紙の本
皇位不安定で混乱する世相での聖武帝の真意
2019/09/17 11:40
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
奈良時代、聖武帝の御代。澤田瞳子が描く歴史小説である。本書の概要は、主人公が鎌足の孫である中臣継麻呂である。当時零落していた橘氏の無官の長老、橘諸兄(後に左大臣)に呼び出されて依頼を受けたのである。諸兄は聖武帝が自分の後継天皇に道祖王を指名したとしているが、その人選に納得がいかない。
そこで、継麻呂を呼んで、聖武帝に遺詔の存在を確認させようとしたのである。構成としてはこの継麻呂とあの弓削道鏡が2人で情報を持っていそうな人物に面談を試みたというものである。すると、様々な人間関係に関する情報が得られたのである。それを小説という形式でまとめたものになっている。
諸兄、円方女王、光明皇后、栄訓、塩焼王、藤原仲麻呂、佐伯今毛人等を選んで話を聞いている。それぞれの立場や背景があるので、それ自体がストーリーになっている。しかし、遺詔があるという話は出てこない。ところが、このインタビューの最中に後継者であったはずの道祖王は、その座から滑り落ち、結局聖武帝の娘である阿倍皇女が立太子するという事変が発生する。
そして聖武帝崩御があるのだが、予定通り、阿倍皇太子が即位することとなる。その途中には仲麻呂の乱が勃発し、多くの関係者が戦死、死刑などで命を落としている。この時代は政権が不安定であった。本書にも登場するが聖武帝が恭仁宮、難波宮、紫香楽宮、再度平城京というように遷都を繰り返す。
さらに、元明、元正と女帝が二代続き、後継者難が続く。本書で調査者として登場する道鏡自身が、阿倍女帝に付き、法王の地位に上り、危うく即位するところまで来ている点を見ても、皇位の継承に関するルール、後継者に難点があり、親政時代の政が混乱してしまった。
本書はこの点小説になりそうなところを上手く捉え、形式もそれぞれの歴史上の人物たちに存分に意を語らせている。なかなか読みでのあるストーリーで楽しませてもらった。この皇位不安定という事態は様々な見方もできるので、次の機会にはより大胆な話を描いてもらいたい。
紙の本
月人壮士
2019/06/17 10:21
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっしー - この投稿者のレビュー一覧を見る
聖武太上天皇崩御後、孝謙天皇の後嗣となる皇太子を道祖王にする遺言が正しいか否かを、橘諸兄が、中臣継麻呂と道鏡に命じて解き明かすというストーリー。その聞き取りにおいて、生き方や遷都、仏教帰依など、人間聖武を浮き彫りにする。大仏開眼で有名だが、陰の部分も多い天皇。わかりやすく解き明かす工夫が素晴らしい。
紙の本
矜持と血統と。
2019/10/12 20:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
聖武太上天皇の崩御の際、当代である娘の孝謙女帝の皇嗣に天武天皇の孫道祖王が聖武の意思で指名された。
それは事実か、或いは別に聖武の遺詔があるのではと、橘諸兄が二人の若者に探るようにと依頼してくる。一人は藤原氏の本筋である中臣家の継麻呂、一人は道鏡。
諸兄、聖武の侍女、光明皇太后、様々な人々に話を聞く。相手も思いのままに聖武をはじめ、自分を語る。
真実は?
日輪の天孫たる天皇家、海のように周りをかためる藤原氏、相容れない間柄とされながら、文武天皇と藤原宮子の間に生まれ、臣下出身の母を持つ天皇として即位した聖武。それまでの天皇は母方も皇族や蘇我氏、それなのに……。
聖武の人生を辿りゆく。
将来の道鏡の姿を予見させるような、宮子の治療に当たった僧侶は痛ましい。
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大仏を建立し、仏教政策を進めた聖武天皇の真実の姿とは? 注目の歴史作家が、国のおおもとを揺るがす相剋と、帝の深き懊悩に迫る。
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2.古代
平安時代?奈良時代?難読でした。
「日出づる処の天子」で聖徳太子と蘇我氏の知識はあるつもりなのだが。その後の話だね。
聖武天皇崩御からの物語。他に遺言があるのでは、と探し回る道教と藤原のだれか。
章ごとに名前。それを家系図と照らし合わせる。いねーな、よく見たらいたわ、を繰り返し。
藤原は海だったのか。でも、海の出の母を嫌ったのに、なぜ仏教帰依なのか。そもそも海と山に子が生まれるのか、など、おかげで胃が悪くなったわ。
この時代は入り組んでいて、ホント難しい。
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図書館で借りたもの。
☆螺旋プロジェクトのひとつ。
東大寺大仏の開眼供養から四年、仏教政策を推進した帝の命は尽きる。道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、その言に疑いを持つ者がいた。前左大臣・橘諸兄の命を受けた中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探ることに。聖武天皇の真実を探る物語。
初読みの作家さん。
戦国時代より更に馴染みのない言葉が多く、苦労するな~と思ったら、聖武天皇の周りの人に話を聞いていくというスタイルで、話し言葉だから割と読めた。
聖武天皇の苦悩が描かれている。
天皇、皇族って大変だ…。
『天照大神を祖としていただく皇族が山であれば、藤原氏は海。』
『この国を治める山の如き皇族と、その稜線を洗う海の如き藤原氏の間に生まれた独り子、』
『この国において、皇統とは日輪の裔。いわば磐石なること巌の如き、陸じゃ。陸は常に、ひたひたと打ち寄せる海に取り囲まれ、荒ぶる波と毎日毎夜戦い続けておる。本邦においては、いわばその海は藤原氏。言うなれば本来、天皇家と藤原氏は相容れぬものなのじゃ』
↑ってあって、例えの上での山と海なのかな?って思ったけど、、
聖武天皇の目は蒼かった(皇族だけど藤原の血が入ったから?)から確実に海族?
そもそも皇族が山族で藤原氏が海族なら、間に子どもは生まれないんじゃ??
光明子(聖武天皇の妻)は藤原氏なのに海が居心地が悪い、という描写あり。ちょっとよく分からない…。
東大寺の造寺司・佐伯今毛人は、片方の目が青いという描写があったけど、長老的役割はない?
螺旋プロジェクトとして成立してる、、?
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図書館で借りた本。天皇は天照大神なのに仏に救いを求める聖武天皇。この月人壮士は聖武天皇の事である。彼は天皇一族の純血ではない出生からくる苦悩に生涯悩まされ、自分を産んだ藤原家出身の母を恨み、これからも天皇一族として続いていく藤原家の血筋をどこかで止めたかった。その反面、藤原家繁栄の為にライバルを抹殺したりもしている。鑑真や道鏡も登場し、ストーリーは聖武天皇について10人からインタビューをする形式で書いてあるので読みやすかった。
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聖武天皇は海の人と山の人との間に生まれ、天皇の出自を嫌悪していた。天皇の崩御からさかのぼる形で9人の語り手によって天皇の苦悩と来し方が語られる。今迄思っていた聖武天皇の人柄と全く違っていて少し新鮮だった。
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聖武天皇の遺詔を巡る歴史小説。
螺旋プロジェクトの一つですが、これまで読んできたPJT作品と比べ山海の関係やルールが前面に出ておらず、PJT作品としては失敗ではないかと思いました。
ただ、ややこしいこの時代ものとしては、中臣継麻呂と道鏡を道化とした聖武天皇ゆかりの人々へのインタビュー形式で読み易いと思います。
橘諸兄、円方女王、藤原光明子、栄訓、塩焼王、佐伯今毛人、藤原仲麻呂など、栄訓以外は実在の人物に語らせることでより臨場感も出ていると思います。
残念なのは、外戚問題は蘇我氏のころからあるし、長屋王と藤原氏の関係も山背大兄王と蘇我氏の関係と重なるので、この時代特有の問題というわけではないと思います。
ただ、女性天皇、女系天皇問題は現代でも再燃している問題なので、一つの考え方として捉えておくのもよいかと思います。
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初めて生れながらにして天皇を約束され、絶対的な富と権力を有し奈良の大仏を建てた聖武帝ですが、その治世は謎に満ちています。多くの歴史学者が謎に挑んでいます。澤田さんは、外堀からのアプローチで聖武像を際立たせようと試みました。ただ、物語は盛り上がりに欠け、残念ながら謎の核心に迫れたとも思えません。血を問題とされていますが、それは蘇我氏の時も同様です。先ずは、取り憑かれたように都を転々とした理由が知りたいですね。
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螺旋プロジェクト②古代編
藤原家の血を継ぐ母宮子への想いと純粋な天皇家の血を継げない首(おびと)こと聖武天皇のお話し。
藤原家が海、天皇家を山と設定されている。
首さまが亡くなる前に藤原家の血が混じらぬ皇族、道祖王(ふなどおう)を天皇とするとご遺詔を残したが、前左大臣橘の諸兄(もろえ)に命ぜられ、中臣の継麻呂と道鏡は今はの際に発せられた真のご遺詔を探すこととなる。
純粋な天皇家の血を継いでいない首は藤原家の血が混ざっていることを恥じ、疵(きず)を負った天皇ととして苦悩する。
藤原家のしたたかさがひどく印象に残った。
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この時代は好きなんですが、
何故かなかなか読み進められなかった。
「螺旋プロジェクト」はあんまり…
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苦手な歴史モノ、螺旋プロのためだけにもう、わかんなくても、人の名前や立場を忘れても、必死で読んだ。しかしなぜかラストにもののあわれ感が残った。わかってたのか自分?!今となってはもう一度読み直したい気もするが、やはり先へ進む。お次は中世・近代へ。
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序章からして難解であった。
聖武天皇である首(おびと)さまの崩御ではじまる。名前の読みからして難しい。人物関係も天皇家・藤原家略図とにらめっこ。この時代の歴史はごちゃごちゃしていて苦手なんだよなと思いながら読み進めていきました。
首さまが、死の間際に残した遺詔(いしょう)つまりは最後のみことのりを探せと命じられて、看病禅師の道鏡が関係者に話を聞くというスタイルです。関係者が一方的に話す形式ですが。
国を治めてきた天皇の血統が山なら、藤原氏は海ということで、螺旋プロジェクトの話につながつていきます。
半ばぐらいからは、人物関係が頭に入ってきて俄然面白くなってきました。
藤原氏と天皇家の関係性の解釈としても、面白いですし、この本を読んでいたなら、この時代の日本史の学習も楽しくなると思います。長屋王の変もよくわかりました。
天皇の即位順がごちゃごちゃしていたり、何度も遷都を繰り返したりとなんでなんだろうと思っていましたが、この本を読んで、こういう理由だったのかもしれないと理解できました。
澤田さんに感謝!澤田さんの他の本も読んでみたくなりました。
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奈良時代、聖武天皇とその周辺の人々の、皇位をめぐる争いと苦悩を描く。
螺旋プロジェクト、古代編。
中臣継麻呂と道鏡が狂言回しの役として登場し、聖武天皇の崩御した後、周囲の人たちに話を聞きに行くという設定なのだが、古代史に登場する人物名がややこしくて、何度も巻頭の系図と見比べながら読み進めた。
生粋の皇族が山の民、そこに割り込んで権勢を振るう藤原氏が海の民。さらには、藤原氏を母にもち純血ではない天皇であることを恥じ悩み続けた聖武という構図だ。
螺旋プロジェクトの一冊ということで手に取ったのだが、他の作家に比べると単独の物語としてはやや弱い。歴史的な資料が少ない時代なので、逆にもっと自由に膨らませてもよかったのでは。
さて、次は中世・近世へ。