- 販売開始日: 2017/07/01
- 出版社: 河出書房新社
- ISBN:978-4-309-01258-2
説教師カニバットと百人の危ない美女
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「ブス」であることの矜持
2006/05/07 18:07
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
「絶叫師タコグルメ」つながりで、カニバットを再読。
やっぱりカニバットは傑作だと思う。笙野頼子という作家の特質、美質がとてもよく出ている。ホラー漫画経由かと思われる笑えるスプラッタ、徹底して私に即してその内面をサラしてしまうことで既成の通俗観念が隠蔽するものを容赦なく暴き立てる強靱さ、そして悪趣味でぶっ飛んでて強烈な独特の言語感覚。「醜貌の女性」といういまでもまだ「見えない存在」っぽい問題について、徹底的に自分を素材にすることで可視化することに成功した希有な作品。
この小説では、偏執的な結婚願望(結婚によって救われようとしている存在)に取りつかれた女ゾンビたちが、結婚していないくせにその境遇に不満を抱いていない主人公八百木千本に、独身・醜貌の惨めさを認めさせようと徹底的な攻撃を繰り返してくる。で、「巣鴨こばと会残党」を名乗るゾンビ—百人の危ない美女—たちのその攻撃、八百木千本のファックスに一日で二万以上の紙代を費やすほどの文書が送られてくる。
上品な言葉遣いを志向していながら書かれている内容はきわめて差別的かつ暴力的で、そこでは古風な結婚観や道徳観、差別的な女性観が、グロテスクなまでに誇張され戯画化された形であらわになっている。男尊女卑思想の露骨なパロディが、延々悪趣味な文章でつづられるあたりは「レストレス・ドリーム」などでも用いられた彼女の“得意技”といっていい。そこでは単に言論的に暴力的ばかりではなく、じっさいにゾンビたちによって行なわれた様々な虐殺行為が連綿と語られる。こういうところで笙野は冴える。
後半、八百木千本がなぜ巣鴨こばと会残党による攻撃を受けたのかを説明する下りで、封建的な結婚観、道徳意識、女性観を内面化しすぎてゾンビ化してしまった女性たちの苦しみへの視線が生まれてくる。自分自身が結婚もしないで満足していることを、結婚したくても出来ないこばと会の面々の前で彼女たちへの優越感と悪意を込めて語ってしまったことで、彼女たちの逆鱗に触れてしまったのだと理解する。そこから、恋愛と結婚を拒否した立場から世の女性たちに感じていた優越感を省み、その苦しみの根源は何かと問うていく展開はなかなかに感動的だ。
この小説は女ゾンビの露悪的な語りを通して、フェミニズムにすら無視されてきた女性たちの怨嗟を掬いあげようとしている。封建的な女性観を否定しつつもその恋愛勝者・敗者のヒエラルキーを固持することでこぼれ落ちてしまう醜貌、未婚などの「上品でない」問題を、笙野頼子は暴いてみせる。その批判は単なる批判ではなく、自分自身への鋭い切り込みとともになされていて、その二面作戦を可能にする自省の生々しさと戯画化の悪趣味さがブレンドされたスタンスは、笙野頼子の最大の美(!)点の一つだと思う。
で、忘れてはならないのは説教師カニバットこと、彼女たちの背後にある男の傲慢さに満ちた存在だ。八百木はこう言う。
「私は知っている。最悪のこばと会よりも凶悪なもの、それはごく普通の善良な男性」
こばと会の女性たちが内面化して/せざるをえなかったのは、男に都合の良い「良妻賢母」で貞淑なおとなしい主体性のない女という存在だ。カニバットとは、「タカ派文化人にして女性差別的女性論を書き続けた貴族趣味エッセイスト」であり、「古風な日本の妻との正しい結婚」やら「きれいごとと男尊女卑とを並べたてたような「男の物の見方」講義」を女性に「説教」するというねじくれた存在だった。それは間接的なかたちでの男の欲望の発露に他ならず、そのイデオロギーをささえる多数の男をやはり問題にしなくてはならない。だから、当然今作の続篇は「百人の「普通」の男」と題される。
「壁の中」から
恐怖のオトメ・パワー!!
2002/04/06 00:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:友巣 - この投稿者のレビュー一覧を見る
帯に「ほーっほっほっほっ 美人、それがどうかしたの!? 私は世界一美しいブスよっ」。私は一人の今の生活が幸せなの、ほっといてよというブスものを、芸の域にまで到達させたカルト作家八百木千本先生と、そういう人間がいることが許せずにストーカーと化した「巣鴨こばと会残党」結婚願望の狂った「美女」たちも、十羽ひとからげに悪意ある笑いの世界に引きずりこみ、スプラッターでスラップスティックな世界が暴発するのだ〜!
あ〜目から鱗。近代以降のロマンティック・ラブ・イデオロギーを妙〜な具合に堅持している不気味。それを煽るカニバットこと蟹鳩先生の大衆迎合評論家ぶりも凄いんだわ。言行不一致に平然と居直れるふてぶてしさ。それでいながら、自分たちと同じ価値観を持っていない自分より「劣ると認識される」女に気まぐれにしつこい迫害を加え、エスカレートしてゆく。どうする百本木先生! 彼女は、何とか事態を収拾しようとするが…。色んな意味で、含蓄ある一冊。
多彩な「ブス」の表現
2001/09/29 01:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tuka - この投稿者のレビュー一覧を見る
語り口は饒舌で特に「ブス」の表現の多彩さに圧倒にはされる。「ブス」にまつわるエピソードも、おそらく著者の原体験なのだろう、どれも真に迫っていて説得力がある。
本書では男性上位の社会にすっかり染められてしまった女性を皮肉り、さらに「結婚しない(或いはできない)自分」を正当化するにまで及ぶ。「結婚は女の幸せ」という言説に懐疑的な人に勧めたい。