法化は、享受する者が無価値と判断した時点で起こるのである。
罪と罰の命題は、ミステリ小説の根源的テーマでもあり、殺人者を「どう裁くか」に焦点を当てた作品も増えている。娯楽性重視の〝本格推理もの〟であれば、メインの謎解きと解決で幕を閉じれば終わりだが、犯罪の〝質〟の異常性がより深刻化している現代に於いては、犯人逮捕で一件落着ではなく、社会的な影響も含めて、罪に値する罰に何が相応しいかという提議も、重要な意味を持つ。本作は復讐譚の「その後」を重点的に描くことで、極めてアクチュアルな問題提起をしていると感じた。
決着を明確に提示しやすい〝法廷もの〟は別として、物語の大きな山場ともなる罰のあり方、つまりは結末の付け方は作家の腕の見せ所でもある。クライムノベルやハードボイルドでは、大抵は暴力的な結末へと至り、善悪関わらず殺人者の死を持って終結することが多い。本作は突き詰めれば、その因果応報に沿うものだが、最後に待ち受ける復讐者の運命はあまりにも哀しい。揺るぎないはずの「正義」を容易に打ち砕く不条理こそ、この物語の終幕に相応しいとは、何たるペシズムか。