紙の本
経済学者達からの戦力報告書
2023/03/11 10:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
近代戦は国家を挙げての総力戦。相手との経済戦とも言われるが、太平洋戦争開戦前に米英、ドイツ・イタリアの国力を研究していた経済学者たちの報告書を通説・異説に拘ることなく異なる観点から論じている。当時の海軍は情報を重んじ、陸軍は情報より精神論を重んじていた。との一般論とは違い、この報告書が陸軍で作成されていた事に驚いた。また、この研究が当時の指導部で共有され公にされていたにも関わらず太平洋戦争が開戦された理由も考察されていて興味深く読んだ。当時の政治機構と主体性のなさ、人間のリスクを取る心理にも言及されている。
紙の本
事実は小説より奇なり
2022/10/21 10:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:TAROLEB - この投稿者のレビュー一覧を見る
アルキメデスの大戦のベースとなった話、くらいの軽い気持ちで読み始めたが、圧倒的な資料量とそこから判じられる開戦への抗えなかった流れ、メディアの功罪と国民の無知なる期待等々、段々とページを捲るのが勿体無くなり、いつまでも終わらないでほしい、と思う様になりました。めちゃくちゃ面白かった、としか言えない、自分のボキャブラリーのお粗末差を恨みます。指導者の立場だった高位の軍人殆どがまともに戦ったら勝てないと知りながら開戦に踏み切るまでの流れは、きっと我々が二度と愚かな戦争を起こさないために知るべき歴史です。
紙の本
経済と戦争
2018/08/16 13:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:451 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「経済で読み解く大東亜戦争」(上念 司)のような内容を予想していたがそれとはかなり異なる。ただ、これはこれで面白かった。
特に行動経済学による説明、社会心理学による説明が面白かった。
紙の本
太平洋戦争を経済学する
2018/07/06 15:25
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「短期戦ならば現状維持よりも開戦した方がわずかながら可能性がある」というリスク選択と冷静な意思決定者不在の開戦理由。世界情勢の変化等により米国の戦争断念の時期を待つという楽観的長期持久戦略の決定。戦後の真の試練を乗り越えた日本を終戦記念日前におさらいしたい時に読みたい書。
紙の本
認知経済学で論じているのがユニーク
2019/02/14 06:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:巴里倫敦塔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
陸軍が当時の一級の経済学者たちを集めた研究集団・戦争経済研究班(通称、秋丸機関)が、「国力を比べると日米開戦は行うべきではない」と軍部に報告したにもかかわらず、日本は米国との戦争を始めた。筆者は開戦に至った過程を、認知経済学の知見をもとに迫っているところがユニークである。また秋丸機関の報告書は国策に反するとして焼却されたというのが通説になっているが、筆者は史料を発見・分析することで通説の誤りを指摘する。読み応えのある経済書である。
投稿元:
レビューを見る
なぜ、あんなにも無謀な日米開戦を進めたのか?当時のエリートが集まっていた軍部で、なぜ、そんな判断が行われたのか?大きな疑問だった訳ですが、プロスペクト理論と、群集心理論などを使っての説明には、腹落ち感があった。決定者たちの決定心理プロセスを勘案すると、経済学者(政策提言者)として、提示すべき代替案があったのではないかとの言葉は、現代組織にもあてはまる。
日々、「会社」という官僚組織における意思決定の現場でも、この決定心理プロセスに配慮した進め方が求められるものだと思う(やり過ぎると、「誘導」になりそうだが・・・)。
投稿元:
レビューを見る
後世の人間が振り返ってみて、とても素直に、いたって普通に考えてみて、どうしてそういうことになったのかわからないという出来事がある。1941年12月8日(7日/UStime)の日米開戦はまさにそのものである。さまざまな書物、映画、テレビ番組などでずっと長い間問われ続けてきた。
日本は米英と戦争をすれば必ず敗れる、その国力・生産力の差は市井の人々でさえもうすうすわかっていたことであったにもかかわらず開戦となった。どういうストーリーがあったのだろうか。
「おわりに」において、筆者は、より良い選択をするために、エビデンスとヴィジョン、そしてレトリックをどのように使うのか、このことを考える機会にしたいと述べている。すべての事象は選択の連続であり、本書の真意はその核心に突き刺さる。
投稿元:
レビューを見る
経済力の観点で対米開戦は勝ち目がないとわかっていたのに、なぜ開戦に踏み切ったのか?この疑問に対し、行動経済学におけるプロスペクト理論と、強力なリーダーシップのある指導者が不在ななかでの意思決定に関する社会心理学的な知見から答えている。
開戦回避では確実にジリ貧が見えているなかで、ドカ貧リスクが極めて高くても、僅かながらもジリ貧を避けられるかもしれない道が示されたがために、秋丸機関にとって本意ではない結論に突き進んだのはもどかしい。後講釈かもしれないが、ドカ貧の悲惨さ、つまり焦土と多数の戦没ということについて想像しきれていなかったから絶対の開戦回避という選択がなされなかったのだろう。リスクの高さについては理解していながら、ネガティブなインパクトの大きさから目を背けると、いかに悲劇的な結末を招くか。戦争だけに限らず、様々な場面で究極の選択を迫られる際に肝に銘じないといけない。
投稿元:
レビューを見る
第1章 満洲国と秋丸機関
第2章 新体制運動の波紋
第3章 秋丸機関の活動
第4章 報告書は何を語り、どう受け止められたのか
第5章 なぜ開戦の決定が行われたのか
第6章 「正しい戦略」とは何だったのか
著者:牧野邦昭(1977-、経済学)
第7章 戦中から戦後へ
投稿元:
レビューを見る
018/06/24経済学者たちの日米開戦 牧野邦昭 ☆☆
残念ながら画期的な内容はなかったが、開戦を丁寧に整理、好感
開戦の決断 データ上で不合理でも、国家として選択あり得る
しかし日本は決定者が明らかでない 幕引きもできない
最大の問題は「兵站の欠落」犠牲者が多過ぎる
この根幹は物流を甘く見たことだが、責任者は不在
秋丸機関知らなかった 総合研究所は有名
資源・食料を求めて
ドイツはソ連の労働力とウクライナの農作物 日本は満州
新体制運動 近衛文麿
戦時体制の閉塞を打開しようとした
社会主義体制変革として受け容れられなかった
見通しのない開戦
回避してもじり貧なら 百に一つでも戦争に賭けるのは合理性ある
戦略の統一はなされず 陸軍の仮想敵はソ連 海軍は米国
根本的な問題 「商船造船能力」
船舶の減少 650+360−850=160万トン
米国の造船力 想定は年間600万トン秋丸機関
実際は1,250万トン 日本は100万トンの12倍
プロスペクト理論
損失については「リスク愛好的」
利益については「リスク回避的」
確実に3000円か8割確率で4000円事実かビジョンか
ゾルゲ事件の影響 昭和16年10月 絶妙のタイミング
終戦工作 ソ連を信じたわけではないが、国内で受け容れやすい
→日本とソ連で対米・英連合を作れる可能性に賭けたと(19.01.03)
面白い ソ連は米国より信頼できると!
エビデンス ビジョン レトリック
投稿元:
レビューを見る
【合理的に不条理へ】対米英開戦を前に,彼我の戦力差を研究するために陸軍省に設けられた通称「秋丸機関」。多くの経済学者の関与を得たその機関が導き出した研究成果を解説しながら,日本を「無謀な」戦争に導いた内的論理について説明した作品です。著者は,摂南大学の経済学部で准教授を務める牧野邦昭。
秋丸機関を通して見る日本近代外交史としても読み応えがあることはもちろんですが,本書の白眉は,絶対的な戦力差が把握されながら,なぜ戦争という選択肢を選び取ったかの理由を推察したパート。本書を通じて描かれる,合理的な考え方の積み重ねが必ずしも合理的な結果をもたらさないという点は,今日の組織運営でも十分に学ぶに値する内容かと思います。
〜結局のところ,日本は「戦争の終末」の見通しなく,そしてそれゆえに戦争を始めたのである。〜
個人的には「なぜあの戦争を1945年8月までやめなかったのか」というのが次に気になる☆5つ
投稿元:
レビューを見る
非合理的・情報軽視というイメージのある日本陸軍ですが、実際には開戦前に多くの一流の経済学者を「秋丸機関」というシンクタンク的組織に集めて、日本だけでなくアメリカ・イギリス・ドイツなどの主要国の経済抗戦力の調査を行っており、勝ち目がないことを知っていたそうです。それにもかかわらず、なぜ開戦に踏み切ってしまったのか、理想的な戦略は何だったかを秋丸機関の報告書を軸に読み解いていきます。
続きはこちら↓
https://flying-bookjunkie.blogspot.com/2019/04/blog-post.html
Amazon↓
https://amzn.to/2FLYCgI
投稿元:
レビューを見る
昭和19年(1939年)陸軍省軍務局の岩畔は関東軍から秋丸次郎を呼び寄せ石井細菌部隊に匹敵する経済謀略期間の創設を命じた。日本、アメリカ、イギリス、ドイツなどの戦争継続能力を分析し、それぞれの経済的な弱点を見極め対策を立てるのが目的だ。メンバーには前年に治安維持法違反で検挙された保釈中のマルクス経済学者有沢広巳を筆頭にトップレベルの経済学者、統計学者や地理学者が参加した。
後年、有沢は秋丸から軍部に迎合するようなことを書いてはいけないと言われたと語っている。また、報告書は国策に反するものだったためすべて焼却されてしまったと何度も語った。現在では「経済学者が対米戦の無謀さを指摘したにもかかわらず、陸軍はそれを無視して開戦に踏み切ってしまった」というのが通説となっている。あるいは経済学者たちは実際には高度な経済分析に基づく「秘策」を提示し、それを信頼した陸軍が開戦に踏み切ったという異説もある。著者は新たな証拠に基づき別の答えを導き出した。
日米比較では製鋼20倍、石油数百倍などであり秋丸は以下のように回想している。「説明の内容は、対英米戦の場合経済戦力の比は、20対1程度と判断するが、開戦後ニカ年間は貯備戦力によって抗戦可能でも、それ以降はわが経済戦力は下降をたどり、彼は上昇し始めるので、戦力の格差が大となり、持久戦には耐え難い、といった結論であった。」 いっぽうで秋丸の相談相手でもあった経理局高級課員の遠藤武勝は戦争意思は別のところで決められ、経済学者がその気配に媚びて強く厚いその経済力でも「突き崩し得ないことはあるまい」という意見が付け加えられたと述べている。
・アメリカとイギリスの経済力を合わせれば第三国に対しても供給余力はある。しかし、海上輸送には弱点が有りドイツがイギリスの船舶を月平均50万t沈めればイギリスを屈服させられる可能性がある。
・アメリカも商船隊が老朽化しており現時点では輸送力が不足しがちである。
・ドイツの抗戦力は現在がピークであり、対ソ戦を短期に終わらせウクライナの農産物とソ連の労働力を手に入れる必要がある。対ソ戦が長期化すると対英米戦長期遂行は全く不可能になる。
・日本はドイツを助けドイツに対し強い立場に立つため、また英米ソの包囲を突破するためには北進ではなく南進して資源を確保すべきというのが「ドイツ編」の結論となっている。ただ、ドイツ編を書いた武村自身は慶応大教授として参加した座談会でドイツの思い通りにはいかないだろうと否定している。
ドイツが短期間でソ連に勝ち、抗戦力をつけてイギリス商船を沈める。日本は南進してイギリス領を支配しドイツと連携して中東の石油をイギリスに入れさせないようにする。できればアメリカにはドイツと戦わさせれば有利な状態で講和できるかもしれない。こういった内容は武村もいろいろなところで発表しており「秘密研究」ではなかった。またどうやってというのが無ければなんとでも書けるので秘策とも言えない。(林千勝氏のようにこの報告書を元に合理的な勝算があったという人もいるが。)それではこの報告書がどう受け止められなぜ対米開戦に踏み切���たのだろうか。
日本が長期戦を戦うことが難しいというのは調査するまでもない常識であり、一般の人々にも英米との差は数字で公表されていた。では「非合理的な意思決定」「精神主義」が原因かというと著者は別の回答を示している。その一つが行動経済学でいうプロスペクト理論だ。
経済封鎖を受けた日本は3年後には確実にアメリカに屈服させられる。しかしドイツ編の結論にあるように極めて低い確率であっても開戦すればよりマシな講和の可能性がある。期待値では開戦しないほうが合理的な選択なのだが損失回避性が嗜好されリスクを取ると言うのがその説明だ。またリスクを取らなかったフランコ独裁のスペインとは違い日本には強力な意思決定者がいない「集団意思決定」の状態では極端な意見が採用されるリスキーシフトが起こったという社会心理学からの説明も試みられておりいずれも精神主義よりはもっともな意見に思える。世論も好戦的な対米強硬論が拡がっていた。
日米開戦を避けるために経済学者はどうすべきだったのか。同じくプロスペクト理論で言えばジリ貧にならずに3年後にアメリカに抗戦できるポジティブなプランがあれば開戦は先延ばしにされた可能性はある。例えば満州で発見された油田が有望であり日本は力を蓄えることができるであるとか。岩瀬昇氏の著書によれば、アメリカの経済封鎖を受ける前であれば関東軍が自前主義を捨てアメリカの探鉱会社を起用すれば大慶油田を発見できていた可能性は充分にあった。
牧野氏にしてから武藤章軍務局長の考えを否定しない。屈服する民族は永久に屈服する、避けられない敗戦でも再び伸びることを期待して戦うことを選んだ。「日本が太平洋戦争によって多くの経験をし、反省し、教訓を学んだことが戦後の日本の発展につながった」と。であれば経済学者はやはり開戦を止められない。
この本では対中戦についてはほとんど語られていない。そもそも中国は主要な研究対象にもなってないようなのだ。3年後にジリ貧になるのは中国や満州の権益を捨てられないからで、今から見れば損切りをしてアメリカからの経済封鎖を解くというのも合理的な対案となる。それができない理由がいくらあったにせよ検討すべき方策だったはずだ。後知恵ではあるのだがそれが歴史から学ぶということだろう。
投稿元:
レビューを見る
2019/01/02 年末年始用に図書館で確保
●有澤広巳
●陸軍省戦争経済研究班
・陸軍省主計課別班
・秋丸機関
●秋丸次郎←岩畔豪雄→中野学校
●東亜経済剤懇談会第一回大会報告書
・GoogleBooksで見れる
●昭和研究会
・笠信太郎
●P63 レオンチェフ・産業連関表も,秋丸機関で研究対象にしていた
・このとき,産業連関表を作成していたら,戦後の石炭傾斜生産政策もかわっていたかも?
●CiNii 陸軍省主計課別班で検索するとヒットする
●日米の差 1:20
●P149 正確な情報は皆知っていた(軍も政府上層部も)
★なぜ開戦?
・3年後に,アメリカと勝負できる戦力と国力を日本が保持できるプランを統計学者が示せなかったから。
・格差などのネガティブプランやネガティブな現状だけを示せば,戦争が止めれるかと言えば,そうではない。
投稿元:
レビューを見る
うっすらと名前を知っていた「秋丸機関」。その報告書の問題を通して、日米開戦にいたる経緯をさまざまに検証している。
陸軍が、治安維持法違反で検挙され保釈中だった学者たちを迎えて、英米独ソの経済分析をさせていたのが秋丸機関。そこでの結論は、その後の歴史を予見しているようである。しかしそれは、当時の常識的な見方だった。つまり陸軍も、まともに戦えばアメリカに勝てないことは重々わかっていた。それを精神論だけで乗り越えようとしたわけでもない。
開戦の動機を、行動経済学のプロスペクト理論や社会心理学を援用して、解説している。たぶん、その通りなんだと納得できる推察だ。
だからこそ、現代社会にも通じる示唆を多々含んでいる。
■経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く
https://amzn.to/2E195DV