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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ほぼ歴史小説のようだった上巻から、
そういえばSFだったとなる下巻。
とはいえ、少し年代を先取りしているほかは
かなり現実的なライン。
かなり終盤にさしかかったところで突然来る
殺人犯vsヘモグロビンのくだりがあったり、
シリアスとジョークがしっかり編み込まれていて
クセになる読み心地。
或る愛の物語。
何かを手に入れるためには何かを捨てなければならない
2019/12/26 08:06
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
上巻ではSF要素が皆無だったので、果たして下巻でもSF要素があるのかという心配は杞憂だった。
むしろ下巻ではいい意味で驚きっぱなしだった。
下巻を読み始めてすぐに上巻との時間軸の乖離に驚いた。
時代は変化していたものの、上巻で描かれた物語が下巻での登場人物たちの言動、決断に非常に説得力と重みを持たせていた。
また、多くの登場人物を上手に扱っていた。
意外な人物同士が意外なきっかけで繋がったりしていた。
作者の構成力に脱帽だ。
下巻の序盤で描かれていた「貧困」の問題の根の深さにも驚愕した。
これは今現在でも解決されていない大きな問題である。
「怠けないで何をすればいいのか誰も教えてくれないし、理解もできない。選択肢が多すぎて考えることが億劫になる。一度その地獄に陥ると、そこから抜け出すのは容易ではない。」
本作の魅力はただのエンタメ作品ではなく、この様な社会に蔓延している問題に対して本質を突くような描写だと思う。
そして下巻で最も驚いたのは、上巻を踏まえたうえでSF要素を無理なく描き出した部分だ。
脳波を使ったゲームという発想がとても面白く、そのゲームの活用方法もそれ以上に素晴らしい発想だと思った。
そのゲームを用いてムイタックがしようとしたことは、ムイタックの過去を知っている読者からすればとても腑に落ちるであろう。
上巻同様下巻でも鋭い洞察によって書かれたセリフなどがとても興味深かった。
「意見や質問には文脈が存在する。」、「分業が進むと生産性が上昇する代わりに個人はどんどん弱くなっていく。」や、「人類の歴史上の中で最も強大な敵は家族だ。」などといった部分が特に興味をそそられた。
時代に翻弄され、被害者であるソリヤがカンボジアを正しい国に導くために、どれ程の犠牲を払ったかを考えるととても悲しい。
「カンボジアのためにひとつの正しいことを成し遂げようとすれば、二千個ほどの間違ったことをしなければならなかった。」と述べたソリヤの考えも同調できる。
しかし、「答えを知りたければ抵抗し続け、すでにその答えが自分の届かないところにあるという絶望の中に沈まなければならない。もしくは、答えかどうか分からない何かを手にしたまま、答えを知ることを諦めなければならない。」と述べたムイタックの考えにも同調できる。
かつては共にゲームを楽しみ、打倒ポル・ポトという同じ目的を持った者同士のこの物語は悲劇と呼んでいいのか私には分からない。
ただ、本書は様々な感情を喚起させる素晴らしい作品だった。
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上下巻纏めて。
カンボジアを舞台にした壮大な物語。ジャンルとしてはSFになっているのだろうが、そういうカテゴリーを超えた、ただただ面白い本を読んだという気分だった。良かった。
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上巻のレビューで、「登場人物は皆、愚者か狂人か天才、あるいはその全て」と書きました。が、下巻にはこれに聖者も加わりました。登場人物は皆、愚者か狂人か天才か聖者、あるいはその全て。壮大にして壮絶な、群像劇です。
ポル・ポトの遺児であり、天才的なカリスマ性と政治的センスを持つ大人びた少女・ソリヤ。
愚鈍な両親から生まれながらも奇跡のような洞察力と計算力を持つ潔癖性の少年・ムイタック。
物語はこの二人がそれぞれにカンボジアの平和を目指し、しかしそれぞれの価値観の違い故に敵味方へと別れ、数十年後に再び邂逅するまでを描きます。この二人を中心に物語は進んでいくのですが、二人の内面の描写は、その天才性を際立たせるためにか、まるでテストの回答文のように素っ気なく情感を排した描かれ方で、一人の人間として感情移入することが極めて困難です。
鴨が思うに、この二人は物語を進めるためのドライバーに過ぎず、作者が真に描きたかったのは彼らの周囲でその天才性に巻き込まれながら世界を形作っていく、多種多様な人々の姿だったのでは、と感じます。このサブキャラがまた、どいつもこいつもやり過ぎなぐらい個性的で(笑)、自分自身にしか通用しない世界観・価値観・行動規範の中に生きている者たちばかりです。彼らが互いに通じ合わない会話を続ける様は、独特の諧謔味すら感じさせ、それがまた天才・ソリヤとムイタックとの差異を強く感じさせずにいられないファクターにもなっています。
が、そんな「個性的な凡人」たちこそが、世界を構成する主要素であり、天才同士のゲームだけで世界を変えられるわけはない・・・そんな当たり前のことを、史実と幻想を交えたこの不思議な物語の形で、小川哲は伝えたかったのかもしれません。
SF風味は薄めですが、小説と言う創作ジャンルにおいて、間違いなく傑作だと思います。ただし、軽い気持ちで読み始めるとあっという間に置いていかれますので(笑)気力・体力ともに充実した状態で読むことをおススメ。
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この下巻では上巻の終わりまでに描かれていた時代から50年余りの時間が経過している。上巻では史実に基づいた部分と絡めて流れ行く時代の奔流の中で奮闘する二人の天才少年、少女の物語が時系列に沿って展開していた。打って変わって、下巻では時代的には近未来に位置しており、テクノロジーが発達しているが、政治、社会は不正がはびこるディストピア的世界観の中で進行していく。ムイタックとソリヤのゲーム対決は時を経ても続いており、次第に人生の目的自体はこの対決のためでありそれ自体が人生であったと気づく。
下巻で登場する「ブラクション・ゲーム」は上巻でムイタックたちが考案した、楽しむこと自体がゲームの構造に組み込まれているという新たなゲームの概念の定義が形をとったものだ。最後に二人が対決するのはこのゲーム上で展開され、地味になりがちな頭脳戦がアクションシーンとして派手に描かれている。またこのゲームの構造によってプレイヤーに自然と記憶の刷り込みができるというアイデアも示唆的で興味深かった。唯一不可解な、登場人物たちの持つ突飛すぎる超常的能力の描写は、この小説を構成する文章自体がブラクション・ゲームをプレイし、ムイタックの記憶を追体験した際の脳波、P120から文書生成アルゴリズムによって出力されたものなので、記憶の細部が現在の主観によって書き換わっているというメタフィクション的要素によるものなのではないかと思った。
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半世紀後の近未来に舞台を移し、政権奪取を誓うソリヤとゲーム開発に勤しむムイタックの対比が描かれる。ジャンルは最早上巻と別物で、SF・脳科学・社会問題と様々な要素が盛り込まれていて興味深いが、舞台設定の華々しさに反し、人間ドラマの書き込みが圧倒的に不足しており、上巻との温度差に少々落胆。奇人変人の生態よりも二人が再戦に至る迄のカタルシスを味わいたかった。物語を小さく畳むにせよ、もっと盛り上げようはあったと思うが、その様なエンタメ志向は著者の意に反する印象。短編の方が純粋に設定や世界観を楽しめる作家だと思う。
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小説の読書はじめは、本大作の後半から。時代は一気に飛んで、主人公たちも年を経て、人生の終盤を迎えんとする近未来の世界へ。タイトルのゆえんたる”ゲーム”の本質が、次世代の才能によって可視化されていく。確かに、脳波を用いての創造世界ゲームって、ちょっとやってみたいかも。ポルポト暗黒時代の呪いから、なかなかに抜け出せない彼の国の状況も丁寧に描かれていて、歴史小説としても、終始秀逸な内容だった。年末年始の充実した読書ライフを有難うございました。
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結局何だかよく分からなかったけれどとにかく面白かった、というのが正直な感想。上巻を読み始めてすぐに、これは自分の好きな話だと感じて、そこからはひたすらに読み進めていた。
上下巻で時代設定が異なるけど、上巻の方が好みだった気がする。思想がテーマになっていて、かつ、自分の納得出来るリアリティを持っている話が好きな気がする。
200102
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上巻まるまる「これSFなん?」って言う感じやったけど、下巻は一気にSFしてた。カンボジア現代史とかかなり胸糞悪いんやけど、それだけで上巻引っ張り切ったのはスゴかった。今思い返してもよう読み切ったなぁと思う。それに比べるとゲームとか脳波とか絡むSFしてる下巻は格段に読んでて楽しい。
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変な感想になるが、面白かったが細部はよく分からなかったと言うのが正直なところだ。
人物の絡みについては分かり易いが、脳波や「チャンドゥグ」と言うゲームについてはオボロゲにしか分からなかった。
話の展開の雰囲気で楽しめた。
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革命時期のカンボジアを舞台とした物語。SFという感じがしてくるのはこの下巻の途中から。
史実ベースの話であることは感じていたが、サロト・サルなど実在した人物が登場していたとは、巻末の参考文献集を読むまで恥ずかしながら知らなかった。
どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのか、理解して読むには知識や教養がいるなあと感じた。
話の内容に関しては、登場人物の数や時間が飛び回るのでかなり混乱する。というか下巻の始まりからして上巻から50年後である。
あと科学完全度外視の魔法じみた現象が複数登場するので合わない人は合わないかも。
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どの神を信じるのか、何を喜びとするのか。
上下巻では、時代も展開も全くと言っていいほど違うため、
少し混乱するけど、書かれていることは、
冒頭の一文に集約されるのかと。
頭の中がいろんな角度から揺さぶられる、
面白いシリーズでした。
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上巻から時が流れたカンボジア。
下巻は上巻での陰気な描写はなく、主人公達が半世紀のときを越え、それぞれの想いを胸にそれぞれの道を目指し奔走。
描写が緻密、緻密。ただし、緻密すぎて、解釈に頭を使うことで、ときおり集中力が途絶え、眠気が襲うことも。
ただし、物語後半で判明する「ゲームの王国」の意味。
ムイタックとソリヤ。二人のあの描写は生き生きと読めて、何となく嬉しかった。
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上巻のオビには、個人的ハズレなし国内作家部門の男女筆頭である、伊坂幸太郎さんと宮部みゆきさんの推薦文!
これは、僕の記憶が確かなら、あの「虐殺器官(伊藤計劃)」の文庫刊行時と同じ組み合わせです。期待が高まらないわけがない。
そんな思いで読み始めた上巻は、1950年代から60年代をささっと駆け抜け、主としてポル・ポトが率いるクメール・ルージュが支配し、不正と猜疑と虐殺が横行する1970年代のカンボジアを舞台に、終始憤りとやるせなさと苦しみが重たくのしかかるストーリーが展開されました。
本作のダブル主演ともいえる、人の嘘を見抜くことができる少女ソリヤ、並大抵の大人を凌駕する論理的で明晰な頭脳を持ち、極度に潔癖症でもある少年ムイタック(本名ではなく"水浴び"という意味の通り名)はじめ、主要な登場人物もこの上巻で揃います。
人民を幸せにするはずだった革命の理想を貫き、その失敗を認めたくがない故に失敗の本質を見ようとせず、革命の主導者たちが革命の同士や人民を犠牲にして血みどろのディストピアを現出させていく様は、読むのがしんどいのに読まずにはいられない異様な迫力と臨場感に溢れています。
奇妙な縁の巡り合わせで出会い、あるゲーム遊びを通じて互いへのリスペクトを抱いたソリヤとムイタックですが、出会ったその日に革命の影響で離れ離れになり、全く異なる数奇な人生を歩むこととなります。
そして上巻のラストには、大きな衝撃が待ち受けているのですが…
気が急いて、カバーをつけるのももどかしく下巻のページをめくると、いきなり舞台は2023年。何ですとーーーーー!?
「続きはどうなったの?、いや下巻は現代と回想形式の過去を行きつ戻りつの展開か?」とも考えましたが、それもしばしのこと、現代パートは現代パートで、70年代パートに勝るとも劣らぬ引き込まれ具合で一気に読み通しました。
ラストのとある登場人物の、神への祈りの独白には、身も心もグググッと震えました。決して甘くはないけど、これ以上はないであろう納得の終わりに、ページと一緒に目を閉じて深ーい余韻に浸りました。
エンドタイトルとしては、Simon&Garfunkelバージョンではなく、Gregorianバージョンの"Scarborough Fair"がふさわしいかな。
中世以前ならともかく、僕が生まれて間もない頃に同じアジアの中であった出来事やのに、この本を読むまで、ほとんどカンボジアの壮絶な悲劇を知らないままやったこと、ソリヤやムイタックに対して恥ずかしい。
そういった歴史以外にも、目まぐるしく、慌ただしくいろんなことを真剣に考えさせられる物語でした。
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上巻から50年後2020年代のカンボジアを描いた本書。
本書からはかなりSF的要素が満載だが、いまいち著者がなにを言いたいのかわからなかった。
主人公である二人の少年少女はもう初老の時期に入り、少女は政治家を目指してカンボジアの政権を取ろうとし、少年は研究の世界で名前をなす。
最終的に二人がたどり着く世界は一体どうなってしまうのか。