紙の本
海を視点に国際問題を考える1冊
2021/02/26 17:04
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
海には公海と領海という区別があったり、領海や接続水域、排他的経済水域など様々な概念で区分されています。
本書はそのような海の秩序がどのような経緯で形成されてきたのかを分かりやすく解説しています。本書によれば海の秩序はその時代で最も大きな発言力を持った国の意向に沿って築かれてきたと言ってよく、その担い手は大航海時代のポルトガル・スペインに始まり、オランダ、イギリス、アメリカと引き継がれ、そして現在はアメリカによる秩序(パックス・アメリカーナ)に中国が挑んでいるという構図になっています。
これらの海洋覇権国家の栄枯盛衰の歴史を本書前半部で、後半は現在の海洋の区分がどのように形成されてきたのか、そしてそれに挑んでいる中国の動向、それに対峙する日本の現状という筋立てで構成されています。
オランダ、イギリス、アメリカが順にそれまでの覇権国家にとって代わって覇権を確立してゆく有様の記述は世界史を海洋を舞台に再構成するような切り口で、大変興味深く読めました。
日本の鎖国を打破したペリー提督はアメリカ西海岸から太平洋を横断したのではなく、大西洋からアフリカ喜望峰を経由してインド洋を過ぎるという西廻りで訪日したという事、第一次世界大戦でドイツが戦局打開を狙ってメキシコに参戦を促した電報がイギリス経由の海底ケーブルを経ていたので、その電報をイギリスが解読していたためにイギリスはアメリカへの参戦を促す決断ができた等々の事実が前半部では紹介されています。
後半部では中国の法律戦(自国に有利になる法解釈を押し付ける)の現状、日本の海上保安庁が海洋の法秩序を守るための組織として世界的にいかにレベルの高い組織であるかといった日本人でも以外と知らない事実なども紹介されています。海上保安庁は海難救助、航路の安全確保、密輸等の犯罪対応、など海に関わる本当に多くの役割を担っているのですね。
中公新書で、書名からちょっと硬い目の印象を受けますが、新聞やニュースに普通に接している程度の常識があれば、かなりの情報を売ることができる1冊だと思います。
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500年に及ぶ海洋の政治史をよくまとめていて、どのように海洋に関する国際法が発展してきたのか、接続水域などの概念がなぜ生み出されたのかなど、なんとなく分からずもやもやしていたことが結構すっきりした。
トルデシリャス条約、スペインとポルトガルによる海洋支配を否定したグロティウス、イギリスの航海法、海底ケーブルによる情報網、レセップスによるスエズ運河の開削、燃料としての鯨と捕鯨のためのアメリカの海洋進出、パナマの確保、ワシントン会議、トルーマン宣言、石油の開発、国際海洋条約、中国の海洋秩序への挑戦。
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15世紀大航海時代のスペイン、ポルトガルの海洋進出に始まる海の覇権の歴史。欧州の覇権争いから抜きん出た大英帝国、19世紀の捕鯨の時代にはアメリカが海の覇権を狙い、開国前後の日本への影響に触れている。瞠目すべきは、1982年に制定された「国連海洋法条約」に挑戦する中国の海洋戦略である。独自の国内法「領海法」掲げて、周辺海域の島々を領有すると宣言していることにある。海洋ルール(秩序)を無視し、国際関係に不協和音を奏でる中国の三つの戦略(①世論戦➁心理戦③法律戦)を目の当たりに見せつけられた。(N図書館蔵書)
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四百年の歴史を通して、海の覇権の変遷や海洋秩序のための取り組みを描く。その軌跡は海洋国家・日本へのヒントにもなるだろう。
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シーパワーバランスが崩れようとしている。中国の台頭だ。
イギリスやアメリカが都合のいいようにきまりを作り、海を制してきた。今度はそれを中国がやろうとしている。
アメリカが名指しで中国を敵視した。これからどうなっていくのか。
アメリカ単独では中国には勝てまい。同盟国らを巻き込む必要がある。
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地球表面積の7割を占める海洋の国際的利用はここ4百年の歴史です。大航海時代に始まり、捕鯨業の発達、アメリカの海洋覇権の確立と歴史を辿り、海洋秩序のルールづくりが模索されるのは20世紀も後半になってからのことです。そして、それはアメリカを秩序に組み入れる交渉史そのものでした。今、中国は南シナ海・東シナ海で覇権を確立しようとしており、海洋秩序に挑戦している状況です。戦争をしないで領土を収奪する手法を開発した中国は、尖閣を含む南西諸島をサラミスライス&キャベツ戦略で手中に納めようとしており、一切ためらいはありません。中国サイドを論じる第5章の緊迫感に続く、日本サイドを論じた第6章が心許ない。
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【世界的な規模で長期の複雑な交渉や利害調整、そして最終的には各国の妥協の末に、現在の海洋秩序が誕生してきたと考えてよい】(文中より引用)
主にイギリスやアメリカといった大国に主導されながら、いかにして近現代の海洋秩序が成立してきたかを概観した作品。著者は、『世界を動かす海賊』などの著作で知られる竹田いさみ。
描き方によっては茫漠としてしまいそうな広大なテーマを、見事に約250ページに収めこんだ力作。時にコラム的な話題で読者を巧みに海の世界に誘いながら、海洋から見た世界史を丁寧に著述してくれています。
新書のお手本のような一冊☆5つ
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海には公海と領海という区別があったり、領海や接続水域、排他的経済水域など様々な概念で区分されています。
本書はそのような海の秩序がどのような経緯で形成されてきたのかを分かりやすく解説しています。本書によれば海の秩序はその時代で最も大きな発言力を持った国の意向に沿って築かれてきたと言ってよく、その担い手は大航海時代のポルトガル・スペインに始まり、オランダ、イギリス、アメリカと引き継がれ、そして現在はアメリカによる秩序(パックス・アメリカーナ)に中国が挑んでいるという構図になっています。
これらの海洋覇権国家の栄枯盛衰の歴史を本書前半部で、後半は現在の海洋の区分がどのように形成されてきたのか、そしてそれに挑んでいる中国の動向、それに対峙する日本の現状という筋立てで構成されています。
オランダ、イギリス、アメリカが順にそれまでの覇権国家にとって代わって覇権を確立してゆく有様の記述は世界史を海洋を舞台に再構成するような切り口で、大変興味深く読めました。
日本の鎖国を打破したペリー提督はアメリカ西海岸から太平洋を横断したのではなく、大西洋からアフリカ喜望峰を経由してインド洋を過ぎるという西廻りで訪日したという事、第一次世界大戦でドイツが戦局打開を狙ってメキシコに参戦を促した電報がイギリス経由の海底ケーブルを経ていたので、その電報をイギリスが解読していたためにイギリスはアメリカへの参戦を促す決断ができた等々の事実が前半部では紹介されています。
後半部では中国の法律戦(自国に有利になる法解釈を押し付ける)の現状、日本の海上保安庁が海洋の法秩序を守るための組織として世界的にいかにレベルの高い組織であるかといった日本人でも以外と知らない事実なども紹介されています。海上保安庁は海難救助、航路の安全確保、密輸等の犯罪対応、など海に関わる本当に多くの役割を担っているのですね。
中公新書で、書名からちょっと硬い目の印象を受けますが、新聞やニュースに普通に接している程度の常識があれば、かなりの情報を売ることができる1冊だと思います。
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スエズ運河で船が座礁した時にラジオに著者がゲスト主演して、その話が面白かったので読んでみた。
大英帝国がどうやって世界の海を支配していったか、クジラを求めて黒船は日本に開国を迫ったかとか、セオドア・ルーズベルト大統領の戦略、領海や公海というアイデア等海を中心とした覇権の歴史。
とても面白かった。19世紀に英国は世界中に海底ケーブルを張り巡らせていたのには驚いた。
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タイトルどおり、海上覇権を英・米が握ってきた歴史を時系列でおさらい。米が捕鯨から世界に乗り出すようになった事情、英から米へ覇権が移っていく過程などが、時系列でよく整理され、一般読者向きで、とてもわかりやすかった。
後半は、海洋ルール形成の顛末、国際ルールに挑戦する中国がやっていること、日本の海保の事情などと現在へつながってくる。
本書を読んで、
過去の流れからポイントをつかみ、現状ニュースで良く見る中国発の海上でのせめぎあいの背景を理解できる基礎知識を得られてよかった。
印象的だった点:
海洋ルールとは、歴史的に強国が決めたことが国際ルールになってきたことを改めて実感した。
結構、強国が自国に有利なことを手前勝手に決めてきたわけで、それを神聖なものと有難がるのは、あくまで国際的に支持されている状況と、その違反を防止する力がある、という条件を備えていなくてはいけない。
驚いたのは、国連の海洋条約をアメリカが批准していないこと! 理由は強国が途上国の深海資源を開発して何が悪い という、手前勝手なもの。
すると、中国が手前勝手な法律を制定し、国際社会に通告してきても、中国側に立ってみれば妥当ということになるではないか。だってアメリカだって勝手なこと言ってんじゃん……強国がルールを作れるんだよねえ、となる。
中国のやってることを、日本人は国際ルールに照らせば明らかにおかしい、と嘲笑う論調を良く見かけるけど、正しい主張がまっすぐ通るわけではない。
中国のやり方は力押しだけでなく、イメージ戦略やそのうち国際社会に黙認させてしまう既成事実つくりなど高度になっている。
最後の章は、海上ルールの順守は海軍によって担保されてきたが、現在は日本の海保が強化されているように、軍と別の組織が担うのが主流になっているとのこと。海保の手に負えない場合は海自に出動要請という流れらしい。
このあたり、微妙だと思った。海保はあくまでも軍隊ではないので、海自がどの時点で出動してくるのかなど難しいものがある。
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海洋地政学なんて全く興味がなかったけども、ラジオでいさみさんのお話を耳にして(スエズ運河に関してのコメント)、わかりやすい上に大変面白い内容だったため、そこで紹介されていた本書を購入。
結果大当たりで、内容に引き込まれてあっという間に読了してしまった。
海洋の歴史を振り返る序盤は楽しく拝読していたけれど、海洋覇権を目指して中国が台頭してくると、不安な気持ちになってしまった。
国際ルール対中国ルールの鍔迫り合いが起こらないように、国際法の必要性と正当性を広く世界と共有し確認し続けなければならないことがよく理解できた。
国防費や基地についても別な視点が持てるようになり、日々目にするニュースも理解度が深まったように思う。
他にもいさみさんの著書や参考にされていた文献など読んでみたい。
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国際政治の専門家による、海洋における覇権争いの話。スペイン・ポルトガルの大航海時代から、大英帝国、米国へと海洋覇権が移っていくことを詳細に説明している。一部、電信など情報優位のことや石油利権など、海洋とは関係ないことも細かく書かれているが、海の覇権争いについては、わかりやすく納得できる内容であった。
「中国は、国連海洋法条約が作り上げた海洋秩序に挑戦した初めての国家となる」iv
「(米国の捕鯨)鯨油は時計、ミシン、タイプライター、各種機械の潤滑油としても重宝がられ、それ以前に普及していた蜜蝋、植物性油脂、動物の獣脂を原料としていた蝋燭(キャンドル)の灯火は、瞬く間に姿を消した。今から見れば考えられなしことだが、クジラは照明用のオイルのほか、その骨は女性用のコルセットに、そしてヒゲは歯ブラシなどにも利用でき、それ以外としては汚れを落とす洗濯用石鹸として活用されたため、クジラを解体しても廃棄する部分がないほど、クジラ一頭の有用性は極めて高いものであった。鯨製品、鯨油なしの生活が考えられないほど、クジラは生活の必需品になっていた」p55
「動物愛護や海洋環境の観点から、現在のアメリカは捕鯨反対の立場を取り、日本の捕鯨をいたく批判しているが、歴史を振り返るとアメリカこそが捕鯨の先駆者であり、クジラを乱獲して頭数を激減させたいわば当事者なのであった」p56
「ブルックス・ブラザーズの紳士服を、ルーズベルトを筆頭に歴代大統領はこぞって愛用した」p84
「(ルーズベルト)日露戦争の講和会議をポーツマスで開催し、この功績が認められて1906年に、アメリカ人として初のノーベル平和賞を受賞した」p88
「いまだにアメリカは、国連海洋法条約に調印していない。最大の理由は「深海底」とよばれる深い海底における資源開発のあり方をめぐって、反対の立場を示しているからだ」p172
「(米国)国連海洋法条約に加盟していないという事実は重く、アメリカが中国の海洋進出に対して「法の支配」を唱えても、アメリカ自身が国連海洋法条約による「法の支配」を受け入れていないため、中国から逆に批判される立場に追い込まれてしまった」p187
「「法の支配」としての国連海洋法条約を実効性のある海洋秩序として機能させてきたのは、なんといってもアメリカや西側同盟国の軍事力によって担保されているからである。アメリカの軍事力が世界中に展開されていることで、国連海洋法条約も尊重されてきたという現実を忘れてはならない」p183
「(戦後)覇権国家アメリカは、政治的な枠組みとしてトルーマン・ドクトリンを打ち出し、経済的な枠組みとしてマーシャル・プランを実施した」p188
「(2019年)海保の定員は、約1万4000人で、予算は約2500億円」p233
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地政学を学ぶ上で海を避けては通れない。この本では大航海時代から現在に至るまでのシーパワーを説明している。シーパワーとは元々、自国の船が安全に貿易できるために必要な軍事力・海運力・外交力を指す。近代までは主に貿易メインについてであったが、エネルギー革命が起き、さらに海底資源の発掘とそれを掘削する技術が開発されると、貿易だけでなく、海底資源などもシーパワーと深く関わる要因となった。
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著者は本書の狙いを「大国がデザインした海洋秩序や海洋政策を時系列で整理し把握すること」としており、海洋覇権国家の変遷がよくわかる秀逸な新書だと思う。特に第2章、第3章の米国が海洋覇権を掌握していく過程が興味深かった。また英国が海洋覇権制覇のために築き上げたものが英連邦の原点であることもわかった。そして日露戦争の背後に英国の戦略があったことを知り、現在ウクライナの背後で米英がロシアの弱体化を狙って画策していることと同じ図式にも思える。そして中国による傍若無人な海洋進出が既成事実化していくことに強い懸念を感じ、日本としてはシーパワー国家として、米国、英国、豪州などと協力して、自由で開かれた太平洋、インド洋の維持に向けての貢献を果たすべきであり、貿易国家としての責務があると考える。
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・思った以上に扱うテーマが幅広い。イギリス→アメリカ→中国→日本。
・それでいて、歴史の流れに沿って話が展開されていくから文脈が掴みやすくて読みやすい。
・領海や排他的経済水域の広さを国際的に定めるくだり、利害関係の調整っぷりがおもしろかった。意外と最近できたルールなのね。