紙の本
社会の民族史、風俗史になっている
2014/03/09 21:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノンフィクション作家である野地が描写するサービスの達人の人物像を書籍にしたものである。村松友視が書いた『帝国ホテルの不思議』と同じ様な手法である。村松の場合は帝国ホテルで働く従業員へのインタビューが基本になっている。本書の野地も同じであるが、世の中のサービスの達人を選んでいる点で異なる。
ホテルに限定されないだけ多様性に富んでいる。老舗の天ぷら店、銭湯の三助、ウィスキーのブレンダー、ゲイバーの経営者、電報配達人、銀座のクラブのホステス、そして奇しくも村松と一致したホテルの靴磨きなどがその対象である。
老舗の天ぷら店、ロールスロイスのセールスマン、ブレンダーなどはさもありなんと思うが、三助、ゲイバーの経営者、電報配達人などは実にユニークである。三助や電報配達人はすでに過去のもので、三助のサービスを味わった人はもはやそうはいないであろう。どんなサービスを提供してくれるのか知らない人も多い。
どれも文庫本20頁前後が普通であるが、稀代の興行師には倍近い頁を割いている。主役は「怪物」神彰である。この神彰が描かれていると思って読んでいると、かなりの頁が神彰の次の興行師である「康芳夫」についての記述であったりする。呼び屋と渾名された興行師達であるが、俳優のように表に出る仕事ではないので、何をやっているかはわからなかったが、野地が紹介する呼び屋は波乱万丈で、読者を引き込んでいく。
本書の続編が『サービスの裏方たち』という文庫本である。これも対象の選択が面白い。学校給食のおばさん、赤飯を作る和菓子屋、女性クレーンオペレーター、銀座の老舗の生き残り方、高倉健が愛好する名画の模写、英国のコーンウォールにある劇場などどれもユニークで話題に材料になるものばかりである。
サービスと一口に言っても、その実態は様々である。サービスに三助やゲイバーの経営者が含まれているとは思わなかった。しかし、そんなカテゴリーの話はどうでもよい。産業分類を議論するわけではないのだ。世の変化に連れて「サービス」の中身は変遷を遂げ、栄枯盛衰を繰り返しているのだ。
そういう点では野地の描くサービスは、社会の有り様を描いているとも言え、民族史、風俗史とも言えるかもしれない。二冊とも大変興味深く読了した。続編も読みたいものである。
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特別な人ではなく、その仕事を地道にやって活躍した人が描かれている。
これまでなじみがなかった職業に興味が持て、またそこで活躍する人の気持ちや思いに涙してしまった。
廃れてしまった仕事も取り上げられており、庶民の暮らしぶりも窺える1冊。
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おもてなし系の仕事のテクニック的な紹介かと思ったら、あまり見聞きすることのできない職種における伝説のプロフェッショナルとも言える人々の回顧録的なもの。いまだ現役の方もいるが、引退された方も含め昭和の時代からの生き方、働き方は刺激的。
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人は不幸のどん底からでもちゃんと復元できる。それくらい逞しい精神を持った動物なんだ。
美濃部都知事は昭和45年に公営ギャンブル廃止に伴って洗髪料の徴収もやめさせたから、銭湯の人たちには人気がない。
NTTの電報が阪神大震災で大活躍した。B29が東京を空襲した日も電報は配達された。すごいことだ。
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サービス業の人達の、どれだけ自分の仕事に
誇りを持っているか、が分かる内容。
ここまで仕事に打ち込めるか、と言われたら
どうなのだろうか、と自問自答します。
すべて、自分の仕事に打ち込んで、何かに気づいて
貪欲に前に進んでいる気がします。
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雑貨とカフェのお店を営業している者として、学べるところがあればと手に取りました。
どのプロフェッショナルからも、仕事に対する情熱、信念、厳しさ、誇りを感じました。皆さん、長い修業時代を経てプロになられた様子が詳しく書かれていました。
私はまだまだ駆け出しのひよっこですが、サービスを提供するプロフェッショナルになる(本当はすでになっていないといけないのですが…。)べく、日々努力していきたいと改めて思いました。
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形としては残らないが、人の心に残るサービスの職人たち9人の物語。
ふらりと販売店に入って来、場違いな雰囲気の20代前半の若者にも
「客」として接するロールスロイスの営業員。今はほぼ絶滅したと言って
もいい大型キャバレーのナンバーワン・ホステス。東京大空襲で焼け野
原となった東京で、阪神淡路大震災の被災地で、必死に電報を届けよう
とする配達人たち。
物作りでこそないが、彼等・彼女等には「職人」の心が生きている。
本書で取り上げられている東京都千代田区神田の天ぷら屋の2代目の
エピソードがいい。
父の店に弟子入りした2代目は婚約を期に、父から鍋前の花台を受け
継ぐ。ある日、昼食の天ぷら定食を食べいた常連客が血行を変えて
突進して来た。
「今日のかき揚げ、誰が揚げたんだ」
自分であると、2代目は蚊の鳴くような声で答える。すると常連客は
泣き出した。
「そうか、よかった。もう大丈夫だ。ずいぶん長い間、まずい天ぷらを
食わされたけど、やっと一人前になった」
客が店を育てた時代があったんだねぇ。ぐっと来るものがあったぞ。
気持ちが温かくなる1冊である。
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読む前に想像していたよりいい本だった。いわゆるビジネス系の安手の自己啓発本みたいなものかなと思っていたんだけど、各人の生い立ちなども紹介しながらその人ならではのサービスのありようを紹介している。
いってみれば、彼らは(……そう、彼らはであって彼女にあたる人は本書にはいない。おかまはいるけど)その道一筋の人たちであり、そういうのってけっこう男性的な感じがする。なぜなら、男はいろんなことをいっぺんにやるのがあまり得意でなく、一つことを突き詰めていくほうが向いている気がするから。
彼らにしてみれば功名心とかスキルとかいう意識でやっているのでなく、ただただやっている……というかそういうふうにしか生きられないのではないかしらん。だから効率的なスキルを紹介するばかりの安手な自己啓発本とは一線を画しているのかと。
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昭和の、古き良き、もう息も絶え絶えの、幾つかのサービス業のプロにスポットを当てたルポタージュ。
コツコツと一つの仕事をやってきた人の人生が書かれていて、こんなところにスポットが当たるのはとても好ましいと思うし、記録として残しておきたいと私も思った。ただ、私には筆者の情緒的な文章が、随分と鼻についたけれど。
さて、何年か前に読んだのなら、私も同じように違う場所で、ともすればスポットのあたりにくいところでコツコツと一つの仕事を極めたいと、大きく共感したと思うのだけれど、今の気分では大きな共感はなかった。むしろ、それでいいのかと疑問に思った割合の方が多かったように思う。取り上げられているいずれのサービス業も、今はもう明らかに廃れていて、業態に寿命があることをどうしても感じてしまう。ここでは業態の晩年でもそこでとどまる姿がしばしば書かれているけれど、それは美しくはなく、むしろ悲しいことなのだと思ったのだ。
私もワークシフトの呪いにかかっているのか。そんなことを考えずに、ただ美しい話として読めばよかったのか。
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自分が手がけていることを愛し、没頭し、とことん極めることを追い求めている諸先輩方の話。
仕事に疲れた状態で読んで、自分に活力を注入したい1冊。
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この手の本にしては説教くさくなくて、おもしろかった・・・のですが、あとがきがなんかイマイチだったので、星3つで。
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ロールスロイスの営業マンから、靴磨きまで、いろんなサービスの達人が紹介されています。共通しているのは、謙虚であること。中でも、ウイスキーのブレンダーと、電報の配達人の話か好きです。
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先月、新潮文庫から出た『サービスの裏方たち』には前作が存在すると知り、本屋さんで早速購入。そして読了。
今作は寿屋(現・サントリー)の”響“や“山崎”などを手掛けたチーフブレンダーや、銀座にあった伝説のゲイバア“やなぎ”のお島さんこと島田正雄さん。風呂屋の三助さんや、ヘップバーンの靴を磨いた有名シューシャインなど、サービス業の達人たちにスポットを当てた全9篇。今回もサービスの達人たちの、直向きに働く姿に心奪われる一冊です。
今作も話の節々で、石原慎太郎さんや、故青山二郎夫人の青山和子さん、テリー伊藤さんなどの著名人が登場します。…てか、あの美術評論家の青山二郎さんがゲイバアに通ってたというのは意外と思う反面、なんとなく納得もしちゃいました(笑)
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今や幻の職業となった三助、ゲイバーのママ、名ブレンダーなどなど己の人生を懸けて職務をまっとうするプロフェッショナルたちの生き様、哲学を描いたノンフィクション。
ハウツー本ではないので、そのまま参考に出来る部分ばかりでないが、カッコイイ大人の生き方ってなんだろうと考えさせられる本。特にオードリー・ヘップバーンを虜にしたシューシャインの神さま、靴磨きの源ちゃんの生き方にとても感銘を受けた。
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サービスの極意というよりも、一つの時代を描いたノンフィクションだと思った。進駐軍のゲイたちも通った伝説のゲイバー「やなぎ」のお島さん、「松の湯」の三助いっちゃん、モハメド・アリを日本に読んだ興行師康芳夫・・・今の時代を生きることができなくなった人間たち。しかし彼らは時代が必要としなくなったにもかかわらず、今もっとも求められるような技術と心を兼ね備えた「職人」たちだ。彼らを現代に蘇らせた本書は、現代に古くて新しい風を吹き込む。個人的には「ヘップバーンも虜にした靴磨き」が白眉。