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統制経済を主導する革新官僚「昭和の妖怪」岸信介と自由主義者小林一三の激突ぶりを活写する著者鹿島茂の筆は冴える
2019/03/08 12:02
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
小林一三の最大の特長は、社会がこれからどのように変わっていくのかを見据えた上で、そこから演繹して自分のやるべき事業を考えたことにあった。当時としては非常に珍しい考え方でしたが、先が見えないいまのような状況だからこそ、必要とされているのではないか。
たとえば、箕面有馬鉄道を作り沿線に住宅地を開発したのも、鉄道を敷いたらその沿線にたまたま良い土地があったのではなく、良い土地があったから、鉄道を敷くに値すると考えた。当時、大阪は環境汚染で良い住宅地への潜在的需要は大きかった。しかし、政府の優良住宅地は大衆─正確にはサラリーマン階級ですが─には手が届かない。しかし、そういう人たちが担い手になる社会がやってくると明治の時点で見据え、そこから自分のやるべき事業を考えていった。
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阪急、東宝、宝塚など日本の近代商売の礎を作った小林一三の評伝です!
2018/12/20 09:36
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、日本の近代商売の礎を気付いた経営イノベーター、小林一三氏の評伝です。彼がどのような考えと思想を胸に抱き、商売を始めたのか。その商売においてどのような業績を収めたのか。まだまだ多くを知られていない小林一三氏ですが、本書は、彼の商売哲学、商売の業績など、彼が為したすべてを詳細に記述しています。
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80を超えてもなお盛ん
2021/11/09 06:32
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投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
阪急や東宝の創始者である小林一三の生涯をまとめた一冊。章ごとにコンパクトにまとまっていて、随所に一三翁の日記などからのいろんな書物の引用もされていて、本人の考えも知ることができ、読みやすくて分かりやすかったと思います。第二次大戦前後に、大臣にも就任されていたことは、全く知りませんでしたし、阪急のイメージが強かったのですが、後半生はむしろ東宝の事業に注力されていたことも意外。80を超えてもなお、衰えぬ情熱はすごいと感じ入りました。
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多彩な登場人物も魅力
2019/07/16 13:55
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投稿者:巴里倫敦塔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
阪急電鉄、宝塚、東宝、阪急百貨店などを立ち上げた稀代の事業家・小林一三の評伝である。生い立ちから、不遇の銀行員時代、鉄道事業への進出、宝塚、少女歌劇団、映画や演劇の東宝の立ち上げ、政治家時代、戦中戦後に至る小林の足跡を丹念にたどっている。著者はフランス文学者で、渋沢栄一の評伝も手がけた鹿島茂。全般に手慣れた感じで安心して読み進むことができる。
小林の凄さは、「需要がなければ生み出せばいい」という思考パターンである。例えば阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道の立ち上げに際しては、「乗客がいなければ作ればいい」と考え沿線の宅地を開発した。阪急百貨店のターミナルデパートしての特徴を十二分に活用した経営手腕にも思わず唸らされる。筆者はビジョナリスト/イノベーターとしての小林一三、ビジョナリー・カンパニーとしての阪神電鉄についてしっかり書き込んでいる。渋沢栄一や松永安左衛門、鳥井信治郎、岩下清周、五島慶太、岸信介、古川ロッパなど、多彩な登場人物も本書の魅力の一つである。
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2020年6月、約3カ月間の営業自粛期間を経て、宝塚歌劇団が営業再開を発表したとき、「やはり自前の劇場を持ってるところは強い」と思った。大劇場や東京宝塚劇場公演はまだしも、全国ツアーや他の会場で実施予定だった公演さえも、梅田芸術劇場を使って、中止にせずに実現させてしまう頼もしさ。販売できる座席数が半分でも、上演できる箱を持っているところは強い。配信やライブビューイング、自前のテレビ放送、そして計算できる顧客の数。演劇業界が先が見通せない中、ある程度の収支計画を立てて実行に移しているんだろうなということが感じられる。「遠大な計画には一等地を買っておけ」この本の終盤、新宿コマ建設時のエピソードを読んでいるときに出てきたこの一文、まさにそう。この精神は、今も宝塚歌劇団に息づいていて、未曽有の窮地でも劇団自身を救うのは小林一三イズムなのだということをこの本を読んで思った。
著者の鹿島茂先生は、小林一三の評伝を人口学的視点から書いたというが、ほかの評伝や研究書を読んだことがないので、そこはあまりよくわからなかった。小林一三はユーザーを自ら徹底的に調査して分析して仮説を立て、かなり先も読むけど半歩手前くらい先のことを実施し、適切な時期を読んで投資して、と、優秀な経営者がやることを漏らさずやる人だ。失敗しても、それを次につなげていくので、失敗がプロセスの一部になっていることが素晴らしい。つまり失敗が、大きな成功のために必要な要素となっている。
終盤の、政界に入ってからの話はかなり興味深い。戦前の統制経済によって国力を高めようとする主張に小林一三は自由経済を唱えて強硬に反対し、刃向かっていく。小林一三の立ち位置から共産主義と資本主義とファシズムと自由主義と右翼と左翼と、さまざまな軸が複雑に絡む時代を眺めるのは、特にこの時代の歴史に疎いので、非常に興味深かった。同じく戦後の東宝を舞台にした労働争議もおもしろい。どの主義も同じだと思うが、共産主義はまず情報発信産業を押さえようと映画や新聞マスコミ業界に組織を作っていくという。組合がすごく強くなって、映画が作れなくなった東宝は新東宝を作るが、やがて軒を貸して母屋を取られる。戦後まもなくは公職追放されていた小林だが、相談がくれば助言は惜しまなかった。それぞれの問題に適切な人員を配置し、労働争議を乗り越えていく。
新宿コマのエピソードはほかの本でも読んだが、今はすでになきこの劇場に晩年心血を注いだことが、今は少しもの悲しく感じられる。経営にもロマンがないと。と思うのだ。
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なんだろ、やっぱり「天才」なんだろうな。経営に優れた人は文化人でもあったりするが、単に文化を愛するというよりか、クリエイターとしての資質も高いタイプの文化人。
https://mochi.click/archives/195
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2019年5月読了。
人口態動の変化に従って事業をどの方向に舵取りして行くかという発想を持っていることが、同時代の鉄道事業者達と小林一三との違い。
鉄道と沿線開発、歌劇団、百貨店、映画、ホテル、バラバラの事業だが、中間層の増加に合わせて彼らをターゲットにしているという一点で、これらの事業は全て共通している。
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この男の人生に、日本の経営学の全てがある! 阪急、東宝、宝塚……。近代日本における商売の礎を作った男、その偉大な思想と業績。
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序章 小林の「人口増に乗った経営」を切り口にするのが、本書の独自性なそうな。私の常識が問題なだけですが、ここまで広範囲に携わっていたとはおどろきでした。
P43 三井銀行の三井社長 頭取じゃないの?
P56 小林24歳、恋人こう16歳
P108 宝塚少女歌劇団 「少女にしたわけ」で、自分は16歳の恋人とゴタついておきながら……と思ったのでした。
P154 阪急、阪神の争い。球団で存続したのは、阪神でしたけど。一文字での略称で阪神=神なのは、せめてもの名残?
P171 鉄道時代になって、地の利がなくなった 鉄道史を知ると、何もなかったので鉄道が敷けたのがわかります。地下鉄は除きますけど。
P207 東京電灯は表記ゆれ?
P226 宝塚大劇場4000人、当時としては大きすぎ?
P242 ヴァイタフォン はじめて知りました。映像と音声の分割はdtsと同じかと。dtsはCDが紛失したとか。まあ、日本では普及しませんでしたけど。
P447 敗戦後でも、革新官僚による統制経済 既に官僚統治が……
P467 第一騎兵師団、キャンプ・ドレイク たぶん、朝霞駐屯地近辺?東宝争議への投入戦力がちょっと大げさかと。連隊未満かと。
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東宝という会社はもちろん知っていたが、その成り立ちは全く知らなかった。
小林一三はスゴイ!初めてちゃんと知ったわ。
こんなにすごい実業家が日本にいたのかと舌を巻いた。
しかも経営者としての才覚を発揮していくのは、サラリーマン時代の後だ。
三井銀行で15年間を勤務したというのだから、退職したときは30代も後半。
それまで普通のサラリーマンをしていた人が、どうしてここまでのカリスマ経営者になれたのか?
しかも三井銀行勤務時代も決して優秀な社員ではなかったのだ。
全国の支店がきちんと働いているかを探る内偵係。
調査部という名前だが、社員からは嫌われる閑職だ。
そんな身分だから、社内でも味方は少なかったのだろうと思う。
(多かったら銀行を辞めなかっただろう)
しかしそこからが人生の転機となる。
ひょんなことで経営に関わることになる「鉄道会社設立」が大きく彼の人生を変えて行く。
うだつの上がらない銀行員だった彼が、どうしてこの会社設立が出来たのだろう?
そして、どうして彼にはこの事業が「イケる!」と未来が見えたのだろう?
この本には詳しく書かれているが、彼のまさしく非凡なところなのだ。
しかし銀行マンからなぜ鉄道?(阪急鉄道だ)
さらにそこから宝塚を作り、阪急百貨店を作り、電力会社も作り、映画会社も作った。
どうにも会社の業種としては一貫性がないのだが、なぜ彼にはこれらが成し遂げられたのだろうか。
とにかく才能が突出している。
「100歩先の未来が見えるものが勝つ」というが、本当になぜなのだろう。
未来を見るチカラだけでなく、一本芯が通っているのが本書を読んで感じたことだ。
商売の基本と言うか、信念がある。
「儲け過ぎてはいけない。儲けは顧客に返す。さすればその顧客が常連になってまた利益を持ってきてくれる。すなわち顧客に還元することが一番」
この経済が循環する仕組みが肌感覚的に染みついたのは、銀行員の経験があるからか?(とてもそうは思えないが)
それと自分が想定している顧客の顔がちゃんと見えていたことだ。
中流のサラリーマンの家庭が対象となり、安くていいものを。
仕事は都市部で働いて家に帰るから、週末は安くて家族で楽しめる娯楽を。
この中流サラリーマンが、これからの資本主義の日本を支えていくと見えていたのだ。
これは最早信念に近い。
「日本を発展させるためには、彼らの人生の充実が必須である」と。
最近は特に思う。
「会社経営には『思い』が重要である」
普通にサラリーマンで出世して、事業に信念のない人が取締役になっても、真の経営者とは決して言えないだろう。
私自身もすでにうだつの上がらない50歳のサラリーマン。
これからどうやって生きていくべきか。
生き方として大きな指南本となりえるものだ。
(2020/4/4)
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2020/11/21 15:05
楠木健さんがその著書で勧められていたので興味があって、近く読んでみたいなと思っていた本だったが、まぁ偉大な人たちには共通してなのか、この小林さんは人口増加があって、でもそれを活かしきれない人が数多いる中で活かし切ったところに凄さがあるんだろうな。
それにしても、電鉄から始まって、不動産、電力、宝塚、阪急ブレーブス、そして政治家にもなって、東宝…
一に洞察力、そして実行力に決断力。
人情的なところも、やっぱりすごくあって、奥さんに娘さん、長男もそうだしな、部下にも上司にも本当に人間臭いというか。
あの松岡修造も、縁があったんだな。次男の次男のそのまた次男が彼だそうだ。
いずれにしても面白かった。
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阪急、宝塚歌劇団、東宝、第一ホテル、日本軽金属を創り、後の東京電力である東京電燈を再建した、小林一三の半生について記された一冊。
小林の「百歩先」を見通す先見の明と、人口学的視点に立った企業精神は比類なきものである。その思考のエッセンスとそこに辿り着くまでのプロセスについて詳細に描かれる。
冗長な部分はあるが、概ね良書。
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これは伝記であり評論であり時代背景や思想の解説書。
計数に強いこと、アイデアを持つこと。これは選択肢を多く持つことだ。理想を持つこと。東宝はビジョナリー企業というのもうなづける。
商工大臣になったというのは知らなかった。
鹿島茂はスゴイ。気になっていた渋沢栄一を買った。上巻のみ。
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久々に長編の本を読んだ。クリステンセンの「イノベーションの最終解」以来だな。
こんなイノベーティブな実業家がいたのかと驚かされる本だった。年代的には渋沢栄一の子供くらいの世代だろうか。マーケティングの授業でセグメンテーションの切り口として年齢、性別、所得レベル、地域、人口などの項目を教わるのだけど、自己流で歴史人口学に着目して次々と新規事業を連鎖的に考えて日本の生活インフラを変えてしまった人だ。
小林一三は、新規事業家のようなクリエイティブなイノベーターには普通の生い立ちではとてもなれないのかも・・・、と思えるような複雑でドラマのような家庭環境で育つ。ただし、彼のように最初に銀行へ就職し、計数感覚を身に着けてその後実業家に転職して次々と事業を起こす。人口変化に注目して市場の利害関係者をあっという間に把握する洞察力とビジョナリー精神、先見性を磨く。こんなキャリアを歩めば、少しは近づけるのかもしれない。
今は産業構造の変化もあわせて考えることになるので複雑だし、当時のような人口が増加する段階ではない。少子高齢化社会を踏まえた補正が必要だ。それでも、このキャリアは少しは私のような凡人にも参考になりそうだ。
産官の連携が叫ばれる中で、相容れない摩擦もあるのだろう。この問題も垣間見えるトピックがある。いくつかの企業(阪急電鉄、宝塚、第一ホテルなど)の取締役社長の後に国政まで経験している。キャリアに幅というよりも奥行きがある人を初めて見た気がする。なお、ひ孫がテニスプレーヤーの松岡修造氏だから多様性に満ちた華麗なる一族って感じだ。
やれDXだの、AIだ、IoTだ、5Gだと新規技術に沸き立って異業種連携のお祭り騒ぎの現代を彼が見たらどう思うのだろう。彼の思考回路を学びまねてみるもよし、この思考回路を自己流にアレンジするもよし。技術&社会をどう設計&実装するか、よくよく考えてみたい。
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p132 百歩先が見えるものは狂人扱いされ、五十歩先の見えるものの多くは犠牲者となる。十歩先が見えるものが成功者で、現在の見えぬものは落伍者である
p500 コマのように回転する回り舞台 コマ劇場 新宿と梅田
東宝 東京宝塚