伊吹さんのファンになりました
2022/11/14 11:07
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投稿者:kotep - この投稿者のレビュー一覧を見る
老人施設で一人死を待つ佐倉波津子。その波津子の元にある小さな箱が届けられた。それを見て波津子は自分が過ごした戦時中のことを思い出す。母と二人で生活していたこと、歌手になりたかったこと、出版社に就社したこと、恋をしたことと失ったこと等を一つ一つ思い出し始める。そして70年を超え、「友よ、最上のものを。」の言葉を思い出し、佐倉波津子はハッちゃんとして再び生き始める。
感動という言葉しか頭に思い浮かばないですね。戦時中に精一杯生きたハッちゃんや戦地に赴いた人たちの思いがたくさん詰まった作品でした。伊吹作品にもう少し早く出会っていればよかったと思いました。
戦争によっても失われない大きな愛
2022/01/17 10:59
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投稿者:pizzaco - この投稿者のレビュー一覧を見る
母から聞いたことのある少女雑誌の編集部がモデルになっていることをこの本を購入してから知りました。本編の美しい詩や夢のある小説、挿し絵、付録の美しさ。何よりも少女たちに美しいもの、気高いものを届けようとする編集部の在り方。
それに対し、時勢にふさわしく、勇ましくあれ、贅沢はいらない、とする当局の動き。
主人公ハツ(波津子)たちが、この雑誌を守りぬく壮絶なたたかいに胸が熱くなります。有賀主筆をめぐる人間関係も、みなが命がけで彼への愛を守ろうとするので、全て人間はいとおしいと思えます。
現代とその時代を行きつ戻りつする構成も違和感なく読めました。
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とても素敵な本でした。
父不在の裕福とは言えない家庭で、高い教育を受けれなかった少女が、編集・出版業界に飛び込み、様々な体験を重ねて・・・などと書くと、今どきの連ドラにありそうな設定に見えるのだけど、戦時色が次第に強くなっていき終戦を迎える頃までを主な時代背景にしているため、いろんなものが胸に迫ってくる。
戦時下の多くの雑誌の廃刊について、時流に添えない罰のようなものなのか、己の信念に殉ずるかのようなのかと語られる。当時の思想統制の苛烈さは、想像を絶するものだったのだろう。それでも、美しいもの、素敵な物語がそこにあること、そんな小さな灯を守ろうとした人たちは確かにいたのだろう。
脱線になるが、コロナ禍の中で、演劇や文化のことを、そんなことしてる場合じゃないだろ、と吐き捨てるように言われると、悲しく思うとともに、魂の伴走者として、最上の美しいものの持つ力、苦しい日々の中でも、工夫次第で楽しいもの美しいものを見つけようとすることについて、改めて考えさせられる。当たり前にあるように見えても、本当に大切なものは守らないといつの間にか、消えてしまうかも知れない。
それから、あとがきにあるように、実際に、戦前のあの時期、今見ても、うなるようなレベルの「少女向け」の作品が生み出され、一流の作家が少女小説を執筆していたと聞きました。そういうものを見て、育った少女たちが、終戦後、華やかな場所で、また、当たり前の日々の暮らしの中で、それぞれがんばったのだとも感じます。この小説とは直接の関係はありませんが、少女漫画にあるように「少女向け」の作品が、女性の手によって生み出されるようになっていったことも、思い出しました。
脇役に至るまで、登場人物の一人一人が印象的です。本編の主人公以外の人物を主役に据えたら、全く味わいの違う物語が生まれてきそうです。それだけ、それぞれの志や思いをテーマにした作品だということでしょうか。
最後にもう一言、少女の夢のように、ロマンティックな小説でもあります。彼は、あの頃から、猫を飼うようになっていたのですね。飼い主の気持ちをわかってくれない猫を・・・
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個人的に2020年ベスト10に入るくらい良かった作品。
戦前からある『少女の友』という少女雑誌。
実際に存在する雑誌をモデルとしているそうで。
付録の『フローラゲーム』の美しさが文章から伝わる。
戦況が激しくなり刊行する雑誌への締め付けも厳しくなる。
そんな中もがきながらも少女たちの希望に繋がればと
雑誌を出し続ける人たち。胸が熱くなる。
職業小説として読んでいてもおもしろかったけれど、
これは純愛中の純愛小説だ。
戦争に翻弄される登場人物たちを見ているのは辛く切ないのだけれど、その反面美しさが際立つ。
純司、そうだったのかー。
最後の最後、有賀とハツの音符暗号で完全に心を持っていかれた。
文庫版に載っているスピンオフ『ポラリス号の冒険』が
これまた良い。
本編では泣かなかったけれど、こちらでダーダー涙した。
この本は手元に置いておこう。
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読了感のとても良い作品。主人公のキャラがとても魅力的で、持っている素質も、成長して魅力が解放されていく感じも、想いを寄せる人との関係も、絶妙な良きところを突いてくる。
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本編は単行本で読んだので、スピンオフのみ。このスピンオフだけでも読む価値がありました。短編でもものすごく濃厚な物語でした。
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行本で読んだものの再読
平成の老人施設でまどろむ佐倉波津子に「乙女の友・昭和十三年新年号附録 長谷川純司作」と印刷された可憐な箱が届く。昭和初期から現在へ。雑誌の附録に秘められた想いとは――。
再読して改めてこのお話大好きだ!と思った。
波津子のキャラクターがいい。
「乙女の友」を作る仲間たちも。有賀主筆に画家の長谷川純司、霧島美蘭に荻野耕青、空井量太郎などの作家陣、、みんな魅力的。優しくて明るいお姉さん的存在な史絵里が頼もしくて好き。
入稿直前で逮捕されてしまった作家の代原に、波津子の小説が大抜擢!そこから台割を変更して入稿に持ってく流れがかっこよかった。
雑誌作りにも時局の影が。それでも終戦の2ヶ月前まで刊行していたなんてすごいなぁ。
(「乙女の友」のモデル「少女の友」の実際のエピソードでもある)
戦後、まだ混乱の中にあるのに
“「やることはいっぱいある。まずは手持ちの古布で、暮らしに役立つ美しいものを作ろう。手に入る食物がわずかなら、その滋養を最高に引き出し、たくさんの人のおなかを満たす調理法を考えよう。お風呂に入るのが難しいなら、別の方法で身だしなみを整えることを考えるのさ」
僕らが敬愛する彼ならば、と純司が微笑んだ。
「きっとこう言う。巻頭には文化の香り高き詩を。誌面の中盤には心癒す物語を。今の時代に必要な智恵と工夫と美を、日本の叡智を結集して届けるんだ。僕らの友たちに」”
「友へ、最上のものを」という信念。
こういう時だからこそ、心を豊かにするものが必要で、今のこのコロナ禍でも同じことが言えるんじゃないかな、と思った。
「ディア波津子、シンシアリイ、ユアズ」
二度と帰れぬ故国を思って有賀主筆が遺した、短い恋文。
もうここは涙なしでは読めなかった。
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卒寿を過ぎて、佐倉ハツは老人施設で夢とうつつの間を行ったり来たりする日々。
思い出すのは、雑誌編集に情熱を注いだ若い日々のことだ。
「波津子」と名乗って生きた。
たとえそれが困難な時代であったとしても、若き日々の思い出は美しいもの。
老人たちは皆、その輝きの玉を内に秘めて川を渡って行くのかもしれない。
『乙女の友』という、少女のための雑誌はハツの憧れだった。
特に、有賀憲一郎(ありが けんいちろう)の詩と、長谷川純司(はせがわ じゅんじ)のイラストは黄金のコンビだと思う。
二人の対談の写真を切り抜いてスクラップし、萌えていたりするのは、現代の乙女と変わらず。
そんな、ただの夢見る乙女から、編集部に入り、女ならではの悔しさを味わいながらも才能を開花させていく、波津子。
心の底には常に、有賀への想いがあった。
戦争が激しくなって行く、昭和12年から20年までが描かれる。
言論統制、危険思想への弾圧、痛くもない腹を探られ、特に出版には厳しい時代。
有賀はこんな時だからこそ、大人になる前の少女たちにいっときの夢を与えたいと思う。
夢見る頃は短い。
しかし美しいものに夢中になれた思い出があれば、大人になって辛い現実を生きねばならなくなった時、きっと拠り所になるだろう、と。
ーーー友へ、最上のものをーーー
その志を波津子が受け継ぐ。
波津子の周りから、一人、また一人と人が去って行くのがとても辛かった。
男たちは戦地に赴き、女は夫と共に大陸に渡り・・・また、理不尽な理由で命を落とす者や、心折れて退いて行く者もいた。
友たちの中には、異国に骨を埋めた者も少なくない。
70年以上の時を経て、遥かな友からの真心が届く。
思いを届けたいたくさんの「友」あり。
しかし、想いを交わし合った、たった一人の特別な『友』もいた。
波津子の秘めた恋の軌跡と薄い線で平行線を描くように、連綿と続いている純司の秘めた想いも忘れてはならない。
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戦中という困難な時代に、雑誌編集の情熱を胸に歩む人々を描く一作。
現代から過去を振り返る形で物語が進む展開にこの物語の人々が生活する世界に自然に入り込むことができました。
憧れの少女雑誌の編集に奮闘する主人公の姿からは、一人の女性の生き方の物語であり、お仕事小説の物語であり、また、一方で一人一人の情熱を描いた群像劇であったり、そして、壮大な愛の物語であったりとたくさん魅力が詰まっていました。
一冊の本から熱い人生を一緒に歩んでいけた感じがしました。
読み終わった後に題名の意味が改めて、心に沁みこんでいくようでした。
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明治・大正・昭和と続いた実業之日本社『少女の友』がモチーフとなっている。第二次世界大戦の戦況悪化の中、少女たちを対象にした雑誌の出版も厳しく統制されていく。
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これはちょっとどういう事だろう。解せぬ。もっと読まれていて然るべきではないか。
まだ読んでいない人がいたら、感想とか読まなくていいのでとりあえず本を読んでください。
文庫版は書き下ろしスピンオフがついているので、単行本で読んだ人も文庫版を読んでください。必読です。
↓以下、なにを書いても気持ちを書ききれないけれど一応感想。
卒寿を過ぎた波津子のもとに、ある日一つの贈り物が届けられる。異国の乙女、美しい花々が精緻に描かれたその箱にはフローラ・ゲームと書かれている。それは昭和13年に出た少女雑誌「乙女の友」の付録だった。
これは戦中の苦しい時代にあって、一つの雑誌を作り続けた人々の物語である。
主人公である波津子を中心に、少女の成長、女性の自立、仕事への情熱、時代の波に翻弄され立ち向かう人々などが大変丁寧に描かれており、心揺さぶられずに読むことができない。
右も左もわからず出版界に飛び込んだ波津子と共に「乙女の友」の誌面作りの世界に入り込んでしまうドラマチックなストーリー展開も見事だが、決して少なくない登場人物それぞれの人生を感じさせる様な繊細な人物描写は素晴らしい。
主要人物は勿論だが、数ページ、数行しか書かれていない様な人物にも印象に残る場面が多々ある。
その人の放つ力強いきらめき、生きる苦しみ、捧げる情熱、人生の悲しみ、そういったものが一人ひとりに込められている。
彼らがつなげた時代の先に、今があるのだと思える。
作中で作られる雑誌「乙女の友」にはモデルがあり、かつて実業之日本社が出していた「少女の友」がそれである。
川端康成や与謝野晶子など、そうそうたる面子が掲載している。
また物語で何度も登場するフローラ・ゲームも、フラワーゲームという当時の付録が元になっている。
中原淳一による、ミュシャを思わせる雰囲気と、そこに繊細に描かれた少女と色とりどりの花たちは、今見ても美しい。そこにさらに花や蝶の描かれた56枚のカードが入っているのだから、超豪華付録だ。
当時の編集部も読者も、いかに熱心にこの雑誌に携わっていたのかが見て取れる。
これをきっかけに執筆した作者がどれだけ丁寧にこの作品を作り上げたかは、推して知るべしである。
文化的なものに対する認識とは様々で、生きる上で不要(優先順位が低い)とされたり、政治的な思想の統一に利用されたり、文化芸術は不滅であると同時に脆い存在だ。
読んでいると戦中の検閲に立ち向かう編集を応援したくなる一方で、貧しい時代に金持ちのお嬢様しか買えない少女雑誌を疎む憲兵を無下にはできない気持ちがある。
自分自身や周りの環境が変化するなかで、いつかそれらが遠のく日が来るかもしれない。
それでも一遍の詩に突きさされたり、美しいものにときめいたりする心がなくなるわけではないということ。それを覚えておくことが大事なのではないだろうか。
別に文学に限った話ではない。
そのために、 友へ、最上のものを。
そして、 友よ、最上のものを。
彼方の友へ。
あとがきによると、唯一消化不良だった望月辰也やジェイドのことも、出征した有賀主筆のたどった経緯もちゃんとした設定があるそうだ。そこは本編の主軸とずれるので削られたのだろうか。是非ともいつか読ませて欲しい。
(にしても有賀主筆、仕事はできるが不器用な男のくせになんでそんなモテモテなの)
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戦時中の少女雑誌の編集の話。
久しぶりに本で号泣した。
主人公の立場だけ見たらシンデレラストーリーだけど、読み進めるとそれも納得できる。皆んな主人公が好きになっちゃうんだろうな。応援したくなる。
表紙の絵のような、自転車で大御所作家を連れて行くシーンは爽快だったし、雑誌の読者の集会で、主人公の連載のファンが応援してくれるシーンは私も心から嬉しくなった。
しかし有賀さんはなかなかのプレイボーイなのでは…
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暗い戦時中であっても乙女たちに夢と希望を与えることをミッションとした人気雑誌「乙女の友」を作る人々の情熱と数奇な運命。貧しさゆえに学べなかった無学な少女が、失敗を繰り返しながらも読む側から作る側として憧れの雑誌に関わることを語るこの物語は、雑誌に込めた「最上のもの」を「友」と呼ぶ少女たちに与えることで暗い時代を生きる希望をも与えるようだ。それはコロナ禍や社会的な不安が覆う現代社会にもどこか重なって見える。生活が苦しくても、文化や美を忘れてはいけない。それが生きる糧になるのだから、というのはどんな時代でも変わらないのである。
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朝ドラ好きな人はきっと好きという感想を見て手に取った。でもアレだった宝塚のカンパニーの原作者だし期待しすぎずに読まなきゃ(失礼)と思いながら読み始めたけど、こんなのは好きだし泣いちゃうよ!
それぞれのキャラが魅力的なのもよい。有賀主筆をはじめ、長谷川先生、美蘭先生、空井先生といった黄金期のメンバーはもちろん、上里さんも最終的には好きになっちゃう。すばらしい友情を見せてくれる史絵里と房江先生の存在には主人公の波津子とともに、辛い物語を読み進める自分も励まされた。
乙女の友編集部に勤めるきっかけや有賀とのお別れは別に組織を使わなくても描けると思うし、個人的に最後まで中途半端な描かれ方になった謎の組織は全部キッパリなしでよかったと思う。もともとスピンオフ出すつもりなら別だけど、その組織の話をメインに描いたらもはやこの話のテイストとまったく違うしなあ…。
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何十年たっても人の気持ちは生き続ける。そしてまた、それを引き継いでくれる新たな友が現れる。なんて幸せなことだろう。
一方で、波津子がずっとずっと持ち続けていた、愛しい気持ち。その歳月を思うと胸が苦しくなる。
読み終えた感動を、どう書き表したらいいのだろう?
言葉って無力。
でも、この感動を与えてくれたのも、言葉が紡いだ文章だった。