紙の本
豊かなドイツ史観にひたされて。
2009/07/15 10:12
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k** - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツと聞いて何を思い浮かべるだろう?
ドイツは世界史においてもメジャーな地域で、世界史を少しでも習っていれば、神聖ローマ帝国、ハプスブルク家、ビスマルク、ヒトラーなどを容易に思い出すことができる。時代の各所において、優れた統治者や学者を輩出し、斬新な国家体制や土地経営、対外政策で世界を揺るがしていく躍動的なドイツの姿を思い出すことができる。
しかし、神聖ローマ帝国やビスマルクやヒトラーをどう歴史の中に位置付け、それがドイツ史の中で、はたまた世界史の中でどういう意味を持つのかと考えてみたとき、それはあまりに複雑すぎて、頭がぐるぐるして、よくわからなくなってしまう人も多いかもしれない。
本書はまさに、そういう人のためにある本だと思う。なにせ、ドイツという名前すらまだないような頃から冷戦の崩壊に至るまでの歴史を10の章にわけて一気に説明しようというのだから、細かいことをぐだぐだいっている余裕はない。とにかくそのエッセンスを集約し、歴史の大きな流れを追っていくような大胆さが必要だ。そしてこの「ながれ」の中に、歴史を学ぶことの面白さを比較的誰もが気軽に感じることができるのではないかと私は思う。
本書はこの役割を見事に果たしている点でとても読み応えのある素晴らしい一冊だと思う。まず、文章の書き方において、事実と様々な歴史家のそれへの歴史観と筆者の主張が明確に分けて書いてあるので、読む側にとってとてもフェアでわかりやすい。問題提起とその思考の筋道が示してあるのも、自分も一緒になって考えていくことができるのがよい。
全体を通して、筆者がドイツの特徴として特に注目しているのはドイツが伝統的に連邦制的性格の強い国家であることだろう。これこそが、一君主の中央集権体制から国民国家を築いていったイギリスやフランスと大きく異なった点であり、ドイツの歴史の中で長所にも短所にもなった政治体制なのだという。それは神聖ローマ帝国に端を発するが、初めはばらばらの地方をキリスト教という思想と教会というシステムによって結びつけることによって帝国の一員としての連帯感を作り出していた。それが長い歴史を経て、現在の連邦制を取るドイツに受け継がれ、民主主義に柔軟性を持たせる要素として機能しているというのだからその途方のない時間と文化の重みにため息が漏れる。
読み終わった頃にはドイツ史を、そして世界史をもっともっと豊かな視点でみられるようになれる。ここから始めてもっと世界を知りたいと、歴史を知りたいと思える。そんな読後感の残る一冊であった。
紙の本
ドイツとはこんな国だったのか
2003/05/05 23:46
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ビブリオフィリア - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツ史というと、ナチズムの印象がどうしても強い。そのナチズムを生じる前に、過去千数百年にわたって、どのような変遷があり、どのように文化の豊かさがあったのか、を非常にコンパクトに読みやすくまとめてくれて、ドイツの魅力に改めて目を開かれた。
ドイツ社会成立についてのさまざまな見方の紹介や著者独自の見解にふれられているのもありがたい。
最近のドイツの状況も、こうした歴史背景を踏まえると納得される。
歴史の概説書にある無味乾燥さがないのは、著者の筆力によるところが大きいのだろう。ドイツだけでなく、ヨーロッパ全体を、その背後から理解しようとする著者の姿勢が鮮明に感ぜられる本だった。
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やはりドイツ史は複雑だと思いしらされました。「神聖ローマ帝国」という概念を日本人はどう理解すればいいのか、未だに迷ってしまいます。とくに帝国が解体し再編されていく近代の動きは、本書は著者が近代史の専門ということもあり期待して読んだのですが、あまりよく分かりませんでした(というよりも、高校世界史でふれられている内容にはあまりふれていない)。新書という形ですから、あまり一部の内容を深く掘り下げずに、もっと概略的に、例えばビスマルクのフランス孤立政策やヴィルヘルム2世の新航路政策など高校生も知っているような内容に深く切り込んでほしかったと思います。
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正直興味のあるところしか読んでいませんが読みやすいしわかりやすいです。
プロイセンのところとフランスのところをニヤニヤして読みました★
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「フランス史10講」にくらべ、少々著者の意見が多く含まれている本であった。しかしながら、マルクスやエンゲルスの「唯物史観」への多少の批判も含まれている。
イギリスとドイツは資本主義発達の比較対象として語られるが、その上では「イギリスやフランスは絶対王政を早いうちから確立したが(もちろん仏英はそれぞれ違うのが)、ドイツは封建制が色濃く残った。」とする議論である。しかしながら、三十年戦争が起こるまではそこまで分権的であったわけでもない、ようである。
またしばしばドイツの人口が3分の1が死んだとする三十年戦争という議論があるが、少し言い過ぎだそうだ。もちろんこれでドイツの発展がかなり遅れ、その上ドイツは立地条件的に東や西からの侵略に悩まされ、その上宗教改革などの対応にも追われるなどし、三十年戦争の復興は絶対王政を確立するための絶好の好機であったともされるが、その時期を逸してしまった感が否めない、とする。
またルターばかりが宗教改革を行ったかのような印象を受けるが、当時はカトリック教会自体の権威が揺らいでおり、その上ペストの流行や三十年戦争などの内乱が相次ぎ世の中の治安が悪化していて、比較的自由な空気になっていた。その上諸侯の権力が増しており、改革に乗り気な諸侯もいた、ということから、ルターの宗教改革が成功したともいえるようである。
その後のドイツ帝国の発展は、概ね帝国主義段階の政策と一致する。
また時代はかなり下りナチスドイツの登場の記述で、大衆の反逆という記述は、今の日本の国政にもかなり云えるような部分があるように思う。権利を主張し、きわめて自分に甘く他人に厳しい言論がまかり通っているのではないだろうか。もちろん意見を表明する権利は確かに与えられている権利ではあるのだが、果たして政治家にあらゆる行動を要求するのは、民主主義といえるのだろうか?それはポピュリズム―またの名を衆愚政治というのだが―ではないだろうか。ナチ党の言論はユダヤ人を攻撃対象としたが、これはポピュリズムの一類型と呼ぶに相応しいような気さえする。民主主義の意味を問わざるにはいられない。もう一度ジョン・F・ケネディ―もちろん彼の政治家としての評価は種々様々であろうが―もう一度「アクティブ・シチズン」の意味を問い直したい。
と、自分の読直後の記憶を頼りに綴ってみた。フランスと対比することにより、より深く考えさせられる歴史である。他人事ではいられない。
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地理も歴史も子どもの頃から苦手だったのだが、この2つは、いろんな本を読む過程で必須の知識である。とはいえ、幾つか「世界史」の概略を読んでみてもややこしくて混乱してしまうので、図書館から国別の歴史ものを借りてみた。
新書なので、簡単に読めるが詳しくはなく、記憶にはあまり残らないかもしれない。
統合と分散を繰り返すドイツの歴史、近世以降はやはりややこしい。
あと、ドイツがなぜヒトラー/ナチスを生み出し得たのか? このような暴力的勢力に権力を持たせて、国民は何も拒否反応を示さなかったのか? という興味がある。
しかしたぶん、ヒトラーは凄かったのである。第2次大戦でロシアに攻め入るまでは、ヨーロッパのほとんどを制覇してしまったのだから、とにかく強い。権力への熱狂が国民をも包んだろう。もちろん、ユダヤ人や他国人の捕虜が虐殺されるくだりを読むと身の毛がよだつが。
ナチス時代と、近代以降の高度な文化・学問の繁栄とを思うと、やはり不思議な国である。
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第一次大戦後と第二次大戦のドイツ史を知るために利用した。
この本は歴史の流れと重要な登場人物を把握するのに非常によい上、歴史が明らかにする人間社会の問題について考えさせられると感じた。
簡潔に歴史上の事件の流れが述べられている上、当時の経済状況を失業率の数値で具体的にのべられていたのでイメージがしやすかった。またヒトラーの思想や政策についても解説されていた上、ヒトラーが独裁体制を確立していった経緯や背景のヒントが示されていて興味深い。特に当時世界で一番民主的な憲法があったにもかかわらず、なぜ独裁が成立したかという点に関して、当時の国民や政治家に民主的な議会政治が成熟していなかったことを指摘しており、問題を理解するヒントになった。
ただ、いくつか鍵となる歴史の事件の扱いがあっさりしていたなという印象。流れをつかんで、他の書で気になったところを調べるのによいと思った。
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ドイツには、1昨年、はじめていきました。ベルリンです。
最初の印象は、パリに一番近い都市だということです。
パリのような、世界の文化の中心を目指しているが、パリではない。
昨年、ミュンヘンに行きました。ドイツ博物館を訪問しました。
それからドイツに興味を持ちました。
本書では、アルミニウスがローマ軍をトイトブルクの森で破ったという、タキトゥスの話を最初に紹介しています。
神聖ローマ帝国、ハプスブルク家、ビスマルク、ワイマル共和国、ナチスについては、名前は知っていたが、関係はよくわかっていなかった。
3度目にニュルンベルグに行って,ドイツの歴史が立体的になったきがしました。
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ヨーロッパの中のドイツという視点で書かれている。ドイツ帝国から現代までの比重が高い。講の始めに関係年表があり、所々に地図もあるので資料性も高い。書かれた年も2003年なので最新の研究が盛り込まれており、講の区切りで読んでいくと大学の講義を受けている気分になれる。
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政治体制の変遷、特にヒトラーのくだりが興味深かった。やはり通史は楽しい。
・大学の誕生
・啓蒙と絶対主義
・ドイツ語での授業、ゼミナール、エリート官僚
・研究中心の大学
・オルテガの指摘、教養の喪失
・地域の政治モデル、ドイツ
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「ヨーロッパのなかのドイツ」を描くというスタンスで著されたドイツの通史。
領邦国家、連邦国家としてのドイツ、という性格が本書全体を通しての縦糸になっているように思う。
我々はつい簡単に一つの国家としての「ドイツ」という言葉を発するが、そうでない時代のほうが遥かに長く、そのような伝統に根差した国だというのは新鮮な発見だった。
そういった性格を持つドイツの歴史を見つめることで、欧州連合の行く末を考える視座とすることを狙いとしているようだ。
本書の分量からして仕方がないが、ある程度駆け足で話題の取捨選択もあるし、上記のように「ヨーロッパの中のドイツ」をテーマにしているため、まずこれで学ぶよりも、ヨーロッパ史の大略をしっかり頭に収めてから読んだ方がきっといい読書体験になるものと思われる。
自身のヨーロッパ史の知識が不十分だったことと、本書のスタンス、著者のやや生硬な文章があいまって、本書の良さを十分吸収できなかったのが残念。
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ドイツについての歴史講。日本は島国なので、一つの国としての歴史を講じやすいが、陸続きのヨーロッパにおいて、現在の国境による国家の歴史を語ることは容易ではない。それでも様々な変遷を紐解きながら関わりを重視し、ドイツ史を講じてくれる。細かい歴史考察ではなくて、あくまで移り変わりと関わり合いを重視した10講である。今の私の関心はローマ時代から中世に欠けてなので、6講までで満足している。読み返しながら、ノートをとる。フランス史のこれとも重ねながら読みたい。
15/3/16
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今まで気がつかなかったが「国民国家」として歴史を考えたとき、ドイツ史は難しい。フランク帝国、神聖ローマ帝国、ドイツ帝国、いずれも現代ドイツとイコールではない。
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ドイツの歴史を10講にまとめた、1冊です。
文庫本にまとまっているのには非常に便利です。
なかなか馴染みのない中世や現代のドイツは複雑な成り立ちで、世界史の勉強をしていた頃にはさらっと流していた部分もしっかり理解できました。
この本は歴史解説ではなく、歴史観を含めたドイツ史を読むという点で読むことで、非常に楽しめました。
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岩波新書の「10講」シリーズの既刊3点を読んでみたが、本書が一番読みやすかった。新書一冊でドイツ史まるごとを語るというのはそもそも無理なので、題材の適切な取捨選択が必要だが、本書の著者はそこら辺の塩梅を大変うまくやっているように思った。結果、全編の見通しがとてもよい本に出来上がっている(この点、あれもこれもと詰め込んで混沌としている『イギリス史10講』と対照的である)。著者自身の体験を交えて語られる現代ドイツのくだりも興味深い。