社会の分断の原因を探る一冊
2020/12/19 17:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もちお - この投稿者のレビュー一覧を見る
選挙コンサルとしてアメリカ社会の分断の原因について迫る一冊。学者が社会の差異を見つけ出し、メディアがそれを拡散するという形で分断が広がっていくという構図になるのだが、同時並行として経済格差が拡大しているため、これらが相互補完して分断の修復は簡単ではないことが分かる一冊。
投稿元:
レビューを見る
世の中が分断されてきていると思っていて、その対立に疲れてきた人におすすめ。その分断って他人から押しつけられてるだけなんじゃないかと。誰かが作ったその対立構図から抜け出そうよと言うようなことが書かれていました。ある意味自己啓発本かも。
あと暗号通貨のことも。世間で言われてる暗号通貨の話しって主に経済とか流通とかどう変わるかというところが話題になるけど、この本は政治の仕組みをも変えてしまうとまで書かれていた。そこが特異な点だと思いました。
投稿元:
レビューを見る
トランプ大統領の当選やBrexitなど、近年の欧米における選挙マーケティングについて、詳しく考察されており非常に興味深い。筆者の経験が踏まえられており、記述に説得力がある。
一方、後半の仮想通貨に関する記述は、表面的な説明が冗長的に繰り返されており、取ってつけたような印象。
投稿元:
レビューを見る
なるほど… 私の今の問題意識に対して大変示唆に富む内容でした。そうなんですよね… アイデンティティ・ポリティクスの行き過ぎと、それに対抗する形でのナショナリズムの扇動という対立構図。国の生い立ちや社会背景の違いにより細かなところでは全く同じではないですが、大胆に単純化するとアメリカで起きていることも、欧州の多くの国で起きていることも、この図式に要約されますね… で、外からの「レッテル貼り」によってアイデンティティが押し付けられてしまっているという「作られるアイデンティティ」の経緯。
先に読んだ『アフター・リベラル』では「歴史認識」を(そのような「外からのアイデンティティ形成の)一つの軸として取り上げていたのに対して、こちらの本で著者の渡瀬さんが「通貨」を大きく取り上げていた点もなるほど、と思いました。
投稿元:
レビューを見る
民主主義が選挙で成り立つ以上、分断(グルーピング)という名のマーケティングで票を得る闘争になるのは否めないとして(政治家だけでなく閲覧数や広告費で儲けるメディアが拡声器となりSNSがエコーチェンバー起こすことなども)、でも知識人層がこの新たな分断を見つけることに熱中しているとする指摘は、違和感が残った(米国知識人の発言を日常的にウォッチしてないけど)。
知識人らが新たな断絶を発見し、政治家が声高にその亀裂を指摘(あるいは焚き付けて)し、メディアがその分断の裂け目を深く広くしていく流れだ。こうしてグルーピングされた人数が選挙の得票数となる。
このように社会的合意を見いだせなくなっていけば民主主義社会は歴史的使命を終えるだろう、というのが筆者の主張。米国の分断のノウハウを「分断メシウマ」と捉える上記層が幾重にも共鳴するため、特に成熟した民主主義国に輸出され、拡大していく恐れがあると警告する。
また、Libraなどのステーブルコインやデジタル人民元のあまりに大きな存在感が、日本に政治的に影響してくるという主張も興味深かった。選挙という従来の手法を通して民主主義国家に侵食してくる恐れがあるという。
投稿元:
レビューを見る
「分断」というタイトルから「ああ、トランプディス本だな」と思っていたが全くそんなこと無し。むしろ、特定のアイデンティティを押し付けて選挙に勝とうとする手法はリベラル・保守共通であり、同じ穴のムジナであるとの主張に感服。
投稿元:
レビューを見る
メディアなどから発信される情報はどのような分断を生むのかを想像し、様々なアイデンティティを認識できるように心がける。様々なアイデンティティの分断に優先順位をつけて、常に更新し続けることで、柔軟な有権者として責任を果たす。自分の意思決定に明確な根拠を持てるようにする。
投稿元:
レビューを見る
【感想】
本書は前半で、民主主義社会でもたらされているアイデンティティの分断が、選挙によるものだということを説明している。
この視点はありそうでなかった。
まず社会の中に分断があり、それをメディアが伝えることで分断が増幅される、という構図を普通は想像してしまう。人種差別問題、LGBT問題、格差問題など、社会には一定の憂き目にあっている集団が「既に」存在し、そうした集団の怒りが表出した結果、選挙の勝敗が決定されると考えられている。
しかし、「分断そのものが大学教授とメディアによって作られたものなのだ」、と本書は指摘する。
資本主義vs共産主義といった大枠での対立構造が従来の分断要因であったが、現在では、市民の間に潜むステータス格差へと、分断がミクロ化していった。問題が先鋭的でニッチになるほど情報操作しやすくなり、知識人たちの自作自演によって分断そのものが再生産されていった。
これは「分断を煽ることで利益を得ている人々」が存在する限り、消えることはないのだ。
本書の後半になると、アイデンティティを分断する要素は「通貨」だという主張のもと、仮想通貨の発展によるアイデンティティ再構成の話が始まる。
正直、筆者の主張とそれを立証する根拠とのあいだが飛びすぎており、論理的とは言えない。近年話題になっているニュースだけを拾って文の形にしました、という感じであり、本としてのまとまりは無いに等しい。
本書の前半だけさらい読みし、後半は飛ばして構わないだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【本書のまとめ】
1 アイデンティティの分断と選挙
民主主義社会におけるアイデンティティの分断は、選挙のマーケティング技術の発達によってもたらされている。
アイデンティティの分断とは、技術革新がもたらした単なる結果にすぎない。そして、アイデンティティの分断が政治的動員に利用されることで、本来は多様であるはずの人々のアイデンティティは、画一的で単純なものに押し込められていく。
現代社会におけるアイデンティティの分断は、全く赤の他人である政治関係者やメディアによって、主に政治に関する話題の形を取って、押し付けられてくる。特に、選挙において、政治家は自らにとって都合がよい動員を強いるため、画一的で単純化されたアイデンティティを有権者に与えようとする。
選挙活動の基本原理は「人々の分断を煽り、みずからの支持者を投票に行かせるように動機づけること。こうして見事なまでの二項対立が生まれる。
選挙のマーケティング技術の定義は、社会に存在するアイデンティティの分断を発見し、その分断の認知を広く流布し、なおかつ有権者のアイデンティティを画一化に向けて誘導する技術のこと。
アイデンティティの分断を発見する仕事をしている知識人の代表例は、大学教授である。そして大学教授は、メディア関係者にとっても、それなりに面白いネタを提供してくれるため都合がいい。
知識人やマスコミによって流布された言説、それも正しい裏付けのない論考で社会が「分断」されているのだ。
特定のイデオロギーが先鋭化し、拡散していくプロセスには、「知識人による特定」「メディアによる流布や批判」「テクノロジーによる反復された情報の提供」が欠かせない。
2 米国政治におけるアイデンティティの分断
米国では共和党と民主党支持者しかいないようなレッテル張りが人々にされ、価値観の分断が起こっている。
●リベラル派(民主党側)によるアイデンティティの分断方法
リベラル派は知識人層。大学関係者によって発見されるアイデンティティの分断を利用している。
最も利用する切り口は「属性ラベリング」。所得、人種、学歴、性別など、客観的に確認可能なデータを基に人間を複数グループに区別し、それらの違いを再否定する。属性ラベリングによる分断を自分が作っておきながら、「分断を埋めなければならない」と言い自らの行いを正当化する。
●保守派(共和党側)によるアイデンティティの分断方法
共和党を支持する保守派にとって重要なのは、「米国人であること≒米国の建国理念を受けいれること」である。
米国はイギリスによる課税に反対して独立・建国された自由の国だ。したがって、「政府介入からの自由」という理念を共有できる人は米国を守る人物、共有できない人は米国を壊す人物、ということになる。
米国における「アイデンティティの分断」は、左右両陣営から際限なく煽られ続けることになり、民主主義の多数決システムでは解消しきれないレベルにまで発展し、深刻な対立を引き起こす可能性がある。
3 中国におけるアイデンティティの分断
中国のような権威主義的国家でも、アイデンティティの分断は起こっている。
伝統的な価値観からの乖離、ひいては価値観の多様化は既に表出しており、それを法律によって制御・統制しようという動きは止められていない。
中国には言論統制と検閲によって国民を画一的に管理する制度が存在するが、国民の変化のスピードに間に合わない。信用スコアを使って「社会不適合者」というラベリングを行うことで、管理側社会に対する不満分子を増やし続けている。
4 グローバル化とアイデンティティの再構成
グローバル化は世界の平準化を生み出すように見えたが、実際は、世界を二つの新たな分断の方向に導こうとしている。それは、
①属性ラベリング(主に文明・宗教・民族)による分断
②国家のナショナリズムによる分断
である。
5 アイデンティティが分断される未来
・アイデンティティの一部を構成する法定通貨を、越境性を持つ「仮想通貨」が駆逐し、アイデンティティのさらなる分断圧力が起こる。
・政府機能が極めて弱い国家の中央銀行システムを仮想通貨が駆逐し、そこに集まった人々が、国境を超えた共通利害を持つ政治勢力を生み出す。
・法定通貨を重視する政党vs仮想通貨を重視する政党など、現在の与党や野党の枠組みが一変する。
6 これからを生き抜くために
無限に湧き上がってくる分断に心を揺らさず、自分が持つアイデンティティの構成要素として取り入れるべきか否かを「自らの自由意志」で判断する。
「アイデンティティの分断」を煽る議論に乗せられて他者に干渉しようとするのではなく、あくまでも各個人が当事者同士による合意ができることを尊重する姿勢を持った政党が必要。そして、人々のアイデンティティを画一化しようとする政治勢力にNOを突き付ける勇気が必要。
投稿元:
レビューを見る
社会の分断を民主主義の成熟から考察した本書。
最も惹かれたのは、政治技術の発達によって分断が深まるという指摘。
他ではあまり見かけない、社会の分断についての考察だから新鮮だった。
確かに、差異それ自体は元々存在してはいるだろう。そこに目を向ける事が出来るようになった事は、成熟と呼べる。
しかし、その差異の中にはあまりに極端であったり極々少数、または賛否の分かれるものもあるだろう。それに光を当てる、当てられるようになった結果、分断が深まるのはある意味自然の流れのようも思えた。
投稿元:
レビューを見る
「アイデンティティの分断」と昨今よく耳にする言説を、選挙マーケティングビジネスの観点から解説。あまり目にしない切り口で興味深かった。
なるほど確かに、アイデンティティの「分断」は「発見」され、「問題」にされ、押し付けられる。そして選挙の対立軸が生まれ、私たちは気付かずに動員される。しかし分断自体は悪いものではないと筆者は説く。それは私たちにより多くの選択肢を提示することをも意味するからだ。しかし、私たちが与えられたレッテルを無批判に受け入れると、選挙ビジネスの手の内で踊らされることになる。リベラル層・保守層から分断の物語が提示される中で、自らのアイデンティティをしなやかに選択していくことが大事。・・・と筆者は説く。
仮想通貨の話も面白かったけど、ちょっと唐突に感じたな・・・。途中から自己啓発本みたいになっていったのがやや残念。
投稿元:
レビューを見る
後半の、仮想通貨を起点とする話は、ちょっとよくわからんかった(通貨が生きる経済圏で、国家に紐づいてたのが仮想通貨によってそうでなくなる、という話と、アイデンティティの話の繋がりが???)
前半の、選挙起点で分断が深まる、という話は、たしかに異なる立場の表取り合戦(マーケティングの掛け合い)が選挙だとすると、そりゃ分断し合うとも言えるが。
そもそも分断を、違う視座にいること、ぐらいの意味で使ってる気がする。であれば分断は悪いことではなく、むしろ当然起こる(ある)ものと考えるべきで、それを前提にどうするか、の話だとすると、そのあたりには触れられてない(自由意志で選択すること、とはあるが、ちょっと話が飛びすぎ感)ので、やや不完全燃焼な気持ち。
--------------------------------------
「われわれの社会は絶え間なく永遠に細分化され続けていく途上にあり、それは成熟した民主主義国で自然に起きることなのだ。したがって、われわれはアイデンティティの分断が拡大化・深刻化していくことを受け入れざるを得ない。そのことを所与の前提として、人間社会の在り方を考えていくほうが賢明である。」
→これの具体が知りたかったが見つからず。読み取れてない?
メモ
・アメリカの分断は、リベラル派はレッテル貼りで、保守派は古き良き建国想い、の戦い
・中国も管理社会とはいえ統制しきれず、国の方針から溢れた人たちと国との間に分断がある
→この論調だと、意見が違う=分断、と一緒くたにされてる感じがして、ややモヤる。もっと、取り返しのつかない断絶、のようなものを分断がと読んで問題視した方が良いんじゃないか、という感覚。
投稿元:
レビューを見る
読了。読後感としては、「言いたいことはなんとなく分かるが、本の文量の割に得るものが少ない」と思った(自分の理解力が低いだけかもしれないが)。
その理由は何だろうと考えてみると、以下の2点に思い至る。
①「アイデンティティの分断」とか「しなやかで強靭なアイデンティティ」といった本書におけるキーフレーズにあたる部分の定義づけがやや甘いのではないかという点。終盤に出てくる「自由意志」という言葉も、古くからある哲学的議論を基にした言葉として使っているのか、それともただなんとなく使っているのか、不明瞭だった。鉤括弧つきで強調するぐらいなので、その点は補足があっても良かったのではと思う。
②著者は民主主義の本質を「少数意見を切り捨てること」にあるというが、それは民主主義の本質をシュンペーター的な選挙中心的なものだとする前提があるからであって、世の中に無数に存在する「民主主義とは何か」という議論を極めて狭くしか捉えていないということ。まあ、著者はいわゆる「選挙屋」的な立場を持つ人なので、多少選挙中心な思考に偏るのは致し方ないけれども。
以上の2点。もちろん納得する部分もありなるほどと思う面もなくはないのだが、どちらかというと批判的に向き合って読みながら自分の思考力を鍛えるために使うべき本のような気がする。
投稿元:
レビューを見る
渡瀬裕哉(1981年~)氏は、早大社会科学部卒、早大大学院公共経営研究科修士課程修了、首長や国会議員候補者の政策立案・政治活動スタッフ、IT関連企業共同創業者、企業向け投資・コンサルティング、Tokyo Tea Party事務局長等を経て、パシフィック・アライアンス総研代表取締役所長、早大公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。
本書は、著者の選挙等に関する経験を基に、なぜ、政治的な意味でのアイデンティティの分断が起こるのかを考察したものである。尚、ここでいう「アイデンティティの分断」とは、「政治的な意図を持って人々に自らが属する集団に対して過度の同一化(帰属意識)を促し、対立する他集団に属する人々を敵対勢力として認識させる社会状況」を指す。
読了して興味深かった点は以下である。
◆「アイデンティティの分断」は、選挙のマーケティング技術により生み出されたものである。それは、知識人(大学関係者など)が、社会科学的な要素を踏まえて人間社会を複数のグループに分ける断層(分断のポイント)を発見し、メディアがその断層をセンセーショナルに報道・拡散し、(能力の低い)政治家がその分断を選挙に利用することによって促進されていく。また、近年のSNSの発達はそれに拍車をかけている。
◆米国においては、リベラル派(民主党側)は、主に「属性ラベリング」(所得、人種、学歴、性別などの属性による区分)による分断に焦点を当てた上で、それらの分断の解消を訴える立場をとる。一方の保守派(共和党側)は、リベラル派が論じる分断には関心を示さず、「米国の建国理念を受け入れること≒米国人であること」への賛否、即ち、国家ナショナリズム的な観点を分断の根拠とする。また、このリベラル派と保守派の分断のロジックは、グローバル化した世界全体においても同様に機能している。
◆民主主義とは、対立する(少数)意見を主張する権利は尊重されるものの、最終的には多数決によって意思決定を行う、ある意味矛盾したシステムである。現在の米国はその限界に達しており、深刻な対立を引き起こす可能性がある。
◆今後、世界を横断的に分断する要素は「仮想通貨」である。「デジタル人民元」やFecebookが構想する「リブラ」は、グローバルなアイデンティティの再構成を迫る可能性を秘めている。
◆政治目的の「アイデンティティの分断」を避けるためには、我々が自らのアイデンティティを取捨選択・優先付けをし、多様なアイデンティティをお互いに認めることが重要である。
「アイデンティティの分断」は、個々人のアイデンティティ(の総和)が作り出したものではなく、政治的意図を持って作り出されたもの、という主張はもっともであるし、米国において(本書が出版された2019年12月の時点で)それが限界に達しているという指摘は、2020年の大統領選挙でトランプが負けた後に起こった国会議事堂襲撃事件を見れば、極めて的確なものだったといえる。
2020年の米国大統領選挙後の分析の中には、行き着くところまで行った米国の政治的対立は、民主主義の不可避のプロセスだ(った)というものがあったように記憶しているが、人間が、これを越えて、著者がいうような、個々人がアイデンティティを確立し、多様なアイデンティティを認め合う世界が遠からず訪れることを信じていきたいと思う。
(2022年3月了)
投稿元:
レビューを見る
分断化の手法について、保守、リベラルでの手法の違いなど。これはコントロールしているような言説が多いですが、本当にコントロールできてるのか、自然発生的に起きているものをコントロールしているようになっているのではないかという気もしました。
空気の研究で見た集団に属性を付与するような行動は多く見られるので、重要なのは人についての細かい理解なのではないかなと。
前半が良いと思います。
投稿元:
レビューを見る
分断を煽りながら、多数決で決定するシステムという民主主義の矛盾を選挙マーケティングの視点から論じたもの。選挙≒民主主義と考えれば的を絞って的確に論じているとも言えるが、仰々しいタイトルのワリには内容的にやや浅いという印象も受ける。
2章にあるリベラル(属性ラベリング)と保守(建国理念に対する賛否)の分断方法の違いについての解説が本書の最も重要なポイントだが、リベラルの方は独り芝居の知的マウンティング(インテリンチ)であるという指摘は興味深い。
全体的には2大政党制が機能している米国選挙を事例として論じているので、一強多弱かつ保守やリベラルという区分が米国とは異なる日本においてこの分析をそのまま適用するには少々無理があるようにも思えるが、「分断」の構造として理解しておくという点では参考になる。