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ホームズと推理小説の時代
著者 中尾真理
舞台はヴィクトリア朝のロンドン、拡大鏡を片手に元軍医のワトソンとともに活躍した鷲のような鋭い目、細身で寡黙な探偵。そう、彼の名前はシャーロック・ホームズ。登場以来時代を超...
ホームズと推理小説の時代
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ホームズと推理小説の時代 (ちくま学芸文庫)
商品説明
舞台はヴィクトリア朝のロンドン、拡大鏡を片手に元軍医のワトソンとともに活躍した鷲のような鋭い目、細身で寡黙な探偵。そう、彼の名前はシャーロック・ホームズ。登場以来時代を超え全世界を魅了し続けてきたのは、なぜか? その疑問をもとに推理小説がどのように誕生し、黄金時代を迎えていったのかをホームズを起点に丹念に辿る。本書はその歴史、基礎知識を交えながら、イギリス、アメリカ、そして日本の推理小説を概観し、正当な評価を与えるべく英文学者、愛好家の視点から考察する。推理小説を愛する多くの読者に捧げる一冊。書き下ろしオリジナル作品。
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なぜミステリは書かれてしまったのか
2018/08/19 22:08
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理小説好きではないのだが、ホームズやルパン、紅はこべといった大衆小説の流行、それに新聞や雑誌などのメディアの発達との関連は分析すると面白いだろうと思う。ポーから始まる探偵小説の系列として、ホームズやその後継者たちが、イギリスで、続いてアメリカで、人気を得ていく過程を総括して語られているのは貴重だ。連載された雑誌や、ドイルとスティーブンスンの関わりは興味深い。ドイルがもう書きたくないのにホームズを書き続けなくてはならなかった事情は、大佛次郎が鞍馬天狗を書き続けたのに引き写しのように重なって、それも東西のメディアの発展に引きずられているわけだ。映像作品の影響や、ゴシックロマンスの系譜などのディテールも、この一冊で完結しないでも、どんどん興味が繋がっていくのが嬉しい。
ポアロその他の後続の名探偵の個性や、トリックの類型は、表層的なところに留まっているが、女性の社会進出、戦争の影響、米東海岸と西海岸の文化の違いなど、様々な背景に目配りが行き届いていて、これらの流行も大衆文化の一断面として捉えられているのはさすが。20世紀初頭といえば第一次世界大戦が世界に深い傷跡を残し、文学はじめ芸術分野にも影響を与えていたことは間違いなく、探偵たちの戦争体験、あるいは従軍経験を概観しているのは貴重だ。また女性登場人物の造形についての分析も、これも著者が女性ゆえということか、ヴィクトリアン朝風の古風なスタイルや、当時流行の社会進出を示していたり、むしろ淡々と抑え気味の分析ではあるが、社会と読者層との関わりを見る上では重要かと思う。
あと探偵小説といえばポーばっかりになるけど、ヴィドックにももう少し深く突っ込んで欲しかったし、ニック・カーターやファントマには全く触れられていないのは、対象が推理小説の枠になってるとはいえ、やや寂しいところ。細かいことさはさておき、シャーロキアン本としての枠をはみ出して、当時の社会、文化と作品それぞれの性格の関係に新しい発見がたくさんあって、推理小説を取り巻く状況を包括的に抑えているとことは、非常に貴重であるし、またこれらの作品が時代を読み解くためのテキストでもあることを示唆している。