電子書籍
太田さんのファンタジー
2020/12/12 22:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たま - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語はファンタジーである。架空の街が滅ぶまでの人々の動きが丁寧に描かれている。差別、貧困、戦争。抗う者、流される者、真っ直ぐに生きようとする者。しかし、大多数の普通の人々が普通に真面目に生きた末の結末が胸を打つ。
少しショッキングなシーンもあるけれど、中高生に読んでもらいたい一冊。
電子書籍
ファンタジーなのにリアルで重い。
2021/01/21 11:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:馬子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の小説に昨年ファンになって全て大人買いしているくらいはまっています。
昨年発売してましたが、もったいなくてやっと読みました。
読み終わって一言。
重い…重すぎる…。
いつもこの方の小説は重いですが今回は桁が違う。
これは倫理学。
人間にとって必要な倫理が詰め込まれている。
考えよとばかり文章をぶつけてくる。
そんな物語でした。
どうか心して読んでください。
投稿元:
レビューを見る
どこでもないいつでもないファンタジーと思わせて、本質はわたしたちのすぐ傍にある世界のお話だった。
登場人物だれもかれも絶望感がすさまじいのですが、それを引き起こす背景はいつだって同じ人間なのだということをまざまざと感じる。かつての戦争にあった扇動や同調、排他。でも、こうやって物語として読んで眉をしかめるわたしも同じところに立たされたとききっと誰かを貶め傷付け殺すのだろうか。
自助努力のこと言ってんのかなって後半ちょっと苦笑いしてしまった
投稿元:
レビューを見る
こう来たか!と驚愕させられた作品。
塔の町で育ったトゥーレは、故郷を亡くして町へ流れ着いた羽虫と呼ばれる流民のひとりを母として生まれた。
差別と偏見の中で暮らす羽虫たち。
博物館で働く怪力、情報通の葉巻屋、不器用な魔術師、羽虫たちにさえ差別される色付きの女。
そして町を支配する伯爵と、その若く美しい愛人。
トゥーレの母はある日突然町から消えた。
そしてそれからも次々とトゥーレの大事な人たちが消え去っていった。
塔の町の属する国は、やがて戦争へと突入していき、羽虫の若者たちは使い捨ての戦力として徴兵されていく。
トゥーレもまた。
太田愛の新刊だ!と本書を手に取った人たちの多くがとまどうのではないだろうか。
でも、ファンタジーでありながら、これは間違いなく「幻愛」「天上の葦」と同じ色の魂を描いた物語だ。
投稿元:
レビューを見る
さすが太田さんだなとしか言いようがない。
どこか遠い国の話のようにふわっと美しい衣をかけているけれども、なんと身近な恐ろしい物語だろう。
これを、いま、読めることにきっと意味がある。
目を逸らしてきたものや人を、いいから見ろ!!と頭を掴まれて問答無用で直視させられる。
暴力的ですらあるけれども、ちゃんと希望がある。
太田愛さん、ほんとうに本物の天才だな。
投稿元:
レビューを見る
羽虫と呼ばれる流民を母に持つ少年トゥーレ,映画館の受付のマリ,葉巻屋の覗くコンテッサ,流れ着いた魔術師によって語られる始まりの町の崩壊の物語.全体的に説教臭いところが気になるといえば気になるが,この第3帝国的な忍びよる足音の不気味さを現在に当てはめて警鐘を鳴らしたいのかもしれない.でもそれはそれとして,それぞれの語り手が魅力的で,その人生の中で夢見た奇跡の思いが胸にしみた.
投稿元:
レビューを見る
現実の世界では無い別の世界の話。
そこで物語は4人にフォーカスが当たる。羽虫と呼ばれるこの世界の底辺の人間と普通人との壮絶な差別の中で生きた若者と、そこに置き去りされた少女の時間の流れを描く。ただこの世界は何か昔のドイツ帝国を彷彿させる状況で、どんどん人間社会を窮屈にさせていく。 最後に語る不死の魔術師が死者の言葉を聞けるということで、闇に埋もれていた人と、戦争が始まって死んでいった若者の声を聞きながら次の世代の幼き子に想いを伝えていく。何かふしぎな感じのする話。最初から中盤は非常に読みにくかったが、少し話がわかってきてなるほどとなり、本当に現在の世相のを表している様に思えて怖かった。
投稿元:
レビューを見る
あれ?ファンタジー?ミステリーじゃないの?腑に落ちぬまま読み進み、その苦さに胸ぐらを掴まれる。風刺なんだ…と気づく。
こちらに投げかけてくるものは、今までの作品と同じ。大きなものに捻り潰される小さきものの姿。そのあいだで目を瞑ることは、蹂躙に加担することではないのか、という問い。それなのに、抗うことの無惨と無力まで畳みかけるように突きつけてくる。
そんな不穏さのなかでも、きらきらしたものがところどころにあって、それが私たちを生かしているんだな、と感じた。
投稿元:
レビューを見る
誇り高い住民、架空の町『始まりの町』に住む人々が描かれている。4章からなる物語、章ごとに主人公があり、その人の視点で描かれている。
始まりの町で生まれた人に対し、羽虫と呼ばれる余所からやって来た人々への差別。自分を優位な立場に置く為にそういった対象を作り心の平穏を得る。貧しく差別を受ける日々の中でもわずかな希望を見出し生きていくのが人間。そんな羽虫たちを迫害し続けた住民たちの末路、自分たちの心の拠り所である始まりの町の崩壊、因果応報と思わずにはいられない。登場人物が次々亡くなる中、人との出会いの大切さを知る魔術師と一緒に旅立つナリクに明るい未来があるよう願い結末だった。
投稿元:
レビューを見る
語り手の視点が変わることで一つの事象の異なる形が見えてくる、いわゆる「藪の中」構成はさすが。
登場人物たちのそれぞれの「事情」「特徴」に個性があって感情移入が容易になるキャラクター造形もさすが。
ただですね、戦時における全体主義の話になると、これはもういろんな小説や映画で読んだことがあるありきたりな展開で非常に興ざめ。
ストーリーテラーでいずれ直木賞作家となる方だと思うのでこういうのもありなのかもしれないですが。
投稿元:
レビューを見る
どこか遠い異国の昔話のような、足元に広がる先にある町のような、不思議な感覚になるお話。
ディストピアのような辛さが終始漂うんだけど、羽虫と蔑まれている人たちの芯の強さがある時は強く、ある時は弱く光を差している。
面白かったけど、疲れた。本を読むのにも気力体力がいると、歳をとると痛感する。トゥーレのお母さんの気持ちを思うとやるせない。
投稿元:
レビューを見る
テレビをそのまま引き継いだような今までの刑事モノとは全く違う太田愛さんでありました。
どこの国がベースなのか、はたまた現代なのか過去なのかを全く悟らせず、これはもしやファンタジーなのか?と思いましたが、突き付けられた問題はあまりにも身近でどこにでもあるものでした。おそらく、他人事ではない私たち自身が考えなきゃいけないことなのよ、と太田さんに言い渡されたカンジです。
最後の魔術師の章では彼の過去が壮絶でちょっと読むのがツラくなりましたが、「あんた、やっぱ只者ではなかったんだね」とホメてあげたい気持ちです。
最後もねー ホント悲しかったし…
こりゃあスゴイ小説読んじゃったよ‼ でした。
投稿元:
レビューを見る
今までの三作品と比べて、少々とっつきにくい異国の町と思われる最初の描写に驚くが、一気に世界に取り込まれた。プロローグで示される過去の写真。その中の幾人かの視点で物語は進む。視点が変わるごとに伝わってくる差別、貧困といった社会問題…ああ、紛れもなく太田さんの世界だ。羽虫という言葉はなんて悲しいんだろう。これは決してどこかよその国の出来事ではないのだ。読み進めた先、突然これがミステリだったことを思い出す。第4章に入ってからはページをめくる手が止まらなかった。読後の余韻を噛み締め、重いメッセージを受け取った。
投稿元:
レビューを見る
よく出来た寓話。
まさに帯に書かれている通り。→これは、過去でも未来でもない「今」だ。目の前にあるのにあなたが見ようとしない現実だ。
投稿元:
レビューを見る
太田愛さんの作品なので、てっきりミステリーだと思って図書館に新刊リクエストしたら、苦手なファンタジーでした。
第1章始まりの町の少年が語る羽虫の物語
第2章なまけ者のマリが語るふたつの足音の物語
第3章鳥打ち帽子の葉巻屋が語る覗き穴と叛乱の物語
第4章窟の魔術師が語る奇跡と私たちの物語
章ごとに語り手が変わる架空の町<塔の地の始まりの町>での物語です。
第1章の語り手である初等科に通う僕、トゥーレの母のアレンカが行方不明になります。
アレンカは羽虫と呼ばれる差別階級の生まれでした。
他にも羽虫と呼ばれている人々が多数登場します。
第2章では映画館に勤めるマリが語り手。
第3章は葉巻屋。
第4章の語り手は死者の声が聞こえる魔術師です。
そして、第4章では、アレンカがなぜ行方不明になったのかの謎が判明し、物語が繫がります。
他の方のレビューを拝見すると絶賛されている方が多いのですが、私は作者が何を言いたかったのか、今ひとつわかりませんでした。
悲しい話であるということはわかりました。
太田愛さんは『幻夏』が凄くよかったので、期待して読んだのですが、これは私には難しかったです。