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郊外の朽ちかけた別荘で暮らす
母親と三人の子供たち。
姉と二人の弟は母親の言いつけで、
家の敷地から
一歩も出てはいけないことになっています。
敷地は高い塀で囲まれていて、
外の様子をうかがい知ることはできません。
唯一母親だけが、
子供たちを養うため、
町へ働きに出かけます。
三人の姉弟には、
実はもうひとり妹がいましたが、
幼いころすでに亡くなっています。
母と子の四人家族は、
末っ子の女の子の影を空洞として抱きつつ、
肩を寄せ合うようにつつましく、
ひっそりと暮らしています。
囁くように小声で話し、
ときには壊れて音の出ないオルガンの伴奏で、
小さく囀るように合唱したり。
姉弟だけの独特な遊びを作ったり。
世間から隔絶され、
閉ざされた世界での暮らしは、
静かで穏やかで安らかで、
満ち足りています。
と同時に、
なにやら狂気と不穏さも感じられます。
儚く濃密で美しく、そして残酷な、
いつまでも読み続けていたいお話でした。
べそかきアルルカンの詩的日常
http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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現実的ではない不思議な世界の話を読んでいるようでした。ロバの名前がボイラーっていうのがかわいいです。
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母親と3人と1人の子どもたちの、歪ながらも柔らかな日常。
ところどころ風変わりな行動を見せる母親に恐れを感じつつ、仲睦まじく寄り添う姉弟たちにいつしかこのままでも良いのでは、と肯定してしまう。
「外」が入って来ないで欲しいと願うが、稲妻の様に突然切り裂いて現れてしまう。
幼少期と交互に書かれるアーバン氏の様子からも、破綻は確実に訪れているのが分かるので、読み進めるのがつらかった。
少年期の夢想のような暮らしが終わるきっかけが、とても生活感溢れる原因なのも、昏い場所から急に眩しい場所へ出されたみたいでふらっとした。
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久しぶりに小川洋子さんの長編を読んだ気がする。
壁の内側に匿われて過ごす子ども時代と、現在が入り混じって書かれていて、めちゃくちゃ不穏なのだけどママときょうだいだけで穏やかに完成された世界観がとても良かった。めちゃくちゃ不穏だったけど。
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魔犬から逃れるため別荘で暮らす三きょうだい。ママの言いつけを守り声をひそめて図鑑に囲まれた壁の内側で過ごす日々。
久し振りに読む小川洋子は、実に小川洋子でした。
美しく儚い、でも彼らの中に確かに存在した日々の物語。
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魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺した別荘で暮らし始めたオパール、琥珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑やお話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に過ぎていく。ところが、ママの禁止事項がこっそり破られるたび、家族だけの隔絶された暮らしは綻びをみせはじめる。
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この人の空想の世界は小さな世界で広がって、どんどん広がる。今回もそんな感じで、母親に家に監禁されて生活している姉オパール・弟琥珀・弟瑪瑙の生活とその山の中の別荘だった家で過ごす図鑑を基にした空想の遊び。
オリンピックごっこや事情ごっこなど、楽しそうな遊びが繰り広げられる。この作家の子供の時の遊びは頭の中でこのように繰り広げられたのではないかと思われるような遊び。そしてオパール、琥珀、瑪瑙それぞれが編み出した独自の遊び。琥珀は図鑑の下の空白に亡くなった妹を1つの糸くずのようなものから次々と活き活きと動くように描く。それが老後の琥珀に繋がるのが文の合間に現在として挟まれて話が進む。終わりがどのようになるのかわからないまま同じ感じで進んでいくけど、ラストの急展開はちょっとドキドキ。
この人の作品の中では上の下くらいかな
チェスのが良かった
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社会から浮いていそうな人に、小川さんはいつも名前を与えて意味をつける。彼らの目線からみる狭い世界がとても広く、魅力的に見えてしまう。
否定も肯定もせず。その狭い世界のことと、広い世界のことを、同じ質感で物語るお話。
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はじめの方はママの行動の薄気味悪さとそれに付き合わされる子供たちがかわいそうで読むのがしんどかったけど現在の琥珀の様子が徐々に明かされてくると、この美しく儚い子供たちの未来はどうなってしまうのかが気になってたまらなくなった。
彼の幸せはあのお家の中だけにあったんだろうね。妹の描写がとても繊細で、こんな表現をどうして思いつくんだろう…!と小川洋子さんの凄さを感じました。
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私は、何を求めて、この本を読んだのだろうか。
ひとつ言えることは、美しくて繊細でとても静かな物語だということ。
極めて特殊な環境で育ち、その分特殊な感性をそれぞれに養っていった3人の子どもたちの過ごした時間は、外から見ればそこに虐待の影のある抑圧的な暗い色付けをついしてしまいがちだが、ところが実際は、それに反して極めて静謐かつ美しく幻想的な色合いただそれのみを有している。その世界はたしかに豊かだ。しかしただ美しく静謐に始まった物語は、美しく静謐なまま終わりを迎える。
一筋縄では決して捕えられない、あまりに特殊なセッティングだが、にもかかわらず物語のテンションは微動だにせぬほど静かなままで、そこに何か色々なものを回収できなかったような気持ちを覚えるのは、果たして私の俗な部分がざわつくからだろうか。
そこになにかの意味はおそらく求められない。
アンバー氏に会いたくなったら、あるいは琥珀の左眼の奥に広がる宇宙を感じたくなったら、おそらくこの本をまた開くのだろう。
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外界から隔絶された内側で生きることの幸福を思う。ささやかな幸せを噛みしめるように、お互いを慈しみながら生きる。それが世間から見れば異常なありようであったとしても。そうやって母親が作り上げた城の、そのいびつさが隠しようもないほどにふくらみ、崩れていくさまさえもどこか美しいのだった。
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自分の末娘を舐め殺した犬を蹴り殺し、他の子どもたちを長年監禁するという、あらすじだけ書くとありがちなヤバイ話。
子の死を受け入れられない母は心を壊し、子どもを別荘に閉じ込めてしまうのだが、幼い子どもたちはその無知により別荘に順化することができた。
でも、長女は小学校高学年ということもあり、母の異常性には気が付いている。また、数年が経過するうちに心はともかく体がどんどん大きくなる子どもたちに対し、時間の止まった塀の中の世界が破綻するのもまた時間の問題だった・・・。という話が、著者独特の世界観で美しく描かれる。
この人の小説は好きで何作か読んでいる。解説にあるように「声の大きいひとの言うことが広く「真実」にされてしまいがちなこの現実において『琥珀のまたたき』のような物語に耳を澄ませる時間が、どれほど貴重で、愛おしいか。」とあるように、世間の少数派・傍流にある人に対し主流の側の論理を当て嵌めずに光を当てる、という視点が作者の根底にあるような気がしている。
この小説はとりわけそれが顕著、というより極端で、母により構築された世界は現実との共存など到底できず、それが綻び崩壊していくまでの道筋を辿ることになる。
この極端な世界は、同著者の小説が好きな人でもかなり人を選ぶのではないかなと思う。確かに、子どもたちは母の世界に幸せを見出し、向かい方は子ども毎に違えど、幸福を保とうとしている。しかし、それは子どもが他の世界を知らないからであって、現代の価値観に照らせばただの虐待である。彼女たちの世界を断罪する権利は誰にもない、という考え方は、絶対に、絶対に間違っている。
映画『おおかみこどもの雨と雪』で、狼との間でできた子供を学校に行かせず、母のもとに児童相談所?の人が来ちゃうエピソードがあった。芸術作品でありそこに虐待だなんだという「正義」を持ち出したところで意味は無いし、母の愛を描いた映画である(と私は解釈している)以上、母の葛藤・苦悩を表す良いエピソードだったなと思っているのだが、この小説では単に子どもの人生が母の慰めに浪費されている、介護離職にも似た哀しさばかりが目に付いてしまった。
とはいっても、世間のこの小説の評からすれば、こうした感想が独善的で偏ったものの見方であることは自覚している。
誰もが情報発信のできる時代、マジョリティの大きな声とマイノリティの大きな声の大合唱で辟易している中で、確かに小さな声に耳を傾けることのは貴いことなのだろう。それは、普段は気付くことのない世界の見え方を提供してくれるから。
それだけに、監禁された子の中で最年長で、自ら別荘を出て行ったオパールからはこの物語がどう見えたのか、とても興味がある。
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残酷なのに正しい気がして、そして美しい。
小川洋子さんの描く物語には、そういう印象を抱くことが多い。
この小説も実はとても残酷なストーリーなのに、童話を読むような感覚で読み進めていた。
オパール、琥珀、瑪瑙と、元々とは違う名前を途中でつけられた3人のきょうだいは、世間から隔絶された別荘に閉じ込められて暮らしていた。
ママがおかしくなったのは末妹がとある疾患で死んだせいなのだけど、ママは娘が魔犬に殺されたと信じこんでいる。
その出来事がきっかけで、他の子どもたちが同じ目に遭わないために今の暮らしを始めた。
とても不自由に見えるけれど、置かれた環境の中で3人のきょうだいはとても楽しく暮らしているように見える。
そして琥珀の瞳の奥にいつしか末妹の姿が見えるようになって…。
ただただ静かで、美しくて、哀しい。
感動や派手などんでん返しがあるわけではない。だから読む人によってはとても退屈な小説なのかもしれない。
小川洋子作品の中でも、とりわけ淡々と進む小説のような気がした。
幸福は人それぞれで、他人の尺度で測れるものではない。ひとつの形しか知らずそれに守られて生きていれば、与えられたそれが幸福だと思うものなのかもしれない。
だけど僅かな外の世界に触れるごとに、違う形もあるのかも?と考えるのは当然のこと。
ここまで極端な環境じゃなくても、気づかないうちにそう思い込みながら生きていることってある。安全な中にいる幸福か、打ち破った先にあるものを見に行くか。
そういう物語ではないかもしれないのに、今の自分に重ね合わせて、ついそんなことを考えてしまった。
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四人の兄弟の一番下の妹が亡くなった後
母親が思った事は もうこれ以上子どもを失いたくない。
という事で 家の中に閉じ込めて(=外に出さなければ守れる)
三人の子ども達を生活させる。
テレビなどの情報は全くないけど
沢山の図鑑や書籍が子ども達の情報源だった。
三人いるので 遊びも色々工夫して成長していった。
話の 構成が 主人公の琥珀(アンバー氏)の 子ども時代と現在とを 交互に描いているので
最後は 家から出たのだろうけど
どういうきっかけで 出るようになったのか
摩訶不思議な 世界を 描いてる 本でした。
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姉はオパール、下の弟は瑪瑙、真ん中の男の子は琥珀。
「こども理科図鑑」の中から選ばれた新しい名前がつけられたのは、それまで住んでいた家を引き払い、昔パパが仕事用に使っていた古い別荘へ引っ越した時だった。
すべてのはじまりは、妹が死んだこと。
妹のいない世界を生き抜くための、帰り道のない旅。
たくさんの図鑑に囲まれた生活。
オパールはダンスを踊り、瑪瑙は歌をうたう。
ママはツルハシを担いで仕事に出かける。
最も大事な禁止事項は「壁の外には出られません」
とても普通ではない、風変わりな状況なのに、ここでの生活のひとつひとつが愛おしく思えて仕方がない。
品位を失うことなく語られてゆく閉ざされた世界を、思わず息を潜めながら読んでいた。
琥珀の描く「一瞬の展覧会」とは何だったのだろう。
あの古びた別荘で、きょうだいが一緒に過ごした7年余りの間のささやかな風景が、おとぎ話のように深く心に刻まれてしまうような、ほんとうに美しい物語だった。