宗教の本質を捉えている、イスラーム文化の第一級の啓蒙書
2005/12/28 19:02
16人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イスラーム教の根柢を説明する、第一級の啓蒙書。著者は岩波文庫の「コーラン」(上・中・下)を親しみやすい口語で訳している著名な宗教学者。ユダヤ教、キリスト教だけでなく、仏教にも言及しながらの、イスラーム教の成立、本質、内部の対立などについて体系だった明快な説明となっています。
世界情勢にからんでイスラームを知りたいと考え、入門書をさがした中では最も理解を助けてくれたのが本書でした。目を通した中には、タイトルは目を引いても著者の旅行記の如くで終始していたり、著者の立場があまりにもですぎていたりするものもありました。本書は読みやすく、根元にせまるポイントを簡潔にまとめていて信頼できると感じさせます。他宗教との違いのみならず、普遍的な部分なども読み進むうちに感じ取れる、というのは本質を本当にきちんと摑まえて書かれているからだと思います。
イスラーム教と言えば「片手にコーラン、片手に剣」と世界史の授業で習ったことぐらいしか覚えていなかったのですが、これも必ずしも真理ではないことなど、読み進むうち随分「イスラーム観」が変わってきました。
副題にあるとおり、「根柢にあるもの」の説明ですから、現在の世界情勢に直接関連する説明としては物足りないかもしれません。しかし、「根柢にあるもの」を知った上でもっと具体的な事例にあたれば、より深い理解が得られると思います。
講演の記録をおこした文章ということなので、少々くり返しがあったり、論旨が行ったり来たりするところもありますが、それでもポイントを理解するのが難しくなる、ということはありませんでした。
これを読んでから著者訳の「コーラン」を読むと、さらに面白く、よく理解できる気がします。「コーラン」の各巻末にある著者解説も大変コンパクトによくまとまっていてわかりやすいです。
8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イスラムは日本人にとって 遠くて遠い世界である。物理的にも遠いし 精神的にはさらに遠い気がする。特に 9.11テロ以降、その印象は強くなったのではないか。
但し イスラム教徒は世界人口の20%を超えていることも現実だ。もし僕らが今後世界を理解したい、もしくは せめて世界を考えたいと思うなら イスラムへのある程度の理解は不可欠だろう。
名著の誉れ高い本書は イスラムの入門にはベストであると良く言われる。ようやく読む機会を得て その評判がよく分かった。
大川周明が 著者の井筒俊彦を支援していたと佐藤優がどこかで書いていた。大川周明は東京裁判の狂態で有名な方だが 戦前からイスラムに注目し、戦後にコーランを翻訳したことでも知られている。大川自身も 佐藤優の仕事で少しづつ再評価されつつあると思うが あの時代にイスラムに注目していた大川と それに続いた井筒はやはり慧眼であったと 今 思う。
「文明の衝突」時代を迎えた現代、少なくとも日本人がイスラムに関して透徹な視点を持っているとは思えない。そんな中で 本作は 今 重要になってきた一冊だと思う。
非常に分かり易い説明だ。井筒は こう言っている。
「事態をあまり単純化して叙述することは 勿論 学問的には大変危険なことではありますが しかしイスラーム文化なるものの本質的性格を根底的に理解するためには 先ず第一歩として ごく大づかみに全体像を見ておくことも大切ではないかと存じます」
この言葉は そのまま今の僕らに そのまま当てはまる言葉だ。井筒が 学問者として「大変危険なこと」を冒すというRISKを背負って 読者にイスラムの全体像を見せたいという迫力が 本書の大きな魅力だ
イスラーム理解の最良の書
2002/07/30 01:22
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:影山 師史 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は講演の記録であるから口語体で非常に分かりやすくイスラーム文化の基本的な構成について書かれている。私が初めてこの本を手に取った時、イスラームというものがどうゆうものであるのかと言うことに関して全く知らなかった。しかし、この本は予備知識なしに読んでも非常に分かり易かった。イスラームにおいて政治と宗教が一体であるということ、コーラン解釈について、スンニー派とシーア派の違いとその原因など、この本を読むことによって、最近のイスラーム社会の問題点などの原因などが少し理解できるようになった。イスラームについて知りたい人はこの本からはいると良いと思う。
理解できないものにどう接するか
2022/06/12 08:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「イスラームとは何か」を知り、考えるための入門書的書籍だが、完全には理解できないものに対してどう接するか、という大切なことを教えてくれる本だと思った。
心静かにイスラム入門できます
2015/09/30 22:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
井筒先生の手による極めて読みやすい本です。講演集であり、ここまで読みやすいのはまずないと思います。
タリバンやISなどの様々な解説本が出ていますが、すこし現状の事件的な事例に引きづられてしまい、冷静にイスラムとはなにかなら、まず先に読むのは本書だと思います。
イスラムは決してファナティックではない、温かいまなざしで離されています。
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世界的に有名な碩学によるイスラームの入門書。講演を起こしたものなので読みやすい。スーフィズムやシーア派の思想にも触れ、精神性の高い哲学を有する宗教としてのイスラームの一面を詳しく論じているので、イスラームに対し「戒律の厳しい砂漠的宗教」といったイメージしか持っていない人にぜひ読んで欲しい一冊。
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イスラム文化についての講演を、幾らか編集したもの。
したがって予備知識が無い人でも問題なく、順を追えば理解しやすい内容になっている。
ムスリムの宗教概念やどういう法的意識を持っているか、「スンニ」「シーア」の宗教的違い、という段階から理解する為の手引書としては最適。
日本のイスラム観は、井筒の認識を乗り越えていないばかりか、退潮しているきらいもあり、そういう意味では、いまだ「古典」ではない存在。
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イスラムに関する著書も多い井筒 俊彦氏が市民に対して3回イスラム文化的な、イスラムに共通してある考え方について講演した内容。
今後はイスラムが熱いと豪語するI垣君に刺激されて、手始めに読んでみました。
イラク戦争の泥沼化から脱却できない状況が続いていますが、イスラムの成り立ち、考え方などが非常に明快に書かれている。
イスラムは一言で言うならばコーランの解釈につきる。←ちょっと言いすぎかもしれない。
この解釈の違いから
正統派と呼ばれてるスンニー派とシーア派が分かれている。
コーランはアッラーによる命令と禁止から成り立つことから、イスラム社会では論理学の中でも命令法が非常に発達してるなど、イスラム社会の根底にある特徴などが少し見えました。
キリスト教、ユダヤ教と並ぶ一神教宗教を理解することはグローバル化が進む現代では大事ではないでしょうか。
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2回目読破。
何度読んでも分かりやすいが、シーア派のところとかはいろいろと名前を覚える必要がある。なんとなくイスラムと言うと、苛烈なイメージを持ちがちだけれども、宗教の血塗られた歴史というのは、おそらく、どんな宗教でも似たようなもんなんだろうな。もっと言えば、最近は殺し合いの責任を宗教ばかりに投げつけるのも、なんだかおかしいような気がしている。
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上辺だけでなく、文化の根源に迫る1冊でした。
コーランとハーディスについて、そしてイスラム教徒の中でのその解釈や
思想の違いについて、言葉は分かりやすくもそれなりに深いところまで書
かれています。
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(2006.10.25読了)(2000.10.27購入)
副題「その根柢にあるもの」
「コーラン(上)」、「コーランの世界」、「コーラン(中)」と読んできたので、「コーラン(下)」を読む前にもう一休みで、訳者の本「イスラーム文化」が積読の中に見つかったので読むことにしました。
この本は、1981年に行った三つの講演を活字にしたものということです。講演全体を通しての主題は「イスラーム文化の根底にあるもの」で、各回の講演のテーマは、第一回「宗教的根底」、第二回「法と倫理」、第三回「内面への道」です。
講演の記録ですので、読みやすくなっています。分かりやすいともいえます。コーランを読むだけではわからいことが色々書いてありますので、お勧めです。
●イスラームは商売人の宗教(29頁)
商業取引における契約の重要性をはっきり意識して、何よりも相互の信義、誠、絶対に嘘をつかない、約束した事は必ずこれを守って履行するということを、何にも増して重んじる商人の道義を反映した宗教だったのであります。
●言葉の解釈の自由性(42頁)
言葉の解釈というものには以外に大きな自由があるものでして、与えられた一つの語、あるいは文が、それを解釈する人の性向や、思想や、感情によって驚くほどいろいろな意味に解釈されます。時にはまるで正反対の意味にもなる。
神の言葉の解釈の仕方がもとで、イスラームは自分の死後、次第に四分五裂していくだろうと、預言者ムハンマド自身が信じておりました。
●復活(136頁)
輪廻転生の場合のように、死んだ人の魂が幽冥界に生き続けていて、それが次々に全く別の肉体に宿るのではなくて、死に絶えていたその人のその同じ肉体が復活の日に生前の形に戻って、それにその魂が再び結合されて生き返る、つまり元の人が元のまま生き返るのですから、この世の生が重要になるのです。
●聖俗不分(144頁)
イスラームは「神の国」と「地の国」の分離は絶対に認めません。「神のものは神へ、カエサルのものはカエサルへ」というキリスト教的理念が全然通用しない世界なのです。勿論、人間が普通の日常生活を生きている以上、世俗世界は事実上存在しています。しかし、イスラームの立場から申しますと、これは世俗世界とは申しましても「聖なるもの」が底の底までしみ込んだ世俗世界でなければならない。
人間生活の全体が、毎日毎日の生活、その一瞬一瞬が、神の臨在の感覚で満たされなければならない。そういう生活様式に人生を作り上げていくことによって、人は神に真の意味で仕えることができるのだ。
●善悪は神が決める(151頁)
イスラームでは事物の本性が善悪を決めるのではない。人間の理性が善悪を判断するのではない。神の意思で善悪が決まるのです。例えば、人の持ち物を盗む。盗みということがそれ自体として本姓的に、あるいは理性的に、悪いことだから悪いというのではありません。神がそれを悪いと決定したから悪いのです。
ムハンマドが世にあるあいだは、どんな問題が起こっても、ムハンマドにお伺いを立てさえすれば、その答えが直ちに神の意思だったのであります。彼の死後は、神の意志の間接的表現として「ハディース」が非常に重要になってまいります。
●イスラーム法(156頁)
「コーラン」と「ハディース」を基にイスラーム法が作られた。イスラーム法には、四つの学派があり、現在も存続している。イスラーム法では、宗教的儀礼の規則、民法、商法、刑法、食物や飲み物、衣服、挨拶の仕方、等、社会生活から家庭生活の細部に及んで詳細に規定されている。聖典解釈の自由は西暦9世紀中ごろに禁止されました。
このことが、近世におけるイスラーム文化の凋落の大きな原因の一つでした。
☆井筒 俊彦の本(既読)
「イスラーム生誕」井筒俊彦著、中公文庫、1990.08.10
「コーラン(上)」井筒俊彦訳、岩波文庫、1957.11.25
「コーラン(中)」井筒俊彦訳、岩波文庫、1958.02.25
(「BOOK」データベースより)amazon
イスラーム文化を真にイスラーム的ならしめているものは何か。―著者はイスラームの宗教について説くことからはじめ、その実現としての法と倫理におよび、さらにそれらを支える基盤の中にいわば顕教的なものと密教的なものとの激しいせめぎ合いを認め、イスラーム文化の根元に迫ろうとする。世界的な権威による第一級の啓豪書。
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これだけは、誰もが一度は読んだ方がいい、と強く勧められる一冊。
イスラームについて、何も知らない状態から入って、その根源的な部分にまで触れることができる。
もっとイスラームについて学びたくなる。
イスラム教徒の「すべては神が決めてくれる」的なあの楽観は何なのか。
スンニ派とシーア派はなぜあんなにも仲が悪いのか。
ようやく分かりました。
本来、小学校中学校で教えるべきは、こうした文化や歴史の話なのだろう。
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講義のレポートを書くために読んだ。
副題の通り、一からイスラームについて理解できる、最適の入門書である。
井筒氏の講演を収録したものだから、読みやすい。
イスラームでは政治=宗教である。さらに、イスラーム法が日常の細かいことまで規定しているために、ムスリムにとって、法を無視することは宗教的背信行為なのである。
その他、スンニ派とシーア派の対立の要因(すなわち、イスラームが抱える内的矛盾)についても解説されている。
教養として読むことを勧めます。
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大変読みやすいイスラーム文化の入門書。
日本だとイスラームに無知な人が多く、
イスラームだというとテロだのなんだの物騒なイメージをしか
持っていない人も散見せられるが本当にそんな単純なものなら
世界三大宗教の一つにまでならない。
仏教、キリスト教と抑えたらまずこの一冊を手にとってイスラームの文化に触れてほしい。
基礎の基礎ではあるけれどイスラームの深淵がちょっとだけ見えてきます。
ここをとっかかりにして是非井筒俊彦さんの他の著作や
他のイスラーム関係の本に入っていけばきっと自分の世界が大きく広がるでしょう。
国際人としての最低限の教養としても理解しておきたいところ、
恥をかかないためにも外国へ出る前、外国人に接する前に読んでおきましょう。
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昔読んだ本で、イスラム教についての理解を深めることは出来たと思う。しかし、実際にイスラム教徒に会った時に本書の内容を思い出せるかどうかは別問題。