商品説明
21世紀目前、福美は困窮していた。抱えた娘の父親は行方知れず、頼る実家もなく、無職。ただ、母乳だけはあまるほど出続ける。それに目を付けた、母乳を欲しがる家庭に母乳を届ける活動をしているという廣田に福美はナニィ(乳母)として雇われることに。すると、かつての同級生の政治家一家から、ナニィの指名が入り……。
ひとはいつ「母」になるのか。母乳によって子を手放した女と母乳によって母となり得た女の視点から、母性を描いたサスペンスフルな長編。
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「母性」とはなにか。搾取するのは誰か。
2021/12/07 21:04
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
母になってもならなくても、女性にはさまざまなレッテルが貼られ、生きづらい。
母になったらなったで、母乳が出るか出ないか、誰かが決めた「母親らしさ」が守れるかどうかで、ジャッジされ、追い詰められていく。経験した人は、この物語の主人公2人に、それぞれ共感できる部分が多々あるのではないか。
未婚で出産し、困窮する福美は、母乳があふれるほど出る。ひょんなことから政治家一家に乳母として雇われ、母乳の出ない政治家の嫁に優越感を抱きながら、生活の基盤を築いていく。一方の政治家の嫁の奈江は、広告代理店で働くバリキャリ。不妊治療を経て出産するが、早産で帝王切開となり、母乳が出ないことを姑に責められ続けている。
2人は実は私立小学校の時の同級生。福美は家庭の事情で小学校を途中で転校した苦労人だが、母乳によって認められる。
一方、何でも努力でなし遂げてきた奈江は、母乳が出ないことで、存在を否定され、追い詰められていく。
対照的なようで、実は二人をがんじがらめにしているのは、母性神話や母乳信奉など科学的根拠のない、世間(男中心社会)がつくりだしたものだ。
まったく交わることのないはずの二人が連帯するラスト。政治的な動きに、警戒する向きもあるかもしれないが、「個人的なことは政治的なこと」。
それで解決ではないが、どこかすがすがしい気持ちにさせてくれる。
なかなかの良作だ。