電子書籍
中国の近代史に光
2018/03/26 20:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:クンタキンテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史本の世界では、「我が国が、いかにして近代化を成し遂げたか」というテーマが花盛りである。今、NHKテレビで放送されている西郷隆盛も、その延長線上にある。私は、そのような話題については、多少、食傷気味であった。しかし、他方、日本人は、中国などの近代化や、その国民の心情や、その「闘い」については冷淡であり、無関心なことが多い。さて、今回の、松岡氏の新作は、このように、これまで、ややもすると、日の当たらなかった分野を切り開いた作品になっている。あの頃の中国の人達に、息を吹き込んだ。なお、今後、激動する世界情勢の中で、いつでも我が国が、明治維新のように、ある意味で成功裏にことをなしうるとは限らない。その点においても、小説ながら、近隣諸国の近代における苦しみや悲しみ、そしてその成功や失敗について学んでおくことも、決して無駄ではないと思う。その点においても、新しい分野を開拓した松岡氏の力量には感心している。
電子書籍
面白い歴史小説
2018/05/01 03:20
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『黄砂の進撃』の進撃は『黄砂の籠城』上・下と対を成す、義和団事件を中国側から描いた歴史小説です。ただし前作のように現代から始まらず、いきなり義和団の「天下第一壇大師」であった張徳成の「子供のころ、辮髪が嫌いだった」という回想から始まります。そして彼が義和拳に指導者の一人として合流し、「天下第一壇大師」となるまでの経緯が一貫して彼の視線で語られます。外国公使館区域(東交民巷)を包囲し、逆に列強諸国の援軍に包囲されて敗れるまでの経緯は清朝や清軍の重要人物の視点も交えて描写されます。そして会津藩出身の駐在武官で、籠城の際に活躍した柴五郎が、義和団の女性組織の一つである紅灯照の棟梁として戦っていた紗那に「英雄・張徳成」について聞くところで締めくくられます。
この最後の柴五郎と紗那の対話は非常にメッセージ性が強く、柴五郎の言葉からは日本軍の横暴なやり方や驕りに対する批判、紗那からは漢民族の成長の速さや民族としての誇りが迸っています。
そして「英雄・張徳成」は非常に思慮深く、様々な疑念や迷いを持ちつつもいきがかり上なってしまった「天下第一壇大師」として大きくなった義和団を導き、本来の目的であるキリスト教宣教師による内政干渉と横暴を止めさせるにはどうしたらいいか考え、また遠い未来の理想像としてみんなが平等に百姓か労働者で、等しく教育を受け、平和に共存する社会を描く人物として語られています。実際にどういう人だったのかは知りませんが、ところどころカリスマ性を発揮するものの、妙に等身大の人間臭さを感じる英雄という印象です。
この作品は『黄砂の籠城』よりも構成がしっかりとしており、小説として完成していると思います。
投稿元:
レビューを見る
この著書自体も一つのものの見方かもしれないが、史実をいろいろな立場で描くのは非常に好感がもてる。
同じ著者が書いていることで、物語のお互いの駆け引きがわかり面白い。
投稿元:
レビューを見る
黄砂の籠城を中国側からの視点で描いた作品。義和団については教科書レベルでしか知らなかったので興味深かった。あと、柴大佐の登場も嬉しかったね。
投稿元:
レビューを見る
義和団の乱をが義和団の視点で書かれた小説。
『黄砂の籠城』にも出ていた柴中佐のセリフに「なにが正義かは立場と見方によって変わる」というのがある。
本当にそのとおりだと思う。
『黄砂の籠城』だけ読んでいると、どうしても「日本人すごい」という感想に落ち着いてしまう。けれど、『黄砂の進撃』を読むと、それが一方的な見方でしかないのだなあと反省させられる。
ぜひ、両方読んでほしい。
投稿元:
レビューを見る
『黄砂の進撃』から読みはじめましたが、前作『黄砂の籠城 上・下』を読んでいなくてもとても楽しめました。
これを機会に前作も読んでみようと思います。
歴史小説はどちらかというと苦手なジャンルでしたので、読み進むのに苦労するかと思いきや、意外にも物語にのめり込んで読むことができました。
多くの民衆を統括するのに宗教的な思想がいかに重要か理解し、悪いと思って行使する立場の人と、その圧倒的な力を信じて立ち向かう純粋な民衆がとてもかわいそうで涙腺が緩みました。
戦いで大勢の人々が簡単に殺されていく怖さに、途中読む手がゆっくりにもなりましたが、平穏な日常を取り戻すために戦う、力なき人々の思いと国を統治する人の思想両方を比べると、最終的な終着点は同じはずなのに、なんで上手く行かないんだ! と歯がゆくて仕方ありませんでした。
不死身の義和団に私は本書で初めて触れることになりましたが、中国の歴史は大雑把にしか知らなかったので、勉強にもなりました。
なんでもないよっぱらいで元船漕ぎの張がまっすぐな人民を先導して戦いに多くの人々を放り込んでしまった責任を感じながらも、うまく先導しないとただの犬死になってしまう人民の命の使い方を考えて葛藤しながらも結局は戦いに巻き込まれていってしまう歴史の一面をみて、やはり多くの人々が集まると小さい力でも強大なものに変わってしまうと強く感じました。
元船漕ぎのよっぱらいの張が義和団の代表的な先導者になる成り上がり物語も痛快で読むのが楽しいし、中国という国の近代史として読んでも大変興味を惹かれる内容でした。
女性の代表的存在になったシヤナも張と同じ生命をもてあそぶような指導をしていいのかという良心の呵責に心が動き、最後にとった行動には好感が持てました。
また親子ほど歳の離れた張とシヤナの恋物語が読みたかったなとも思いました。
とても深くて面白い話で、読み終わった瞬間に大きく深呼吸が必要でした。また違う面から読んでみたいと思います。何度読んでも楽しめる物語です。
投稿元:
レビューを見る
『黄砂の籠城』と対をなす傑作歴史小説
清朝末期、満州族に虐げられ宣教師にも生活を蹂躙された漢人の不満は頂点に達した。彼らは義和団を名乗り、扶清滅洋の旗印のもと、北京公使館区域に攻め入る。『黄砂の籠城』と対をなす面白さ抜群の歴史小説。
投稿元:
レビューを見る
黄砂の籠城に対して、義和団から見た乱を起こした理由、そして攻めた理由を描く。籠城編はいつ解放されるかという事で攻められる側がいかに防ぐか、というところに焦点が当たっていたがこちらは攻め入る側の内幕は、農民が食えぬ餓死する極限まで追い詰められて乱を起こす、また神が降臨しなければ、とても銃撃の中に突っ込んでいけない精神状況での戦闘で会った。ちょっとこちらの方が迫力に欠けていたので、3つ。
投稿元:
レビューを見る
黄砂の籠城のB面
腕っ節の強い飲んだくれの元船乗りの張徳成の成り上がりストーリー!
物事の理解力と自分の言葉への置換、そして瞬時の判断力と周囲の思惑により、義和団の天下第一壇大師へと祭り上げられて行く。
一方、清国の中枢と天津の情勢などにより何故宣戦布告へと向かっていったのかが描かれている。
それと某宗教団体の大航海時代以降の布教活動への問題点も間接的に提起されている。
何れにしても本作品は黄砂の籠城とついになる物語であり〜籠城を読んでいるか?読んでいないか?では面白みが全く異なる!!!
張徳成は農民一人一人が学を身に付ければ世の中が良くなると本作で語っていたが、確かに現在の日本を見れば貧困や不条理な死は少ないと思われる。しかし学問だけに慢心し国民の全てが優れた道徳を身に付けなければ、新たな格差や不条理が産まれてくるという事を忘れてはいけない。
本作の舞台となっているあの国の古代の思想家達から学べるものは少なくないと私は思う。
投稿元:
レビューを見る
“不死身を信じた者たちの猪突猛進、おびただしい頭数、それらふたつだけが武器だった”。 義和団がなぜ興ったか。なぜ大きな戦いに発展してしまったのか。「黄砂の籠城」では描かれなかった義和団側からの物語。義和団、紅灯照については「籠城」読了後にざっと調べたけれど、今作を読んで実際はこんな風だったのじゃないかと思った。大帥に祀り上げられた男、黄蓮聖母を名乗る女。宣教師の横暴から自分たちの暮らしを取り戻したい、ただそれだけだったのに。国に利用され、いつの間にか戦いのただ中に立たされる。義和団事件とはなんと虚しい戦いであったことか。いや戦争というもの自体がどんなものだって虚しいのだ。立場を変えて物事を見る。それだけで戦いのいくつかは起こらずに済むのではないか。少なくとも個々の間では。120年前の事件を通して、いま一度考える時ではないかという著者からのメッセージを感じた。
投稿元:
レビューを見る
「黄砂の籠城」を中国側の視点から書かれているのがこの「進撃」。光緒帝が近代化をすすめようとしていたのに西太合は紫禁城に守られてどれだけ無知だったのだろうか。宣教師の横暴にどうにかせねばと農民が立ち上がったのが義和団。紅灯照の妖術も史実であり黄蓮聖母も実在したらしい。自己を見失いがちなとき、人智を超えた奇跡の存在を信じれば心の拠りどころができると導いてきた張徳成。りっぱだった。「籠城」ででてきた柴さんが莎娜と会話するくだりが今の日中関係はどうにかならないのかという作者の意図を感じた。
投稿元:
レビューを見る
『黄砂の籠城』と対をなす作品。義和団事件を中国人の視点から描いたもので、『黄砂の籠城』では中国人が人間扱いされていなかったのを見ると大いなる違いがある。
歴史の事実を様々な視点から捉えることはとても重要ことだと思う。昨今、中国を貶す本が散見されるが、意味のない非難中傷はやめたほうがよい。その一方、この本の帯になるコメントのような一方的な中国礼賛も、同様にばからしい。
投稿元:
レビューを見る
これも面白かった。
一つの史実を相対する両方の立場で書かれている作品だ。
よく一冊の作品の中で交互に書かれている作品はあるが、これは片側だけで完結してある。
前に読んだ「黄砂の籠城」と対になっている。
両方を読むことによって内容も味わいも深まると思う。
投稿元:
レビューを見る
このところ多忙につき、読感を書いている時間がない。
とりあえず、読みましたということで、読了日と評価のみ記載。
2018/9/25
投稿元:
レビューを見る
黄砂の籠城の続編?
中国(清)側から見た、義和団事件を描く。
一つの歴史的事件を一方的には向こう見るだけでなく、相手の立場で考え、一つの小説にするということは大変だと思うが、これは歴史的事実を考証する上で大切なことだと思う。
でも、向こうには向こうの事情があったのだろうが、中国という国の本質は今も昔も変わらないな…