悪女
20世紀初頭のバルセロナ。町では幼い子どもが何人も失踪し、子どもをさらって貪る化け物の仕業だという噂が立つ。そして今日また一人、新たな子どもが姿を消し、さらに頸動脈を噛み...
悪女
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商品説明
20世紀初頭のバルセロナ。町では幼い子どもが何人も失踪し、子どもをさらって貪る化け物の仕業だという噂が立つ。そして今日また一人、新たな子どもが姿を消し、さらに頸動脈を噛みちぎられた男の死体まで発見された。血に飢えたその化け物の名は、エンリケタ・マルティ。人間の魂を刈り取る「私」という全知の存在が、失踪事件を追う刑事たちやエンリケタの手下、家族などさまざまな人物の視点で、「吸血鬼」と呼ばれた稀代の悪女の恐ろしさとおぞましさを語り尽くす。犯罪捜査官である著者が、犯罪者の実話に材を得て描いた戦慄の物語。
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「降参せずに闘って、堂々と頭を上げて死んでいくこと、それが人生なのよ」(337頁)
2025/01/01 10:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1911年の暮れのスペイン・バルセロナで、子どもが姿を消す事件が連続して発生する。化け物の仕業だと市民たちが震えあがる中、地元警察のモイセス・コルボ警部と相棒のフアン・マルサノ警部が事件の真相を追って街を疾駆するのだが…。
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20世紀初頭のヨーロッパといえば、ベル・エポックの時代です。
人々は工業化、都市化、国民化、文明化となによりもまず<進歩>を謳歌していました。その一方で都市化から生まれる社会の歪み、過剰な科学信仰に対する反動として神秘主義やオカルティズム、有機的な美意識に彩られたモデルニスモ芸術が人々を覆う時代でもありました。この物語に登場するバルセロナも、経済的に繁栄する都市の相貌を見せると同時に、そこから生まれる貧富の格差、化け物や死神といったオカルティズムと科学捜査とのせめぎあい、建築家ガウディや画家ラモン・カザスなどモデルニスム芸術家たちの姿を垣間見せるのです。この禍々しい時代が生んだともいえる怪女がこの物語の主役の一翼を担う実在の犯罪者エンリケタ・マルティというわけです。
カタルーニャ自治州警察の現職警察官が書いたミステリー小説ですが、訳者あとがきを読んでこれが実際にバルセロナで発生した小児人身取引事件に着想を得た実録ものだということを初めて知りました。訳者自身も書くようにこれは「犯人当ての物語ではありませんので」、シャーロック・ホームズが好きだとおぼしきモイセス・コルボ警部が、同様の切れ味鋭い推理力を発揮して真犯人を突き止める小説だと期待して読み始めた私は少々肩透かしをくらった思いが残りました。私がふだん目を通さない“ウラスジ(文庫本の裏表紙にあるあらすじ)”には確かに犯人の名前まで書かれていて、その犯罪史上に名を残す犯人像を承知したうえで読むスペイン人読者と同じレベルでこの物語を楽しむことは日本人の私には叶いませんでした。
とはいえ、架空の存在であるモイセス・コルボ警部はなかなか魅力的です。彼がエドガー・アラン・ポーの『早すぎた埋葬』と『黒猫』を足したような展開を見せる中で、彼の胸に去来する「降参せずに闘って、堂々と頭を上げて死んでいくこと、それが人生なのよ」(337頁)という言葉に虚を衝かれる思いがしました。
最後に、白川貴子氏の訳者としての優れた手腕に触れておきたいと思います。昨2017年にイバン・レピラ『[[ASIN:4488010679深い穴に落ちてしまった]]』で白川氏の訳文には出会っていて、その独創的な翻訳手法を見て大いに敬意を抱いたことを覚えています。今回も20世紀初頭の正と負を併せ呑む街バルセロナの時代の空気をテンポ良い日本語に移し替えてくれた白川氏の訳文によって、読書が大変進みました。
(2018年―第61冊)「降参せずに闘って、堂々と頭を上げて死んでいくこと、それが人生なのよ」(337頁)
2024/02/11 22:32
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投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1911年の暮れのスペイン・バルセロナで、子どもが姿を消す事件が連続して発生する。化け物の仕業だと市民たちが震えあがる中、地元警察のモイセス・コルボ警部と相棒のフアン・マルサノ警部が事件の真相を追って街を疾駆するのだが…。
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20世紀初頭のヨーロッパといえば、ベル・エポックの時代です。
人々は工業化、都市化、国民化、文明化となによりもまず<進歩>を謳歌していました。その一方で都市化から生まれる社会の歪み、過剰な科学信仰に対する反動として神秘主義やオカルティズム、有機的な美意識に彩られたモデルニスモ芸術が人々を覆う時代でもありました。この物語に登場するバルセロナも、経済的に繁栄する都市の相貌を見せると同時に、そこから生まれる貧富の格差、化け物や死神といったオカルティズムと科学捜査とのせめぎあい、建築家ガウディや画家ラモン・カザスなどモデルニスム芸術家たちの姿を垣間見せるのです。この禍々しい時代が生んだともいえる怪女がこの物語の主役の一翼を担う実在の犯罪者エンリケタ・マルティというわけです。
カタルーニャ自治州警察の現職警察官が書いたミステリー小説ですが、訳者あとがきを読んでこれが実際にバルセロナで発生した小児人身取引事件に着想を得た実録ものだということを初めて知りました。訳者自身も書くようにこれは「犯人当ての物語ではありませんので」、シャーロック・ホームズが好きだとおぼしきモイセス・コルボ警部が、同様の切れ味鋭い推理力を発揮して真犯人を突き止める小説だと期待して読み始めた私は少々肩透かしをくらった思いが残りました。私がふだん目を通さない“ウラスジ(文庫本の裏表紙にあるあらすじ)”には確かに犯人の名前まで書かれていて、その犯罪史上に名を残す犯人像を承知したうえで読むスペイン人読者と同じレベルでこの物語を楽しむことは日本人の私には叶いませんでした。
とはいえ、架空の存在であるモイセス・コルボ警部はなかなか魅力的です。彼がエドガー・アラン・ポーの『早すぎた埋葬』と『黒猫』を足したような展開を見せる中で、彼の胸に去来する「降参せずに闘って、堂々と頭を上げて死んでいくこと、それが人生なのよ」(337頁)という言葉に虚を衝かれる思いがしました。
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*24頁:「なぜバルセロナの金持ち連中ががあのドイツ人のワーグナーをこれほどもて囃すのかが謎だった」とありますが、「連中がが」と助詞「が」が重複しています。
*129頁:「モイセスとコルボはたまっていた書類仕事【…】を手早く片付けて」とありますが、モイセス・コルボはこの小説の警部の名前で単一の人物です。モイセスとコルボという具合に二つに分けることはできません。この場面は文脈から判断して、「モイセス(警部)と(その相棒の)マルサノ」の二人であるはずです。
*133頁:ほかのところでは「ベルナトゥ」と表記されている人物(Bernat)がこの頁の11行目で「ベルナトウ」と表記されいます。
*199頁以降:<ラバサーダ・カジノ>の「アンドレ・ジルー」なる人物が登場しますが、Gireauですから、「アンドレ・ジロー」ではないでしょうか。以下にあるように、Gireauはフランス語をしゃべる人物のようですから、苗字もフランス語読みすると「ジルー」ではなく「ジロー」だと思うのですが。
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2018年5月12日読了