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<目次>
序文
第1章 出発!最高の教育システムを探す旅へ
<フィンランド編>
第2章 落ちこぼれを出さないために
第3章 平等という選択
第4章 教師のモチベーション
<日本編>
第5章 教室は生活の場
第6章 誰にでも同じだけ能力がある
第7章 暗記、「ゆとり教育」、アクティブ・ラーニング
<シンガポール編>
第8章 超エリート教育はこうして生まれた
第9章 強烈なプレッシャー
第10章 学び続ける教師
<中国編>
第11章 儒教の教え
第12章 高すぎるハードル
第13章 中国人学習者のパラドックス
<カナダ編>
第14章 移民大国の教育
第15章 何を基準に評価するか、それが問題だ
第16章 知識を超えて
第17章 高い成果と公平性を実現するための五つの原則
第18章 PISAで高得点を取らせる代償は?
<内容>
イギリスの女性教育研究者が、イギリスやアメリカの教育に疑問を感じ、PISAで高得点を取っている国から5つの国を選んで、下調べをしたうえで、2~3週間、各国の教育界の中に入り込んで体験し、インタビューし、さらにデータ名で裏付けを取って、まとめたもの。
日本編を読んでいて、同じ教育界にいる身としてお白かったのは、外部の視点から見ると、問題点が効果的に見えること。第17,18章でまとめている際にも、日本の新しい教育行政の改善に疑問を呈してたが、それはこちらも感じていた点で、基礎的な学力の上に、問題解決力や批判的思考力や創造力はついていくであろうこと。木曽が弱いうえに、頑強な建物を建てようとしても、ちょっとした風でも倒壊の危機が訪れるだろうことは、誰でも想像される。日本の今後の数十年が、そうならないことを願うばかりだ。
それにしても、こうした海外の研究者の行動力には驚く。
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5ヶ国の教育を現地でのエピソードとデータの両方を踏まえて説明していて、とても興味深かったです。比較することで自国で上手くいっていないと思われていることがそうではなかったり、意外な問題点が見つかることが分かりました。
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日本の15歳はなぜ学力が高いのか? ルーシー・クレハン著
国際比較で考える「よい教育」
2017/12/9付日本経済新聞 朝刊
複数の国の教育を比較する本はいろいろあるが、この本はお薦めだ。面白くて、しかも深い。
著者はロンドンの貧しい地区で教えていた英国の若い女性教師である。へとへとになるまで働いてもなかなか成果が上がらない。英国の教育の仕組みがダメなのではないか。そこで、PISA(学習到達度調査)で高得点をあげている5カ国の教育を見に出かけていき、どういう教育をしているのかを知ろうと考えた。
人類学者を思わせる著者の卓抜した観察眼と、多くの研究成果を関連づけて考察を組み立てる論理の確かさとによって、単なるルポではなく、それぞれの国の教育の本質を、説得力あふれる筆致で描き出すことに成功している。
5つの国は、一つ一つまったく異なっており、それぞれ長所も短所もある。授業のやり方だけでなく、その外側にある社会の仕組み、教育制度、教師文化、人々の信念など、多様な要因が国ごとに違っている。それらを使った謎解きが本書の議論の大きな魅力である。
できるだけ生徒の分化を遅らせた仕組みが、高い成果につながっているフィンランド。支えているのは、自律性が高く高度な専門性をもつ教師の質の高さだ。
対照的なのがシンガポールだ。小学校高学年で能力別に分化し、12歳で受ける小学校卒業試験の点数が将来を大きく左右する。プレッシャーも強いし、不平等も大きい。しかし、どの子も猛勉強をしており、低い成績の子も、本当に有用な職業訓練を受けられる。
頑張ればだれでもできると考え猛勉強に励む上海。授業は詰め込み一辺倒に思われがちだが、実は英国の学校以上に知識の定着と応用をしっかりやっている。多文化社会のカナダは、個に寄りそう教育を行っている。リーダーシップ、組織作り、多様性の尊重など、多様な教育目標も重視されている。
では、日本はどう描かれているのか――それは読者の愉(たの)しみに残しておく。残念な誤解もあるが、急所はしっかりと書かれている。
著者は最後に5つの提言をしている。なるほどと思わされる。教育改革の議論は迷走しがちだが、改革を口にする人は本書を読んで、じっくりと考えをめぐらせてほしい。「よい教育」は多様だし、そこへの道も単純ではないのだ。
原題=CLEVERLANDS
(橋川史訳、早川書房・1800円)
▼著者は英国の教育研究者。NPOに所属し各国の教育改革の提言を行う。
《評》日本大学教授
広田 照幸
===qte===
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CLEVERLANDS:
The Secrets Behinds the Success of the World's Education Superpowers
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013682/
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解説が刈谷剛彦で、もちろん非常によくできていて、書評を書こうと思うと相当邪魔になるんじゃないかと思うが、まずはそっから読んで本文にいくことをおすすめ。タイトルに突っ込むのは野暮というものだろう。
個別の国が点数がいいかどうかという分析は置いておくとしても、点数がいい複数の国・地域に共通のものはなにかという方向は面白い。著者がいうところの、能力によって子供たちを早期に分けて教育することの悪影響は、なかなか説得力がある。早く学校に入れたからといって効果的な教育ができるとは限らず、まずは勉強する準備(社会的スキルも)が必要だということ。教師を専門家として待遇し、養成すること。学校には制裁ではなくサポートを与えること。こうした提案は、著者が現役の教師であることを差し引いても、首肯できる考え方だと思う。
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タイトルの結論は、15歳までに能力別クラス分けをせず、能力の高低に関わらず同じクラスで勉強させた方が、全体の学力は向上するということです。面白いのは、この様な傾向は東アジアに特徴的で、西欧では、そもそも知的能力は先天的なものというのが常識であり、早いうちからクラス別に勉強したほうが良いと思っていること。能力の高い人にはその方が良いかもしれないが、全体の底上げという意味では東アジアの教育法の方が効果的なのでしょう。
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このタイトルは日本向けで偽りあり、原題が内容を正しく表してるな。著者が個人旅行で5カ国巡りながら、教育現場をルポしていくんだが、めっちゃ良かった。もちろんプロとはいえ個人が見た限りでの考察だから、全部網羅なんてできないし誤りもあるだろうけど(それは国全体の教育システムというより個別ケース、とか)、かなり的確だとは思う。外からの視点で、日本の教育システムの特異さに気づくねー。そして乱暴を承知で自分ならカナダがいいと言うなど、個人的な感想やエピソードが入っているのが、読みやすくて良かった。
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タイトルと中身が全然あっていない。訳すときにどうしてこんなにしちゃったんだろう。中身自体は結構まじめな比較教育論。翻訳はともかく、題のつけ方はこれでいいといえるのだろうか。
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イギリスの中等学校の女性教師が、PISAで高得点を上げた5つの国(フィンランド、日本、シンガポール、中国、カナダ)を旅する。フィールドワークを行った結果をまとめたものが本書。
子どもたちや教師たちと直接触れ合うことで得られた分析・考察がまとめられており、その探究する姿勢に共感が持てる。
それぞれの国の特徴をまとめた後、「質の高い教育とは何か?」という問いに対し、「確かなことはだれにもわからない」と本音を吐露しつつ、5つの原則をまとめていた。
子ども、カリキュラム、学校、教師それぞれにおいてポイントが置かれている。この5つがすべてかどうかはさておき、いずれも納得感があるものだ。
日本に特に足りないものは何か。それは、原則4の「教師を『専門家』として待遇する」ではないかと思う。授業の実施だけでなく、保護者の対応、部活動の指導、調査依頼などの雑多な作業・・・。教師は「何の専門家」たるべきなのか。すべてを一人でこなさなければならない状況は、専門家としてあるとは言えない。教師が子ども一人ひとりと向き合い、授業を通じて質の高い指導ができるように、国がトップダウンでサポートすべきではないか。
それは、原則3にも通じる。子ども一人ひとりにきちんと向き合おうとすれば、教師以外の専門家からのサポートが必要な場合も当然出てくる。学校がオープンな組織となって、さまざまな立場の人たちと協働で取り組めるようにする必要がある。学校としての組織の在り方も問われている。
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イギリス教育研究者のルーシー氏が、日本、フィンランド、シンガポール、上海、カナダの5カ国を訪れ、教育システムについて調査し、知見を述べている。どの国の教育システムも優れていると評価している。
高い成果を上げる5原則として、①子どもたちに学校で勉強する準備をさせる②きちんと習得できるカリキュラムを作る③低いレベルで妥協せず子どもたちが向上を目指すようにサポートする④教師を専門家として待遇する⑤学校の成績責任と学校へのサポートを両立させるを挙げている。
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日本語のタイトルは、「日本の15歳はなぜ学力が高いのか」だけど、
英語のタイトルは、
”The secrets behind the success of the world's education superpowers”であり、
・フィンランド
・日本
・中国
・シンガポール
・カナダ
の教育の国際比較になっているので、別に日本だけに注目したものではない。でも、海外の教育大国の事例にぱっと目を通せるのと、苅谷さんの書いている部分もあるので興味深いと思う。
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イギリスの教師が、世界の高教育5カ国(フィンランド、日本、シンガポール、中国、カナダ)を訪問して現場インタビューをもとに考察をまとめている。筆者の教育者としての現場感覚が非常に生かされている。日本については、とくに集団生活が重視されていること、中学卒業まではどこでも同じレベルの教育が受けられるように制度上もとくに注意が払われれいること、が特徴として挙げられている。
他の国についても、教育のやり方の特徴だけでなく、制度についても精密な分析がなされていて、それが教育風土と強い関連があることが興味深い。
本書で繰り返し述べられている考え方として、西洋では個人には生得的な能力差があると考えられているが、東洋では努力により能力は獲得できると考えられている、という考察だ。遺伝解析では半分ぐらいの能力は遺伝的らしいし、東洋人もそれを認識している。しかし、能力で劣っていても努力で克服できるというのが東洋式(儒教的)な考え方、と指摘している。逆に西洋人は、努力=能力が劣っているという認識らしい。逆に生得的なものを変えられないという考え方が個性を尊重するということにもなっているのだろう。
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とても興味深い。
たくさんの引用を元に、信頼出来る場所からの情報が盛り沢山だったので、納得させられることか多かったです。
一教員として、非常に勉強になりました。
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ロンドンの貧困地区の中等学校で数学を教えていたイギリス人教師が、フィンランド、日本、シンガポール、中国、カナダの学校を訪問して考察したことをまとめたもの。
小5の息子の勉強時間が長くて可哀想だなと思っていたら、中国やシンガポールに比べたらまだマシかも。。。日本の教育の在り方を相対的に考えられるようになった。面白かった。
・内発的動機づけと外発的動機づけ
内発的動機づけ その行為自体が興味や喜びをかきたてる 内発的(自律的)
外発的動機づけ
統合 その行為の目的が当人の目的と同じ 内発的(自律的)
同一化 目的が自分にとって価値のあるものだと受け止める いくぶん内発的
取り入れ 外からの承認を望んでいる いくぶん外発的
外的調整 外からの報酬を得たり処遇を免れたりする 外発的
無動機 不履行 動機が存在しない
中国の子どもたちは親と教師から多くのプレッシャーをかけられているうえに、子どもにあまり自由を与えないような教え方をされている。それなのに、アメリカの子どもたちより勉強を楽しんでいて、親に押しつけられるからではなく、重要なことだから勉強するのだと答えている。
「中国の親たちが理解しているのは、何事も上達するまでは楽しくないということです。上達するためには勉強や練習をしなければなりませんが、子どもたちが自分からやりたがることはないので、彼らの好きにさせないことが大事なのです。当然子どもは抵抗しますから、親は不屈の精神を持つ必要があります。何事も最初がいちばん大変であり、西洋の親たちはたいていここで諦めます。」
「しかし、正しくやれば、この中国式のやり方は好循環をもたらします。機械的な繰り返しはアメリカでは過小評価されていますが、上達のためには、粘り強くひたすら練習を続けることが何より大切です。算数でも、ピアノでも、投球でも、バレエでも、いったん上達し始めたら、褒められたり感心されたりして満足を得ることができます。そのおかげで自信が生まれ、それまで面白くなかったことが面白くなるのです。ここまで来れば、親が子どもにもっと多くを求めることも楽にできるようになります。」
「あなたはいつでも自分が決めたときに新しいスタートを切れます。
失敗とは転ぶことではなく、そのまま起き上がらないことなのです」
メアリー・ピックフォード カナダ出身の女優 プロデューサー
・高い成果と公平性を実現するための五つの原則
原則1:子どもたちに学校で勉強する準備をさせる
原則2:きちんと習得できるカリキュラム(そしてやる気の出る授業内容)を作る
原則3:低いレベルで妥協せず、子どもたちが向上を目指すようにサポートする
原則4:教師を「専門家」として待遇する
原則5:学校の成績責任と学校へのサポート(制裁ではなく)を両立させる
■成績の良い国の教師たちが用いている、効果が実���された教え方の例
・前の授業の復習:学習内容の要点を次の授業のはじめと数週間か数か月後に復習する。
・お手本と用例:ペースに気を配って説明し、お手本や用例を使って、学習内容を明確に理解させる。解き方のついた問題と、生徒に自力で解かせる問題を交互に出す。
・問題を深く追求しようとする姿勢:生徒たちに「なぜ」「どうやって」「もし〜だったら」「どうしてわかるのか」などと尋ねて、何が要点かを理解させ、それについての知識を関連づける。
・生徒をやる気にさせる:生徒たちは、がんばって勉強すれば知能や能力は向上すると確信できれば、どんどんやる気を出す。教師は生徒の能力を評価するのではなく、結果を出すための努力や工夫、その他の自主性を褒めることによって、生徒たちの信念をさらに強めることができる。生徒たちも教師から認められていると思えば、いっそうやる気を出して良い成績に繋がる。
・暗記:どの教科にも覚えなければならないことがたくさんある。暗記によって長期記憶に収容すれば、作業記憶の負担が減り、既存の知識とスキルを応用することによって当面の問題に対処することができるようになる。暗記する量は科目や内容によって異なる。
・簡単なテスト:教師は、暗記は他の学習形態より記憶を長持ちさせられることを、生徒に納得させることができる。その方法として、簡単なテストを行うとよい。それによって生徒も自己診断ができる。
・フィードバック:教師が定期的に、明確で目的の定まったフィードバックをすれば、生徒たちの知識を更新でき、生徒たちが教わった知識を理解したりスキルを習得したりするための方法を見つけ出す助けになる。
■効果のない教え方の例
・子どもの能力を賞賛する
・要点を生徒自身に見つけさせる
・生徒たちのすきな学習法に教師が合わせて教える
・教師が教え聞かせるのではなく、生徒たちに常に何らかの行動をさせる
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好感が持てたのは、単にPISAの得点だけで各国の良し悪しを測るのではなく、同時に公平性についても注目していたところである。確かにいくらその国の平均得点が高いからと言って、国内での点数に格差があったら決して良い教育とは言えない。
同時に、ただデータのみで語るのではなく、その国の文化や思想と関連付けながらその国の教育を見つめることで、なぜその教育が可能なのか理解することができた。
日本の教育は、国内では、画一的で個性がない、と言われているが、イギリス人の著者から見ると、公平性が高く、集団を意識した社会性の高い教育なのだ。
学校の中の自由は制限されているように感じるのに、結果として公平性が高い(家庭環境が学力に与える影響が小さい、家庭環境から自由である)のは、不思議に思えた。
そこで「自由」と「勉強」の関係について考えてみた。
仮に「自由」を「自分が望むことが実現すること」(平たく言えば「自分の思い通りになること。」)と定義してみる。すると、自分が望むことを実現するためには、実現するための能力が必要になることが分かる。(お腹が空いても大人が食べ物をスプーンで口まで運んでくれないと食べられない赤ちゃんは自由でない。なぜなら自力で食べる能力がないから。)
一方で「勉強」は「能力を身に付けるための行為」である。つまり「自由」へ近づくための行為なのだ。その「勉強」を「子どもの自由」を謳って無責任に子どもに過度に委ねるのは、能力を身に付ける機会の損失である。子どもの「主体性」や「自由」を謳いながらも、やはり教師の関与は必要なのだ。
今の日本が推し進めている、主体的な学びそれ自体を否定しようとは思わない。しかし、これまでやってきた教育の中でまだ捨てるべきでない方法があることに気付く。
批判ばかりを受ける現代の日本の教育だが、今の教育にある価値を再評価するきっかけを与えてくれる本であった。