泥沼にはまった気分
2022/06/06 18:09
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初は、ごく普通の、いや設定がちょっと特殊な小説だという感覚で、ストーリーに入っていく。途中、余りに設定がユニークすぎて、え?と思う奇妙な部分はあるが、それでも読み進める。しかしある時点から、奇想天外すぎて、ちょっと付いていけなくなり、こちらがチェンナイの洪水と百年泥に巻き込まれて、訳分からなくなってしまった…そんな読後感。
唯一無二の作品だと思うが、あらすじも、ここから伝わってくる何かも、普通の言葉では、うまくまとめられない。とにかく独特だ。
チェンナイへ一っ飛び
2022/01/02 14:02
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
サラ金地獄から逃れたと思いきや、インドのIT都市で先生を任されるなど展開が読めません。万博コインから行方不明者までが出土する、百年に1度の大洪水が圧巻でした。
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存在しなかったものと存在したものの等価性が、もっとも目を引いた。
インド哲学にはまったく見識が無いから、そういう考えが内包されているかどうかはわからないけれど、ともかく新奇で奥深いものだ。
そういったともすれば非常に深刻な、重大な思想は本書の膨大な泥の中に隠れていて、小説は概ねコミカルに進み、素直に楽しめる。
よく語られる飛翔通勤というものも、インドの混沌と新しいカンパニーの清潔感の、イメージの摺り合わせの結果、自然と現れたアイディアに見える。無理がなくて実に良い。
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不思議なお話なのだけど、現実的な部分は本当にリアルで、ファンタジーな場面もすべて
「インドなら本当にあるかもしれない」と思ってしまった。そしてあとがきに同じ感想が書かれていた。
大阪の招き猫とインドのガネーシャがすべて交換された街並みは実際にそうなったら面白いと思うし、インド人の登場人物がマクドナルドを「マクド」と言っていて、関西人のインド好きが多いのはとてもリアル。
インドの不思議さや、インド人の純粋さ、おおらかさ、嫌味な賢さ、日本語の間違え方など、本当にリアルで笑った
デーヴァーラージの過去、人となりは胸にグッとくるけど、悲しいとか、可哀想とか、そういう気持ちではなく、それを抱えて生きる彼のたくましさに惹かれた
そして、泥とともに出てくる人々の過去、その過去は後悔が絡んでいるもので、言葉にできなかった気持ちを伝えあう
そんなことがインドでは起こるかもしれない
そして、インドはやっぱり最高なのだ
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独特。現実かファンタジーかしばらく分からなかった。
洪水のあとが舞台ということで話の進み方も混沌としてごちゃ混ぜ感があるけど、不思議とうるさくない。(インドの情景が常に頭にあることもあり、良い意味でうるさいが)
過去のエピソードはほろっとくるものも。
短くてすぐ読める。
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読書開始日:2021年7月5日
読書終了日:2021年7月6日
所感
芥川賞受賞作品を読み進めている最中ではあるが、とても好きな作品に出会えた。
タイトルとはかけ離れた清涼感があった。
ラストシーンの鳥肌は、川上弘美さんの「真鶴」以来かもしれない。
この作品は、チェンマイに降りかかった百年に一度の大洪水により浮上した百年積み重ねた歴史ともいえる泥を掘り起こすことによって、
登場する人々の過去を振り返る内容。
飛翔通勤や、泥から出てくる人間、それらがしっかりと作品の中の現実になじむくらいに、現実と虚構の線引きが無い。
過去は年月を重ねるうちに変形し、過去への思いの強弱も変わる。
そこにある事柄、発せられた言葉よりも、発せられなかった言葉、おきえた事柄に重きを置いてきたがゆえの、百年泥。
もはや原型をとどめていない過去でも、思いが強すぎるあまり、泥から虚構を見るがそれを虚構と気付かない。
作中の文章「俤が俤を引き寄せる」はすごく腹落ちした。
ラストシーン、デーヴァラージの日本語で語るシーンは最高に澄んでいる。
その一瞬で泥が消え、今までの停滞が嘘のように未来が流れ始めた。
正直自分の読解に自信が無いからもう一度どこかのタイミングで読みたい。
主人公の母の件についてはまだ不明な点が多い。
ああ地面
そうつげる自分の声に救われるごとく
この変幻自在さこそが彼以外の知り得ない過酷な人生の刻印
それとも夫に惚れてたのかもしれない
自分が土をふむ、それを土がすなおにうけあしあとでへんじするそのことをたのしんでるふうにみえた
世界はただ受け、惜しみなく返事する
たったひとつ母がこの世で得た日本の脚、それは私だった。
そこにある事柄、発せられた言葉よりも、発せられなかった言葉、おきえた事柄に重きを置く。
火葬して天国へ連れて行き、ガンガーへ遺骨を流し穢れをとる
俤が俤を引き寄せる
かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聞かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。
どうやらわたしたちの人生は、どこどう掘り返そうがもはや不特定多数の人生の貼り合わせ繋ぎ合わせ、万象繰り合わせのうえかろうじてなりたつものとしか考えられず
今までの停滞が嘘のように
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東京FMのラジオ番組「Panasonic Melodious Library」で(けっこう前に)紹介されていて、興味を持った。
あらすじはこうだ。南インドの都市チェンナイで日本語教師をする私は百年に一度の大洪水に見舞われる。水が引いたあと私は、百年分の記憶を孕んで地上に投げ出された泥の山から、チェンナイの人々が、遠い昔に死に別れた家族や友人をいとも自然に引っ張り上げては思い思いに邂逅を果たすさまを見る。日本語講座の生徒である青年が熊手で掻き出す泥の中からは、この地にあるはずのない私の思い出の品も転がり出てきて、私の、彼の、語られなかったはずの記憶の声が鳴り出す。
ラジオでこの作品の特徴として、インドに行ったみたいなちょっとした旅行気分を味わえる、そして大阪出身の作者の醸し出す独特のノリがある、と語られているのを聞いたとき、「あ~遠くへ行きたい」と兼ねてから思っていたつもりはなかったのになんだか遠くへ行きたかったような気持ちになり、異国情緒や旅情を求めて読み始めた。
まず、癖のある文体が癖になる。「、」でだらだらと続けたり、助詞をちょいちょい省いたり、語彙が妙に古めかしかったり、それでいてユーモアもある。とにかく普通じゃない。もう既にトリップ気味。
そして虚構と現実が容赦なく入り乱れる。マジックリアリズムというらしい。インドのIT企業のエグゼクティブたちは翼を装着して飛翔通勤する。インドなら、そうかもしれない。思っていたよりずいぶん遠くに来た。
私の出身地は明らかにされていない(いなかったと思う)。ただ、「大阪出身の友人」が複数名登場する。大阪出身の、といちいち説明されるので私はそうではないように読めるのだが、インド人に「日本人はマクドナルドをマクドと呼びます、『マクド』、はい」と復唱させるシーンがある。大阪ではないが関西人だと考えるのが自然なようにも思うが、でもそれもどこか釈然としないところがあり、あのマクド発言はすごくひっかかる。
というかもっと大筋においてひっかかるところだらけの不思議な小説だったが、ただ難解なだけでなく、わかりやすい「良い話」や「浮いた話」も絶妙~なさじ加減で入っていて、なんかすごく好きだった。
他の作品も読んでみたい。
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インドで100年に一度の洪水がもたらす混沌と哀惜。
それっぽく始まってさり気なく終わる、その間にこの世の真実が詰まっている、落語みたいな話です。
人魚の物語が一番沁みたかな。
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文庫じゃなくて
文芸書を持ってるんだけど
文庫しか出てこなかったので
文庫で登録
お誕生日に
こんな不思議な本を贈ってくる姉に
当時、困惑したことを思い出した
数年前にもらったのに
読むきしなくて放置してたのを
邪魔だし片付けたいなぁって読みました
姉はたぶん
芥川賞とってたから選んでくれたんだろう
自分ではこういう本読まないくせに
こういうの好きなんじゃないかな?
って考えてくれたのかと
今さら気づいてほっこりする
本の内容は
現実と非現実が
変なバランスでまぜこぜになってて
それがちょびっとおもしろい
あれ、これどっちだっけ?
って変な気分になる
その変な感じがわりと好き
装丁が残念だな
なぜか自分は
装丁のインパクトに引っ張られすぎて
雑な黄土色な世界って脳内変換
そんなことないんだけど
いや間違ってないのかな
だけど文芸書の装丁は苦手
星は3つ
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現実と空想が混じっていて読みづらいところもあったがインドならありえるかもしれないと思わされた。
ユーモアのある文章で面白かった!
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インドで日本語教師として働く主人公は、百年に一度の洪水が残した泥の中から様々なものが出てくるのを目にする。ウイスキーボトル、人魚のミイラ、大阪万博の記念コイン、そして行方不明だった人までも!?
雑多でパワフルな国で、そんなこともあるかもと感じさせる描写。
私も何か昔なくしたものを探しに行きたいような気持ちになった。
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南インドのチェンナイで働く日本語教師。行き当たりばったりで胡散臭いけど、不思議と親近感が湧いてくる。
連想ゲームみたいに数珠繋ぎに話が展開されるのが面白くてどんどん読み進める。彼女の物語であって彼女だけのものではないそれらが波のようにうねる。
実話のようなトーンで、有る事無い事ごった煮の世界なんだけれど、悲しい過去も思い出も一切を包み込む懐の深さを感じた。
ガネーシャと招き猫の共通点や、インドの名誉殺人と日本の敵討ちを見比べたりしていたら、そう遠い話でもない気がしてきた。
無口というのを通り越した無言の母と旧友の話は、なんだか美しくて切なくて聞き入ってしまう。「ことば」のない心が繊細に描かれていて、そんな静かな世界をかつて共有してきた主人公の話をもっと聞いていたかった。誰になんと言われようと、「話されなかったことば、あったかもしれないことば」を大事にしてほしいと思った。
無数の人生が埋まった百年泥に私も埋もれているかもしれないと思ったら楽しい。個人でなく誰かの記憶や過去のひとつとして、ただの生命として、地球に飲み込まれたら面白いな。
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場所は南インド、チェンナイ。百年に一度の洪水によってもたらされた膨大な泥。アダイヤール川にかかる橋を渡ると、泥の中から無くした人や物を探しあて、再会に涙ぐむ、喜ぶ人達の姿で溢れていた。
インドの文化をリアルに描きつつ、ファンタジー要素を隠し絵のごとく違和感なく盛り込んで、圧倒的な混沌の中から人生の悲喜こもごもをインド哲学と日本の仏教の両方から掘り起こして表現しているような印象がしました。
現在と過去、インドと日本、現実と仮想を交互に行き交う文体は、読みやすくはなかったですが、不思議な世界観でとても面白かったです。インドってすごい!と素直に思いました。
本当にインドでは飛翔通勤してる人達がいるんですか?(いませんよね??笑)
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南インドのチェンマイで若きIT技術者たちに日本語を教えている「私」。
ある日、豪雨が続き百年に一度の洪水が町を襲い、もたらしたものは圧倒的な”泥”だった。
「私」は会社を目指して橋を渡り始めるが、百年の泥はありとあらゆるものを吞み込んでいた。ウイスキーボトル、人魚のミイラ、そして哀しみも。
新潮新人賞、芥川賞の二冠を獲得した文学小説。
百年に一度の大洪水であふれた泥の中から、登場人物たちの過去を振り返っていく作品です。
チェンマイという具体的な地名が出ており、主人公の「私」も現地IT企業の日本語講師という地に足のついたものであるにもかかわらず、現実と虚構、現在と過去の境が曖昧で、SFのようなファンタジーのような掴みどころのない雰囲気。
言葉選びもストーリー展開も独特な浮世離れした空気感で、読み進めるにつれ幻惑されたような、酩酊したようなふわふわした気分になります。
外国に行った事が無い日本人が、インドのミステリアスな印象だけを固めたような、過去に無くしてしまったものがきっとインドに行ったら見つかるのではと思わせてくれるような、不思議な異国情緒を感じさせるお話です。
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この本に出てくる主人公と場所は違えど同じ職業をしている身として、彼女の日本語を教える教室での心労が手に取るようにわかるのだけど、この本の本筋はそこにはなく、インドという国とそこの考えに全く馴染みのない自分でも、そこにある宗教的というか土着的というか、そういう世界観の深さを垣間見ることができる話だった。
百年泥から湧き上がってくる記憶とも過去ともつかない幻想的な物事の中で、主人公と主人公を悩ませる生徒の過去が一際色鮮やかに語られて、そこに何があるという訳もなく、ただ彼らが今どうして彼らであるのかがわかっていく話。橋を渡り始めてから渡り終わるまでに、主人公と学生がこの企業の一教室で出会ったことの不思議というものを体感させらる。
この本の中で一番好きだったフレーズは、『世界はただ受け、おしみなく返事をする』だった。砂浜を歩く主人公の母親が感じた安心、生きているという感触を、こよ一文からひしひしと感じた。