ナイジェリア出身作家の描く、等身大のアフリカ。
2008/03/25 20:37
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:求羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
しぼりたてのヤシ油が何色をしているか、ご存知だろうか。
正解は本書に書かれているが、おそらくほとんどの日本人が答えられないだろう。そして、ヤシ油の色を知らないのと同じように、アフリカやそこで暮らす人々のことを私たちは、いや私は、何も分かっていないのだ。
『アメリカにいる、きみ』は、ナイジェリア出身の作家・チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短篇集である。30歳という若さにして、既に2冊の長篇小説と 20を越える短篇を発表しており、アメリカでは高い評価を受けている。本書は、数ある作品の中から10篇を選んで翻訳された日本語版オリジナル短篇集となる。
こんな粒ぞろいの短篇小説を読むと、ぞくぞくしてしまう。どれも素晴らしいが、なかでも表題作・「アメリカにいる、きみ」、O・ヘンリー賞受賞作・「アメリカ大使館」、「スカーフ―ひそかな経験」は傑作である。重層的なストーリー展開や、繊細な心理描写が絶妙なのだ。
例えば「アメリカ大使館」では、ひとりの女性が難民ヴィザを取得するためアメリカ大使館に並ぶところから、面接官と対面するまでのひとコマを描いている。照りつける太陽のもとで大勢の人間が列をつくって待っている中、彼女はここに至るまでの苦い出来事を思い起こし始めるのだ。
この作品に、ナイジェリアの現状をみることができるかもしれない。けれど作者は、あくまでひとりの女性の個人的な体験として、彼女の心の襞に分け入るようにしてその悲しみを描いていくのである。
この手法は、作品全体にみられる。
「スカーフ―ひそかな経験」やナイジェリアの内戦・ビアフラ戦争を描いた「半分のぼった黄色い太陽」でも、宗教・民族対立といった抽象的な問題としてではなく、一人一人の身に起こった出来事として捉えているのだ。作者は、暗殺や紛争、同性愛といった、ともすれば読み手が身構えてしまいがちな題材を、するりと物語の中に入り込ませ、個人の心象風景を取り出してみせるのが本当にうまい。
私たちはよく、アフリカの人々を「アフリカ人」と呼ぶが、厳密に言えば、正しい表現ではないだろう。「アフリカ人」の中には、ナイジェリア人やケニア人がいる。そして、ナイジェリア人の中には、キリスト教徒のイボ族やイスラム教徒のハウサ族がおり、同じ民族同士でも、高等教育を受けられる裕福な者がいれば、貧しくて学校に通えない者もいる。
本書で描かれるのは、多様で複雑なアフリカの姿である。ここに収められた作品を読むと、これまでいかに自分が平面的な認識しかしてこなかったか、思い知らされるのだ。アフリカ系移民が、アメリカ人たちが呼びやすいような名前に変えるなんて、初めて知った。
本書は、けっして重苦しくはないが、ずしりとした読後感を残す一冊である。次はこの作者の長篇小説を翻訳出版してほしいと、切に願う。
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人と人の、私とあなたの理解の可能性と不可能生。矛盾とそこからの一歩踏み出す前と後の、解放の前と後の、これは少しの断片。映像的なものの先行するアフリカへの理解だけども、ここには誠実に耳元で語る著者がいて、文と文の間の形而上的この感情は色眼鏡抜きの景色だろうか。
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まるで、詞を読んでいるように、文章がきれい。
そして、この移民ならではのノスタルジアというか、カルタシス?
分かります!
アメリカに留学してたことある人、他の国に住んでたことがある人は、きっとキュンとなってしまうはず。
私は、母親とそっくりな後ろ姿の女性を見ると
なんともいえない、
キュン
といいますか、
ツーンといいますか、
そういう気持ちになります。
類型的な感情なのでしょうか。
そんな気持ちを思い出させる一冊です。
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アフリカの若き俊才、最年少オレンジ賞受賞作家のO・ヘンリー賞受賞作を含む初の短編集。アメリカにわたったナイジェリアの少女のふかい悲しみをみずみずしく綴った表題作ほか、いずれも繊細で心にしみる珠玉の短編全10編。
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短編集(全10編)
アメリカにいる、きみ。アメリカ大使館。見知らぬ人の深い哀しみ。スカーフ‥ひそかな経験。半分のぼった黄色い太陽。ゴースト。新しい夫。イミテーション。ここでは女の人がバスを運転する。ママ・ンクウの神様。
簡潔でそれでいて心理描写が優れていて、人間の持っているどうしようもないカルマのようなものが、伝わってくる。そして、美しい。
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アフリカの国、種族、政局など無知に等しい私でも、
この作品を通して、人間の感受性はどの国のどの民族も
同じであると再認識させられた。
忘れたくない作家だと思う。
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1977年ナイジェリアで生まれたチママンダ・ンゴズィ・アディーチェは19歳で渡米。
大学でコミュニケーション学と政治学を学ぶかたわら文学作品を発表。
2003年に最年少でオレンジ賞を受賞し、O・ヘンリー賞ほか、多数の賞を得ている新進気鋭のアフリカの女性作家である。
『アメリカにいる、きみ』は、これまでにC・N・アディーチェが発表した短篇小説のなかから10篇を選んで訳した日本語版オリジナル短編集だという。
彼女の描く小説の世界は、目をそむけたくなる現実を澄んだ瞳で真っ直ぐにみつめている。という印象を受ける。
それは個人的体験をベースにしているものもあるし、そうでないものもある。
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ナイジェリア、アメリカ。
環境や文化の大きな奔流の中でも、人は個として生きている。
とても繊細で個人的な視点をもった優れた小説。
それにしたって、日本というのは、なんと素晴らしく凡庸なことか。僕の感受性の問題だろうかね。
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ナイジェリア出身で、大学でアメリカに渡り精力的に作品を発表、数々の文学賞も受賞している、現在30代半ばという著者。
本作は日本向けに特別に編纂された短編集なのだそうだ。
著者自身、周囲からの妙な固定観念というか「アフリカ」という先入観から受け止められることも多くて、面白くない思いをしたことも多かったのだろう。やはりその出自からか、外国(特にアメリカ)に暮らす移民という主題が多いようだ。
私自身、アメリカに暮らしたことがあるので、その異国へいきなり生活を移した時の、独特の戸惑いや不安、なぜか感じる自身の卑屈さのようなものはすごくよく共感できる。
とても繊細な文章でありながら、鋭く切り込む先鋭さも持ち合わせ、読んでいて惹きつけられる。
直接的でない物言いの中に、故郷を思い、失ったものを思い、得られたものもありながら、どうしても拭いされない移民の哀しさが溢れる佳作。
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BBC Best books of 2013からリファレンス。短編小説集。
チママンダの文を読んでいると渇いたパーカッションのリズムの様に感じる。
ビアフラ共和国の独立戦争について、兵士が妊婦を殺し胎児の頸を掻く描写、渇いたリズムは崩れない。
祖国ナイジェリアを逃れるようにアメリカに留学した少女が辿り着いた先のホストファミリーが、逃げ場の無い少女を辱しめた描写、渇いたリズムは崩れない。
この短編小説集に流れる祈りが、アフリカの平和と尊厳のために記されていることをヒリヒリ感じて、涙が乾いた頬を伝う。だが、渇いたリズムは崩れない。
こんなに強いリズムは他に無い。
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「半分のぼった黄色い太陽」を読み、アディーチェさんは短編の名手ですから。と薦められ読んでみた。
匂いに関する鋭さがいいなぁ。「ここでは女の人がバスを運転する」が好き。
作品には常に「アフリカ」でイメージする何かを捉えていて、その問題意識もすごく評価されてるみたい。でもこれだけの数の短編のほぼ全てで言及されると、少し辟易としてしまう。日向でどこまでもついてくる影を怖いし疎ましいから切り離したいと言う子どもみたいだとは自分でも思う。
感情描写でも評価されてるんだからきっと「アフリカ」から離れた話も書けるんだろう。でも多分それから逃げずに時には利用する強かさを武器にこの世界で発信していくと決めたんだろうなぁ。
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[ 内容 ]
アフリカの若き俊才、最年少オレンジ賞受賞作家のO・ヘンリー賞受賞作を含む初の短編集。
アメリカにわたったナイジェリアの少女のふかい悲しみをみずみずしく綴った表題作ほか、いずれも繊細で心にしみる珠玉の短編全10編。
[ 目次 ]
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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アディーチェの書く短編集
ナイジェリア国内の民族紛争
資本主義に呑まれ富裕層となった夫持つ女
アメリカに渡り恋人の白人との小さな違和感を抱く女
多様なテーマをアディーチェの豊かな感受性で繋ぐ物語
リアリティの高い情景描写
でも、それは豊かで美しい文明だとしても主人公の鬱屈との対比だったり
不衛生でみすぼらしい室内、砂煙とともに逃げ走る車、硝煙の臭い
それが主人公を表す全てにつながり
心の内を想像させる
彼らは憂鬱、悲哀とともに足を前に踏み出す
アディーチェの書く彼らが私は好きなんだ
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図書館で。
長編を読んだので短編も借りてみました。なんて言うのか痛い。痛くて重い。でもこういうお話を読むと本の力、みたいなものを感じるなぁと思う。
人種も言葉も文化も違うのにこの人の登場人物には共感できる。それがすごい、と思う。まるっきり同じというわけでは無いけれども女性ということで、マイノリティという事で少なからず苦い思いをしたことがあるからだろうか。まあマイノリティであるかないかに限らず、あ~わかるわ、という気持ちが伝わるんじゃなかろうかとも思う。人間、生まれてから一度も不自由な思いをしたことのない人なんていないだろうから。
今度はエッセイを借りてこようと思いました。
いやあ、文章というか言葉の力ってすごいなぁ。
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ナイジェリアからアメリカに渡り遠い親戚と暮らし始めた女性、アメリカへ難民ビザ取得に来た女性、長く暮らすアメリカからイギリスを訪れた女性などが主人公の短編集。日本帰省中、電車の中で読んだのですが、読みながら意識がナイジェリアやアメリカに飛びました。まるで自分がそこにいるような錯覚になり、苦しさや悲しみが押し寄せて来て泣きそうになった。電車の中でここまで本の中に入り込んだのは久しぶりな気がします。
私は20年近く前に日本からアメリカに移住しました。日本は先進国だからアメリカに行った時もそれほどカルチャーショックは無かったものの、この本でアメリカに来たナイジェリア人が感じたことの描写は十分想像出来るし共感も出来る。外国人目線で描かれた小説が好きなのは、自分もアメリカで外国人として生きているからかな。