紙の本
〈チェーン〉を断ち切るために
2020/03/22 23:24
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻は、上巻で翻弄された〈チェーン〉に逆襲を企てるのが物語の本筋となっている。
下巻の序盤で繰り広げられる苦悩の連続がとてもリアルで辛いものだった。
カイリーを守るため何処までも残酷にならざるを得ない状況に、自己嫌悪するレイチェルの心理描写が特に印象に残った。
また、カイリーが悪夢に囚われている描写もリアルだった。
そのような状況から脱却する為、〈チェーン〉に立ち向かう決意をしたレイチェル。
圧倒的に不利であり、尻尾を巻いて逃げ出しても何ら不思議でない状況にも拘らず、自らの娘を守るという何事にも屈することのない意志の強さがとても素晴らしい。
下巻では〈チェーン〉を運営する人物と主人公達の知恵比べが見どころの一つとなっている。
上巻で交わされた会話が意外な伏線となっており、〈チェーン〉運営者の情報に結び付く展開はお見事だった。
また、〈チェーン〉運営者の正体や〈チェーン〉の真相など下巻は上巻と比べ、ミステリー要素が濃くなっている。
もちろん上巻との整合性は保たれており、上巻の緊迫感も健在だ。
人の愛するという気持ちを利用する〈チェーン〉。
その様なシステムを発案した人物の背景もきちんと描かれていたのも良かった。
誘拐は卑劣な犯罪である。
そこに、更に卑劣さを上乗せさせた犯罪に翻弄される人々を描いた本作。
恐怖、緊迫感、猜疑心などサスペンスやスリラー作品に欠かすことのできない負の感情を見事に描き切った本作。
その負の感情との葛藤や、愛する我が子のために立ち向かう母親の姿などのヒューマンドラマ的要素をも含んだ本作。
まだ今年は始まったばかりだか、本作は今年度を代表するサスペンス作品と言えるだろう。
紙の本
何故マーティを許してしまう?
2020/03/15 04:19
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
上巻は息をつかせぬほどの勢い。あっという間に読み終わる(というか、読まずにいられない)。
が、下巻に入ると若干失速?
この連鎖誘拐システム<ザ・チェーン>を仕切っているのは誰か・・・に触れてくるとスローダウンで、なんかもったいない感。しかも「え、今ここで、それ、書いちゃう?!」という、フェアを意識するあまりか手掛かりを堂々と開示してくれるので、真実が明らかになる次の章終わりの最後の一行で驚けない!
とはいえ、傑作が多々ある“誘拐もの”ジャンルの中で“連鎖誘拐”というワンアイディアで突っ走ったのは素晴らしい。登場人物に対して感情移入か共感の境目ぐらいの距離間を保たせるってのも絶妙。
ただ、レイチェルが元夫マーティに何度もげんなりさせられているのにすぐ許しちゃうのは理解できない。どんだけハンサムだというのか。
・・・巻き込まれて死んだ人がただただ哀れ。
悪意には誰もがいつ、牙をむかれるかわからない。
面白かった!、と素直に言えないくらい心臓に悪い。
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中盤以降やたらとアクション多い気もするけど。人物描写もどっちかいうと薄っぺらいかも。まーまー面白いからええけど。
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ふぅ~っ、面白かったぁ!!レイチェルの葛藤とか。カイリーの苦悩とか、感情移入しやすいけど、ヤク中ピートなんて良い味出してやがるんだよなぁ。ポンコツのマーティなんて許せないのに良い目見やがって!
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誘拐された我が子を取り戻すには、誰かの子どもを誘拐し、その親にまた別の子どもを誘拐させなければならない。
この〈チェーン〉に巻き込まれたのは、癌患者でシングルマザーのレイチェル。彼女の凄絶な奮闘劇と、謎のチェーン・システムの核心に迫るプロットが熱い!
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ショーン・ダフィシリーズの雨の北アイルランドから一変、アメリカ東海岸が舞台。全く違う作風で驚き。
スピード感に一気読みさせられた。その中にも誘拐という卑劣な犯罪への怒りが細かく述べられ、確かに杉江さんの解説にも「書きすぎる」とあったが、わたしもそれは感じた。
だが、いいぞ、マッキンティ!ウーバーの運転手やってる場合じゃない。どんどん書いてください。
大好きなショーン・ダフィシリーズの次作も近いうちに読めるそうで楽しみだー。
今回もレッド・ツェッペリンが登場でファンとしてはうれしい限り。さあ誰が、どんな状況下で、どの曲を聴いたのか…もう、ツンデレなんだから!(そこじゃないって?)
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上巻と、下巻で、ストーリーが二つある感じ
勿論、全てつながっている。酷い話だけど、終わりは、悪くない。
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マッキンティと言えば北アイルランドを舞台にした、闘う警察官ショーン・ダフィ・シリーズでの好印象しかないのだが、驚いたことに、いくつかの賞を獲ったにも関わらず執筆の対価に合わないとしてペンを折ってしまいネット配車タクシーのドライバーに転職していたのだそうだ。そんな、と思ってしまうのはぼくだけではない。
本作の彼の初稿(短編小説)を読んだドン・ウィンズロウは、もとより彼の才能を買っており、自身の米国エージェントを通して長編化と作家への復帰を説得したらしく、彼は本作で改めてアメリカでの出版での勝負に出たとのことである。作者自身のあとがきと杉江松恋の文庫解説にも詳しい。
さてその力の入った実にアメリカ向けの作品が本書であり、正直、ショーン・ダフィ・シリーズのマッキンティの躍動する、あの寒々しい北アイルランドの風土と闘いの歴史の上に繰り広げられる重たい捜査模様を期待する読者は、呆気に取られると思う。
むしろピエール・ルメートルなどに見られるスリリングな状況作り、逆転また逆転の仕掛けといった高いエンターテインメント性など、これがあのマッキンティなのかと驚くほど、それはアメリカンなエンターテインメント作品に仕上がっているのである。
誘拐された親は次の誘拐を完了させないと我が子を取り戻せないというチェーンに巻き込まれた家族。そのシステムを構築した者の正体は? そして結末は? とまず物語構造だけで緊張関係を作り出してしまっている。
さらにスマホ、タブレット、パソコン、アプリなど、現代ならではの道具による仕掛けが頻出と多彩な銃器によるアクション。世界中の若者に受けそうな、それこそ今にも映画化されそうな面白小説に仕上がっている。
個人的にはショーン・ダフィの鼻っ柱の強さが好みだっただけに、マッキンティにはこの手の才能で稼いで生活基盤を手に入れて頂いたら、生まれた地である北アイルランドを素材にしたショーンの物語も末永く紡いで行って欲しいものである。
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下巻ではしょっぱなからギアあげつつ、途中からハリウッドライクな(FPSゲーム的な)アクションありのノンストップ展開でラストまで進行する。銃やらドラッグが日常化しているアメリカならではの展開かつ、アメリカ社会に蔓延するウーバーイーツなどのシェアリングビジネス&Facebookになどのソーシャルネットワークに警鐘を鳴らす作品でもある。あらゆることがネットで出来るようになったので便利な世の中になったが、我々が思っている以上に周囲に情報は筒抜けであると再認識させられた。
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「誘拐された子供を返して欲しければ他の子供を誘拐しろ」そうして何度となく続いている誘拐の連鎖。全ては自分の子供のため。残酷な要求に応えるために残酷な人間になる。知らず知らずのうちに自分が変化していく。混乱、怒り、絶望、たくさんの感情が流れ、溢れていく。そのさまに恐怖を感じる。下巻に入り少し空気が変わったかなって思い始めた矢先に挿入される船のシーン。唐突に描かれる怖さ、不気味さがある。被害者たちと犯人との対決が始まる後半からはさらに加速して一気読み。面白い。
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娘を救うため、レイチェルは元義兄の退役軍人とともに無関係の子供の誘拐を計画し、実行しようとする。しかし彼らの前には予想だにしないトラブルが立ちはだかり……。はたして誘拐の連鎖に囚われた彼らは〈チェーン〉から脱け出すことができるのか?
第二部からが、やや見え見えとなるが、そこは勢いで読ませる。この設定、実際に行われていたことがヒントになっていたと知り、ビックリ。不幸の手紙もまずいよなぁ。
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後半、怒涛のテンポで進んでいく。上巻のハラハラドキドキとは少しテイストが変わり、レイチェルのチェーンを断ち切る為に立ち上がる様子が丁寧に書かれていた。ラスト80ページ、悲鳴をあげた。
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シングルマザーのレイチェルの娘、カイリーが誘拐される。身代金2万5千ドルと、別の子供を誘拐しろと要求が。電話をかけてきた者は、息子が誘拐されている、レイチェルが別の人を誘拐しないと息子が解放されないのだと言う。つまり、チェーンのように、次から次へと誘拐が連鎖していくシステムなのだ・・・
なかなか面白かった。
魅力的な人物造形はほとんどないが、チェーンというシステムとストーリー展開が抜群だった。純文学と真逆のエンターテイメント。
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娘のカイリーはつらい体験をしたが,無事に帰ってきた。レイチェルが選んだ次の被害者ダンリーヴィもまた,チェーンをうまく継続させた。一見もとの日々が戻ってきたように見えるが,巻き込まれたレイチェル,ピート,カイリーはみな,取り返しのつかない傷を負ってしまった。レイチェルは娘のために立ち上がる決意をする。チェーンを壊さなくては。
「ルーム」,「棺の女」等々,「帰ってきた被害者のその後」を描く物語はいくつかありますが,この本の場合は「自分も加害者になってしまった。だから本当のことは誰にも言えない」ということのほか重たい事情を抱えているところが特徴。
下巻では,ピートに止められながらも立ち向かう決意をするレイチェルの姿と,チェーンを作った真犯人たちの生い立ちとが交互に描かれていくのですが,何しろ上巻でひどい目にあいすぎたので,全然真犯人への同情心がわかないという・・・。
犯人がだれかわかったところからはめちゃめちゃハラハラドキドキ,向かう展開はそこしかないとわかっているのですが,それでもページをめくる手が止まらなくなりました。
「もしこの事件が映画化されたら」とかピートのセリフにありましたが,下巻はハリウッド映画さながらのエンタテイメント性にあふれてて最後は楽しく読めました。
それにしても,上巻の時から,「チェーン」の展開の速さ(週に1回以上は誘拐が起きている計算になる。下手したら2回以上?)を考えると,巻き込まれている人は指数関数的に増えるはずなので,エリックやレイチェルのような「戦おうとする人」が現れる可能性はこれまでにもあったと思われるし,カイリーのように自力で逃げ出そうとして成功する子どもがいたっておかしくはない。
そう思うと,チェーンてうまくいきすぎじゃないか,設定甘いんじゃ,とも思っていたのですが,終盤でオリーが,3年もたなくたっておかしくなかった,たまたまうまくやれてたんだ,という意味のことを言うところがありまして,やっぱりそうなんだなと。
スモールネットワーク理論で言えば,もっと早く法執行機関の関係者とつながってしまう可能性は高いので,運も手伝ってうまく回っただけだということで納得しました。
総評としてはとても面白かった。しかし,上下巻にわける必要ないんじゃないかなとは思いました。1冊でいいのではないか。
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面白かった、ナイステンポ!
皆キツさが魅力的だったな。
特に己とその大切なもの、その掴んだ手を握り続けようとするレイチェル、カイリー、ピートがやはり。
大人と子供も、自分で決めた事もそんな己に決まった事も、地続きで。けれども、異なるもので。
終盤はある程度新鮮さは落ち着く展開だけれど、それはそうだよね、だし。
真犯人の世界は想像が及び辛いけれど、故に成り立つ文章の提示構造と、それでもなお、が残るバランスがある。
交換誘拐と、チェーンメールと。
真犯人と主人公どちらも、異質ながら確かに人間関係によりそうなった人達で。
そうして、どちらが勝つかとて、どう転ぶか分からなかったもので。
確かなのは、何かしらの形で終わる、という事だけ。
そうして、己が視野。
こんなに才覚のある作者でもなお、職業作家を続ける事に迷いドライバーを一旦選んだりしている事にも驚きつつ。
完全に余談だけれど。作家もまた、人々の想いと人の世の在り方を、綱渡りしているのだな、と。
77章で終わる物語。