歩く探究者とパトロン
2023/07/09 04:27
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
民俗学者宮本常一とその研究を支えた経済人渋沢敬三。この二人の生涯を丁寧に評伝している。宮本は山口の島出身。苦労しながら定職に就いた期間は短く、50代後半にやっと大学の教職を得るまで自分の興味の尽きない探究のため全国を歩き民族資料を収集する。渋沢は渋沢栄一の孫として生まれ、なに不自由しない生活を送りながらも若くして渋沢一族の当主として望む道に進めなかったが、宮本の収集に援助を行う。民俗学の発展に多大な貢献をした二人。正に民からの収集実践が学問の基礎を作っていることを感じさせられた。民俗学の神様的存在の柳田国男とは取り組み方も考え方も違いがあった部分も述べられている。地道にコツコツと進めるのが何事にも代えがたい方法。
日本中を歩きつくした男・宮本常一の評伝
2009/04/29 20:48
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のカバー写真は小舟に乗る宮本常一である。小さなカメラを手にしているように見える。確か、愛用のカメラはオリンパスペンだったと聞いた覚えがある。何気なく日常の風景を切り取って撮影するには、もってこいのはずだ。昭和37年撮影とあるから、オリンパスペンの発売された昭和34年と年代的にはつじつまが合う。
とにかく写真を撮りまくった。なんであんな変哲もない風景を一生懸命撮るのかと当時は言われたようだ。宮本がよく撮ったのは洗濯物だった。一見みのがしがちな洗濯物には、その地方の生活の程度と人々の好みがよく現れていた。宮本は言う、「昭和35年ごろまではまだ木綿が多く、それも手縫いしたものが主であったが、37年ごろから既製品が多くなり、急速に地方的な特色はきえてきた」と。
本書は民俗学者・宮本常一の評伝である。宮本は、強大な足跡を、日本列島のすみずみまで印した。民俗調査の旅は、1日あたり40キロ、のべ日数にして四千日に及んだという。著者・佐野眞一は、宮本の足跡を追い旅を重ね、膨大な資料を徹底的に渉猟している。ゲートルばきの宮本の姿が浮かび上がってくる。それに、宮本を取りまく人間像の描写が細密で人間味あるものだ――転機となった大宅壮一との出会いとか、恩師となる渋沢敬三とのつながりを忘れることはできない。
宮本は全国各地を歩くとき「山口県大島の百姓だ」の一本槍で押し通したという。古老の話を一言ももらさず記憶にとどめ、宿に帰って、頭に刻みこんだその記憶を一心不乱にかきとめた。宮本の取材方法はいつもこうだった。話し手の前にノートをひろげては相手は絶対本当のことを語ってはくれず、ましてテープに録音するなど論外というのが、聞きとり調査の基本的姿勢だった。宮本の記憶力は超人的だったという。
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2009年69冊目。「執念」という言葉がピッタリくるノンフィクションの第一人者、佐野眞一さんの作品です。
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佐藤研と関係があるかはわかりませんが、今丁度読んでいるので。
http://booklog.jp/users/hajimeeee/でもっとくだらない本を紹介しています。
-江崎
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圧倒された。自分も徒歩旅行が好きで主に伊豆の山中を歩きまわっている。しかし、一日十里、十六万キロを自分の足で歩いている。目標とするにはあまりに高い。伊能忠敬、菅江真澄、宮本常一を見習って私も歩くぞ。今は江戸の掘割全制覇を実施中。いずれ五街道完全踏破と、日本の海岸線(ほぼ)踏破をやるぞ。
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某都市デザイン事務所の方に教えてもらった本。宮本常一にはハマった・・。とハニカミながら話してくれました。
人生をかけるに値する仕事、まさしくライフワークの話。でも家族との時間は?仕事以外への好奇心はどうするの?凡人の私にはちょっとハードルが高い。
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健脚の民俗学者・宮本常一の人生。 昭和の民俗学者・宮本常一の人生を追ったノンフィクション。
貧しい瀬戸内海の島で育った宮本常一は、父から教わったいくつかのルールを守りながら、日本を旅して廻ります。とにかく国内のあらゆるところをひたすら歩いて、様々な土地の人々の生活を記録し続け、昭和の日本人の姿を明らかにしていきます。民俗学者には、研究室で史料・史実を基に研究する人と、現場でのフィールドワークを重視するタイプがいますが、宮本常一は後者の人であったようです。
日本中を旅して歩く彼のような生き方というのも、自分の人生を考える時とても参考になります。何気なく撮った数万枚の昭和の風景のスナップショットが、今では昭和という時代を知る貴重な資料となっているそうです。彼の業績は、これから益々評価されていくのではないかと思います。
佐野真一のノンフィクションの中では、最高の一冊だと思います。著者の人生にも影響を与えた宮本常一への愛情みたいなものを感じました。
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新しい土地に行った際には、まず高いところに登る。山がどこにあり、川がどのように流れ、人の暮らしがどこにあるかを俯瞰する。また街に入れば、家の造りや屋根、壁の構造や素材、街路の形成、田畑に植えられているもの、地域住民の服装や表情、その土地の食べ物、夜の街、、様々な土地の風俗を五感で体験する。
これは宮本常一が日本中で実践してきたフィールドワークの実態だ。彼が歩いた足跡を地図に落とせば、日本全体が赤く染まりその距離は地球4周分にもなる。旅する巨人と言われる宮本常一の徹底した現場主義の成果は、『忘れられた日本人』や『民俗学への道』といった著書にまとめられている。
その宮本常一を経済的に支えたのは、渋沢敬三である。渋沢栄一の孫として大蔵大臣や日銀総裁に担ぎ上げられる一方で、贅沢税を導入して率先して貧富の格差解消に尽力した。そこには民俗学者として日本の隅々まで歩いた宮本常一の影響があったことは想像に難くない。
よく地域づくりの文脈では、現場が大事だと言われる。しかしそれ以上に重要なのは、その雑多な現場にどのような色彩を乗せて集合知へと昇華させる意味付けの教養であり、圧倒的な経験則に裏打ちされた具体例の集積だろう。宮本常一の足元どころか爪先にも及ばないが、数多くの地域を訪れてようやくその本質が見えてきた。
課題は現場にある。でも課題解決は現場にはない。中央にカネと情報を吸い上げて、十把一絡げにモデル事業だったり横展開とか言っちゃっているところには解はない。個別具体的な事例を積み上げて、大衆の生活のリアリティを見聞きし体感し、自らの想像力の引き出しを広げて異分野と結び付ける。ローカルで興るイノベーションとは、かくも泥臭く奥深いものなのだ。
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偉大なる美しい日本人。戦後間もない頃から「地元力による地域振興」「コミュニティデザイン」がこんなに強烈に意識されてたことに驚く。離見の見。
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目次の前に、宮本常一と渋沢敬三の写真が掲載されている。宮本常一のは「長崎県五島、頭ケ島にて(昭和37年8月)」というキャプションが付けられている写真。渡し舟と思われるような小さな船に、船頭と子供2人と宮本を含む大人の客3名、計6名が乗り込んでいる。船は渡し場に着いたのかこれから渡し場を出て行こうとしているのか分からないけれども、渡し場に接している。渡し場の方向を向いた宮本常一がカメラの方向を向かって笑っている。カメラの方向を向いている宮本常一自身もカメラを手にしている。おそらく旅の途中なのだろう。渋沢敬三の写真には、「還暦の春に」というキャプションが付けられている。67歳で没した渋沢敬三にとっては、もう晩年と呼んでも差し支えない年齢。白黒写真なので、色は分からないが、ダークなダブルのスーツを着こなしソファに座り両手の指を体の前で軽く組んでいる。表情は、微笑、ほんの微かに笑っているように私には思える。2人ともに実に魅力的な表情をしている。特に目が印象的だ。この本を読んで、宮本常一も渋沢敬三も、実に魅力的な人物であると感じたから、なおさらそう思えるのか。それとも、写真の表情には、その人の何かが出るのだろうか。こんなことを思うのは珍しいのだけれども、こういった表情をする人になりたいな、と思った。
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結論:パトロンって大切
あと「忘れられた日本人」の中の有名なエピソード、土佐源氏の話が実はほとんどフィクションだったというのは衝撃。
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私の日本地図を読んで以来、気になっていた宮本常一のことがわかった。
彼の妻に同情。う〜ん、宮本常一は、私の中ではイメージダウンです。
読みごたえのある本。
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後年まで定職に就かず日本中をフィールドワークして歩いた民俗学者宮本常一と、それを物心両面で援助しつづけた実業家かつ民族学者渋沢敬三の評伝である。最初は宮本だけの評伝として構想されたが、渋沢の存在の巨きさに気がつき二人の評伝というかたちになったという。二人への著者の畏敬の念がが素直に出ているが、ノンフィクションライターとしての矜持を保ち二人の負の部分もきちんと描いているのはさすがである。忘れられた巨人で有った宮本と渋沢は、この本によって十分に顕彰された。
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調査のため、日本を歩き訪ねて、73年の生涯で16万キロ。
白地図の日本列島に彼の足跡を赤ペンキで塗ると真っ赤になる。
彼が巨人じゃないなら、もはや巨人は存在しない。
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緻密だが、著者の意見に欠けるように思う。正直、渋沢氏の話は興味ないので別の本としてまとめてほしかった。