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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
経済学は何のためにあるのだろうか。ある経済学者は、経済学はすべての人々ができるだけ豊かな生活を営むことができるようにするためにどうすればよいのか、という実践的な要請に応えなければいけない、と言う。著者は、効率性、経済成長だけでなく、分配の公正、貧困の解消という経済学本来の立場に返って、新しい経済学の分析的枠組、展開を求めて経済学の努力がなされなければならない、と述べる。
経済学者は専門家として政治家に次いで下から2番目の信用度、つまり信用されない存在らしい。日本でも同様だろうと思う。政治家が経済学者の意見を聞いて政策を行った時に、うまくいくこともあるが、失敗することの方が多かったようだ。
「貧困の経済学」を読んで考えさせられたが、この本ではさらに刺激的であった。貧困問題を研究してきた著者は、アメリカの状況を実証的に調査分析して論じ、貧困国で起きていることは先進国でも起きているという。アメリカのダイナミクスは顕著な地域格差を覆い隠しており、この現象はヨーロッパの国でも起きているとする。
世界全体としてみれば経済成長により数十年前に比べれば貧困状況は改善されてきた。とはいえ、良い政策もあれば悪い政策もあり、問題も累積し、それが顕在化している。
良い経済学もあるが悪い経済学もある。悪い経済学に基づく政策に対して次のように行動することを訴える。根拠のない考えに対してできる唯一のことは油断せずに見張り、「疑う余地はない」などという主張に騙されず、奇跡の約束を疑い、エビデンスを吟味し、問題を単純化せず、根気よく取り組み、調べられることは調べ、判明した事実に誠実であることだ。
こうした警戒を怠ったら多面的な問題を巡る議論は極度に単純化あるは矮小化され、政策分析も行わずに安直な見かけ倒しの解決に帰還することになるだろう。
改めて見渡せば頷けることも多い。
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開発経済学の研究者として2019年にノーベル経済学書を受賞したアビジット・V・バナジーとエステル・デュフロ夫妻が自身が長年研究してきた社会格差、人種差別(と個人の移ろいやすい嗜好性の問題)、移民、環境破壊、自由貿易などのテーマを一般人向けに平易にまとめた一冊。
テーマは数あれど通底しているのは、「一見、絶望ばかりに見える問題に対して、経済学が解決できる部分は確実にあり、希望を捨ててはいけない」という点である。真摯な研究者として、経済学を一つのツールとして、確実な課題解決に結びつけるための実践がまとめられており、ランダム化試験などの統計的手法をフルに活用しながら、本当に問題解決につながる政策を決定し、政治に反映させていくというプロセスの重要性を学べる良書。
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開発経済学の研究者として2019年にノーベル経済学賞を受賞した二人の著作で、ビル・ゲイツが「2020年夏に読むべき本5冊」に挙げていた本。章ごとのテーマとしては、移民、人々の好み、自由貿易、経済成長、気温、不平等、政府について書かれている。
経済についてはあまり知識がないまま読んだけど、「なるほど」というところの方が多かった。
この本から得たことは、希望と尊厳。自分に向けては、希望を持ち続けること。他人に向けては、尊厳を傷つけず、敬意を払うこと。
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ビルゲイツの「今夏必読の5冊」に選ばれた本書。
世界の諸問題を、客観的な調査や実験に基づいて、いかに解決するかを記したものである。
とりあえずこれを読んで思ったことは「あっ、自分って現実を勘違いしていたんだな」という事。アッと驚く事実をこれだけ丁寧に、かつ説得力のある文章でわからせる著者の能力は素晴らしい。
最後は壮大な解答が提示されているところが少し歯痒いが、とりあえず読んでみることをお勧めする。
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書名にひかれて手に取りました。
経済学は苦手なので読めるか心配でしたが、読み進められました。(読めると理解できるは別問題)
色々かんがえ、色々気づかされました。読むべき、との言葉にそうだなと思いました。
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社会の重大な問題を、どう解決するかについて述べた本です。
重大な問題として取り上げられたのは、移民、自由貿易、経済成長、気温、不平等、政府について。
「経済学者の言っていることが信用されていない」という前提で、では、それはなぜなのかというと、悪い経済学がまかり通っているからということと、経済学者が根拠の説明が足りないということを理由に挙げています。
新聞やテレビなどでニュースを見聞きした時、自分自身で問題意識を持って、自分事に当てはめ、今後、どうなっていくのか、それに対して自分はどうしたら良いのかを考えられるようにしたいものです。
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貧困者、弱者を含めた社会問題を解決するには、そのような人々を差別したり切り捨てたりせず、人間の尊厳を保つよう社会システムを構築する政治が必要。
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第1章 経済学の信頼性
職業の信用度で、一位は看護師、最下位は政治家、下から二番目は経済学者。
経済学は医学と同じで、これが正しいと断言できる者がない。
第2章 移民について
移民は自然災害や戦争で起きる。経済的インセンティブだけではあまり増えない。
マリエル難民事件=大量の移民があっても、雇用には悪影響を与えない、ことの実証。キューバからマイアミに大量の移民が押し寄せた事件。労働市場は、単純な需要と供給曲線の結論には従わない。
1,移民がお金を使うので、労働の需要も増える。
2,機械化の進行が遅れるため。
3、増えた労働者を効率的に活用するべく、生産工程を変える。
4,既存労働者の労働と競合せず、補完する。やりたがらない仕事をやってくれるおかげで、別の仕事ができるようになる。
移民のほうが野心と丈夫な身体がある。その2世は活躍する。ジェフベゾス、スティーブジョブス、フォード、など。
人を雇うことは、普通の仕入れとは違う。首にすることは簡単ではない。そのため、無作為には雇わない。ただやすければいい、ということではない。従って、受け入れ国の労働者をそのまま代替することはない。
高技能移民の場合のほうが、既存の労働者の代替になりやすい。プラスマイナス両面があり得る。
移民は大群にはならない。移民するにはコネクション、ネットワーク、人のつながりが必要。何もないとレモン市場のように、粗悪品だけが市場に残るように思われて移民に踏み切れない。
発展途上国では、インフラ整備や都市開発の予算が限られているため、一部だけが高い家賃になり、それ以外はスラム化する。都市化は、田園都市を目指しやすいため、規制をかけて高層アパートを作らせない。その結果、周辺にスラムが広がる。生まれ故郷は心地よく、助け合いがあるため、魅力的な仕事があるとわかっていても、都市に出てくる人数も限られている。農村部の人にとって都市は不確実性の塊。
家族の面倒を見て貰うため、わざと男の子に高い教育を受けさせないこともある。
どんな産業でも企業は群れる。群れた方が、宣伝、雇用などで有利。
強制的な移民政策がかつてはあった。都市部を有利にすることで労働力を確保しようとした。
慣れ親しんだ故郷を離れることは、ハードルが高いことである。
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著者は二人のノーベル経済学賞受賞者。
原題は「Good Economics for Hard Times」とありますが、コロナ禍の今にあって、ちょうど米大統領選が佳境のころから読み始めたので、本書で取り上げられているテーマと、日々目にするニュースやSNSの投稿などとシンクロすることも多く、政治と経済の今についての理解を深めるには良書であったと思います。
経済成長
移民
自由貿易
地球温暖化
社会保障
格差
お金だけで解決しないことや、さまざまなトレードオフが生じること、マクロな経済モデルの想定通りには行動しない人や企業、そうした複雑系の中で、良い方向に向かうための本質とは何かを二人の経済学者が力説されています。
全体を読み通した上で、最後の最後にノーベル経済学賞受賞した経済学者が語る一文(最終章の最後の一文)がとても印象的でした。
”経済学は、経済学者にまかせておくには重要すぎるのである。”
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■著者が扱っているメインテーマ
よりよい世界にするために経済学にできることは?
■筆者が最も伝えたかったメッセージ
一部の裕福層の成長を優先するのではなく、
それ以外の層への生活の質向上にシフトすべき。
■学んだことは何か
市場を放任すると不平等が解消されることはなく、
貧富の差は拡大するばかり。成長ではなく、世界にとって地球にとっての平等な社会のために、富から貧への再分配のしくみと他人と地球をおもいやる対人力が大切になてくる。
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移民や貿易、経済成長などの問題について、経済学的な見方や様々な事例の紹介、解決策などについて述べている本。
人や資本はいつも最適な場所に移動できるわけではない。そのせいで、不利益を被る人の尊厳を守るようなアプローチが必要だ。このような人の怒りが昨今のポピュリズムに繋がる。
エビデンスもなく社会的に受けいれられている物事が多い!
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経済政策について議論している。
経済学的に考えることが好きなら面白いと思う。
希望は人間を前に進ませる材料。
抱えている問題でその人を定義することは、外的な条件をその人の本質とみなすこと
希望を失い、疎外されたと感じる人が増えるのは社会にとって危険なこと
尊厳を大事にする
貿易には負け組がいる。
負け組への支援が必要ということを繰り返している
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原題: Good Economics for Hard Times.
タイトルの訳がちょっと微妙。
Hard Timesを絶望と訳すのはちょっと。
アイキャッチを狙ってかな。
どこかで誰かが勧めていて興味が湧いたので。
素晴らしい本でした。
是非いろんな人に読んでいただきたい。
著者のアビジット・V・バナジーとエステル・デュフロは存じませんでしたが、非常にバランスが取れている方々とお見受けします。
アビジット・V・バナジーは2019年のノーベル経済学賞を受賞した経済学者、エステル・デュフロはアビジットの配偶者らしい。
現代の世界が抱える問題について、経済学者の視点から考察した本。
不平等や不信が加速させる世界の二極化について、私達はどうあるべきか、考えさせる一冊。問題は何か、解決が可能なのか、あるいは、明るい未来に向かうために社会はどうするべきか。
極端に楽観的でも悲観的でもなく、常に一定の温度感なのがいい。
経済学とはあるが、経済を超えた現代社会分析でもあると思う。
アビジットは、自身が貧困問題が深刻なインド出身だからか、貧困問題を主に研究しているようで、本書もそのあたりがメイン。
また現在アメリカに住んでいるので当然だが、アメリカ経済を例に取り上げているケースが多い。
多くの賢明な人のご多分にもれず、明確な解決策を提示するわけではない。なので、何かクリアな解答がほしい人はがっかりするかもしれない。
しかしながら、一つひとつのケースを積み上げた分析は説得力があり、世界は複雑で様々な要因が絡み合っていることがわかる。世の中がいかに思い込みで溢れていて、いかに経済学者を含む人々にわかっていないことが多いか。
その上で、私達にはまだまだできることがあると希望を提示する。
そして最後に、この社会を良くするヒントは尊厳だと説く。この発想は実はアビジットがアジア出身という事実によるのではないだろうか。施しを与えるという行為は、一見良い行いに見えるが、実は根底に差別がある。自分は施しを与える立場、相手は可哀想な人、という。この視点は欧米人には決定的に欠けている、と私は個人的経験から思う(もちろん全ての人がとは言わない。教育と経験による?)。アビジットももしかしたらそういった経験をしているのかもしれない。
この本が述べるように、昨今は世界が分裂に向かって進んでいるように見える。
それでも、世の中にはこういった人間性に優れた賢い人がたくさんいるんだな、と思うと、希望が持てる。
そのためにも多くの人がこの本を読んでほしい。
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この本はノーベル経済学賞を受賞された経済学者が発行している本である。そのためその方の視点において全世界の社会的な問題を勉強していくことができる。全世界の社会の抱えている経済的な格差の問題やその国の政治を取り仕切っている政府との関連性、経済の成長の終焉など様々な教養を深めると言う部分においても勉強になる本である。記載内容の範囲が広範に渡っているため専門的なことを学びたいと言う方には向いていないかもしれない。移民問題や貿易と経済成長、不平等、環境といったものと経済との関連から重要度の高い問題に関することを普遍的に記載している。
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ごく最近の経済学研究の成果には、目を見張るような有益なものが実に多い。
だが不幸なことに、経済学者の発言に注意深く耳を傾けるほど彼らを信用している人はあまりいない。(12ページ)
経済学者が信用されない原因
1 悪い経済学が大手を振ってまかり通っている
2 アカデミックな経済学者は断定を避ける、結論にいたった過程を説明する時間を惜しむ
移民が増える=受入国の賃金水準を下げるとは限らない
魅力的なインセンティブを示されても慣れ親しんだ土地を離れたがらない場合の方が多い
自由貿易が必ずしもいいとは限らない
アメリカのような大国では貿易による利益の割合は低い
小国や途上国は市場開放だけでは利益は得られない
貿易利益の再分配は難しい
貿易により新たな仕事が増えるが、貿易により仕事を失う者も多い
差別や偏見と闘う最も効率的な方法は、おそらく差別そのものに直接取り組むことではない。ほかの政策課題に目を向けるほうが有意義だと市民に考えさせることだ。