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江戸時代の財政政策
2023/06/04 09:28
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代の小藩における財政政策.金融政策を主題とした重厚な作品である。「一国における通貨の発行量は、その国の財及びサービスの総量に比例しなければいけない。」という財政 金融政策の基本がさり気なく書かれているところに参ってしまった。ラノベやゲームでしばしば取り上げられている領国経営ものであるが、作者青山文平の手にかかると大変に読み応えのある作品に仕上がってしまっている。政策を実行する武士たちの「覚悟」が読んでいて大変に心を打つ。過去 現代を問わず、このような政治家が実際にはいないこともあって、なおさらである。表紙カバー絵も随分目を引いて素晴らしい。本の内容をよく象徴している。
作者青山文平の作品を何冊か読んだか、この作品がその中でも最高であると感じた。
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「武家だけにできること」とは
2021/03/10 11:30
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投稿者:燕石 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公・奥脇抄一郎は、某藩の「藩札」(その藩内のみで通用する貨幣の代用品)掛だったが、宝暦の飢饉の際、藩札の乱発によって事態を収束しようという上役と、同役の親友を振り切り、藩札の版木を持って脱藩。今では江戸で万年青を売って暮らしを立てているが、一方で、財政に苦しむ様々な藩からの藩札に関する「コンサルタント業」に、旗本 深井藤兵衛の口利きで従事している。単なる身過ぎ世過ぎのためでなく、自らは失敗に終わった藩政改革を、必ず実現させるために。
宝暦年間は、「いき」「野暮」「通」と云う言葉が発生し、遊里社会での遊びのしきたりや知識が町人社会に流行するとともに、田沼意次が側用人・老中として絶大な権勢を誇った期間であり、商業資本を重視した経済政策が実行された時代と重なる。
米を租税の基本とした地方藩の財政は崩壊の危機にあり、「藩札」という実態経済の裏付けのない、文字通り「空手形」を用いた錬金術は、現代のバブル経済に繋がる。
北国の赤貧にあえぐ某藩を立ち直させるため藩札に賭ける執政梶原清明と抄一郎は、「3年」と期限を区切って、不退転の覚悟で藩政改革に取組む。「鬼」とは、藩政改革を断行するためには、自らに対してはもちろん、身内、他人に対しても「鬼になり切らなければならぬ」との執政梶原清明の覚悟を表している。
同士であるとともに、互いの人格と力量を認め合う二人は、口にこそ出さないが、ともに「心友」との思いを強くする。そして、見事、藩政改革を実現した二人は、梶原清明の招きで、国元の経済の立ち直りを象徴するかのように軒を連ねた小料理屋の一軒で、一夜祝盃を兼ねて痛飲する。信じる同志とも言うべき梶原清明という真の友人との一夕の思いを胸に、江戸に戻った抄一郎に梶原清明から書状が届くのだが……。
江戸開府から既に150年が経過し、既に武士が生き死にを賭ける場所は戦場(いくさば)ではない。真剣で立ち合うことすらなく、当然人を斬ったことのある武士も殆どいない。
平時の武士の役割は、主君の身辺警護、殿中・城門の守衛などを行う「番方」よりも、吏僚として政務や事務を執る「役方」が主流となる。その時、武士が商人や農民と何が違うのか?金を生み出すこと、作物を作ることに掛けては、当然、商人や農民にかなわない。
「武家にできて商人や百姓にできぬことが、一つだけ残る。死ぬことだ」。この一言が、本書を言い尽くしている。
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あっぱれ!
2019/03/13 14:53
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投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代を舞台とした「経済小説」。小難しい話しではなく、藩札板行相談役と、貧乏藩を根本から立て直そうとする藩重役の物語。藩札板行相談役のお役を越えてでも抜本改革に尽力する主人公と、鬼と呼ばれ、敵を数多作りながらも、腹を据えて改革を果断に進める藩重役。改革が成った後の藩重役の身の処し方は、あっぱれ!
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派手でダイナミックな戦国の世を舞台には選ばず、小難しいイメージのある「経済」をテーマにした時代小説ということで、読む前はお堅い地味な作品なんじゃないかと不安だったのですが、心配は杞憂に終わりました。とても面白かったです。藩札という恐らく誰も取り扱ったことのないであろうものを主題に据えた作者の勝利だと思います。
美点はいっぱいあって、抄一郎が現代でいうところの敏腕コンサルタントとなっていくまでの成長過程も良かったですし、最貧藩の立て直しにかける清明の命懸けの覚悟がもたらす緊張感も読みごたえがありました。現代の経済政策への批判的視点があるのもいいですね。馬鹿の一つ覚えのようにお札をじゃぶじゃぶ刷ればいいとしか思っていない政治家は、すぐに本作を読むべきでしょう。
これだけの内容をこのページ数に収めつつ、なおかつ書き急いだような印象が残らなかったあたり、すごく上手にまとめているなあと感じました。個人的には直木賞受賞作の『つまをめとらば』よりも本作のほうが出来は上だと思います。
ただ、女性絡みの部分は別に無くても良かったんじゃないかな、という気もしました。ラスト1行も、それで締めていいんですか青山さん、という感じで正直納得できませんでした。続編への布石なのかな?
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29年12月10日読了。
島村藩17000石。内証が窮迫。この藩は飢饉でなくても人が飢えて死ぬ。
この藩を藩札でもって、経済立て直しを図る浪人奥脇抄一郎。鬼となって赤貧の藩財政を立て直そうとする島村藩家老梶原清明。最後は、わかっていたが悲しかった。
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司馬遼太郎や山本周五郎にも、ひけを取らない文章を書く作家に出会った。昨今、時代小説を書く作家は多いが、これほど言葉が、文章がインパクトを持って心に沁みた作家は初めて。香り立つ文章と言ったところか。
話も武家にしかできない藩建て直しの財政問題を感動的に描いてくれて、また一人、お気に入りの作家が生まれた。
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藩札の専門家として自藩を立て直せなかった主人子が、財政難の藩を救う話。最初は「?」と思ったけどあっという間に引き込まれて読んだ。タイトルもうまいと思う
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本の表紙に惹かれて買った。
なぜこの表紙、題名なのか読み進めて行くと分かり、胸が締め付けられる。泣いた。久々にいい本に出会えた。
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真に経済を立て直そうというならば、小手先の金融施策などでは足りず、産業の育成に流通の方法、潜在的な需要の掘り起こし等を考えなければならない。
そして、その先頭に立つ者には、並々ならぬ覚悟が必要・・・
って、江戸時代の物語です。
その覚悟の程が鬼気迫るものであるとともに、哀しさが宿ります。貧しさを克服するとは、そういうことなのでしょうか。
本筋ではありませんが、城勤めや剣とは違った一芸を持った武士たちの姿が、私の好奇心を刺激しました。
吉宗公と田村意次の間あたりの時代の物語です。
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藩札で藩の経済に取り組む物語ですが、武家の矜持の一端を教えられました。「考えても分からぬときは軀に聞く」「たかが力不足なんぞの理由で、力を出せぬのが罪なのだ」
続編を読んでみたいです。
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貧乏藩の藩札の話。
自らの藩を守るために藩札を出して財政的に凌いだもののやがて野放図になり失敗したことを忸怩たる思いを抱いて暮らす主人公と武家として商売に精を出す後見人が、本当に貧乏に喘ぐ藩に招かれ、見事に再生する話。
物語としてはかなり都合よくできているが、貧乏藩の家老の決意とその心情に心打たれる。
一名を賭して藩の改革に挑む家老の覚悟とその仕様に泣かされる。最後まで読んで題名が府に落ちた。
面白かった。
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2020年25冊目。
待ったなしの変革を目指すリーダーの、恐ろしいほどの覚悟。自分の後ろにはもう責任を負う者がいない、そんな立場の者が得る躊躇のない気迫。いや、自身はまだしも、ときに他者すらも切り捨てなければならない状況において、「躊躇なし」というのは嘘だと思う。けれど、その躊躇すら噛み殺し、必ず成し遂げなければならない変革のために、断行する。その姿は、タイトルに偽りない「鬼」だった。
極貧の藩を3年で立て直さなければならない。そんな崖っぷちにあっては、「状況が難しい」という及び腰はもちろんのこと、「自分では力不足なのではないか」「自分が出るのは僭越ではないか」という弱気すら、言い分けや無責任の範疇に入る。
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自分もまた、力不足である。しかし、頭にとって、力不足は罪ではない。たかが力不足なんぞの理由で、力を出せぬのが罪なのだ。(p.65)
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宝暦年間(1751~1764年)という、いまとは異なる時代設定。加えて経済小説ともなれば、普通は読みづらさが懸念される。けれどこの本は、馴染みのない用語が少なくないにもかかわらず、驚くくらい勢いで読ませてくれる。「どういうことだろう?」と思った直後には、その疑問を先読みしてくれたかのようにうまく説明が入るし、人物も魅力的で読み入る。1ページあたりの文字量も、リズムよくページをめくらせてくれるちょうどよさだった。
大きな覚悟を見せる豪胆さだけでなく、それを推し進めるためにこそ細部を気遣う仕事ぶりも描かれていたおかげで、ただただ遠い話にならず、自分自身の目の前の仕事に対する姿勢と重ね合わせながら読めた。
同時に、答え難い問いも得た。はたして自分は、本当に断行せねばならないものと直面したときに、あれほどの鬼になれるのだろうかと。
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藩札なんて有ったんだねえ。
江戸時代って思ってたより凄く進んでたんだな、と再認識しました。それをおべんきゅと言う形じゃなくストーリーとして読ませてくれる。
青山文平を堪能する夏休み。
以下Amazonより、
三年で最貧小藩の経済立て直しは可能か? 家老と藩札万(ルビ・よろず)指南の浪人両名が、命を懸けて挑む。剣が役に立たない時代、武家はどう生きるべきか! 縄田一男氏から平成の藤沢周平と評された時代小説。第152回直木賞賞選考の際の宮部みゆき氏評「藩札という難しい題材を扱いながらリーダビリティが高い、主人公の魅力と、彼が江戸の経営コンサルタントとして直面する〈貧との戦い〉の苛烈さが、ラストまで絶妙なバランスを保っていた」
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江戸時代の地域経済問題についての小説はほとんど読んだことがなかったが、着眼点もストーリーもとても面白かった。価値を生み出す農産物などがない貧しい藩がどうやって困窮から抜け出すのか、その実現に向けた武家の矜持。今の世の中にかけての感想評論など多くあるが、本当にやるべきことをいかにできるか、その覚悟がタイトルにあり後半の物語で進む。
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いちょう祭りで50円で購入。面白いわ。時代物とは思えない読みやすさでサクサク読めた。時代物なのに経営コンサルタントの主人公と、それでも登場人物たちは武家であるという事を上手に組み合わせて編む手腕が凄い。この人の本もっと読みたい。