銀齢の果て(新潮文庫)
著者 筒井康隆
増大した老齢人口調節のため、ついに政府は70歳以上の国民に殺し合いさせる「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」を開始した! 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町には、...
銀齢の果て(新潮文庫)
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商品説明
増大した老齢人口調節のため、ついに政府は70歳以上の国民に殺し合いさせる「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」を開始した! 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町には、もと自衛官、プロレスラー、好色な神父など「強敵」が犇めいている。刃物と弾丸が飛び交い、命乞いと殺し合いの饗宴が続く。長生きは悪なのか? 恐怖と哄笑のうちに現代の「禁断の問い」を投げかける、老人文学の金字塔! ※当電子版には文庫版掲載のカットは収録しておりません。ご了承ください。
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老いは悪か。僕達は何を憎むべきか。
2011/06/25 23:48
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:muneyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
2006年に出て、2008年に文庫化された本なので、前後関係で言うと完全に「バトルロワイアル筒井パロディバージョン」です。
日本は将来的には老人の数が若者の人口を圧倒する、という恐ろしい統計が出ていますが、今の所は若者(社会人)がイニシアチブを取っていると思われます。
70歳以下が全て若者、というのも何だか政治家的な言い方ですが、ひとまずこの本の世界では若者が若者による社会を作っていこうとした結果、邪魔になった老人達が「老人相互処刑制度」、通称・シルバーバトルによって、自分達で自分達の数を減らさなくてはならない状況に追い込まれます。
宇谷九一郎という如何にも主人公タイプを始め、マッドサイエンティスト、好色悪徳神父、老女優と老執事、元自衛隊員、小人症の元プロレスラー、ハードボイルド農民ばーちゃん、旦那の敵討を果たさんとする妻グループ等、様々なタイプの「老人」である主人公達がそれぞれの思惑を胸にシルバーバトルに放り込まれていく様が描かれます。
弱者である老人達がシステムによって殺し合いをさせられ、あるいはその闘争を楽しみ、あるいはそのシステムの根源を憎み、あるいはひたすら生にしがみつこうとし、あるいは現実逃避をする。「老人」を「少年」に置き換えればそっくりそのままバトルロワイアルです。
しかし、成長途中の少年達と同じ様に、それ以上に、老人は「弱い」。
貧乏な孫や子どもの為に働く事に義務感を覚えていたり、老いた故のセックスの楽しみ方を知っていたり、老獪な戦術を立てたり、前職での体に染みついた経験を元に闘ったり、とこの作品の中での老人は全く弱くありません。
けれども、老人には「未来が無い」。
お金を貯めていた所で使い切れるのか、弱った体は誰かにサポートしてもらわねば生活出来ないのではないか、何かを変えようとて動いた所で本当に其れが変化し切るまで自分が生きているのか。
子ども達は「力が無い」というだけであって、大きな「未来」という財産を持っています。
故に「未来のある多数者達」からすると、老人とはサポートする為に労力を割かねばならない人達・使い切れないお金を貯め込んで経済を不活性化しいる人達・良くも悪くも保守的な立場の人達といういわば行動に際して邪魔になる者たちなのです。そうした多数のエゴに対して、老人達は個別のエゴを述べることしか出来ず、「弱い」のです。
刃を刺そうとして力が弱くて刺さり切らなかったり。
目が霞み手が震え、銃の照準が合わなかったり。
素早く殺せない為に殺される側の苦しみが長く続いたり。
「バトルロワイアル」には無かった老人ならではのエッセンスが至る所に見られます。
しかし、これは笑い話では済まされない。
どんな子どもでもやがて老人になるからです。
老人である事、弱い事を「悪である」と断定するのは簡単な事です。
しかし、その結果を自分が老人になった時に果たして納得出来るか。
自分が子どもであった時の理不尽さや、交通事故によって障害者化してしまった時の不便さ、
酷く幼稚な、でも僕が真理だと思っている「自分のやられて嫌な事はするな」というのは、別段自分の日常だけでなく、日常を形作るものすべてに向けられなければならない姿勢だと思うのです。
「自分がそうなった時に納得出来るように」人は倫理観を持って生きていかなくてはならないと思うのです。
故に「老い」を悪として憎むのではなく、「老いを悪とさせるモノ」を憎める様な、そんな思考・思想を持って生きたいなぁと読了後に思いました。
あと、文体が如何にも筒井節で素晴らしい。
一切空行や見出し数字が無く、次々と主人公が入れ替わる、という小説として結構特殊な書き方です。
読み返す時に場面を探すのは非常に難しいですが、視点が切り替わるのに文に切れ目が無い事で、却って「集合から成る一つの物語」であることが強調されているというか、疾走感があるというか。
個人的には、広島の山村地区で圧倒的な闘いを繰り広げる八木熊のような老人になりたい。
タイトルが良いですね
2024/01/25 14:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
筒井さんの小説は無理筋なのにリアル感があり、嫌気を催しながらも読みやめることができないという恐ろしいものです。
パロディーでもあり風刺でもあり
2020/05/30 21:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学生同士の殺し合いを描いた、「バトル・ロワイアル」のパロディーでしょうか。未来ある中学生と、過去を背負って生きる老人との違いに思いを馳せてしまいました。
荒唐無稽な話のようですが・・・
2016/01/31 19:53
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんたん - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本政府が開始した,70歳以上の国民に殺し合いをさせる,「老人相互処刑制度」により,戦わざるをえなくなった老人たちの物語です。
荒唐無稽な話のようですが,太平洋戦争時には,負けが決定的となった後も特攻等の出撃が繰り返され,数多くの日本人が戦死しました。
ゆえに,政府(国家権力)の命令で国民が死ぬこと自体は,現実に起こり得ることだと思います。
銀齢の果て
2008/08/28 17:14
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
筒井さんの作品は、どれを読んでみても当たり外れなく面白い、と私は思います。文庫にしろハードカバーにしろ、「買って損した…」と感じることが少ない作家の一人だと感じています。ただそのおもしろさにもかなり多様性があって、正統派SF、ドタバタ喜劇、ポルノ紛いな作品、文学理論を実践したような実験的な作品等、とにかく飽きることがない。その作品の幅の広さを考えると、希有な作家と言えるのではないでしょうか。
さて今回の「銀齢の果て」。高齢化が進むことで起こってくる様々な社会不安を解消するために、政府がとった政策が老人同士に殺し合わせるという「老人相互処刑制度」。氏の小説らしい奇想天外な設定のもとスラップスティックな物語が進みます。医療制度の改悪等、老人・弱者に厳しい昨今の社会状況への風刺が感じられます。殺し合う老人の人物描写や心理描写も、これまでの氏の作品同様切れが良く、面白い小説だったと思います。ただ、その面白さも「あれ、どこかで読んだな…この感じ」と思わせるような印象があり、登場人物もちょっと気の弱い元自衛官や、好色な背徳神父等、少し有りがちかなという感想もあります。そういう点では、あまり新鮮さが無く旧作を読み直しているような錯覚にもおちいりました。
ただ、登場人物の派手な描写の陰に隠れて印象に残ったのは、殺し合う老人を取り巻く家族の行動で、自分の家の老人が殺されるのを積極的に待つ家族、あきらめたように受け入れる家族、何とか助けようとする家族等様々で、そちらの方にもう少し力点が置かれれば、ちょっと違った角度からの問題提起にもなり、面白さの幅も広がったように感じます。